63 / 75
結婚エトセトラ
for whom……結婚式はだれのため?
しおりを挟む
「どーぉ?そのデザインも千夏ちゃん好きなんじゃない?色はラベンダーも可愛いと思うけど、さっきのサーモンピンクがいいかなぁ」
「どっちも可愛いですぅ、イロチで欲しいくらい……」
「お!二点買いだと今10%オフだし私の社割つけてあげよう」
「え!本当ですか?」
シャッとフィッテイングルームのカーテンが開いて振り向くと、上手に外からは見えないように萌さんが顔だけ覗かせてくる。
「いいね。ラベンダーいいじゃん、ちょっと色っぽくなるしそういうカラー持ってる?」
「ラベンダーは持ってないんです、可愛い色になかなか出会わないし」
「わかる!紫系って濃い色が多くてなかなかないんだよね、それ刺繡可愛いくない?ストラップも太くてもレースで可愛いよね」
「可愛いですぅ~」
「ラベンダー買いだね、一個はそれにしとこ」
そう言ってシャッとまたカーテンを閉めて顔を引っ込めた。
私は今萌さんの勤める店舗<angel rest>の試着室で下着を選んでいる。二年ほど前に見つけた下着ブランドで私の好みにドハマりして以来御用達だ。まさか誠くんの妹の萌さんがこのブランドのスタッフでデザインまで手掛けていたのには驚きだったが。いつもはショッピングモールの中に入っている店舗で買い物をしていたが、萌さんと知り合い本店で働いていることを知ったから足を運ぶことにしたのだ。
「次はこれなんかどう?リフトアップパーツだから持ち上げてくれるし脇高でサイドのお肉もカバーして……やっぱ王道の白!どうかな?」
萌さんに体型コンプレックスを相談したから悩みのポイントをちゃんと考えて商品を選んでくれる。なによりセンスがいいからこれはちょっと……なんて思うことがない。どれも欲しくなって困るほどだ。
(し、幸せ)
「着れた~?一回入っていい?」
「はい」
首にメジャーをぶら下げて、肩に何本かブラジャーを引っかけた萌さんがサッとカーテンを開けて入ってくる。
「ここね、脇高になってるから背中からと下から持ち上げて……背中のライン綺麗に見せれるように着ようね」
下着のラインをなぞりながら着方のポイントを教えてくれる。ツーッと指が背中に回ったと思うと萌さんがジーッと視線を全体に這わせてニコッと微笑む。
「お兄ちゃんって束縛強いんだね」
「へ?」
「背中と二の腕裏にキスマークいっぱいつけられてるよ?」
「え!」
「前につけないあたりねぇ……千夏ちゃんに気づかれないようにしてんのかな」
(ええ!?前が消えたと思ってたけど後ろもついてたの?!)
「千夏ちゃんの体はこれから私もたまに見るからつけすぎんなって怒っときなよ?私は全然見るの構わないけど、お兄ちゃん絶対嫌でしょ、私に見られるの」
(は……恥ずかしいしかない)
あれやこれや試着させてもらって悩みながらも二着選んでレジで清算していると萌さんが「そういえばさ」と聞いてくる。
「結婚式しないのぉ?」
「え?」
「お母さんも心配しててさ。仕事忙しいって言ってお兄ちゃんがほったらかしにしてるんじゃないかって。千夏ちゃんの家族とも会いたいのにどう考えてるんだって言ってたんだけどなんか言ってる?ラインもいれてるけど返信ないんだってー」
ダメだよねー、っと商品を畳みながら呆れたように言っている。
「なにも……聞いていません」
「お兄ちゃんさ、ほんっとにポンコツだと思うよ?」
「え?」
「頭は良いかもしれないけど、仕事できるかしらないけど!男としてはまじでポンコツだと思うのよ。私はあれが男はイヤだ」
