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エピソード5
秘密の三ヶ月①
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「来れないんですか?」
「行けても多分終わりかけかな……もう時間的に微妙なら行かんかも。はい、砒素」
試薬を渡しながら答えたら、置いてけぼりをくらった子犬のように眉をさげた千夏。
「そうなんですね、福岡でしたっけ。間に合うといいのに……あ、あとアンチモンです」
「アンチ……あれ、ないな」
毒劇物金庫の奥を覗いても見つからない。しゃがみこむ俺の傍に千夏も寄ってきた。定時時間内なのに、めずらしく距離が近い。
くりっとした大きな瞳で上目遣いで見つめられると、ここが職場だと忘れかけそうになる。
グッと体を寄せてきたかと思うと、耳元で囁くように言う。
「……めんたいこと通りもん買ってきて」
(甘えて寄ってくるのはそれか)
「通りもん?なにそれ」
「福岡の有名なお菓子、知らない?」
「知らない」
「食べたことあると思うよ?美味しいの」
「ふぅん?またラインいれといて」
「やったぁ」
そう言ったらあっさりと体を離した。
千夏は絶対、俺より食への思いの方が強いと思う。
明日は部の送別会で千夏も珍しく飲み会に参加する。俺は以前から福岡に研修の出張が決まっていた。今回は飛行機移動だから時間は短縮できるけど、向こうを出るのが17時くらいになるから何時に着くか。もう飲み会は終盤だろう。
「時間ギリギリでも来られたらいいですね、待ってます」
そう言ってくしゃっと笑う顔は部下と彼女の半々の顔。
(なんでこんな器用に両方の顔を作れるんだ?)
普段の仕事では部下として徹底した距離を取るくせに、二人になると気が緩むのか時折見せる彼女の顔。
俺を上司としてではなく、一人の男として見ているときの顔。その顔にハッキリ言って欲情している。
「……アンチ、ここにないなら在庫切れかもな」
木ノ下さんのいつもの雑な仕事の結果。ため息を吐くと、千夏が頭の上で笑った。
「聞いておきます。ないなら入荷されてからアンチだけ別に作ればいいだけだし」
「……俺が言おうか?」
「忙しい人が余計な心配も仕事も増やさなくていいです。私が聞きます、使うのは私なので」
そう言ってファイルに記帳している後ろ姿を見て思う。
(言い方といい……たまらんのだけど)
空気を読むところも、気遣いも、仕事への責任感も、俺のツボを突いてくる。
「はい、ファイルお願いします」
差し出されたファイルを受け取って金庫にしまうと鍵をかけた。千夏を見上げるとにこっと笑って首を傾げるその姿がただもう――。
(くそ、可愛いな)
ちょいちょいと手を招くと一瞬ためらい、周囲をきょろきょろと様子見する。相変わらず周りの目ばがり気にして過ごす千夏の神経質さはだんだんすごいなと思えてむしろ感心しているほどだ。誰もいないのを確認したら、そのあと遠慮がちに近寄って……しゃがんできた。
「な、なに?」
控えめな声に余計神経が震える。お互いの間にできた少しの距離は手をつけば一瞬で縮まるほどだ。
「ぅむんん!」
勢いをつけてかぶりつくように唇にキスをした。逃げようと後ろに引きかけたから腕を掴んで引っ張る。
「んん――!」
ちゅっ、と音が鳴ってくちびるを離したら、赤面した千夏の顔とぶつかった。
「なぁ……なん、なにして……」
真っ赤になって震える千夏が可愛い。
「いやぁ、なんか……思わず?」
「お、お、思わず、することじゃないですからぁ!」
誰かに見られたらどうするの!と小声で怒られた。
「したくなって?」
「本能で生きちゃだめ!」
「お前可愛いんだもん」
「なぁっ――!」
もう真っ赤。面白いくらい。
「そんな顔してたら一発でバレるぞ」
「だだ誰のせいっ――!」
(別に俺はバレても全然いいんだけど)
上司と部下という直属の関係と、千夏の立場的なこと、一番は千夏自身の気持ちを尊重すると、社内で付き合いを隠すことも公にしないことも理解できる。その方が働きやすいことだってわかってる。わかってはいるけれど、たまにどうでもよくなる時がある。
――千夏を独占したい。
最近やたら感じるこの気持ち。付き合い始めたころは支配欲が強かったのに、秘密にすることで得だした独占欲が日に日に強くなっている。
簡単に他の奴が触れないように、わかりやすく縛れるなにかが欲しくなっていた。
―――
翌朝、正門をくぐるとき前からスーツを着た誠くんと出会って息をのんだ。
(うぉーい!スーツ姿、聞いてな――い!)
