押しかけ淫魔とサラリーマン

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第1章

第2話★

「くぁ……っ」

 いつものアラームで目が覚める。
 寝不足のはずなのに、体は不自然なほどすっきりと清々しい。
 昨晩の出来事は疲れが見せた悪い夢だったのではないか。否、そうであってくれという亮介の淡い期待は、リビングに広がる美味しそうな食事と香ばしいトーストの匂いによって呆気なく打ち砕かれた。

「おはよ、ダーリン♡」
「……なんでまだいるんだ」

 亮介の視線の先には、どこからか用意したらしいエプロンを身につけたゼノがフライパンを片手に立っていた。
 ベッドの上で見た時から薄々思っていたが、この男べらぼうに背が高い。立ち姿を見るに二メートル近くあるのではないだろうか。
 それにあまり人の顔に興味がない亮介にも分かるほど端整な顔立ちをしている。
 まるで人形のようなパーツがバランスよく配置されていて、短い眉と薄い唇の左下にあるほくろが印象的だった。

「なんだよその言い方~。せっかく朝メシ用意してやったってのに……」

 むくれたゼノが「お前ん家の冷蔵庫なんも入ってねーから困ったぜ」と不満を口にする。

「素性のよく分からん奴が作った料理を食べるほど命知らずじゃないんだが……」
「なんも入れてねえって! ほら、早く食わなきゃ冷めちまうぞ?」

 本人の言うとおり、見た目はいたって普通の美味しそうなスクランブルエッグだ。
 それにどうもゼノが嘘をついているようには思えず、数秒の逡巡のあと亮介はおそるおそる卵を口へ運んだ。

「……うまい」
「だろ!」

 亮介が呟くと、ゼノは嬉しそうに笑ってぱたぱたと翼を揺らす。
 こうしてちゃんとした朝食をとるのは久々だ。
 出会って間もない淫魔の手料理でも、腹はしっかり満たされるのだから食事とは偉大なものである。

「ところで、本当になんでまだ帰ってないんだ? こんな飯まで作って……」

 淫魔が人を襲ってやることといえば精液を絞り取ることだろうが、それは昨晩済んだはずだ。
 まだ帰っていないということは、ほかに何か用でもあるのだろうか。もしあるのなら早く済ませて出ていってほしい。
 そんな思いで亮介がたずねると、ゼノが「そのことなんだけどよ」と口を開いた。

「オレ、今日からここに住もうと思って!」
「……は?」

 耳を疑うセリフが聞こえた気がして、思わず間抜けな声が出る。

「ほら、オレたち昨日あんなに愛し合った仲だろ?」
「……事実の錯誤があるな」
「お前のチンポも地味な顔も、よく考えたら全部オレの好みドンピシャだし……」
「地味は余計だ」
「こんなのもう離れらんねーじゃん♡」

 言いながらゼノが亮介にぴとりとくっつく。

「却下だ、却下。そもそも俺にメリットがなさすぎる」

 あまりに非常識な話で頭痛がしてきた亮介は、自身に絡みつくゼノを押しのけてひらひらと手を振った。

「メリットならあるぞ! 家事はオレがやるし、もちろんメシだって作る。あとセックスもする」
「最後のはお前のメリットだろ。ふざけたこと言ってないで早く出ていってくれ」
「うおっ、何すんだ!」

 ぐいぐいとゼノの背中を押して玄関まで連れていき、ドアの外に追い出す。

「ふう……。とんだ災難だった」
「ほんとだよなー。まさか未来のダーリンに締め出されるなんて」
「誰が未来のダーリンだ……って、なんでここにいる⁉」

 今確かに追い出したはずのゼノが目の前にいる。
 混乱した亮介が目を白黒させていると、ゼノが「そんなん当然だろ」と当たり前のように言ってのけた。

「壁の一枚や二枚、淫魔ならみんな余裕ですり抜けられるぜ」
「そんなバカな……」

 この家でもっとも信頼を置いていた玄関ドアの施錠が、ゼノ相手ではまるで意味を成さないことに気付く。これでは家に入るなと言ったところで全く効果がない。

「はあ……。どうしたもんか」

 しかし、と亮介は考えた。
 料理は元より、家事もあまり得意なほうではない。というか苦手だ。
 実家を出たら自然と身につくものだとばかり思っていたが、やらなくても何も言われない環境に甘え、かえって怠惰な生活を送ってしまっているのが現状である。
 それなら、いっそこいつを利用してやればいいのではないだろうか。

「まあ勝手に出入りできる相手に何言っても無駄だな」
「おっ、てことは⁉」
「俺はお前を追い出すことを諦める。だが……」
「だが?」
「家事と炊事はお前の仕事だ。いいな?」
「よっしゃー! そんなん楽勝だぜ!」

