続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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結婚エトセトラ

first time……そうだ、京都へ行こう

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「今さらなんだけど早まったよな。千夏と結婚したすぎていきなり籍いれちゃったけどまだお母さんに挨拶もしてないしどうしよう」

 婚姻届けを出して家に戻ってから誠くんがそう言った。自分の中では考えていたことだと言うけれど、やってることは突発的なことなのだと改めて感じたのか。

(本当に今さら……何言ってんだろう)

 誠くんの脳みそは私には計り知れない。

「でもお母さん誠くんのこともう知ってるし……プロポーズされて一緒に住んでるならはやく籍入れろって言ってたくらいだから心配することないと思うけど」
「いや、でも一回も会ってないじゃん」
「千秋が会ってるしそれだけでもう全然心配してないって」

(あの千秋がなんにも言わない相手ならもうオールオッケーって電話でめちゃくちゃ軽く言ってたもんなぁ。ていうかお母さん基本軽いんだよ)

 私と千秋だけが無駄に神経質で慎重なのは誰に似たんだろう。

「週末京都いこう」
「ええ?」
「行く、連絡とって」

(相変わらず勝手に考えてすぐ決める)

「それ言うなら私だって誠くんのご両親にも会ってないし」
「うちはほんといいわ」
 そういうわけにはいかない。でももう誠くんの中ではお母さんに会うことの方が優先されていてそれが終わらない限り私の言い分なんか聞いてくれそうにない。

 結局その日の夜にお母さんと連絡を取ると週末は仕事が休みだから大丈夫と言ってくれて早速京都まで足を運んだんだけど――。

「そういえばお母さんって仕事なにしてるの?土日も仕事あるの?」
「看護師なの、バリバリ現役。今は何科にいるって言ってたかなぁ」
「千夏!」
 新幹線を降りて京都タワーが見えない反対側へ降り立ったところに呼び声がしてその声を探すとオレンジ色だった髪の毛を真っ黒にした千秋が車で迎えに来てくれていた。

「千秋ほんまに駅まで来てくれたん?」
「お前ら何でこんな時期にしかも突然来んねん!!このバカップルが!」
 出会って早々苛々している千秋にいきなり怒鳴られた。

「あぁ、そういう時期か……」
 車に乗り込んでから誠くんがぼんやりとつぶやいてフッと笑った。

「それはホントごめん、大変だよな」
「留年したらお前らのせいやからな!」
 千秋は今、卒論提出で必死らしい。私と違って理系の頭を持ち合わせていた千秋はそこそこ名の知れた理系大学に在籍していてそこで遺伝子系の勉強をしていた。

(全然頭よさそうに見えないんだけどな……口開くと品性の欠片もないし)

「就活は?もう決まったん?」
「決まってるから必死に卒論書いてんのやろ!時間全然足りんのにお前らがいきなり来るからなぁ!マジでギリギリまで実験してんのに……おかんが一回外の空気吸えっていきなり追い出して……俺がなんでずっと部屋に籠ってんのか全然わかってへんし……」
 ぶつぶつ言う千秋に誠くんと目を合わせて苦笑いしていたら千秋が言う。

「だいたい何で急に来たん?何の報告?お嬢さんを僕にくださいしに来たん?」
「……いや、まぁそうなんだけど」
 言いにくそうにしている誠くんに代わって私がそこを引き継いだ。

「もう籍入れたの、結婚したの」
「――はぁ?!しててなんでいちいち来んねん!してて今さらなに話したいねん!しました報告?いらんやろ!電話でええわボケ!今来んな、このクソ忙しいときに!だー!もうほんま嫌!なんでお前らの送り迎えさせれられてんの、ほんま嫌ぁ~」
 千秋が切れて呆れて最後は泣きそうになっていた。家に着いたら外にまで響く派手な音が家の中からして三人でギョッとした。