「お、おはようございます」
「おはよう、ちょうどよかった。これ、俺のデスクに置いておいてくれない?」
置いてくるの忘れた、とピッチを渡される。
「はい……」
手渡されるピッチなんか見てられない、誠くんをガン見する。
「ん?」
「いえ、眼福です」
「なにそれ」
笑われた。
「気を付けて……いってらっしゃい」
言いたいことはいっぱいあるけど、ここは職場、目の前にいるのは上司の久世さん。せめて笑顔に込める。
(待ってるね)
「覗けるなら顔出すよ、飲み会」
誠くんはそう言って研修に行ってしまった。
(イケメンがスーツという武器を得たら歩くだけで人を殺せます!)
送別会は定刻に始まった。誠くんからラインが入ったのは十八時くらい。
【十九時半に駅に着くから顔出せる】
そんなメッセージに胸が踊った。飲み会の席にいるからって誠くんと極力話すことはないし近くに座ることもそうないけれど、視界にいるというだけで嬉しい。
「なんか楽しそうだね、飲んでる?」
飲み会が始まってだんだんみんないい感じにほろ酔いな感じ。声をかけてきたのはグループ違いの内田くん、通称ウッチー。歳が私の一つ上でみんなによく可愛がられるノリのいい人。入社してすぐ気さくに話しかけてくれてからずっと付き合いもあってフランクに接しられる数少ない人だ。
「楽しいよ。ウッチー結構酔ってる?」
「まだ大丈夫、とは思ってるけど、最近忙しかったから少し回るの早いかもしれん」
「大丈夫?お水取ってこようか?」
「んーん、いい。それよりぃ、最近どお?なんかさぁ、ちぃちゃん前より可愛くなったよね」
(だいぶ酔ってない?絡み方がおっさんみたい)
「ウッチー、それセクハラだよ」
高田さんが突っ込んでくれる。
「いや、これ、セクハラとは違いますって。なんでもかんでもセクハラにくくられるとなぁー。女の子に可愛いも言えない時代ってどうなんっすか!」
(絶対酔ってる)
ウッチーのこういうノリは昔からある。しかも酔ったところにこれならまともに返す必要もない。無視しようとテーブルに意識を向けた。エビフライを手に取ってタルタルソースをつけて口に運ぼうとすると、ウッチーの肩がドンっとぶつかってタルタルソースがこぼれてしまう。
「わ!ごめん!え、こぼれた?」
タルタルソースが襟とカーディガンにぼたぼたと落ちてしまった。おろしたての服って出先で汚すのあるあるなのか……。
「わー!ちぃちゃんごめん!」
「ううん大丈夫、あ、このおしぼりももらっていい?」
「ほんとごめん!大丈夫?シミになるかな」
「大丈夫だよ。ちょっとお手洗いで洗ってくるね」
トップスはさほど被害はないけれど、カーディガンの方が派手に落ちてしまったが、すぐに洗えばシミにはなりそうにない。席を立ってお手洗いに走っておしぼりを濡らして叩いていたらすぐに取れた。
(シミにならなくてよかった……この服一目ぼれで買ったからさぁ)
襟元がフリルになったトップスは淡いクリーム色で可愛くて。試着したら胸が目立たなくて気に入って衝動買いした。五分袖くらいだけど、割とピタッとした生地感なのでこれ一枚だと体のラインが出やすい。だからカーディガンを羽織ったんだけど――。
(今これを羽織るのはちょっと冷たそうだなぁ……)
帰る頃には湿ってるくらいでいけるかなとハタハタしつつ席に戻ると誠くんが到着していた。
(あっ!)
と、思った気持ちを顔に出さないように平常心を心がける。普段誠くんを敬遠しがちな女性社員たちもスーツ姿の誠くんを盗み見している。
(かっこいいよね、わかるよ。わかる)
うんうん、と彼女の立場として嫉妬してもいいところだけど、その気持ちがわかりすぎて広い心でそれを受け入れる。
(スーツだめだわぁ。スタイルもいいからもう着こなしすぎなんだよぉ!)