これは兄妹の心理的な話なのかな、なんて思いつつもどう返せばいいか迷ってしまい言葉に詰まっていると萌さんがにこりと微笑んで袋を差し出してくれる。
「仕事優先にして女ほったらかしにする男なんかね、ダメだよ?一回きつく言いな」
「えっと……」
仕事している誠くんが大好きな私には何と答えていいかますますわからない。
「とにかくね?お母さんが心配してんの。だから千夏ちゃんのラインお母さんに伝えてもいい?」
「どうぞ!伝えてください、私からも連絡しますので」
「良かった、ありがとう。もうね、お兄ちゃんに投げても話になんないんだよ。女側で決めたらいいから、ね?なんかあったら相談して?ポンコツ兄貴なんか無視でいいよ」
ひどい言い草に思わず笑ってしまったらとんでもない可愛い笑顔で微笑まれて耳元に囁かれた。
「結婚式……したいならさっさとしないとすぐ妊娠しちゃうよ?」
そのセリフに真っ赤になった私は言うまでもない。その帰り道、萌さんに聞かれたことをずっと考えていた。
(結婚式かぁ、考えてないわけじゃないけどそこまで現実味もなかったんだよなぁ。実際一瞬で結婚しちゃったし、今さらっていうか……)
したくないわけではない。結婚式に何度か参列したこともあるし、憧れだってある。でも実際結婚して、誠くんって人と出会ったら理想や夢とはまた違う気持ちが芽生えているのも事実だった。
(誠くんの立場のこととか考えたらちゃんと披露宴とかしないとダメなのかな……)
ーー結婚式って誰のためにするんだろう。
晩ごはんを作りながらどう切り出そうかなと悩みつつお鍋の中をぐるぐると混ぜていたが、何度か呼ばれていたみたいで。
「千夏」
「え、あ、はい!」
声に気付けなかった私は誠くんに肩を叩かれてハッとする。
「なんかあった?」
「……え!あ、うん、えっと……その……今日萌さんに会ったの」
「あー……結婚式のこと?」
話す前に気付かれたので頷いたら笑われた。
「おふくろにも怒られてるんだよなぁ。ほったらかしにしてたつもりはないんだけど……ごめん」
「謝らないで!私もあんまり考えてなかったし!」
「え?考えてないの?」
意外そうに言われて黙ってしまう。考えてなかったわけでもないが……どう言えばいいのか。
「千夏?」
「誠くんは?」
聞き返すと困ったように笑われて頭を撫でられた。
「俺はお前の意見が聞きたいかな。思うことがあるならとりあえず思うこと言えよ」
「え……でも」
「でもじゃない。単純に俺はお前の気持ちが聞きたい」
(優しくてもう困るんだけど)
「ほんとになんにも考えとか思いないわけ?」
「そんなことは……ないけど」
そう言ったら笑いながら誠くんが言う。
「あるならまずは聞かせてよ。話はそれから」
「じゃあ……い、言うよ?」
「どうぞ」
コンロの火を一旦止めて呼吸を整えてから、誠くんの方に向き合ってみたものの、目を見て言うには勇気がなくてキッチン台に置かれた綺麗な手を見つめながら思い切って口を開いた。
「ウエディングドレス着たい、誠くんのタキシード姿見たい、写真は撮りたい、二人のと家族写真撮りたい、ガーデンウェディングは憧れてたけど今はレストランウエディングもいいなって思ってる。おいしいごはん食べて結婚記念日にそこで毎年ごはんとか食べるの。海外で二人きりの挙式も素敵だけど飛行機苦手だから長時間無理だしそれはいいかな。あと、やっぱりお母さんにはドレス姿見せたい、千秋にも見せたい、誠くんの家族もきてほしい、でも友達いないから人呼ぶような大々的なもの無理、披露宴も無理、二次会も無理……です」
