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第10話
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「くあ……っ。やば、なんか眠くなってきちゃった」
休日の午後。ソファに座って漫画を読んでいた拓也が欠伸をこぼす。
「少しお昼寝しますか?」
「そうしようかな。アトラくんもおいで、一緒に寝よう」
リビングに敷いたラグの上、拓也の腕を枕にして寝転がる。
初めは重いだろうと遠慮していたが、最近はこれが二人で寝る時の当たり前になっていた。
よほど眠かったのだろう。寝かしつけるようにアトラの頭を撫でていた拓也の手は数分と経たないうちに止まり、間もなく寝息を立て始めた。
起こしてしまわないよう息を殺して、こっそりと寝顔を見つめる。本当に綺麗な人だ。
いつもは恥ずかしくて直視できないけれど、今だけは間近に見ることができた。
シルバーの長い髪も、たくさん開いたピアスも、拓也の美しさをさらに引き立たせている。
特に左の鎖骨に巻き付く蛇の刺青は、拓也のあやしい雰囲気とよく合っていた。子供っぽいアトラにはどう頑張っても出せない魅力である。
本人は「職質とか多いし大変よ」と苦笑していたが、自分のスタイルが確立している拓也はアトラにとって決して届かない憧れの存在だった。
「……アトラくん、見すぎ」
「わあっ!?」
唐突に名前を呼ばれて思わず飛び起きる。
「すっ、すみません! 違うんです、僕その……っ」
アトラがわたわたと弁明の言葉を探していると、拓也が我慢できないといった様子でぶはっと吹き出した。
「ふふっ、あはは! 冗談だよ。そんなにこのタトゥー好き?」
言いながら身体を起こした拓也が、自分の鎖骨を指でなぞる。
その仕草すら色っぽくて、見ていると変な気分になってしまいそうで、咄嗟にあさっての方向へ目を逸らした。
「ええと、はい。なんというか、拓也さんらしくて素敵だなと思って……」
実際は刺青が、というより刺青ごと拓也を愛しているのだが、そんなことを言う度胸もないのでただ肯定する。
「本当? 嬉しいな。ありがとう」
「そういえば、拓也さんはどうしてタトゥーを入れようと思ったんですか?」
照れくささを誤魔化すように、以前から疑問に思っていたことをたずねてみる。
「きっかけかあ」
すると拓也はわずかに逡巡してから、アトラのほうへ向き直った。
「アトラくんには嘘つきたくないから、本当のこと話すつもりだけど……。アトラくんにとってはあんまり気分のいい話じゃないかも」
そう言った拓也が「それでも大丈夫?」と念を押す。
珍しく深刻な様子の拓也に少し狼狽えたが、不安よりも内容への好奇心が勝り、気付けば頭を縦に振っていた。
「拓也さんがいいなら……聞きたい、です」
アトラが興味を示すと、拓也は一呼吸置いてから話し始めた。
「実は……ていうか見たら分かると思うけど、俺昔はけっこう遊んでてさ。一時期彫り師の人と付き合ってたんだよね」
「彫り師、ですか?」
「そう。お客さんの体にタトゥー彫る仕事の人」
その一言だけで、拓也が「あんまり気分のいい話じゃない」と表現した意味を理解して、それから後悔した。
自分と違って、経験豊富な拓也には色んな過去がある。
それは充分覚悟していたことなのに、何か重たいもので頭を殴られたような感覚がして、相槌を打つことができなかった。
「まあ若気の至りってやつ? デザインはどれも気に入ってるんだけどね」
頭が真っ白になって、思うように言葉が出ない。
黙っているアトラを見かねたのか、拓也が「いきなりこんな話されてびっくりしたよね」と頬を搔いた。
「あ……。いえ、その……」
拓也の身体に、二度と消えない証を刻んだ人。
拓也がそうされてもいい、そうされたいと思える相手がかつて存在したのだ。
以前聞いたただの恋愛遍歴よりも、ずっと深い意味があることのように感じて息が苦しい。
自分で知りたがっておきながらひどく傷ついた気分になって、身勝手な自分も許せなかった。
この刺青に込められた想いや意味を想像してぐっと拳を握る。
考えれば考えるほど、汚く濁った感情が胸に広がっていった。
「この話を聞いたうえで、アトラくんが嫌だなって思ったならさ。これ、消すよ。跡は残るかもしれないけど……」
