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後日談

プロポーズのそのあとは……①

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誠くんの家に越してきて二週間ほど。

最初はバタバタしたけれど、かって知ったるなところもあってすぐに馴染んできた。もう少し大きなところに越そうかと提案してくれたけれど、リビングが広めだからあまり狭く感じたことがない。

なによりここで過ごした時間も多いし私としては新しい場所よりここから生活を始めたいと願い出て今に至っている。



「じゃあ今日二次会まで行くから少し遅くなるね?」

「何時くらい?迎えに行こうか?」



「ううん、そこまでならないと思う。披露宴のホテルの中でその流れでするって言ってたから20時には終わると思うし」

「ふうん?まぁ遅くなるなら電話して」

「ありがとう」

誠くんにプロポーズされて半同棲が始まった矢先結婚ラッシュ。ラッシュと言っても友達は少ないから私とその子だけの話だけど。

大学からの友達のふーちゃんが出来ちゃった婚することになった。お腹が目立つ前に急いで式をあげると言う。

ふーちゃんは結婚式願望が全然ないタイプだったけど、ご主人になる人が大手企業にお勤めの顔の広い人だから式をしないわけにはいかなかったとか。



『仕方ないよね、彼のご両親も望んでるし私の気持ちだけでは終われないよ』

電話で話したふーちゃんはそう言った。



『千夏の彼も同じじゃない?役職ついてるなら派手にやらないとかもだよ?』

結婚式の話はまだ具体的になにも話し合っていない。自分の夢見たものは人並みにあるけれど、それを実行したいかはまた別の話で――。



「あ」



ワンピースのフックが噛んだ気がする。

ソファでコーヒーを飲んでいた誠くんのそばまで寄っていき背中を向けて座った。



「……ファスナーみて?レースに噛んだ。あげてほしい」

表情は見ていないけど、テーブルにカップが置かれる音がしたので手を止めてくれたのがわかる。



「これ買ったの?」

誠くんの指が服に触れてきてワンピースが揺れる。



「……買ってない、持ってたやつは着れなくなったの。あるのにわざわざレンタルしたんだからね!」

語尾を多少きつく言って誠くんを背中越しで睨みつける。



「え、なんで?」

「なん……!誠くんのせいでしょお!」

「俺?なんで?」

本当に心当たりがないみたいな声で言うから腹が立ってきた。



「キっ――」

「き?」



言葉にするのに躊躇ってハクハクしていると「レース取れた」と言われて先にホッとした。



「き、てなに?」

「……キスマーク……いっぱいつけるからでしょぉ……」



言ってから途端に恥ずかしくなる。

持ってたワンピースはデコルテが少し広めに出てるAラインワンピース。総レースで気に入っていた。しかも少し高かったから着れるだけ着て元を取ろうまで思っていたのが本音だ。



「俺はおっぱいにしかつけてない」



(なにその、自分はなんにも悪いことしてないみたいな態度)



「あのねぇ!み……えたら困るでしょ!て、ちょっと!なんでブラのホックまで取るの!だめ!」



「えー、なんかなんとなく」



(なんとなくじゃなくって!)



「あん!ちょ……だめっ」



相変わらずの早技過ぎて呆れも超えてくる。それにすぐに感じる自分の体が情けなさすぎるのだけど。



「も、遅れる……からぁ、ぁ、んっ」

「……はい。じゃあ夜まで我慢します」



サラッとブラを付け直してシャッとファスナーを上げられた。



(切り替え早くない?勝手に身体を弄んで終わらせるのやめてほしい……)



「千夏?」

「……変な気分にさせるから……バカ」



そう言ったら頭をポンポンされて優しく微笑まれる。



「帰ってきたらいっぱいしよーな」

甘い声で甘い言葉を吐くんだから堪らない。



「……ぅん」

私は素直に頷いた。





―――――――――――――――――――――





いつもと雰囲気の違う服に身を包んだ千夏は可愛いよりかは綺麗が勝っていて、少し別人みたいな感じもした。



(化粧や服装で色々変わるよなぁ女は)は、あえては口にしないけど。



淡いサックスブルーの総レースワンピースは首元まで詰まっていたので髪はアップされていた。後毛が少し落ちてパールのイヤリングがよく目立った。

キスマークをつけたことでお気に入りが着れなかったと当たられたけれど、別にワザとしたわけでもない。

でも、胸元があいた服はあまり着て欲しくなかったから結果オーライか。ワンピースのファスナーを無事にあげられたのに千夏は少し不服そうに頬を染めていた。



「変な気分にさせるから……バカ」

胸を少し弄っただけでその気になったようで可愛いしかない。

ダラダラ触っていると我慢できなくなるのは俺の方だからあっさり身を引いたのにこんな言葉を吐いてくるから千夏には困る。



「帰ってきたらいっぱいしよーな」

そう言ったら可愛い声で頷くからもう押し倒したくなった。



昼前に結婚式へ向かった千夏を見送ってぼんやりと考える。

友達の結婚式に行って千夏も自分の青写真を描いて帰ってくるだろうかと。まだ自分たちのその辺の話は話すことさえしていなかったから少しイメージしてくるかもしれないな、そんな事を思いつつ月日だけか経とうとしていた。





そんなある日。



定時を過ぎた職場でたまたま見かけた千夏は着替えて帰ろうとしていたところで、知らない男と話をしているのを偶然目にすることになる。



(誰だ、あれ?)