一気に言ってスッキリはするけどなんかだんだん言い過ぎたかもという不安が襲ってきて何も言わない誠くんをそっと見上げると、目を見開いて驚いている。
「具体的なイメージあるじゃん」
「で、でもこれ全部私だけの気持ちだもん」
「それでよくない?」
「でも――」
「それでいいんだって。俺の親も千夏の気持ちを優先しろって言ってたし俺もそう思ってる。だからー……」
誠くんがキッチンを離れてペンと紙を手に取るとダイニングでサラサラと何か書き始める。気になって私も誠くんの傍によると、紙には今私が上げたことがザッと書き記されていた。
(一回言っただけなのに書きこぼしがないのすごい……)
「したいことと、したくないことはもうはっきりしてたから消去法にして……あとは、ガーデンウェディングかレストランウエディングのどっちかにするって感じ?でも記念日どうこうまで考えてるならレストランか」
したいことに丸、したくないことに横線が引かれて、最後にレストランウエディングに丸を付けられた。
「これだと……家族婚?って感じでいいのかな?」
「で、でもね、そういうこじんまりしたのだと誠くんの社会的な立場考えたらまずくないのって思ってて」
「そもそも式を挙げない奴だっているし、佐藤は海外で二人で挙げてたぞ?関係なくない?」
「ふーちゃんが、役職もついてる人なら派手にしないとダメじゃないかって」
「それは史華ちゃんのところの話で俺らとは関係ないよ。別に俺顔が広いわけでもないし、千夏と同じで友達も多くない、まぁ引っかかるなら杉崎さんか……でもあの人のために式挙げるわけじゃないし、杉崎さんもまた三人で飯行こうって行ってくれてたからそこでちゃんと二人で挨拶すればいいのかなって今思った」
誠くんがペンをテーブルに置いて見上げてくる。それを私も見つめ返すの……真っ直ぐに。
「――いいの?」
「千夏がしたくないことする必要こそないだろ。誰のためにするんだって話だよ」
「誠くんは誰のために……するの?」
そう尋ねたら眉を顰められて呆れたような笑顔、その笑顔に単純にきゅんっとする。
「千夏のためにするんだけど」
(私のため?)
「千夏こそ、誰のためにする気?」
(私は―――)
「私は……私と誠くんの……家族のために……したい」
「フッ……自分がしたくてするんじゃないんだ、変なヤツ」
昔はもっと自分のために自分がしたいことを夢見ていた。憧れだってどんなことも自分だけのことに当てはめて考えていた。でも、誠くんと出会って、お互いの家族に触れて、暮らしだしたらわざわざ結婚式なんかしなくてもいい気になっていた。
そんなことをしなくても私は十分幸せだ、わざわざ結婚式にこだわる必要なんかない。そう思った。でも――お母さんも、誠くんのご両親も結婚式はどうするのか、なぜしないのかと聞いてくる。
離れて暮らして、歳を重ねるほどに親を安心させたい気持ちが強まる。”大丈夫だよ”その言葉だけでは伝わりきらない、そう感じるようになった。
不安にさせたくない、安心させたい。私はもう大丈夫なの、幸せなの、そう思える人と生きていけることになったの――それはどうしたらもっとしっかりと伝わるんだろう。
お母さんたちがけじめを求めている気がした、誠くんと結婚した事実を目の前で見て安心したいのかと思った。だったら私はそれに応えたい、今の幸せを伝えて共有したいのは家族しかいないから。
家族のためにしたい、家族に安心してもらえるように私が好きな人と結婚したことを伝えたいだけ。
「千夏のドレス姿は俺も見たいよ」
「え?」
「可愛いだろうなって思う」
(どうしてこういうことをいきなり照れもせず言うのか!)