アトラの薄暗い胸中を察したのか、拓也が自らの刺青を指さしてそんなセリフを口にする。
違うのだ。そんなことをしたって拓也の過去は手に入らない。
そう言おうとしてアトラが小さく息を吸うと、拓也はくしゃりと困ったような笑みを浮かべた。
「そういうことじゃないよね」
まるですべてを見透かされているようだ。
拓也に優しくされるほど自分の幼稚さが浮き彫りになるのがつらくて、アトラは拗ねた子供のように頷いた。
たとえ刺青が綺麗に消えたとしても、その時に刻まれた記憶は永遠に消えない。
アトラが求めてやまないのは、拓也の刺青を消し去る権利や技術なんかじゃなく、自分が決して干渉することのできない過去の拓也自身なのだ。
「ごめんなさい、子供っぽいですよね。自分からなんでも知りたいって言ったのに、こんな……」
「そんなことないよ。俺だって、アトラくんの元彼の話なんか聞いたら正直めちゃくちゃ嫉妬すると思う。てか絶対する」
空気が重苦しくならないように配慮してのことだろう。拓也がわざとふざけた口調で話す。
そしてアトラの手を握ると、今度はしっかりと目を合わせて言った。
「だから、落ち着いて聞いてくれてありがとう」
真摯な拓也の言葉に胸がずきんと痛む。
「……全然、落ち着いてなんかないです」
本当はちっとも冷静なんかじゃない。ただ口を開けば何か嫌なことを言ってしまいそうだっただけで。
「僕、さっきからずっと拓也さんの過去にこだわってて。そんなの考えたってどうしようもないのに、考えるのやめられなくて」
今度こそ泣かずにいようと思っていたのに、堪えきれずぽろぽろと涙がこぼれた。
「ねえ、アトラくん」
「……はい」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を見せたくなくて、俯いたまま拓也の声に耳を傾ける。
「アトラくんはさ。俺の今と、これから全部じゃ足りない?」
宥めるようにたずねられて、信じられない思いで顔を上げる。
すると、拓也は「それならあげられるんだけど」と穏やかに微笑んだ。
「え……」
「俺の隣、これから先ずっとアトラくんのために空けてあるよ」
拓也がはにかんでそんなことを言うから、一度は止まりかけていた涙がまた溢れてしまう。
こんなに卑屈で陰気でどうしようもない自分に、拓也がどこまでも暖かく寄り添ってくれるから、余計に泣きたくなるのだ。
ふたたびしゃくり上げるアトラを見て、拓也が慌てて「ごめん!」と謝る。
「俺なんか傷つけるようなこと言っちゃった?」
「っ、違います。僕、嬉しくて……」
拓也にぎゅうっと抱きしめられ、幸福感に頭がくらくらしてしまう。
「服、汚れちゃいます」
「気にしなくていいから。なんなら鼻かんでもいいよ」
「ふふっ。しないですよ、そんなこと」
拓也の冗談にアトラが笑うと、拓也も安心したように目を細めた。
「やっと笑ったね」
そっとキスをされて、ついさっきまで渦巻いていた薄暗い感情が晴れていく。
「ねえ、アトラくん。大好きだよ」
「僕もです。こんなに好きなのに僕、何も返せなくて……んっ」
またネガティブなことを言いかけた唇を強引に塞がれる。
触れるだけのそれとは違う深いキスは何回しても慣れなくて、アトラはぎゅっと目を瞑った。
「ふ、ぁ……っ」
舌で歯列をなぞりながら、拓也がアトラの硬くなったものに手を伸ばす。
「ま、待ってください」
アトラが制止すると、拓也はすぐに動きを止めた。
「どうしたの?」
「きょ、今日は僕がしたいです。その、口で……」
アトラの言葉に拓也は「へっ!?」と間抜けな声を上げると、慌てた様子で首を横に振った。
「いやいやっ、アトラくんはそんなことしなくていいよ!」
「そんなこと、って……。拓也さんはいつもしてくれるじゃないですか」
「そうだけど、アトラくんは口も小さいんだし……」
拓也が嫌がるようなら大人しく引き下がるつもりだったが、ここまで言われると逆に諦めたくない。
「できますっ! 僕、これでも淫魔ですよ」
むきになって拓也のズボンに手をかける。
「わっ、分かった分かった! でも無理はしないでよ?」
観念したように言うと、拓也は自分からズボンを脱いで下着を下ろしてくれた。
今までもお互いの裸を見ることは何度かあったけれど、アトラはいつもしてもらうばかりだったから、こんなに間近で目にするのは初めてだ。
拓也のそれは色も形も綺麗で、見目の良い人はこんなところまで美しいのかと感動すら覚えた。