頭の中で身悶えていたら、ウッチーの声に現実に引き戻された。
「ちぃちゃん!ごめん、大丈夫だった?」
その声に誠くんの顔がこちらを向いて一瞬目が合う。
「あ、うん、平気。すぐ取れたし大丈夫、気にしないで」
「マジごめんー、クリーニング代請求して」
「オーバーだよ。じゃあ、今度コンビニでアイス買って」
「ハーゲンダッツ奢るわ」
「やった!」
そんなたわいもないやり取りをして席についた。誠くんは向かいのエリアでこちらには背中を向けている。位置的に最高、全然人目を気にせず見れる位置、最高。
(二十時前なら三十分くらいは飲み食い出来そうかな。でももうご飯がないかも)
食べるものあるかな、とテーブルの前をチラチラ見てしまう。
「――って、聞いてる?ちぃちゃーん」
ウッチーに肩袖あたりをツンツンっと引っ張られてハッとした。ジッと見つめるウッチーと目が合って……言い訳も何もない。素直に答える。
「ごめん、聞いてなかった」
「おい、聞けやー。だから、記念日大事派かって話!」
「……記念日?何の話?」
「菱田ちゃんはマメそう。記念日とか大事にしてそう」
高田さんの言葉にウッチー、あと会話に参加していた数人が一斉に私を見た。
(記念日って、恋人とのあれやこれや的な?)
「――え、私マメじゃないと思います。誕生日とかクリスマス以外に記念日って例えばなにがあるんですか?」
「うそ、そんな感じ?」
ウッチーが声をあげるがとても意外そうに言われて私の方が意外に思う。
(そんな風に見えてるのね……人の見る目って当てにならないなぁ)
人の目に自分がどう映るのか、そんなことはあまり考えたことはないけれど、私はなんだかマメな女に見えているようだ。しかし……。
「私こんなもんだよ。記念日とかあんまり想像できない。何を記念にするの?」
乾いた笑いで誤魔化した。
「付き合った日とかさ、初めてなになにしたとか……細かい子って細かいっすよね?」
ウッチーが高田さんに同意を求める。
「そうだね~何かしら記念日作る子はいるよね。覚えてて欲しいんだろうけどね、自分との思い出?みたいなやつ」
「ほぉ……」
心の底から声が出た。
「菱田ちゃんはしっかりそういうの覚えてるタイプと思ってたけどそうでもないんだ?」
「全然そういうの疎いかもです。初めて付き合った日……絶対覚えてられない」
実際誠くんと付き合い出した日にちなんか覚えていない。覚えておくべきだったのか、まずい。誠くんは覚えていそうだ、非常にまずい。
「彼氏がマメじゃなくても全然いい感じ?」
高田さんも今日は少し酔っていそうだ。普段あんまり人前でプライベートなことを突っ込んで来る人ではないのに珍しい。いろいろ聞いてくる。
「誕生日とかイベントは楽しみたいけど……マメじゃなくて全然いいです。私だってマメじゃないし相手にだけ求められないですよね」
むしろマメでないように……っと祈っている、なう。
「いいなぁーちぃちゃん、めっちゃいいなぁー!」
なにがいいのか、ウッチーがズイッと距離を詰めてきたそんな言葉を投げてくる。間違いなくウッチーは酔っている、もう無視。距離の近さは多少気になるものの酔った相手に何を言ってももう無駄じゃないか?そう思う手前、一旦無視だ。
「でもサプライズとかなんかしてくれたりしたら嬉しいでしょ?」
高田さんの問いかけに、ハタと体が制止するのだ。そんなことまずされたことがないんです。は、とりあえず飲み込んでおこう。
「嬉し過ぎます」
「すごい喜んでくれそう、菱田ちゃん」
揶揄うように笑われて照れてしまう。わかりやすい性格がバレているようだ。そして慣れていないであろうこともおそらくバレているのだろう。照れ隠しで返事を返す。
「嬉しくない女の子とかいます?好きな人がサプライズって、自分を喜ばせようとあれこれしてくれるってことですよね?うう~それはやばいかもしれない」
「派手なことじゃなくていいよね?さらっとされるとやばいよね、わかる」
高田さんも懐かしむようにうんうん頷くから私も今日は突っ込んでみた。
「旦那さんからのサプライズないんですか?」
「ないよ。旦那そういうのズレてるし、むしろいらない。気の利かないサプライズほど意味のないものはないよ」
いきなり冷たくぶっ刺してくる高田さん……旦那さんとなにかあったのかもしれない。もう触れるの禁止だ。
「コンビニスイーツ買ってきてくれるだけで嬉しいですもん、私」
「コンビニ?コンビニスイーツなんかでいいの?」
そう溢したら横からウッチーが前のめりになって寄ってくる。だんだん距離が近いなぁ、とは思うけど、飲み会の席だとこんなもんかなと気持ち体を引いて答える。
「なんかって……コンビニスイーツ好きなの」
むぅっと若干不貞腐れてウッチーを睨むように言い返したら「え、その顔かわっ!」とかバカにするからもう腹立つ!