「え、何の音?」
「きゃあー!焦げた!」
「絶対いらんことしとる、触るなって言っといたのに……」
 中からのその懐かしい声に千秋が溜息を吐きながらスニーカーを脱ぎ捨てて玄関を上がって行って声を掛けている。

「おかんー、連れてきたって……なんで慣れへんことすんの?ほんま嫌やねんけど」
「ごめぇん、なんか今日はできる気がしたんやん」
「それは錯覚やし、おかんのできる気ってほんまたいしたことないから二度とすんな」
 キッチンの方で二人の話声がして相変わらずで笑えてきた。

「多分大丈夫、お母さんがキッチンで失敗したんだと思う」
「失敗?」
「全然ダメなの、お母さん料理とか。いつも私か千秋の仕事、なんなら千秋が一番料理上手だよ?誠くんも入って?」
 誠くんの手を引いて部屋に入れようとしているところを柱の陰からお母さんが盗み見してめちゃくちゃ楽しそうに笑っていた。

「おかえりぃ~ちなつ~」
「た……ただいま」
「誠くん?はじめまして~遠かったやろぉ?わざわざ来てくれてありがとぉねぇ、会えて嬉しいわ~」
 そう言って駆けるように出てきて誠くんの手を掴んで一方的に握手する。距離がめちゃくちゃ近い。

「はじめまして、急におしかけてすみません。挨拶が遅れました、久世誠です」
 いきなり手をにぎにぎと握られて若干誠くんが引いているのが分かる。

(ノリが……ノリとテンションについていけてないんだよ、関西のおばちゃんのノリに!)

「さわ、触らないで。お母さん、距離近い」
「いやぁ、めっちゃイケメンやん!背ぇも高いなぁ、何センチ?え、何歳やっけ?千夏より年上やった?」
 詰まる距離に質問攻め、そして握った手をにぎにぎし続けて離そうとしないから。

「お母さん!もうやめて!誠くんびっくりしてるから!手も離して!」
「あんたいっつも触ってんのやろ?!別に今日くらいええやん!お母さんもびっくりやもん!めっちゃかっこいいもん!手ぇ触りたい!」
「それ痴漢!」
「せめてセクハラっていいよし!」
 ミーハー気質でイケメン好きは相変わらず。お母さんはいつでも何かにときめいているような精神がいつまでも若いところがあって、やっぱり私は誰に似たんだと思うのだが。

「千夏も私に似てるんやなぁ、やっぱり」
「え、どこが」
 まさに今似てないだろうと思っていたのにお母さんのケロッとした言い分に突っ込みたくなる。

「こんなかっこいい人と結婚すんのやろぉ?千秋に洗脳されてただけであんたも実はイケメン好きなんやんか~」
「はぁ?!」
 うんうん、と勝手に喋り出すお母さんに噛みついたのは千秋の方。

「人のせいにすんなや!おかんの趣味が悪いねん!」
「あんたはほんまに口が悪い子やな。いつまでもお父さんのことに苛ついてかなんわぁ~」
「親父の話すんな!耳が腐る!」
 バンッと扉を閉めて千秋が部屋に籠ってしまった。怒涛の様な会話量が相変わらずすぎて私でも引きそうなのに、関西に慣れてない誠くんには酷ではなかろうか。そんな心配をよそに関西おばちゃんは容赦ない。

「もう千秋はほっといたらいいわ、なんか今ストレスかでイライラばっかりしてなぁ、ほんまいややってん。なんであの子はあんなにすぐ怒るんやろう、カルシウム足りてへんわぁ。誰に似たんやろうな?とりあえず中入ってゆっくりして?おかえり、待ってたよふたり……いうか、誠くんのこと♡」
 娘も待ってくれよ、はもう突っ込むのもやめた。そう言って誠くんの腕を引いて奥に連れて行くお母さんの顔が嬉しそうだから何も言えない。今日だけは誠くんに我慢してもらおう、ごめんね?そんな気持ちで二人の姿を見つめていた。