「家族だけで出来るなら準備も時間もそんなにかからないんじゃない?とりあえず場所だけ探そうか」
「ほんとにいいの?」
「千夏はさぁ、あれこれ考えずにもっと自分の気持ち主張していいぞ?ていうか、しろ」
(命令形なのに内容が甘すぎる……)
椅子に座る誠くんの膝の上に跨って、前から向き合う形になってぎゅっと抱きついた。
「じゃあ……タキシードの色は黒色ね」
「……そういうことじゃないんだけど、まぁいいわ。了解」
誠くんは絶対、黒のタキシード。
「結婚記念日は結婚式する日ね?」
「わかった」
入籍日じゃない、結婚式をした日がふたりの結婚記念日。
「毎年そこでごはん食べてお祝いしようね?」
「いいよ」
あの時美味しかったね、そうやって毎年結婚式のことを思い出したい。
「……ずっと好きでいてね」
「千夏もな?」
そう言って二人で笑いながら甘いキスをして抱き合った。
「どっちも可愛いですぅ、イロチで欲しいくらい……」
「お!二点買いだと今10%オフだし私の社割つけてあげよう」
「え!本当ですか?」
シャッとフィッテイングルームのカーテンが開いて振り向くと、上手に外からは見えないように萌さんが顔だけ覗かせてくる。
「いいね。ラベンダーいいじゃん、ちょっと色っぽくなるしそういうカラー持ってる?」
「ラベンダーは持ってないんです、可愛い色になかなか出会わないし」
「わかる!紫系って濃い色が多くてなかなかないんだよね、それ刺繡可愛いくない?ストラップも太くてもレースで可愛いよね」
「可愛いですぅ~」
「ラベンダー買いだね、一個はそれにしとこ」
そう言ってシャッとまたカーテンを閉めて顔を引っ込めた。
私は今萌さんの勤める店舗<angel rest>の試着室で下着を選んでいる。二年ほど前に見つけた下着ブランドで私の好みにドハマりして以来御用達だ。まさか誠くんの妹の萌さんがこのブランドのスタッフでデザインまで手掛けていたのには驚きだったが。いつもはショッピングモールの中に入っている店舗で買い物をしていたが、萌さんと知り合い本店で働いていることを知ったから足を運ぶことにしたのだ。
「次はこれなんかどう?リフトアップパーツだから持ち上げてくれるし脇高でサイドのお肉もカバーして……やっぱ王道の白!どうかな?」
萌さんに体型コンプレックスを相談したから悩みのポイントをちゃんと考えて商品を選んでくれる。なによりセンスがいいからこれはちょっと……なんて思うことがない。どれも欲しくなって困るほどだ。
(し、幸せ)
「着れた~?一回入っていい?」
「はい」
首にメジャーをぶら下げて、肩に何本かブラジャーを引っかけた萌さんがサッとカーテンを開けて入ってくる。
「ここね、脇高になってるから背中からと下から持ち上げて……背中のライン綺麗に見せれるように着ようね」
下着のラインをなぞりながら着方のポイントを教えてくれる。ツーッと指が背中に回ったと思うと萌さんがジーッと視線を全体に這わせてニコッと微笑む。
「お兄ちゃんって束縛強いんだね」
「へ?」
「背中と二の腕裏にキスマークいっぱいつけられてるよ?」
「え!」
「前につけないあたりねぇ……千夏ちゃんに気づかれないようにしてんのかな」
(ええ!?前が消えたと思ってたけど後ろもついてたの?!)
「千夏ちゃんの体はこれから私もたまに見るからつけすぎんなって怒っときなよ?私は全然見るの構わないけど、お兄ちゃん絶対嫌でしょ、私に見られるの」
(は……恥ずかしいしかない)
あれやこれや試着させてもらって悩みながらも二着選んでレジで清算していると萌さんが「そういえばさ」と聞いてくる。
「結婚式しないのぉ?」
「え?」
「お母さんも心配しててさ。仕事忙しいって言ってお兄ちゃんがほったらかしにしてるんじゃないかって。千夏ちゃんの家族とも会いたいのにどう考えてるんだって言ってたんだけどなんか言ってる?ラインもいれてるけど返信ないんだってー」
ダメだよねー、っと商品を畳みながら呆れたように言っている。
「なにも……聞いていません」
「お兄ちゃんさ、ほんっとにポンコツだと思うよ?」
「え?」
「頭は良いかもしれないけど、仕事できるかしらないけど!男としてはまじでポンコツだと思うのよ。私はあれが男はイヤだ」
これは兄妹の心理的な話なのかな、なんて思いつつもどう返せばいいか迷ってしまい言葉に詰まっていると萌さんがにこりと微笑んで袋を差し出してくれる。
「仕事優先にして女ほったらかしにする男なんかね、ダメだよ?一回きつく言いな」
「えっと……」
仕事している誠くんが大好きな私には何と答えていいかますますわからない。
「とにかくね?お母さんが心配してんの。だから千夏ちゃんのラインお母さんに伝えてもいい?」
「どうぞ!伝えてください、私からも連絡しますので」
「良かった、ありがとう。もうね、お兄ちゃんに投げても話になんないんだよ。女側で決めたらいいから、ね?なんかあったら相談して?ポンコツ兄貴なんか無視でいいよ」