「あのねぇ?!コンビニとか行ってこれ好きって言ったの覚えてくれてて買ってきてくれたりとか……そういうのに嬉しいの!めっちゃ嬉しいの!」
「そんなことで?」
「そんなことかなぁ?!そういう些細なこと、普段の会話とか生活の中の事覚えてくれてる方が嬉しくない?当たり前にしてくれることかな、それ。ウッチーはしないの?そういうこと!」
ムキになって聞き返したら視線を空に仰ぎながら思い出しているウッチー……絶対ないな、これ。そう思う。
「私にはそんなことじゃない」
誠くんは私の何気ない会話をよく覚えていてくれる。自分で言ったことさえ忘れていることもたまに言われて驚くくらいだ。記憶力が単純にいいんだろうけど、聞いていないと覚えていないわけで。それを思うと、誠くんが私とする会話を片手間に聞いていないのだと感じて嬉しいしかないのだ。
嬉しいの。
好きな人の生活の中に――自分が存在していることが。
好きな人の心の中に――自分が当たり前にいれるのが。
それは私だって……同じなんだ。
「普段のその人の生活の中で、何気ない時に私のこと考えたり、思い出してくれてるってことに愛を感じるんだもん」
そう溢した言葉に周りがシンッとしてしまって――ハッとした。
(あれ、私今なに言った?なんかおかしなこと言った?)
「やばぁ」
ウッチーがそんな言葉を言うから思わず聞き返す。
「ヤバいってなにが?」
「菱田ちゃん、今自分がどんな顔してるか分かってないでしょぉー?」
「え!」
ヤバいのは顔か!と、慌てて両手で顔を覆うと高田さんに笑われた。
「やっぱ彼氏いるんじゃん!なんで言ってくれないんだよ!」
「ええ?今そんな話してなくない?」
「してるだろ、めっちゃそういう話だろ!いつから?いないいない言うていてんじゃん、嘘つき!いつからだよぉ!」
もう酔っ払いウッチーめんどくさい!はもちろん言えないけれど心の中では絶叫したいほど思っている。いつ彼氏がいます、な話になったのだ。訳が分からないし、いると公言して探られるとややこしいしかない。やいやい横で言い続けるウッチーに水を渡しながら「お水飲もっか?」と宥めていた。
「内田~しつこいぞ~」
「ウッチー、だからセクハララインこえてきてるよ、ちょっと落ち着いて」
「だって高田さん!今の見ましたよね?!あんなっ……俺の知らない……」
ううっ……と、泣き真似みたいな真似まで初めてなんなんだ。もう勘弁して、そう思いながらもさすがに思っていたのが限界。
「ウッチー、ちょ、近い!」
距離が――もう限界。腕を押し返していると、「内田!」という周りの窘める声にウッチーの動きも静止してくれてホッとした。
席の中がわちゃわちゃしたところで幹事さんのラストオーダーの声かけになんとかその場の空気が変わって落ち着いてくれたのだが、ウッチーはしつこく「ねぇねぇ」と聞いてきたけどもう完全鬼スルー。最後のご飯を頬張って知らん顔を貫いた。
(それより誠くん、ちゃんと食べられたのかな)
誠くんは大して飲み食いせずに終わっちゃうなと可哀想に思いながらその分私が食べておいてあげるね?なんて思いつつ食べることに集中したのだ。
「行けても多分終わりかけかな……もう時間的に微妙なら行かんかも。はい、砒素」
試薬を渡しながら答えたら、置いてけぼりをくらった子犬のように眉をさげた千夏。
「そうなんですね、福岡でしたっけ。間に合うといいのに……あ、あとアンチモンです」
「アンチ……あれ、ないな」
毒劇物金庫の奥を覗いても見つからない。しゃがみこむ俺の傍に千夏も寄ってきた。定時時間内なのに、めずらしく距離が近い。
くりっとした大きな瞳で上目遣いで見つめられると、ここが職場だと忘れかけそうになる。