 小さく跳ねたゼノがガッツポーズをしてみせる。

「ただし、お前との暮らしが俺にとって負担になると判断したら何がなんでも出ていってもらうからな」
「分かった! よろしくな♡」

 本当に分かっているのか疑わしいところだが、今の亮介にそれを追求している暇はなかった。
 なぜなら、こうして話しているあいだにも家を出る時間が迫っている。
 淫魔に寝込みを襲われた翌日でも、仕事には行かなければならない。社会人とはそういうものなのだ。

「ごちそうさま」
「もう行っちまうのかー?」

 残りのトーストをコーヒーで流し込み立ち上がると、ゼノが残念そうに短い眉を下げる。

「ああ、細かいことはまた帰って話そう」

 迎え入れると決めたはいいが、初めての同居生活だ。しかも相手が人間ではない。お互い課題は山積みである。

「それじゃあ、俺は仕事に行くが……。くれぐれも余計なことはするなよ」
「おう! いってらっしゃい!」

 はつらつと手を振るゼノに見送られ、亮介は不安を胸に自宅をあとにした。
 
 
 その日の夜。
 仕事を終えた亮介が家へ帰ると、鍵の開く音を聞いて玄関まで駆けてきたらしいゼノがにこにこと上機嫌に出迎えた。

「おかえり! 待ってたぜ♡ ええと……」
「どうした?」
「名前、まだ聞いちゃダメか?」

 ゼノがしゅんとした顔でたずねる。
 そういえばまだ名前を教えていないのだった。

「……亮介でいい」
「亮介! かっこいー名前じゃん」

 今更隠したところで意味もないだろうと亮介が本名を明かすと、ただそれだけのことでゼノは随分嬉しそうだった。

「家事は全部終わってるぜ。天気よかったし、掛け布団も干しといた!」

 得意げに報告したゼノが「ふかふかだぞ~」と笑う。

「あー、そうか。助かるよ。ありがとう」
「へへ、じゃあさ……。ご褒美くれよ♡」

 言いながら亮介の前にしゃがみこむと、待ちきれないのか亮介が返事をするよりも早くベルトに手をかけ始める。

「っおい、汚いぞ」

 一日働いて蒸れた股間を暴かれる羞恥で、亮介は思わずゼノの頭を押し退けた。

「んぐ、気にすんなって。オレはこのままがいいんだよ♡」

 ゼノが恍惚とした表情で下着の上から亮介のペニスを撫でる。
 その様子を見る限りこのままがいいという言葉に偽りはないようだが、ゼノが気にしなくても亮介は気にするのだ。

「しっかし立派なチンポだよなあ。はあ、すっげーエロい匂いしてる……♡」

 愛撫の合間にすんすんと匂いを嗅ぐ音が余計に亮介の羞恥心を煽る。

「物好きな奴だな……」
「けど亮介も勃ってんじゃん♡」

 ゼノが亮介の下着を下ろすと、ゴム部分に引っかかりながら勃起したペニスが露出した。

「持ち主と違ってお前は素直だな~♡ えらいぞ♡」

 ペニスに向かって話しかけながら、ゼノが褒めるように指で亀頭を撫でる。

「やめろバカ。ッく……」

 かと思えば唾液を溜め込んだ口内にペニスを迎え入れられ、自分の意思とは関係なく腰がびくりと跳ねた。

「んぅ……♡」

 ぬめった舌を敏感な部分に絡められ、耐えるように奥歯を食いしばる。

「っふ……!♡ ッ、はあ♡」

 ひときわ強い快感を与えられ吐息を漏らすと、ゼノがこちらの様子をうかがうように上目遣いで目を合わせてくる。
 そしてそのまま挑発するように舌を突き出して、ねちっこくペニスの裏筋を刺激した。

「ぐ、ぁ♡ それやば……ッ♡」

 あまりの快感に思わずゼノの角を掴み、自ら腰を揺らしてしまう。

「ぁがっ♡ んん゛……!♡ んご、ぉ゛♡」

 無遠慮なピストンに一瞬苦しそうな表情を見せたゼノだったが、すぐに喉奥を広げてさらに深いところまで亮介のペニスを受け入れた。

「ふっ♡ ふっ♡ あーイクイク……ッ♡ 出る……!♡」
「ん゛~!♡ ん゛ぅう……ッ!♡」

 陰毛にゼノの鼻が埋まるほど腰を押し付けて射精すると、必死にそれを受け止めたゼノの喉仏が数回に分けて上下する。
 その様子に自分自身ですら気が付いていなかった征服欲が満たされ、どうしようもなく興奮してしまった。

「っは……。悪い、大丈夫か?」
「ん、へーき♡ ごちそうさま♡」

 ゼノが口の端から垂れた精液をぺろりと舐めとる。

「なんならもっと乱暴にしてくれてもいいんだぜ?」
「……遠慮しておく。あいにくそういう趣味はないんでな」

 亮介が断ると、少し残念そうな顔をしたゼノが「気が変わったらいつでも言えよ!」と肩を叩いた。
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