「なんやの、もう籍入れたんか」
「事後報告ですみません、順番も考えずに……」
 誠くんが頭を下げるのをお母さんがあっけらかんと「そんなん全然いいわ」と、笑った。

(ほらね。こういう人なんだよ)

「順番も大事かもしれんけど……そんなことより千夏が元気で幸せに誠くんと暮らしてるんやろ?それが一番大事やん。同棲するくらいならはよ籍入れたらええのに思ってたよ。誠くんもちゃんとけじめつけてくれたんやね、ありがとうね」
「いや、一度も会わないまま勝手なことしました」
「会ってはないけどぉ、もう結構会った気ぃにはなってたけどなぁ」
 お母さんが空を仰いで思い返すように話し出す。

「まぁ、千秋がな。一回うてるやろ?それでだいたい話聞いて、そのあと千夏からも聞いて……それからは結構千夏がマメに誠くんの話、電話でしてくれてたしな?」
「うん……そうだね」
 内緒にしていたわけではないがずっと言えずにいた。それが言えるようになって、なったら嬉しくて。話したい事があればなんでもラインで送っていた。お母さんもまたなんでも聞いてくれたからそれに答えていたら……。

「もうだいたいのこと知ってるよ、私」
「え?」
 誠くんが衝撃を受けている。

「千夏はまぁ……ちょっと美化して話も盛ってんのとちゃうかなぁは思いながら聞いてたけど。でも千秋が会って話してるやろぉ、ほんで千秋やろぉ。あの口の悪い千秋がなぁ~なんていうた思う?」
「な、なんて言ったの?」
 ―ピンポーン、そこに突然インターフォンが鳴って会話に間が開いた。

「宅配やな。千夏、ちょっと出てくれる?」
「え、あ、うん」
 お母さんと誠くんを二人きりにするのに別に抵抗はないけど、どこか落ち着かない気持ちを抱えつつ私は言われた通り席を立った。


 ――――――――――

 千夏が席を立ったと思ったら、お母さんがまっすぐ見つめて聞いてきた。

「あの子、ちゃんと誠くんの前で泣ける?」
「……はい、多分」
「そうか、良かった。ちゃんと泣ける場所見つけたんやね」
 千夏と千秋くんは完全にお母さん似だ。三人とも同じ瞳をしている。

「千夏にはたくさん我慢させてしまって……ほんまはあの子自身やりたいこともあったやろうし、私もしてやりたいこともあったんやけど、暮らすのに必死なこともあって私にもそこまで余裕がなくてなぁ。下手くそやろぉ、甘えるの。あれは私のせいや、傍で泣かせてやることも出来ひんかったんよ」
 可哀想なことした……お母さんはそう言って俯いてしまったから、何か言ってあげたいが何も言葉が出てこない。俺にかけてあげれる言葉なんかないよな、そう思っていたらお母さんが顔をあげて微笑む。

「嬉しかったわぁ。あの子が電話で言うてきた時は」
「何をですか?」
「誠くんと暮らすって。一緒に暮らしたい人が出来たって、一緒に暮らしたいって言うてくれる人に会えたから同棲しますって。一人で帰ってくることもせんと頑張ってきたあの子が誰かと暮らしたいって、頼れる人が出来たんやなぁって良かったなぁって……」
 そんな言葉を電話越しで話す千夏の顔が目に浮かんで、それはきっとお母さんもなんだろう。穏やかなその表情に娘を想う愛情を感じる。その顔を見つめていたら目が合った。千夏と同じ瞳が俺を射るように見つめてきて、頭を下げられた。

「千夏のこと、これからもよろしくお願いします」
「頭あげてください、そんな……俺が暮らしたいって言って無理言ったんです。籍を入れたのももう……何て言うのか……完全に俺の衝動で」
「へぇ?そうなん?」
 勢いだけだった。なりゆきとキッカケと……ただの独占欲だ。