ひどい言い草に思わず笑ってしまったらとんでもない可愛い笑顔で微笑まれて耳元に囁かれた。
「結婚式……したいならさっさとしないとすぐ妊娠しちゃうよ?」
そのセリフに真っ赤になった私は言うまでもない。その帰り道、萌さんに聞かれたことをずっと考えていた。
(結婚式かぁ、考えてないわけじゃないけどそこまで現実味もなかったんだよなぁ。実際一瞬で結婚しちゃったし、今さらっていうか……)
したくないわけではない。結婚式に何度か参列したこともあるし、憧れだってある。でも実際結婚して、誠くんって人と出会ったら理想や夢とはまた違う気持ちが芽生えているのも事実だった。
(誠くんの立場のこととか考えたらちゃんと披露宴とかしないとダメなのかな……)
ーー結婚式って誰のためにするんだろう。
晩ごはんを作りながらどう切り出そうかなと悩みつつお鍋の中をぐるぐると混ぜていたが、何度か呼ばれていたみたいで。
「千夏」
「え、あ、はい!」
声に気付けなかった私は誠くんに肩を叩かれてハッとする。
「なんかあった?」
「……え!あ、うん、えっと……その……今日萌さんに会ったの」
「あー……結婚式のこと?」
話す前に気付かれたので頷いたら笑われた。
「おふくろにも怒られてるんだよなぁ。ほったらかしにしてたつもりはないんだけど……ごめん」
「謝らないで!私もあんまり考えてなかったし!」
「え?考えてないの?」
意外そうに言われて黙ってしまう。考えてなかったわけでもないが……どう言えばいいのか。
「千夏?」
「誠くんは?」
聞き返すと困ったように笑われて頭を撫でられた。
「俺はお前の意見が聞きたいかな。思うことがあるならとりあえず思うこと言えよ」
「え……でも」
「でもじゃない。単純に俺はお前の気持ちが聞きたい」
(優しくてもう困るんだけど)
「ほんとになんにも考えとか思いないわけ?」
「そんなことは……ないけど」
そう言ったら笑いながら誠くんが言う。
「あるならまずは聞かせてよ。話はそれから」
「じゃあ……い、言うよ?」
「どうぞ」
コンロの火を一旦止めて呼吸を整えてから、誠くんの方に向き合ってみたものの、目を見て言うには勇気がなくてキッチン台に置かれた綺麗な手を見つめながら思い切って口を開いた。
「ウエディングドレス着たい、誠くんのタキシード姿見たい、写真は撮りたい、二人のと家族写真撮りたい、ガーデンウェディングは憧れてたけど今はレストランウエディングもいいなって思ってる。おいしいごはん食べて結婚記念日にそこで毎年ごはんとか食べるの。海外で二人きりの挙式も素敵だけど飛行機苦手だから長時間無理だしそれはいいかな。あと、やっぱりお母さんにはドレス姿見せたい、千秋にも見せたい、誠くんの家族もきてほしい、でも友達いないから人呼ぶような大々的なもの無理、披露宴も無理、二次会も無理……です」
一気に言ってスッキリはするけどなんかだんだん言い過ぎたかもという不安が襲ってきて何も言わない誠くんをそっと見上げると、目を見開いて驚いている。
「具体的なイメージあるじゃん」
「で、でもこれ全部私だけの気持ちだもん」
「それでよくない?」
「でも――」
「それでいいんだって。俺の親も千夏の気持ちを優先しろって言ってたし俺もそう思ってる。だからー……」
誠くんがキッチンを離れてペンと紙を手に取るとダイニングでサラサラと何か書き始める。気になって私も誠くんの傍によると、紙には今私が上げたことがザッと書き記されていた。
(一回言っただけなのに書きこぼしがないのすごい……)
「したいことと、したくないことはもうはっきりしてたから消去法にして……あとは、ガーデンウェディングかレストランウエディングのどっちかにするって感じ?でも記念日どうこうまで考えてるならレストランか」
したいことに丸、したくないことに横線が引かれて、最後にレストランウエディングに丸を付けられた。
「これだと……家族婚?って感じでいいのかな?」
「で、でもね、そういうこじんまりしたのだと誠くんの社会的な立場考えたらまずくないのって思ってて」
「そもそも式を挙げない奴だっているし、佐藤は海外で二人で挙げてたぞ?関係なくない?」
「ふーちゃんが、役職もついてる人なら派手にしないとダメじゃないかって」
「それは史華ちゃんのところの話で俺らとは関係ないよ。別に俺顔が広いわけでもないし、千夏と同じで友達も多くない、まぁ引っかかるなら杉崎さんか……でもあの人のために式挙げるわけじゃないし、杉崎さんもまた三人で飯行こうって行ってくれてたからそこでちゃんと二人で挨拶すればいいのかなって今思った」
誠くんがペンをテーブルに置いて見上げてくる。それを私も見つめ返すの……真っ直ぐに。
「――いいの?」
「千夏がしたくないことする必要こそないだろ。誰のためにするんだって話だよ」
「誠くんは誰のために……するの?」
そう尋ねたら眉を顰められて呆れたような笑顔、その笑顔に単純にきゅんっとする。
「千夏のためにするんだけど」
(私のため?)