グッと体を寄せてきたかと思うと、耳元で囁くように言う。
「……めんたいこと通りもん買ってきて」
(甘えて寄ってくるのはそれか)
「通りもん?なにそれ」
「福岡の有名なお菓子、知らない?」
「知らない」
「食べたことあると思うよ?美味しいの」
「ふぅん?またラインいれといて」
「やったぁ」
そう言ったらあっさりと体を離した。
千夏は絶対、俺より食への思いの方が強いと思う。
明日は部の送別会で千夏も珍しく飲み会に参加する。俺は以前から福岡に研修の出張が決まっていた。今回は飛行機移動だから時間は短縮できるけど、向こうを出るのが17時くらいになるから何時に着くか。もう飲み会は終盤だろう。
「時間ギリギリでも来られたらいいですね、待ってます」
そう言ってくしゃっと笑う顔は部下と彼女の半々の顔。
(なんでこんな器用に両方の顔を作れるんだ?)
普段の仕事では部下として徹底した距離を取るくせに、二人になると気が緩むのか時折見せる彼女の顔。
俺を上司としてではなく、一人の男として見ているときの顔。その顔にハッキリ言って欲情している。
「……アンチ、ここにないなら在庫切れかもな」
木ノ下さんのいつもの雑な仕事の結果。ため息を吐くと、千夏が頭の上で笑った。
「聞いておきます。ないなら入荷されてからアンチだけ別に作ればいいだけだし」
「……俺が言おうか?」
「忙しい人が余計な心配も仕事も増やさなくていいです。私が聞きます、使うのは私なので」
そう言ってファイルに記帳している後ろ姿を見て思う。
(言い方といい……たまらんのだけど)
空気を読むところも、気遣いも、仕事への責任感も、俺のツボを突いてくる。
「はい、ファイルお願いします」
差し出されたファイルを受け取って金庫にしまうと鍵をかけた。千夏を見上げるとにこっと笑って首を傾げるその姿がただもう――。
(くそ、可愛いな)
ちょいちょいと手を招くと一瞬ためらい、周囲をきょろきょろと様子見する。相変わらず周りの目ばがり気にして過ごす千夏の神経質さはだんだんすごいなと思えてむしろ感心しているほどだ。誰もいないのを確認したら、そのあと遠慮がちに近寄って……しゃがんできた。
「な、なに?」
控えめな声に余計神経が震える。お互いの間にできた少しの距離は手をつけば一瞬で縮まるほどだ。
「ぅむんん!」
勢いをつけてかぶりつくように唇にキスをした。逃げようと後ろに引きかけたから腕を掴んで引っ張る。
「んん――!」
ちゅっ、と音が鳴ってくちびるを離したら、赤面した千夏の顔とぶつかった。
「なぁ……なん、なにして……」
真っ赤になって震える千夏が可愛い。
「いやぁ、なんか……思わず?」
「お、お、思わず、することじゃないですからぁ!」
誰かに見られたらどうするの!と小声で怒られた。
「したくなって?」
「本能で生きちゃだめ!」
「お前可愛いんだもん」
「なぁっ――!」
もう真っ赤。面白いくらい。
「そんな顔してたら一発でバレるぞ」
「だだ誰のせいっ――!」
(別に俺はバレても全然いいんだけど)
上司と部下という直属の関係と、千夏の立場的なこと、一番は千夏自身の気持ちを尊重すると、社内で付き合いを隠すことも公にしないことも理解できる。その方が働きやすいことだってわかってる。わかってはいるけれど、たまにどうでもよくなる時がある。
――千夏を独占したい。
最近やたら感じるこの気持ち。付き合い始めたころは支配欲が強かったのに、秘密にすることで得だした独占欲が日に日に強くなっている。
簡単に他の奴が触れないように、わかりやすく縛れるなにかが欲しくなっていた。
―――
翌朝、正門をくぐるとき前からスーツを着た誠くんと出会って息をのんだ。
(うぉーい!スーツ姿、聞いてな――い!)
