5 / 75
lesson1
4
耐えがたい沈黙が室内を包む。その中では息を呑むのさえ憚られて瑠衣は窒息しそうになりかけていた。胸の音が聞こえているんじゃないかと思うほど静かで緊迫感がある。
(無理すぎる、限界)
沈黙にも空気にも耐えきれなくなった瑠衣は思い切って言葉にした。
「し、失礼します……」
まるで逃げるように背の高い太刀川の横をすり抜けようとしたら積み上げられた段ボールに勢いよく突っ込んだ。テンパっていた、視界は太刀川で塞がっていた、いろんな理由はあるがとどのつまり見えていなかった。
「きゃあ!」
ぶつかった反動で結局太刀川にぶつかる。
「すみ、すみませんっ!」
よろめいて棚にもぶつかる、パニック状態の瑠衣に太刀川がプッと吹き出した。バカにしたような笑いだったが不思議と嫌悪感はなかった、小さい子に笑いかけるようなそんな優しさを少し感じた。
「ほ、ほんとにすみませ……いたっ」
ぶつかった棚の鍵穴部分に髪の毛が引っかかった。それが瑠衣の行く手を阻んで逃げるに逃げられない。
「ちょっと待って」
そう言って手を伸ばしてきたのは太刀川の方だった。その手の動きに余計瑠衣は慌てて声を荒げる。
「あの!あの、だい、大丈夫なので!ほんとに……」
「動くなよ、取りにくいから」
そう言われたらもう動けない。瑠衣は諦めて太刀川の言葉に従った。早く取れればその分この状況から解放されるとむしろ前向きに捉えて太刀川に甘えることにした。
太刀川の香水が、無駄に香る。
キツくはない、少しだけ甘さを感じる匂い。どこかで嗅いだとか思わない、初めて知る匂いだ。だから思う、きっと太刀川と会った人はこの匂いを忘れないのではないか、また会えたらハッと匂いを思い出すだろう、そう印象づけるような香りでまたそれが太刀川によく似合っていた。
その香りに酔いかけてうっかり顔を見つめてしまった。
細い猫っ毛、スッと通った鼻筋に形の良いくちびるは女の子みたいにピンク色をしている。伏せられたまつ毛は長めでその下には漆黒の瞳が隠されている。噂だけであまり直視したことのない太刀川の顔は思っているよりもずっと中性的な綺麗な顔で。イメージがイメージなだけに戸惑う。
(なんか……すごい綺麗なひと……)
シミひとつない肌が羨ましい。なぜ太刀川は黒王子なのだろう、見た目だけなら白王子となんら引け目をとらない。やはり性格を揶揄されているのか、そんなことを呑気に思っていたら漆黒の瞳と目があった。
「とれた」
「あ、ありがとうございます、お手を煩わせまして……」
頭を下げたらいきなり顎を持ち上げられた。長い指が顎をなでて、親指の腹が頬に伝ってくる。
「あ……あ、のぉ……」
「感じないってほんと?」
瑠衣の目はこぼれ落ちそうなほど見開かれた。
「なんにも感じないの?触られても?挿れられても?濡れないてこと?」
矢継ぎに聞かれて瑠衣の口がワナワナと震え始める。聞く言葉も直球で何ひとつオブラートに包んではくれない。
そう聞く太刀川の声も感情のない淡々としたものでとくに表情が乱れることもない。さきほどのクリアファイルの場所を聞くくらいなんでもないことのように聞いてくるのだ。
「セックス気持ちいいて思ったことない?」
その言葉にカッとなった。
(無理すぎる、限界)
沈黙にも空気にも耐えきれなくなった瑠衣は思い切って言葉にした。
「し、失礼します……」
まるで逃げるように背の高い太刀川の横をすり抜けようとしたら積み上げられた段ボールに勢いよく突っ込んだ。テンパっていた、視界は太刀川で塞がっていた、いろんな理由はあるがとどのつまり見えていなかった。
「きゃあ!」
ぶつかった反動で結局太刀川にぶつかる。
「すみ、すみませんっ!」
よろめいて棚にもぶつかる、パニック状態の瑠衣に太刀川がプッと吹き出した。バカにしたような笑いだったが不思議と嫌悪感はなかった、小さい子に笑いかけるようなそんな優しさを少し感じた。
「ほ、ほんとにすみませ……いたっ」
ぶつかった棚の鍵穴部分に髪の毛が引っかかった。それが瑠衣の行く手を阻んで逃げるに逃げられない。
「ちょっと待って」
そう言って手を伸ばしてきたのは太刀川の方だった。その手の動きに余計瑠衣は慌てて声を荒げる。
「あの!あの、だい、大丈夫なので!ほんとに……」
「動くなよ、取りにくいから」
そう言われたらもう動けない。瑠衣は諦めて太刀川の言葉に従った。早く取れればその分この状況から解放されるとむしろ前向きに捉えて太刀川に甘えることにした。
太刀川の香水が、無駄に香る。
キツくはない、少しだけ甘さを感じる匂い。どこかで嗅いだとか思わない、初めて知る匂いだ。だから思う、きっと太刀川と会った人はこの匂いを忘れないのではないか、また会えたらハッと匂いを思い出すだろう、そう印象づけるような香りでまたそれが太刀川によく似合っていた。
その香りに酔いかけてうっかり顔を見つめてしまった。
細い猫っ毛、スッと通った鼻筋に形の良いくちびるは女の子みたいにピンク色をしている。伏せられたまつ毛は長めでその下には漆黒の瞳が隠されている。噂だけであまり直視したことのない太刀川の顔は思っているよりもずっと中性的な綺麗な顔で。イメージがイメージなだけに戸惑う。
(なんか……すごい綺麗なひと……)
シミひとつない肌が羨ましい。なぜ太刀川は黒王子なのだろう、見た目だけなら白王子となんら引け目をとらない。やはり性格を揶揄されているのか、そんなことを呑気に思っていたら漆黒の瞳と目があった。
「とれた」
「あ、ありがとうございます、お手を煩わせまして……」
頭を下げたらいきなり顎を持ち上げられた。長い指が顎をなでて、親指の腹が頬に伝ってくる。
「あ……あ、のぉ……」
「感じないってほんと?」
瑠衣の目はこぼれ落ちそうなほど見開かれた。
「なんにも感じないの?触られても?挿れられても?濡れないてこと?」
矢継ぎに聞かれて瑠衣の口がワナワナと震え始める。聞く言葉も直球で何ひとつオブラートに包んではくれない。
そう聞く太刀川の声も感情のない淡々としたものでとくに表情が乱れることもない。さきほどのクリアファイルの場所を聞くくらいなんでもないことのように聞いてくるのだ。
「セックス気持ちいいて思ったことない?」
その言葉にカッとなった。
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。