世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-15. 代理人

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 翌日、ギルドの物資を野営地まで輸送した冒険者が戻ってきた。最初に運んだ分では足りず、追加を頼みたいということで、呼び出されたギルドマスターの部屋に向かうと、お客さんがいた。

「テイマー殿、このたびはご協力いただきありがとうございます。テオリウス殿下の代理で参りましたティボルトです。まずは、アレックス様より受け取りましたマジックバッグをお返しいたします」
「あ、はい」

 突然、身分が高そうな人に綺麗な礼をされて戸惑うけど、ギルドマスターが許してこの場にいるのだと思うと、無下にも出来ない。僕の警戒を感じ取ったのか、ブランが僕の前に出る。
 それを見て、代理の人はマジックバッグを手渡すのをやめ、机の上に置いた。

「突然悪いな。だが、王子とは顔見知りなんだろう?」
「ええ、まあ」

 いちおう顔見知りではある。僕にとっては何回か会って、少し話したことがあるだけの人だが、アルが信用している人だ。

「私もドガイでオークション後にお目にかかっているのですが、覚えてはいらっしゃいませんよね」
「すみません」
「宝石騒動で、それどころではありませんでしたからね」

 あのときか。確かに王子様の側に人がいたような気がするけど、顔までは覚えていない。あのときのことは、リネが呪いの宝石をおしゃれだと言ったことと、ドガイの王様を振り切って部屋に帰ったことだけが強く記憶に残っていて、他はあいまいだ。だけど、王子様と一緒にドガイまで行くなら側近だろうから、代理として信用していいのだろう。
 紹介が済み、お互いソファに座ったところで、ギルドマスターが本題を切り出す。

「アイテムボックスに入れてもらっているギルドの物資を、軍に提供したい。構わないか?」
「えっと」

 アルを傷つけた軍には協力しないと僕は宣言したけど、アルは王子様に物資を届けた。襲われたアル自身が許すなら、僕が反対することではない。そして、僕のアイテムボックスに入っているとはいえ、ギルドの物資をギルドがどう扱おうと、僕に口を出す権利はない。
 そうは思うけれど、分かりましたと言っていいのかが分からない。いまはそんなこと言っている場合ではなく、みんなで協力すべきだと思うけれど、僕の判断はいつだって甘いのだ。

「教会に相談してもらえますか?」
「王都の中央教会と連絡を取った。テイマーがいいと思うなら、いいそうだ」

 だったら僕に断る理由はない。
 どの物資をどれくらい提供するかは、すでにギルドと軍で話がついていたようで、僕は領主の館まで行き、そこで物資を馬車に載せるだけ。アルが出発するときに門の前で行ったギルド物資の積み込みも、そこで行うそうだ。
 最近、ギルドも教会も、僕の扱いに慣れてきた気がする。すべてお膳立てして、最終の意志決定だけすればいいようにしてくれる。もしかして、アルが何か言ってるんだろうか。
 そんなことを考えながらぼんやりと眺めていると、王子様の側近が僕に向き直る。僕にぴったりとくっついて座っているブランの強い視線を受けても、にこにこと笑っているので、得体の知れない感じがする。内心を悟られるようでは、王子様の側近なんてやっていられないのだろうけど、信用していいのか分からない。けれどアルが信用している王子様の側近だから、信用していいはずだ。信用はするけど、気は許さないようにしようと心に決めたところで、声をかけられた。

「私はここの領主の館に滞在します。もし貴族に何か無理を言われた場合は、お知らせください。こちらで対処します」
「よろしくお願いします」

 王子様の側近なら、貴族よりも偉いだろうから、心強い。困ったら、全部丸投げしよう。

「本当は殿下に、せめてこの街までは避難していただきたいのですが、聞き入れてくださらなくて」
「そうですか」
「神獣様がいらっしゃるのに、待避など出来ないと言われてしまいました」
「はあ」

 大変ですねと言っていいのか、王族の義務を果たして素晴らしいと称賛すべきなのか、分からない。場を和ますためなのだろうけど、僕にそういう世間話を振らないでほしい。王子様じゃなくて側近でも、僕にはハードルが高いのだ。
 はずまない会話に、これ以上は逆効果だと悟ったのか、「明日はよろしくお願いします」と挨拶をして、側近は部屋を出ていった。

 部屋にギルド関係者だけになったところで、ギルドマスターが口を開く。

「テイマー、本当にいいのか? いまからでも断れるぞ? 王に軍の物資は運ばないと宣言したんだろう?」
「アルが納得しているなら、僕は構いません」

 王子様の側近がいるから断れなかったのではないかと、ギルドマスターに再確認されている。僕の気の弱さはギルドで共有されているようで、僕の真意を探るような視線に居心地の悪さを感じる。そんなに心配してもらわなくても、嫌だったらちゃんと断るのに。

「本当にいいんだな?」
「はい。いまはこの状況を乗り切ることを一番に考えましょう」

 物資が不足して国軍や領軍が戦えないとなれば、冒険者の負担が増える。そうなれば、アルの危険度も上がるのだから、それは避けたい。
 そう思うと、あのときアルを襲撃したから軍の物資を運ばないと言ったことは、考えなしだったように感じる。僕は、あふれの対応にあたる冒険者たちの邪魔をしてしまったのかもしれない。

「そう言ってくれると助かる。ぶっちゃけると、現場では兵士も冒険者も関係なく、ポーションを使ってるからな」
「そうだったんですか」

 モンスターにやられて怪我をしている人に、兵士だからポーションを渡さない、なんてことはできないのだろう。ともに戦っていればなおさら。湧き上がった不安は、すぐに解消されて、安堵した。
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