「お、おはようございます」
「おはよう、ちょうどよかった。これ、俺のデスクに置いておいてくれない?」
置いてくるの忘れた、とピッチを渡される。
「はい……」
手渡されるピッチなんか見てられない、誠くんをガン見する。
「ん?」
「いえ、眼福です」
「なにそれ」
笑われた。
「気を付けて……いってらっしゃい」
言いたいことはいっぱいあるけど、ここは職場、目の前にいるのは上司の久世さん。せめて笑顔に込める。
(待ってるね)
「覗けるなら顔出すよ、飲み会」
誠くんはそう言って研修に行ってしまった。
(イケメンがスーツという武器を得たら歩くだけで人を殺せます!)
送別会は定刻に始まった。誠くんからラインが入ったのは十八時くらい。
【十九時半に駅に着くから顔出せる】
そんなメッセージに胸が踊った。飲み会の席にいるからって誠くんと極力話すことはないし近くに座ることもそうないけれど、視界にいるというだけで嬉しい。
「なんか楽しそうだね、飲んでる?」
飲み会が始まってだんだんみんないい感じにほろ酔いな感じ。声をかけてきたのはグループ違いの内田くん、通称ウッチー。歳が私の一つ上でみんなによく可愛がられるノリのいい人。入社してすぐ気さくに話しかけてくれてからずっと付き合いもあってフランクに接しられる数少ない人だ。
「楽しいよ。ウッチー結構酔ってる?」
「まだ大丈夫、とは思ってるけど、最近忙しかったから少し回るの早いかもしれん」
「大丈夫?お水取ってこようか?」
「んーん、いい。それよりぃ、最近どお?なんかさぁ、ちぃちゃん前より可愛くなったよね」
(だいぶ酔ってない?絡み方がおっさんみたい)
「ウッチー、それセクハラだよ」
高田さんが突っ込んでくれる。
「いや、これ、セクハラとは違いますって。なんでもかんでもセクハラにくくられるとなぁー。女の子に可愛いも言えない時代ってどうなんっすか!」
(絶対酔ってる)
ウッチーのこういうノリは昔からある。しかも酔ったところにこれならまともに返す必要もない。無視しようとテーブルに意識を向けた。エビフライを手に取ってタルタルソースをつけて口に運ぼうとすると、ウッチーの肩がドンっとぶつかってタルタルソースがこぼれてしまう。
「わ!ごめん!え、こぼれた?」
タルタルソースが襟とカーディガンにぼたぼたと落ちてしまった。おろしたての服って出先で汚すのあるあるなのか……。
「わー!ちぃちゃんごめん!」
「ううん大丈夫、あ、このおしぼりももらっていい?」
「ほんとごめん!大丈夫?シミになるかな」
「大丈夫だよ。ちょっとお手洗いで洗ってくるね」
トップスはさほど被害はないけれど、カーディガンの方が派手に落ちてしまったが、すぐに洗えばシミにはなりそうにない。席を立ってお手洗いに走っておしぼりを濡らして叩いていたらすぐに取れた。
(シミにならなくてよかった……この服一目ぼれで買ったからさぁ)
襟元がフリルになったトップスは淡いクリーム色で可愛くて。試着したら胸が目立たなくて気に入って衝動買いした。五分袖くらいだけど、割とピタッとした生地感なのでこれ一枚だと体のラインが出やすい。だからカーディガンを羽織ったんだけど――。
(今これを羽織るのはちょっと冷たそうだなぁ……)
帰る頃には湿ってるくらいでいけるかなとハタハタしつつ席に戻ると誠くんが到着していた。
(あっ!)
と、思った気持ちを顔に出さないように平常心を心がける。普段誠くんを敬遠しがちな女性社員たちもスーツ姿の誠くんを盗み見している。
(かっこいいよね、わかるよ。わかる)
うんうん、と彼女の立場として嫉妬してもいいところだけど、その気持ちがわかりすぎて広い心でそれを受け入れる。
(スーツだめだわぁ。スタイルもいいからもう着こなしすぎなんだよぉ!)