「あの、これどういうプレイ……?」
股間を凝視するアトラに耐えかねたのか、拓也が気まずそうに問いかける。
「すっ、すみません! 拓也さんはこんなところまで綺麗なんだなと思って……」
「そう言われるとなんか恥ずいな……。ていうか、本当に平気?」
「は、はいっ。大丈夫です」
とはいえ、やり方がさっぱり分からない。
勢い余ってできますなんて啖呵をきった手前、拓也に教えを乞うのも気が引ける。
するとアトラの戸惑いを感じとったのか、拓也がくすりと小さく笑った。
「やり方分かんないよね」
「うう、すみません……」
「初めてなんだから当たり前だよ。まずは手で触ってみて」
言われるがまま、すでに硬くなったものにそっと手で触れてみる。
熱くて、血管が脈打っていて、触っているアトラのほうがどきどきしてしまう。
これを、今から自分の口で。そう思うとものすごく興奮して、頭にぐらりと血がのぼった。
おそるおそる唇を寄せて、先端にキスをする。
そしてこれまで拓也にしてもらったのを思い出しながら、一生懸命舌を這わせた。
「あー、どうしよ。これ死ぬほど興奮する……」
「ご、ごめんなさい。上手にできなくて……」
「いや、充分だよ。ていうか、正直このシチュエーションだけでけっこうヤバいかも」
わずかに上擦った声で話す拓也のそれは先ほどよりも硬く張り詰めていて、アトラの拙い口淫で本当に感じてくれているのだと分かる。
頑張って先端を口に含もうとしたけれど、アトラの小さな口にはとても入りきらなくて、いつも拓也がしてくれるようにはできなかった。
「っ、はあ……」
頭に添えられた拓也の手が、褒めるようにアトラの頭を撫でる。
それが嬉しくて、夢中になって拓也のものに吸いついた。
「ん、っ……。アトラくん、もういいよ」
不意に声をかけられて顔を上げる。拓也はまだ出していないのに。
「き、気持ちよくなかったですか?」
「違う違う。すごくよかったけど、そうじゃなくて……」
言いながら拓也が脚を開き、奥の窄まりを指でなぞった。
「こっちに欲しくなっちゃった」
刺激的な光景に目が釘付けになる。
アトラのごくりと唾を飲む音が部屋に響いた。
「アトラくんの、入れてくれる?」
「……っ、はい」
休日の午後。ソファに座って漫画を読んでいた拓也が欠伸をこぼす。
「少しお昼寝しますか?」
「そうしようかな。アトラくんもおいで、一緒に寝よう」
リビングに敷いたラグの上、拓也の腕を枕にして寝転がる。
初めは重いだろうと遠慮していたが、最近はこれが二人で寝る時の当たり前になっていた。
よほど眠かったのだろう。寝かしつけるようにアトラの頭を撫でていた拓也の手は数分と経たないうちに止まり、間もなく寝息を立て始めた。
起こしてしまわないよう息を殺して、こっそりと寝顔を見つめる。本当に綺麗な人だ。
いつもは恥ずかしくて直視できないけれど、今だけは間近に見ることができた。
シルバーの長い髪も、たくさん開いたピアスも、拓也の美しさをさらに引き立たせている。
特に左の鎖骨に巻き付く蛇の刺青は、拓也のあやしい雰囲気とよく合っていた。子供っぽいアトラにはどう頑張っても出せない魅力である。
本人は「職質とか多いし大変よ」と苦笑していたが、自分のスタイルが確立している拓也はアトラにとって決して届かない憧れの存在だった。
「……アトラくん、見すぎ」
「わあっ!?」
唐突に名前を呼ばれて思わず飛び起きる。
「すっ、すみません! 違うんです、僕その……っ」
アトラがわたわたと弁明の言葉を探していると、拓也が我慢できないといった様子でぶはっと吹き出した。
「ふふっ、あはは! 冗談だよ。そんなにこのタトゥー好き?」
言いながら身体を起こした拓也が、自分の鎖骨を指でなぞる。
その仕草すら色っぽくて、見ていると変な気分になってしまいそうで、咄嗟にあさっての方向へ目を逸らした。
「ええと、はい。なんというか、拓也さんらしくて素敵だなと思って……」
実際は刺青が、というより刺青ごと拓也を愛しているのだが、そんなことを言う度胸もないのでただ肯定する。
「本当? 嬉しいな。ありがとう」
「そういえば、拓也さんはどうしてタトゥーを入れようと思ったんですか?」
照れくささを誤魔化すように、以前から疑問に思っていたことをたずねてみる。
「きっかけかあ」
すると拓也はわずかに逡巡してから、アトラのほうへ向き直った。
