続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

sae

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結婚エトセトラ

for whom……結婚式はだれのため?

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「どーぉ?そのデザインも千夏ちゃん好きなんじゃない?色はラベンダーも可愛いと思うけど、さっきのサーモンピンクがいいかなぁ」
「どっちも可愛いですぅ、イロチで欲しいくらい……」
「お!二点買いだと今10%オフだし私の社割つけてあげよう」
「え!本当ですか?」
 シャッとフィッテイングルームのカーテンが開いて振り向くと、上手に外からは見えないように萌さんが顔だけ覗かせてくる。

「いいね。ラベンダーいいじゃん、ちょっと色っぽくなるしそういうカラー持ってる?」
「ラベンダーは持ってないんです、可愛い色になかなか出会わないし」
「わかる!紫系って濃い色が多くてなかなかないんだよね、それ刺繡可愛いくない?ストラップも太くてもレースで可愛いよね」
「可愛いですぅ~」
「ラベンダー買いだね、一個はそれにしとこ」
 そう言ってシャッとまたカーテンを閉めて顔を引っ込めた。

 私は今萌さんの勤める店舗<angel rest>の試着室で下着を選んでいる。二年ほど前に見つけた下着ブランドで私の好みにドハマりして以来御用達だ。まさか誠くんの妹の萌さんがこのブランドのスタッフでデザインまで手掛けていたのには驚きだったが。いつもはショッピングモールの中に入っている店舗で買い物をしていたが、萌さんと知り合い本店で働いていることを知ったから足を運ぶことにしたのだ。

「次はこれなんかどう?リフトアップパーツだから持ち上げてくれるし脇高でサイドのお肉もカバーして……やっぱ王道の白!どうかな?」
 萌さんに体型コンプレックスを相談したから悩みのポイントをちゃんと考えて商品を選んでくれる。なによりセンスがいいからこれはちょっと……なんて思うことがない。どれも欲しくなって困るほどだ。

(し、幸せ)

「着れた~?一回入っていい?」
「はい」
 首にメジャーをぶら下げて、肩に何本かブラジャーを引っかけた萌さんがサッとカーテンを開けて入ってくる。

「ここね、脇高になってるから背中からと下から持ち上げて……背中のライン綺麗に見せれるように着ようね」
 下着のラインをなぞりながら着方のポイントを教えてくれる。ツーッと指が背中に回ったと思うと萌さんがジーッと視線を全体に這わせてニコッと微笑む。

「お兄ちゃんって束縛強いんだね」
「へ?」
「背中と二の腕裏にキスマークいっぱいつけられてるよ?」
「え!」
「前につけないあたりねぇ……千夏ちゃんに気づかれないようにしてんのかな」

(ええ!?前が消えたと思ってたけど後ろもついてたの?!)

「千夏ちゃんの体はこれから私もたまに見るからつけすぎんなって怒っときなよ?私は全然見るの構わないけど、お兄ちゃん絶対嫌でしょ、私に見られるの」

(は……恥ずかしいしかない)

 あれやこれや試着させてもらって悩みながらも二着選んでレジで清算していると萌さんが「そういえばさ」と聞いてくる。

「結婚式しないのぉ?」
「え?」
「お母さんも心配しててさ。仕事忙しいって言ってお兄ちゃんがほったらかしにしてるんじゃないかって。千夏ちゃんの家族とも会いたいのにどう考えてるんだって言ってたんだけどなんか言ってる?ラインもいれてるけど返信ないんだってー」
 ダメだよねー、っと商品を畳みながら呆れたように言っている。

「なにも……聞いていません」
「お兄ちゃんさ、ほんっとにポンコツだと思うよ?」
「え?」
「頭は良いかもしれないけど、仕事できるかしらないけど!男としてはまじでポンコツだと思うのよ。私はあれが男はイヤだ」
 これは兄妹の心理的な話なのかな、なんて思いつつもどう返せばいいか迷ってしまい言葉に詰まっていると萌さんがにこりと微笑んで袋を差し出してくれる。

「仕事優先にして女ほったらかしにする男なんかね、ダメだよ?一回きつく言いな」
「えっと……」
 仕事している誠くんが大好きな私には何と答えていいかますますわからない。

