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エピソード1

とまどいの一カ月④

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引き寄せられて重なったくちびるが熱い。

何度も何度も甘く、形を確かめられてるように触れられて体がだんだんと痺れてきた。



(どうしよう、頭の中が空っぽになる)



実験室で初めて交わしたキスも甘かった。

優しくて息ができなくなるような胸が詰まるキスだった。今はあれ以上に甘くて熱い。

くちびるから溶けていってしまいそうになる。



「んぁ……」



どれくらいしていたのか、胸の高鳴りと呼吸が乱れて心拍数が上がりまくっている。

その証拠に胸の上下が激しい。



「はぁ……」



思わず息を吐き出すと笑われた。



「ダメだな……」久世さんが小さな声で呟く。



「我慢しようと思ってたけど、やっぱり無理かも」



「……ぇ?」自分の声と思えないほど艶っぽい声がでて自分で驚いた。



「したい。していい?」



胸が余計に弾んだ。腰をグッと抱きしめられてこれ以上ないほど身体が密着した。



「……ぁ、んっ」



返事をする前にまたくちびるを塞がれて骨が折れそうなほど強く抱きしめられた。





(苦しいのに、なに?この高揚感、幸福感?)





久世さんの抱きしめる力はいつも強い。そのうえこんな甘いキスをされたらもう立ってられなくて、思わず腕が背中に回る。

それを返事と取られたのか、久世さんの手がワンピースのファスナーに触れて思わずのけぞった。



「ンッ、あ!」

「……」久世さんも驚いてる。



「ぁ、あの、その」

「ごめん、嫌ならしないよ」

「嫌なんっ、じゃ……ない、です、よ?」



「なにそのカタコト」笑われてもなにも言い返せない。



「違います。その、えっと、だから」



言い淀む唇を長い指先が弄ぶようになぞるから身をよじる。



「ぁ、あの……」



「なに?」そう言う顔が意地悪で。



「……っんもぉ!遊ばないで、ください!」

「ごめん、なに?」





(なにと聞かれるとまた困るんだけど)





「……わたし」



頭ではあれやこれや思うけれど言葉にまた結局出来なくて。

言いたいことや言えないことや言いたくないことや言わないとダメなことやもうパンクしかけてきたらギュッと抱きしめられた。



「俺が悪かったよ。急ぎすぎた、ごめん」





(違うの)





そんな言葉を言わせたかったんじゃない。

私はまだなにも久世さんに気持ちを伝えられてない気がする。





「違います。同じ、気持ちです、私も」広い背中に腕を回して抱きしめ返す。





「私で良ければ……お願いします」



「……なにそれ」吹き出されてまた折れそうなほどに強く抱きしめられた。





「いちいちオモロいな」



「面白いって……」



どこが面白かったのか。腕の力が弱まって見つめ合うとチュッとキスされた。





「シャワーする?」聞かれて頷く。

「……させてもらえると、嬉しいです」



とてもじゃないけど、このままするのは無理すぎる。脱衣所まで連れて行かれてお風呂の使い方を簡単に聞いた。メイクは落とせないから軽くシャワーを身体に浴びた。浴びながら自分の身体を見て不安が湧き上がる。





(大丈夫かな、私。こんな体を久世さんの前に晒しても)





そもそもさっき馬鹿みたいに食べたことをひたすら後悔している。





(なにも考えず、なぜあんな量を腹におさめてしまったのか。自分が馬鹿すぎる)





それだけじゃない。





「え、何年ぶり?ていうか、カウントしてもいいの?前のことって」





思わず声になってこぼれたが、シャワーの音にかき消される。

考えても沼にハマりそうなので、もうそのことは考えないようにした。





(ボディソープ借りてもいいかな)





ワンプッシュして匂いを嗅ぐと久世さんの匂いがした。それだけでドキドキがまた復活した。





(どうしよう)





嗅覚から全身を刺激されてこれから起きることを想像するとそれだけでのぼせそうになった。







――――――――――――――――――――





脱衣所の扉が開いて不意にそちらを向くとワンピースを着た彼女が恥ずかしそうに出てきた。



「ボディソープ、借りました」少しだけ濡れた髪が妙に色っぽくて目が離せなくなる。



「……どうぞ」



どこかそわそわした様な落ち着かない感じで近寄ってこないから俺から近づく。



「緊張してる?」



「……してます」





「なんで?」



「しますよ!普通!」





(噛み付いてくるから通常運転だと思う)は、飲み込んだ。





「じゃあ少し一人になって落ち着いてて下さい」



ポンっと頭に手を置いて撫でると恥ずかしそうに見上げてくる。



「俺もシャワーしてくる」そう言うとまた顔を赤くした。





(なんか、全然慣れてない感じするな)





見た目からはそんな風にはあまり見えないのに近づくと途端にウブな反応をする。

触れたらどうなるんだろう、と内心ワクワクしてしまった気持ちは悟られないようにする。



部屋に戻るとソファに座っていた彼女は少し落ち着いたようにみえた。何も飲み物を渡してなかったことに今気づいて水を持っていく。



「ひゃあ!」頬にペットボトルを当てたら悲鳴を上げた。



「ごめん、うち水しかない」



「水、好きです」いただきます、と受け取る。





「なんか……」



「ん?」



「メールがひっきりなしになってましたよ」

開いた状態のパソコンを指差されて視線がそちらに向く。





「あー、ちょっと確認していい?」



「もちろん」



ソファから降りてパソコンに向き合ってると視線を感じる。振り向くと目が合った。





「なに?」



「家でも仕事してます?」





「んー……少しだけ」



「忙しいですね」





「どうなんだろう、要領悪いんじゃない?」



「そんなわけない」笑われた。





「家に仕事持ち帰るってそうじゃん?」



「持ち帰ってるわけじゃないですよね?」





「家でしてたら一緒」



「すごいなぁ」流れる様な会話から感心する様な声で言うから思わず手を止めた。





「いや、そこ怒っていいと思うけど」



「へ?」



「家でさ、二人でいるのに仕事してたら構ってとかなるでしょ?てか、なっていいよ」





(俺もなに仕事してんだ)





「仕事優先でいいですけど」



「それ、おかしいし」メールを閉じてパソコンの電源を落としていると彼女が呟く。





「私、仕事してる久世さんが一番好き」



「……」





「仕事してる久世さんが好きでいつも隠れて見てた。盗み見しなくていいってむしろ贅沢……んんっ!」



それ以上聞けなくて口を塞いだ。



「ん、はぁ」





「あのさ、俺のこと煽るのやめた方がいいよ?」



「……あ、おってませんけど」ソファに押し倒して彼女を見下ろす形になる。



「一応さ、我慢してたの、俺」



「……は、い」



「我慢してんの」



「……は……ぃ」



大事にしたいと思っているのに。



「煽った責任とって」



なにか言おうとした言葉をそのままキスで飲み込んだ。



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