頭の中で身悶えていたら、ウッチーの声に現実に引き戻された。
「ちぃちゃん!ごめん、大丈夫だった?」
その声に誠くんの顔がこちらを向いて一瞬目が合う。
「あ、うん、平気。すぐ取れたし大丈夫、気にしないで」
「マジごめんー、クリーニング代請求して」
「オーバーだよ。じゃあ、今度コンビニでアイス買って」
「ハーゲンダッツ奢るわ」
「やった!」
そんなたわいもないやり取りをして席についた。誠くんは向かいのエリアでこちらには背中を向けている。位置的に最高、全然人目を気にせず見れる位置、最高。
(二十時前なら三十分くらいは飲み食い出来そうかな。でももうご飯がないかも)
食べるものあるかな、とテーブルの前をチラチラ見てしまう。
「――って、聞いてる?ちぃちゃーん」
ウッチーに肩袖あたりをツンツンっと引っ張られてハッとした。ジッと見つめるウッチーと目が合って……言い訳も何もない。素直に答える。
「ごめん、聞いてなかった」
「おい、聞けやー。だから、記念日大事派かって話!」
「……記念日?何の話?」
「菱田ちゃんはマメそう。記念日とか大事にしてそう」
高田さんの言葉にウッチー、あと会話に参加していた数人が一斉に私を見た。
(記念日って、恋人とのあれやこれや的な?)
「――え、私マメじゃないと思います。誕生日とかクリスマス以外に記念日って例えばなにがあるんですか?」
「うそ、そんな感じ?」
ウッチーが声をあげるがとても意外そうに言われて私の方が意外に思う。
(そんな風に見えてるのね……人の見る目って当てにならないなぁ)
人の目に自分がどう映るのか、そんなことはあまり考えたことはないけれど、私はなんだかマメな女に見えているようだ。しかし……。
「私こんなもんだよ。記念日とかあんまり想像できない。何を記念にするの?」
乾いた笑いで誤魔化した。
「付き合った日とかさ、初めてなになにしたとか……細かい子って細かいっすよね?」
ウッチーが高田さんに同意を求める。
「そうだね~何かしら記念日作る子はいるよね。覚えてて欲しいんだろうけどね、自分との思い出?みたいなやつ」
「ほぉ……」
心の底から声が出た。
「菱田ちゃんはしっかりそういうの覚えてるタイプと思ってたけどそうでもないんだ?」
「全然そういうの疎いかもです。初めて付き合った日……絶対覚えてられない」
実際誠くんと付き合い出した日にちなんか覚えていない。覚えておくべきだったのか、まずい。誠くんは覚えていそうだ、非常にまずい。
「彼氏がマメじゃなくても全然いい感じ?」
高田さんも今日は少し酔っていそうだ。普段あんまり人前でプライベートなことを突っ込んで来る人ではないのに珍しい。いろいろ聞いてくる。
「誕生日とかイベントは楽しみたいけど……マメじゃなくて全然いいです。私だってマメじゃないし相手にだけ求められないですよね」
むしろマメでないように……っと祈っている、なう。
「いいなぁーちぃちゃん、めっちゃいいなぁー!」
なにがいいのか、ウッチーがズイッと距離を詰めてきたそんな言葉を投げてくる。間違いなくウッチーは酔っている、もう無視。距離の近さは多少気になるものの酔った相手に何を言ってももう無駄じゃないか?そう思う手前、一旦無視だ。
「でもサプライズとかなんかしてくれたりしたら嬉しいでしょ?」
高田さんの問いかけに、ハタと体が制止するのだ。そんなことまずされたことがないんです。は、とりあえず飲み込んでおこう。
「嬉し過ぎます」
「すごい喜んでくれそう、菱田ちゃん」
揶揄うように笑われて照れてしまう。わかりやすい性格がバレているようだ。そして慣れていないであろうこともおそらくバレているのだろう。照れ隠しで返事を返す。
「嬉しくない女の子とかいます?好きな人がサプライズって、自分を喜ばせようとあれこれしてくれるってことですよね?うう~それはやばいかもしれない」
「派手なことじゃなくていいよね?さらっとされるとやばいよね、わかる」
高田さんも懐かしむようにうんうん頷くから私も今日は突っ込んでみた。
「旦那さんからのサプライズないんですか?」
「ないよ。旦那そういうのズレてるし、むしろいらない。気の利かないサプライズほど意味のないものはないよ」
いきなり冷たくぶっ刺してくる高田さん……旦那さんとなにかあったのかもしれない。もう触れるの禁止だ。
「コンビニスイーツ買ってきてくれるだけで嬉しいですもん、私」
「コンビニ?コンビニスイーツなんかでいいの?」
そう溢したら横からウッチーが前のめりになって寄ってくる。だんだん距離が近いなぁ、とは思うけど、飲み会の席だとこんなもんかなと気持ち体を引いて答える。
「なんかって……コンビニスイーツ好きなの」
むぅっと若干不貞腐れてウッチーを睨むように言い返したら「え、その顔かわっ!」とかバカにするからもう腹立つ!
