続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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エピソード9

千秋襲来①

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 千夏が泊まりにくるのが習慣になった金曜の夜。一週間の疲れのあとに俺が抱き潰すから当然最後は気絶するみたいに寝落ちてしまって後処理はいつも俺の仕事。寝てても触れるとたまに喘いだりするからそれもまた可愛くて。
 千夏の体がもう俺の手のいいようにされてると思うだけで日に日に満足感が膨らんでいた。

(俺って案外独占欲強かったんだなぁ。知らんかった)

 そんなことを思いつつ千夏の体を起こして俺のシャツを羽織らせていたら枕元の携帯が震える。
 ブブ、ブブ……あんまり気に留めなかったがその音がひどく耳につく。
 ブブ、ブブブ、ブブ……ブブ……ブブ……。

(鳴りすぎやしないか?)

 鳴っているのは千夏の携帯だ。体を起こしたままよそ見をしていたせいで千夏がフッと目を覚ましてしまった。

「……まことくん?」
「あ、ごめん、起こした?」
「ぅんん……」

 寝かせるとまた虚虚ろと眠りにつき始める。そうこうしてると震えた携帯は、ブー、ブー、ブーと着信に変わった。

(起こした方がいいか?)

「千夏?」
 声をかけても起きそうにない。時間は二十四時、時間から考えて知り合いの緊急の連絡?とぼんやり思ってなんとなく携帯を手に取った。画面には知らない名前が着信で点滅している。

(千秋……って誰だ)

 男か女かもわからない中性的な名前に首を傾げる。しばらく鳴っていたが諦めたのか着信は止まった。本人は寝てるし着信も止まった以上もうどうすることもできなくて携帯を枕元に置いて俺も寝ることにした。

 翌朝、九時を回った頃に千夏がノロノロと起きてきた。

「おはよぉ」
「はよ」
 十分寝てるくせにまだ眠そうにボーッとしている千夏。俺の服をダボっときて生足姿、袖口が長すぎて目を服ごと擦っている姿が可愛い。

「コーヒー飲む?」
「飲む~、今日は牛乳いれる~」
 二杯目のコーヒーを入れていた俺に抱きついてくる。

(可愛いか)

「千夏、携帯みた?」
「ん?」
「夜中めっちゃ鳴ってたよ」
「ほんと?なんだろ」
 そう言って寝室に舞い戻った。牛乳は自分でいれさせようと手を止めると同時に叫び声がした。

「ええ!うそ!」
 派手な足音がして寝室から飛び出してきた千夏は血相をかえている。

「……どうしよう」
「……どうした?」
「どうしようどうしよう」
 答えになっていない。

「ええ~なん……えー」
 携帯を持ちながらウロウロしたと思うと寝室にまた戻った。

(訳分からん)

 数秒でまた出てきて俺のそばまで寄ってきた。

「どうしよう」
「とりあえず落ち着くか」
「……はい」
 コーヒーを渡す。

「牛乳自分でやって。量わかんないし」
「……はい」
 携帯をキッチンに置いて牛乳を取り出そうと冷蔵庫に向かった千夏。なんとなく携帯に目が行くとライン通知の連打がすごい。

「……千秋って誰?」
 思わず聞いてしまった。冷蔵庫の扉をパタンとしめて千夏は言いにくそうに呟いた。

「……弟」

 千夏には六つ離れた弟がいるらしい。


 ―――


  昔からヤンチャで手を焼いていたけれど、歳の離れた弟は可愛くて。なにかにつけて過保護に面倒をみてしまったお陰で千秋は俗に言うシスコンタイプの弟になってしまった。

「とにかくうるさいの、その人間関係に」
 誠くんに言うと首を傾けている。

「人間関係?男だけじゃなく?」
「友達とかバイト先とかとりあえず絡むところは全部把握したいって感じ。私の親友のラインでも繋がって無駄にいろんなこと知ってたりする」
「へぇ……」
 おかしそうに笑うけど全然笑えない。

「知ってるだけならまだいいのかもだけど、知らないところで接触したりするの。今はまだマシになったけど、学生の時とかほんとに大変で……」
「千夏が彼氏できなかったのってその弟のせいじゃないの?」
 言われてハッとしてしまう。

「え」
「えって、千秋くん?が、余計な虫つかない様にしてたんじゃない?」
 なんと。

「そうだったら、めっちゃ迷惑じゃない?それ」
「……まぁ、でも俺としてはありがたい話だけど。虫除けしててくれて感謝」
 なにが感謝なのか。

「けど、今度は俺がその虫になっちゃったんだよなぁ」
 誠くんがケロッとそんなことを言うからムッとしてしまった。

「虫とか言わないで」
「弟からしたらそうじゃん」
「そんな風に思ったら縁切る」
「可哀想なこというな」
 それなのに優しく笑うのなに。

「で?今日こっちに来てるって?」
「なんかこっちの近くに友達がいるから昨日から来てるみたい。昼から別れるから私と会いたいって。本当に勝手……全然私の都合聞かないんだもん。いつもそう」

(それを許してきたから悪いんだけど)

「今日、映画行こって言ってたし」
「そんなんまた行けばいいじゃん」
 え、と思って顔を上げると優しい顔で見つめられた。

「せっかく千夏に会いたくて来てるんだし、会ってあげたら?」
 優しい顔で優しいことを言うから胸が異様にドキドキする。

(好きすぎる。いつか壊れる気がする、私)