遠目からではよくわからないのもあるけれど、見た目的に俺の知る人物ではない。二人は顔見知りなのか楽しそうに話をしている。



「久世ー?」

佐藤に呼ばれて止まりかけた足を動かす。結婚の約束をして一緒に暮らすようにもなった。千夏はもうほぼ俺のものなのに職場に来ると公にしてない分、一気にテリトリーを離される気になる。



(先に籍だけでも入れたらダメかなー)



独占欲がだんだん度を越えてきてるのを自分でも自覚していた。



「今日誰と話してたの?」

結局辛抱できなくて夜に聞いてしまう俺。



「誰……って、だれ?」

「帰り。誰かと話してなかった?」

「もしかして風間さんのことかな。第二製造の風間さん、ウッチーの同期って聞いたよ」



名前を聞いてもピンとも来ない。なぜ、千夏はそんな部署のヤツと知り合うのか。



「風間さん、ふーちゃんの旦那さんのお友達だったの!結婚式で一緒になって、すごい世間狭いよね」



(そういうことか……)



「風間さんはふーちゃんから私のこと知ってたんだって。友達が同じ会社にいるよって話で。私は全然知らなかったんだけどね。二次会も出てたから色々話したの。ふーちゃんの旦那さん大手勤めのエリートだからさ、お友達もなんかすごい人多くて。ちょっとお見合いモードだったよ」

「お見合い?」



「二次会って出会いの場でしょ?私の年頃もう適齢期だし、彼氏がいない人は結構本気で声かけてた感じ。風間さんも声かけられてたもん」

「千夏は?」

え?と真面目に返してくるから質問の意図を読めてないんだろう。相変わらず鈍いし疎い。



「声かけられなかった?エリート連中に」

「あ~なんかチャラい人はいた。でも指輪もしてるしそんなに突っ込んでくる人いなかったよ、それに……」

両手で頬を包んで少し照れながら控えめに言う。



「なんか聞かれたら結婚する人いますって言った。あれ優越感やばいね。自分で言って悶えた」

そんな風に言う千夏がまた可愛い。



「そう言ったらあからさまに避けていかれたしなんにも。そもそも誠くんみたいにカッコいい人ひとりもいなかったしなぁ……あんまり覚えてないや、まわりのこと。ローストビーフがめっちゃ美味しくてさ。今年の分は食べてきたって感じする」



周りが躍起になって出会いを求める中、食うことに没頭してる子がいたら逆に目立つ気もするけどな、と思いつつ、誕生日にやった指輪が役に立っていて良かった。

なかったら多分もっと声をかけられていたかもしれない。



「でもさぁ」

横に座っていた千夏が俺の膝の上に頭を置いて寝転んでくる。



「もう私麻痺してるから。誠くんでフィルターかかってる」

「なにそれ」



「だからね、誠くんはハイスペックなんですよ。本人はそこまで自覚してないですけど」

「……はぁ」

ハイスペック=高性能、高機能、そもそも工業製品なんかに使われるスペックの意味を人に対して表現するのがどうもシラける。アホらしい、そう思う気持ちを察知して、千夏がほらね、と怒る。



「誠くんみたいにさ、高学歴で頭も良くて?背も高くてスタイルが良くて?顔も良くて?大手企業で若いのにもう課長で仕事めっちゃできてってなに?私すごい人と付き合ってない?こわっ」



自分で勝手に話して勝手に引いている。



「職場で仕事してるときはクールでそっけない感じなのにほんとは優しいからちゃんと困ったときには助けてくれてさぁ……上司として守ってくれる感ハンパないのやばい。会社ではツンデレなの?あれなに?そんななのに彼氏になったら砂糖に蜂蜜かけたみたいにドロ甘なの困りすぎる。いっつも優しいしなんでも受け入れてくれてバカな子になりそう。家で仕事してる姿もやっぱりかっこいいし、忙しいのに本読んだり勉強もして陰で努力してる姿見るとかさらに好きになりすぎる。メガネ姿もうダメーー。知的度合い上がるしやめて、心臓持たないもん、けど好き。オフモードもやばい、好き、ゲームしてるのとか男の子って感じでキュンってするし真剣にしてるのとか可愛い。よっぽど見れないけど寝起きも好き、お風呂上りも好き、濡れた髪でタオルかぶってるのとかダメ、好き。手も好きなの、手っていうか指?長くて骨ばった感じの指がパソコン叩いてるのとかときめくし、あとごはんの食べ方も好きだなぁ。私の作るごはんおいしいって食べてくれるのとか嬉しすぎる、それに……」

「千夏」

堰を切ったように話し出すから面食らいながらも思わず止めた。



「はい」

「もうその辺で勘弁して」



(はずいわ)



「だからさ、私はそこに好きというフィルターをかけてさらに誠くんは素敵な人に仕上がってるわけです。もうそこらの人には全くときめくことはないわけ」



「……なんか、めっちゃ喋ったな。お前」

「まだまだ言えるけど」



(もういい)



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