「アトラくんには嘘つきたくないから、本当のこと話すつもりだけど……。アトラくんにとってはあんまり気分のいい話じゃないかも」
そう言った拓也が「それでも大丈夫?」と念を押す。
珍しく深刻な様子の拓也に少し狼狽えたが、不安よりも内容への好奇心が勝り、気付けば頭を縦に振っていた。
「拓也さんがいいなら……聞きたい、です」
アトラが興味を示すと、拓也は一呼吸置いてから話し始めた。
「実は……ていうか見たら分かると思うけど、俺昔はけっこう遊んでてさ。一時期彫り師の人と付き合ってたんだよね」
「彫り師、ですか?」
「そう。お客さんの体にタトゥー彫る仕事の人」
その一言だけで、拓也が「あんまり気分のいい話じゃない」と表現した意味を理解して、それから後悔した。
自分と違って、経験豊富な拓也には色んな過去がある。
それは充分覚悟していたことなのに、何か重たいもので頭を殴られたような感覚がして、相槌を打つことができなかった。
「まあ若気の至りってやつ? デザインはどれも気に入ってるんだけどね」
頭が真っ白になって、思うように言葉が出ない。
黙っているアトラを見かねたのか、拓也が「いきなりこんな話されてびっくりしたよね」と頬を搔いた。
「あ……。いえ、その……」
拓也の身体に、二度と消えない証を刻んだ人。
拓也がそうされてもいい、そうされたいと思える相手がかつて存在したのだ。
以前聞いたただの恋愛遍歴よりも、ずっと深い意味があることのように感じて息が苦しい。
自分で知りたがっておきながらひどく傷ついた気分になって、身勝手な自分も許せなかった。
この刺青に込められた想いや意味を想像してぐっと拳を握る。
考えれば考えるほど、汚く濁った感情が胸に広がっていった。
「この話を聞いたうえで、アトラくんが嫌だなって思ったならさ。これ、消すよ。跡は残るかもしれないけど……」
アトラの薄暗い胸中を察したのか、拓也が自らの刺青を指さしてそんなセリフを口にする。
違うのだ。そんなことをしたって拓也の過去は手に入らない。
そう言おうとしてアトラが小さく息を吸うと、拓也はくしゃりと困ったような笑みを浮かべた。
「そういうことじゃないよね」
まるですべてを見透かされているようだ。
拓也に優しくされるほど自分の幼稚さが浮き彫りになるのがつらくて、アトラは拗ねた子供のように頷いた。
たとえ刺青が綺麗に消えたとしても、その時に刻まれた記憶は永遠に消えない。
アトラが求めてやまないのは、拓也の刺青を消し去る権利や技術なんかじゃなく、自分が決して干渉することのできない過去の拓也自身なのだ。
「ごめんなさい、子供っぽいですよね。自分からなんでも知りたいって言ったのに、こんな……」
「そんなことないよ。俺だって、アトラくんの元彼の話なんか聞いたら正直めちゃくちゃ嫉妬すると思う。てか絶対する」
空気が重苦しくならないように配慮してのことだろう。拓也がわざとふざけた口調で話す。
そしてアトラの手を握ると、今度はしっかりと目を合わせて言った。
「だから、落ち着いて聞いてくれてありがとう」
真摯な拓也の言葉に胸がずきんと痛む。
「……全然、落ち着いてなんかないです」
本当はちっとも冷静なんかじゃない。ただ口を開けば何か嫌なことを言ってしまいそうだっただけで。
「僕、さっきからずっと拓也さんの過去にこだわってて。そんなの考えたってどうしようもないのに、考えるのやめられなくて」
今度こそ泣かずにいようと思っていたのに、堪えきれずぽろぽろと涙がこぼれた。
「ねえ、アトラくん」
「……はい」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を見せたくなくて、俯いたまま拓也の声に耳を傾ける。
「アトラくんはさ。俺の今と、これから全部じゃ足りない?」
宥めるようにたずねられて、信じられない思いで顔を上げる。
すると、拓也は「それならあげられるんだけど」と穏やかに微笑んだ。
「え……」
「俺の隣、これから先ずっとアトラくんのために空けてあるよ」
拓也がはにかんでそんなことを言うから、一度は止まりかけていた涙がまた溢れてしまう。
こんなに卑屈で陰気でどうしようもない自分に、拓也がどこまでも暖かく寄り添ってくれるから、余計に泣きたくなるのだ。
ふたたびしゃくり上げるアトラを見て、拓也が慌てて「ごめん!」と謝る。