「とにかくね?お母さんが心配してんの。だから千夏ちゃんのラインお母さんに伝えてもいい?」
「どうぞ!伝えてください、私からも連絡しますので」
「良かった、ありがとう。もうね、お兄ちゃんに投げても話になんないんだよ。女側で決めたらいいから、ね?なんかあったら相談して?ポンコツ兄貴なんか無視でいいよ」
 ひどい言い草に思わず笑ってしまったらとんでもない可愛い笑顔で微笑まれて耳元に囁かれた。

「結婚式……したいならさっさとしないとすぐ妊娠しちゃうよ?」
 そのセリフに真っ赤になった私は言うまでもない。その帰り道、萌さんに聞かれたことをずっと考えていた。

(結婚式かぁ、考えてないわけじゃないけどそこまで現実味もなかったんだよなぁ。実際一瞬で結婚しちゃったし、今さらっていうか……)

 したくないわけではない。結婚式に何度か参列したこともあるし、憧れだってある。でも実際結婚して、誠くんって人と出会ったら理想や夢とはまた違う気持ちが芽生えているのも事実だった。

(誠くんの立場のこととか考えたらちゃんと披露宴とかしないとダメなのかな……)

 ーー結婚式って誰のためにするんだろう。


 晩ごはんを作りながらどう切り出そうかなと悩みつつお鍋の中をぐるぐると混ぜていたが、何度か呼ばれていたみたいで。

「千夏」
「え、あ、はい!」
 声に気付けなかった私は誠くんに肩を叩かれてハッとする。

「なんかあった?」
「……え!あ、うん、えっと……その……今日萌さんに会ったの」
「あー……結婚式のこと?」
 話す前に気付かれたので頷いたら笑われた。

「おふくろにも怒られてるんだよなぁ。ほったらかしにしてたつもりはないんだけど……ごめん」
「謝らないで!私もあんまり考えてなかったし!」
「え?考えてないの?」
 意外そうに言われて黙ってしまう。考えてなかったわけでもないが……どう言えばいいのか。

「千夏?」
「誠くんは?」
 聞き返すと困ったように笑われて頭を撫でられた。

「俺はお前の意見が聞きたいかな。思うことがあるならとりあえず思うこと言えよ」
「え……でも」
「でもじゃない。単純に俺はお前の気持ちが聞きたい」

(優しくてもう困るんだけど)

「ほんとになんにも考えとか思いないわけ?」
「そんなことは……ないけど」
 そう言ったら笑いながら誠くんが言う。

「あるならまずは聞かせてよ。話はそれから」
「じゃあ……い、言うよ?」
「どうぞ」
 コンロの火を一旦止めて呼吸を整えてから、誠くんの方に向き合ってみたものの、目を見て言うには勇気がなくてキッチン台に置かれた綺麗な手を見つめながら思い切って口を開いた。

「ウエディングドレス着たい、誠くんのタキシード姿見たい、写真は撮りたい、二人のと家族写真撮りたい、ガーデンウェディングは憧れてたけど今はレストランウエディングもいいなって思ってる。おいしいごはん食べて結婚記念日にそこで毎年ごはんとか食べるの。海外で二人きりの挙式も素敵だけど飛行機苦手だから長時間無理だしそれはいいかな。あと、やっぱりお母さんにはドレス姿見せたい、千秋にも見せたい、誠くんの家族もきてほしい、でも友達いないから人呼ぶような大々的なもの無理、披露宴も無理、二次会も無理……です」
 一気に言ってスッキリはするけどなんかだんだん言い過ぎたかもという不安が襲ってきて何も言わない誠くんをそっと見上げると、目を見開いて驚いている。

「具体的なイメージあるじゃん」
「で、でもこれ全部私だけの気持ちだもん」
「それでよくない?」
「でも――」
「それでいいんだって。俺の親も千夏の気持ちを優先しろって言ってたし俺もそう思ってる。だからー……」
 誠くんがキッチンを離れてペンと紙を手に取るとダイニングでサラサラと何か書き始める。気になって私も誠くんの傍によると、紙には今私が上げたことがザッと書き記されていた。