「……でも」
 迷っていると携帯が震えた。

「出ていいよ?」
 誠くんが察知した通り、千秋からの着信だ。

「――ごめんね?」
 無視もできないから誠くんの前で電話をとった。


 ―――


「もしもし」
 隠れることもなく目の前で電話を取る姿が微笑ましい。俺に対しての警戒心がもう何もないんだなと嬉しくもなる。聞いていていいものかとも思うけど席を立つタイミングもなくそのままなんとなく聞き耳を立てていると、携帯から漏れるその声は高揚した様な若い男の声で千夏との連絡を取りたがっていたのがよくわかった。

「なぁ、なんでいつも急なん?私にも予定があるんやで?」
 いきなり話し出した千夏の言葉に息を呑んだ。

(え)

「ほんまに困る。千秋いっつもそうやん、せめてもっと前もっていうてこれへんのん?そんないきなり夜中にかけてきて出れる訳ないし、知ってるやろ?私が夜強くないことくらい」

(待て待て、なに?関西弁喋ってる)

「だからぁ……ちょ、聞いて。なぁ、聞いて?え?ちゃうよ、そうやなくって……だから聞いてっていうてるやん、もう、千秋!聞いて!」

(関西出身だったっけ?なにこの京都訛り)

「――いるもん。彼氏、いるし」
 膨れっ面で千夏が恥ずかしそうにそう言ったら、電話口が途端に静かになった。

「だから……え?そんなん無理。無理やわ、無理!なんでそんなん千秋が決めんの?やめて、ほんまにやめて」
 そこまで言ってどこか半泣きの千夏が俺を見た。

「ちょ、ちょっと待って。ごめん、折り返していい?ごめん、折り返す!」
 そこでブチっと携帯を切ってしまうから……。

「……怒っちゃうんじゃない?」
 思わず言ってしまった。

「もう嫌。千秋イヤ」
 一瞬で疲労したように机に突っ伏してしまう千夏。それよりもだ。

「千夏……関西出身だったの?」
「へ?」
「全然知らなかったんだけど。関西訛り出てないのすごいな。めっちゃビックリした」
「……あ、そうだっけ?言ってないっけ?関西の人と話すと出るよ。こっちに来た時はまだ全然抜けなくて。話すたびに関西弁?ていじられて嫌になったから徹底したの。関西ってだけで面白いこと言って?とかめっちゃ言われるんだよ?めんどくさすぎる」
「どのへん?」
「京都。京都でも山の方だからすごい田舎だよ?」

(知らなかった。千夏の京都弁……良き)

 そんな千夏に感動していたらブー、ブーとまた携帯が震えて千夏が嫌そうな顔をして鳴り続ける携帯を睨むように見つめたまま手を伸ばそうとしない千夏。それでも相手はなかなか根気強い。一向に切れる気配がしない。

「折り返すって言ってるのに。全然聞かないし……」
「なんて言ってるの?」
「……十三時過ぎにはそっちに行けるからって。どうせ一人で暇してるんだから会えるだろって無理って言ったらなんで会えないんだって。会えない理由なんやって。男もいないくせにって言うから……いるって言ったら……」
「言ったら?」
「連れてこいって」

(そうなるわな)

「なんでそんな話になるの?だいたいなんでそんな千秋の都合で動かないといけないわけ?」
「いや、普通そうなるだろ」
 むしろそうなるに決まっている。全然それが予測できるのだが。

「なんでぇ?!」
 相変わらずいろいろ鈍い千夏だ。その鈍い千夏がテンパって泣きそになっているから面白い。

「俺はいいよ、会いに行っても。千秋くんがそれで納得するなら別に」
「嫌や!」
 千夏が立ち上がって叫んだ。

「……俺は会わせたくない、と?」
「違う!そうやなくって!嫌なんは誠くんが千秋と絡むこと!絶対見たくないんやけど!めっちゃいや!誠くん前にして千秋が何言うかほんまにわからへんし、めっちゃいや!!」
 言語機能が狂ってきたのか千夏に関西弁で捲し立てられる。

「千秋、ほんまにほんっまにめんどくさいねんよ?生意気やしやたら口がうまくて、初対面でもめっちゃ馴れ馴れしくって絶対嫌な思いすると思う。会わへん方がええよ、絶対会わへん方がいい……なんかいらんこと言うて誠くんに嫌われるのも嫌」
 真剣に嫌がる姿がまた面白くて笑ってしまった。

「でもいつかは会わないといけないんなら早く会ったほうがよくない?」
「……え?」
「そんだけ過保護な弟に逃げるのはちょっと余計体裁が悪くなる気がするけど」
「……そ、それは」
 言い淀みつつ頭の中で色々整理しているのが分かる。千夏がここまで葛藤するのにも若干興味が湧いてくる。その、干渉気味なシスコン弟に。

「会わないってなるとまた言ってくるだろうな?なら、会っとく方が俺としては立場が良くなると思うんだけど?……最終的には千夏に任す。電話、鳴ってるぞ」
「そ……うかもしれないけど、でもぉーううー」

 結局頭を抱えて唸りながらも千夏が手を伸ばして電話を受けた。



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