「千夏は全然望まないですよ。付き合ってる時からずっと、彼女から望まれて何かしてあげたことなんか本当にないです」
「そんなことはないんちゃう?」

(いや、どうだろう……心当たりがない)

 そんな俺の気持ちを読むようにお母さんが微笑む。

「傍にいたいっていう気持ちがあの子にとっての一番のわがままやろ。そういうわがままを言うてきてないからぁ。そんな場所見つけたら離さへんやろ。頑固やし一度自分が決めたらなかなか譲らへん。周りがどんだけ言うても頑ななところがある。好きになったモノをずーっと好きでいるそんな子やで?そうやろ?」
「……わかります」
 お母さんは何が言いたいのか。その俺の疑心に気付いたのかニヤリと笑われて――言われた。

「浮気は絶対許さへんと思うからするときは覚悟してするようにな」
「しません」
 いきなりそんな覚悟を突きつけられても困るのだが、とりあえずそう答えたら「ふふっ」と、笑って嬉しそうに目を細めて見つめられた。

「同じイケメンでも、全然違うわ。千夏は私と違って男見る目はあったんやなぁ」
「おかあさーん、なんかご近所の人のが紛れてるって!一緒に見て~」
「え~どこのん?」
 千夏の呼びかけにお母さんが席を立ったのと入れ替わるように千秋くんがリビングに入ってきた。

「めっちゃテキトーやろ?おかん。わざわざ来て話するような相手ちゃう」
「そういうわけにはいかないよ……論文目処立ちそう?俺も苦労したからわかる、大変な時に悪かったね」
「……もうほんまに結婚したん?」
 頷くと「ふうん」とだけ言って飲み物を持つと部屋を出ていこうとしたが足を止めて振り向く。

「前も言うたけどなぁ、泣かせたら半殺しにするからな」
 相変わらずの千秋くんに吹き出しそうになったらお母さんが戻ってきて千秋くんに返す。

「お母さんはこれからはちゃんと泣かせてやってって頼んでるんやからいらんこと言わんといてくれるぅ?あれこれ言うたら誠くん困るやろー」
「俺の泣かすとおかんの泣かす、絶対意味ちゃうわ」
「もう二人の言い合いほんまに恥ずかしいからやめてぇよぉ~」
 関西弁がわちゃわちゃ話すとこんな感じなんだなと新鮮な気持ちで見つめつつ、やっぱり関西弁を話す千夏が可愛いと思う。

「そうそう、さっきの続き。千秋がなぁ、誠くんと初めて出会ってなんて言うたかって話よ」
「あ、それ!聞きたい!なんて?」
「なんで俺の話すんねん!おかん!あほ!やめろ!」
 それは俺がここにいて聞かされていい話なのだろうかと若干心配になるのだが、むしろ聞かせたそうなお母さんである。

「めっちゃ腹立つ嫌な相手やった」
「悪口やん!」
 千夏の言葉に同意しかける。

「嫌なところ見つけたろ思ったのに見つからんかったから嫌やった!やってぇ!もうめっちゃ好きやろぉそれ!」
「なんなん、そのあまのじゃくな……千秋、誠くんのこと好きって素直に言えばええやん」
「はぁ?!そんなこと言うてへんやろ!」
「千秋は捻くれてんねん。好きな子に好きって言えんと意地悪するような小学生みたいな子やからな」
「お前らの脳みそ単細胞でほんま嫌やわ!好きそんなこと一言も言うてへんやろ!言葉の意味ちゃんと理解しろや!」
「お母さんももう好き~♡やっぱりイケメンってええやんなぁ、そこにいるだけでええ!千夏ありがとうな、あんなかっこいい息子できるなんてお母さんめっちゃ幸せやわぁ~♡」

 これが千夏の育った場所、千夏を育てた家族、そして俺の家族にもなる。この賑やかな風景が微笑ましくて、この場所にいれることに幸せを感じていた。
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