(一回言っただけなのに書きこぼしがないのすごい……)

「したいことと、したくないことはもうはっきりしてたから消去法にして……あとは、ガーデンウェディングかレストランウエディングのどっちかにするって感じ?でも記念日どうこうまで考えてるならレストランか」
 したいことに丸、したくないことに横線が引かれて、最後にレストランウエディングに丸を付けられた。

「これだと……家族婚?って感じでいいのかな?」
「で、でもね、そういうこじんまりしたのだと誠くんの社会的な立場考えたらまずくないのって思ってて」
「そもそも式を挙げない奴だっているし、佐藤は海外で二人で挙げてたぞ?関係なくない?」
「ふーちゃんが、役職もついてる人なら派手にしないとダメじゃないかって」
「それは史華ちゃんのところの話で俺らとは関係ないよ。別に俺顔が広いわけでもないし、千夏と同じで友達も多くない、まぁ引っかかるなら杉崎さんか……でもあの人のために式挙げるわけじゃないし、杉崎さんもまた三人で飯行こうって行ってくれてたからそこでちゃんと二人で挨拶すればいいのかなって今思った」
 誠くんがペンをテーブルに置いて見上げてくる。それを私も見つめ返すの……真っ直ぐに。

「――いいの?」
「千夏がしたくないことする必要こそないだろ。誰のためにするんだって話だよ」
「誠くんは誰のために……するの?」
 そう尋ねたら眉を顰められて呆れたような笑顔、その笑顔に単純にきゅんっとする。

「千夏のためにするんだけど」

(私のため?)

「千夏こそ、誰のためにする気?」

(私は―――)

「私は……私と誠くんの……家族のために……したい」
「フッ……自分がしたくてするんじゃないんだ、変なヤツ」

 昔はもっと自分のために自分がしたいことを夢見ていた。憧れだってどんなことも自分だけのことに当てはめて考えていた。でも、誠くんと出会って、お互いの家族に触れて、暮らしだしたらわざわざ結婚式なんかしなくてもいい気になっていた。
 そんなことをしなくても私は十分幸せだ、わざわざ結婚式にこだわる必要なんかない。そう思った。でも――お母さんも、誠くんのご両親も結婚式はどうするのか、なぜしないのかと聞いてくる。

 離れて暮らして、歳を重ねるほどに親を安心させたい気持ちが強まる。”大丈夫だよ”その言葉だけでは伝わりきらない、そう感じるようになった。
 不安にさせたくない、安心させたい。私はもう大丈夫なの、幸せなの、そう思える人と生きていけることになったの――それはどうしたらもっとしっかりと伝わるんだろう。

 お母さんたちがけじめを求めている気がした、誠くんと結婚した事実を目の前で見て安心したいのかと思った。だったら私はそれに応えたい、今の幸せを伝えて共有したいのは家族しかいないから。

 家族のためにしたい、家族に安心してもらえるように私が好きな人と結婚したことを伝えたいだけ。

「千夏のドレス姿は俺も見たいよ」
「え?」
「可愛いだろうなって思う」

(どうしてこういうことをいきなり照れもせず言うのか!)

「家族だけで出来るなら準備も時間もそんなにかからないんじゃない?とりあえず場所だけ探そうか」
「ほんとにいいの?」
「千夏はさぁ、あれこれ考えずにもっと自分の気持ち主張していいぞ?ていうか、しろ」

(命令形なのに内容が甘すぎる……)

 椅子に座る誠くんの膝の上に跨って、前から向き合う形になってぎゅっと抱きついた。

「じゃあ……タキシードの色は黒色ね」
「……そういうことじゃないんだけど、まぁいいわ。了解」
 誠くんは絶対、黒のタキシード。

「結婚記念日は結婚式する日ね?」
「わかった」
 入籍日じゃない、結婚式をした日がふたりの結婚記念日。

「毎年そこでごはん食べてお祝いしようね?」
「いいよ」
 あの時美味しかったね、そうやって毎年結婚式のことを思い出したい。

「……ずっと好きでいてね」
「千夏もな?」
 そう言って二人で笑いながら甘いキスをして抱き合った。

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