「俺なんか傷つけるようなこと言っちゃった?」
「っ、違います。僕、嬉しくて……」
拓也にぎゅうっと抱きしめられ、幸福感に頭がくらくらしてしまう。
「服、汚れちゃいます」
「気にしなくていいから。なんなら鼻かんでもいいよ」
「ふふっ。しないですよ、そんなこと」
拓也の冗談にアトラが笑うと、拓也も安心したように目を細めた。
「やっと笑ったね」
そっとキスをされて、ついさっきまで渦巻いていた薄暗い感情が晴れていく。
「ねえ、アトラくん。大好きだよ」
「僕もです。こんなに好きなのに僕、何も返せなくて……んっ」
またネガティブなことを言いかけた唇を強引に塞がれる。
触れるだけのそれとは違う深いキスは何回しても慣れなくて、アトラはぎゅっと目を瞑った。
「ふ、ぁ……っ」
舌で歯列をなぞりながら、拓也がアトラの硬くなったものに手を伸ばす。
「ま、待ってください」
アトラが制止すると、拓也はすぐに動きを止めた。
「どうしたの?」
「きょ、今日は僕がしたいです。その、口で……」
アトラの言葉に拓也は「へっ!?」と間抜けな声を上げると、慌てた様子で首を横に振った。
「いやいやっ、アトラくんはそんなことしなくていいよ!」
「そんなこと、って……。拓也さんはいつもしてくれるじゃないですか」
「そうだけど、アトラくんは口も小さいんだし……」
拓也が嫌がるようなら大人しく引き下がるつもりだったが、ここまで言われると逆に諦めたくない。
「できますっ! 僕、これでも淫魔ですよ」
むきになって拓也のズボンに手をかける。
「わっ、分かった分かった! でも無理はしないでよ?」
観念したように言うと、拓也は自分からズボンを脱いで下着を下ろしてくれた。
今までもお互いの裸を見ることは何度かあったけれど、アトラはいつもしてもらうばかりだったから、こんなに間近で目にするのは初めてだ。
拓也のそれは色も形も綺麗で、見目の良い人はこんなところまで美しいのかと感動すら覚えた。
「あの、これどういうプレイ……?」
股間を凝視するアトラに耐えかねたのか、拓也が気まずそうに問いかける。
「すっ、すみません! 拓也さんはこんなところまで綺麗なんだなと思って……」
「そう言われるとなんか恥ずいな……。ていうか、本当に平気?」
「は、はいっ。大丈夫です」
とはいえ、やり方がさっぱり分からない。
勢い余ってできますなんて啖呵をきった手前、拓也に教えを乞うのも気が引ける。
するとアトラの戸惑いを感じとったのか、拓也がくすりと小さく笑った。
「やり方分かんないよね」
「うう、すみません……」
「初めてなんだから当たり前だよ。まずは手で触ってみて」
言われるがまま、すでに硬くなったものにそっと手で触れてみる。
熱くて、血管が脈打っていて、触っているアトラのほうがどきどきしてしまう。
これを、今から自分の口で。そう思うとものすごく興奮して、頭にぐらりと血がのぼった。
おそるおそる唇を寄せて、先端にキスをする。
そしてこれまで拓也にしてもらったのを思い出しながら、一生懸命舌を這わせた。
「あー、どうしよ。これ死ぬほど興奮する……」
「ご、ごめんなさい。上手にできなくて……」
「いや、充分だよ。ていうか、正直このシチュエーションだけでけっこうヤバいかも」
わずかに上擦った声で話す拓也のそれは先ほどよりも硬く張り詰めていて、アトラの拙い口淫で本当に感じてくれているのだと分かる。
頑張って先端を口に含もうとしたけれど、アトラの小さな口にはとても入りきらなくて、いつも拓也がしてくれるようにはできなかった。
「っ、はあ……」
頭に添えられた拓也の手が、褒めるようにアトラの頭を撫でる。
それが嬉しくて、夢中になって拓也のものに吸いついた。
「ん、っ……。アトラくん、もういいよ」
不意に声をかけられて顔を上げる。拓也はまだ出していないのに。
「き、気持ちよくなかったですか?」
「違う違う。すごくよかったけど、そうじゃなくて……」
言いながら拓也が脚を開き、奥の窄まりを指でなぞった。
「こっちに欲しくなっちゃった」
刺激的な光景に目が釘付けになる。
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「アトラくんの、入れてくれる?」
「……っ、はい」
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