「あのねぇ?!コンビニとか行ってこれ好きって言ったの覚えてくれてて買ってきてくれたりとか……そういうのに嬉しいの!めっちゃ嬉しいの!」
「そんなことで?」
「そんなことかなぁ?!そういう些細なこと、普段の会話とか生活の中の事覚えてくれてる方が嬉しくない?当たり前にしてくれることかな、それ。ウッチーはしないの?そういうこと!」
ムキになって聞き返したら視線を空に仰ぎながら思い出しているウッチー……絶対ないな、これ。そう思う。
「私にはそんなことじゃない」
誠くんは私の何気ない会話をよく覚えていてくれる。自分で言ったことさえ忘れていることもたまに言われて驚くくらいだ。記憶力が単純にいいんだろうけど、聞いていないと覚えていないわけで。それを思うと、誠くんが私とする会話を片手間に聞いていないのだと感じて嬉しいしかないのだ。
嬉しいの。
好きな人の生活の中に――自分が存在していることが。
好きな人の心の中に――自分が当たり前にいれるのが。
それは私だって……同じなんだ。
「普段のその人の生活の中で、何気ない時に私のこと考えたり、思い出してくれてるってことに愛を感じるんだもん」
そう溢した言葉に周りがシンッとしてしまって――ハッとした。
(あれ、私今なに言った?なんかおかしなこと言った?)
「やばぁ」
ウッチーがそんな言葉を言うから思わず聞き返す。
「ヤバいってなにが?」
「菱田ちゃん、今自分がどんな顔してるか分かってないでしょぉー?」
「え!」
ヤバいのは顔か!と、慌てて両手で顔を覆うと高田さんに笑われた。
「やっぱ彼氏いるんじゃん!なんで言ってくれないんだよ!」
「ええ?今そんな話してなくない?」
「してるだろ、めっちゃそういう話だろ!いつから?いないいない言うていてんじゃん、嘘つき!いつからだよぉ!」
もう酔っ払いウッチーめんどくさい!はもちろん言えないけれど心の中では絶叫したいほど思っている。いつ彼氏がいます、な話になったのだ。訳が分からないし、いると公言して探られるとややこしいしかない。やいやい横で言い続けるウッチーに水を渡しながら「お水飲もっか?」と宥めていた。
「内田~しつこいぞ~」
「ウッチー、だからセクハララインこえてきてるよ、ちょっと落ち着いて」
「だって高田さん!今の見ましたよね?!あんなっ……俺の知らない……」
ううっ……と、泣き真似みたいな真似まで初めてなんなんだ。もう勘弁して、そう思いながらもさすがに思っていたのが限界。
「ウッチー、ちょ、近い!」
距離が――もう限界。腕を押し返していると、「内田!」という周りの窘める声にウッチーの動きも静止してくれてホッとした。
席の中がわちゃわちゃしたところで幹事さんのラストオーダーの声かけになんとかその場の空気が変わって落ち着いてくれたのだが、ウッチーはしつこく「ねぇねぇ」と聞いてきたけどもう完全鬼スルー。最後のご飯を頬張って知らん顔を貫いた。
(それより誠くん、ちゃんと食べられたのかな)
誠くんは大して飲み食いせずに終わっちゃうなと可哀想に思いながらその分私が食べておいてあげるね?なんて思いつつ食べることに集中したのだ。
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