「千夏こそ、誰のためにする気?」
(私は―――)
「私は……私と誠くんの……家族のために……したい」
「フッ……自分がしたくてするんじゃないんだ、変なヤツ」
昔はもっと自分のために自分がしたいことを夢見ていた。憧れだってどんなことも自分だけのことに当てはめて考えていた。でも、誠くんと出会って、お互いの家族に触れて、暮らしだしたらわざわざ結婚式なんかしなくてもいい気になっていた。
そんなことをしなくても私は十分幸せだ、わざわざ結婚式にこだわる必要なんかない。そう思った。でも――お母さんも、誠くんのご両親も結婚式はどうするのか、なぜしないのかと聞いてくる。
離れて暮らして、歳を重ねるほどに親を安心させたい気持ちが強まる。”大丈夫だよ”その言葉だけでは伝わりきらない、そう感じるようになった。
不安にさせたくない、安心させたい。私はもう大丈夫なの、幸せなの、そう思える人と生きていけることになったの――それはどうしたらもっとしっかりと伝わるんだろう。
お母さんたちがけじめを求めている気がした、誠くんと結婚した事実を目の前で見て安心したいのかと思った。だったら私はそれに応えたい、今の幸せを伝えて共有したいのは家族しかいないから。
家族のためにしたい、家族に安心してもらえるように私が好きな人と結婚したことを伝えたいだけ。
「千夏のドレス姿は俺も見たいよ」
「え?」
「可愛いだろうなって思う」
(どうしてこういうことをいきなり照れもせず言うのか!)
「家族だけで出来るなら準備も時間もそんなにかからないんじゃない?とりあえず場所だけ探そうか」
「ほんとにいいの?」
「千夏はさぁ、あれこれ考えずにもっと自分の気持ち主張していいぞ?ていうか、しろ」
(命令形なのに内容が甘すぎる……)
椅子に座る誠くんの膝の上に跨って、前から向き合う形になってぎゅっと抱きついた。
「じゃあ……タキシードの色は黒色ね」
「……そういうことじゃないんだけど、まぁいいわ。了解」
誠くんは絶対、黒のタキシード。
「結婚記念日は結婚式する日ね?」
「わかった」
入籍日じゃない、結婚式をした日がふたりの結婚記念日。
「毎年そこでごはん食べてお祝いしようね?」
「いいよ」
あの時美味しかったね、そうやって毎年結婚式のことを思い出したい。
「……ずっと好きでいてね」
「千夏もな?」
そう言って二人で笑いながら甘いキスをして抱き合った。
18
あなたにおすすめの小説
憧れのお姉さんは淫らな家庭教師
馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。
女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
氷の上司に、好きがバレたら終わりや
naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。
お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、
“氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。
最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、
実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき――
舞子の中で、恋が芽生えはじめる。
でも、彼には誰も知らない過去があった。
そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。
◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか?
◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか?
そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。
笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。
関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。
仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。
「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる