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結婚エトセトラ
Fun time……隣の花は赤いもの(なべちゃん/ウッチー)①
しおりを挟む>>なべちゃん>ウッチー視点です
世の中ほんとにうまくいかない。
私の人生っていつもそうで、うまく行ってる風に見えるだけで結局なんにも手に入らないんだ。
(つまんないなぁー)
恋も仕事もなんだかもうやる気なんか起きなくなっている。
派遣社員は不安定な待遇で時給扱い、なのに社員並みに仕事の精度は求められるのに最後は派遣で線引きされて。
二年付き合って一緒に暮らしていた彼氏は知らぬ間に二股をしていて気づいたら私が都合のいい女になっていた。
二十八歳の私は、今自信をもって誇れるものがなにもない――。
「なべちゃん」
呼び声に振り向くとニコッと笑うちなっちゃんがいた。
「おつかれー」
「おつかれ。もう上がれる?」
「うん、ここ片付けたら終了!ちょっとまってて」
「私も事務所だけ寄りたいから更衣室で待ち合わせよっか」
「オッケー、じゃ、あとでね」
手を振って部屋を出て行く彼女は一年付き合わない上司と結婚を決めた。
ハッキリ言って……「羨ましすぎる……」心の声を表に漏らしてしまった。
「何が何が?」
その声に反応したのはウッチー。
「ちなっちゃん。マジで結婚しちゃったもんなぁって。あの久世さんと」
「それなー」
ウッチーは結構本気でちなっちゃんを好きだったのか結婚のことを聞いた時はかなりショックを受けていた。
「ウッチーさぁ、彼女いるのにその態度ダメでしょ?それってもう浮気だかんね」
「ええ?なんもしてないじゃん!」
「なんもしてない?本気で言ってる?心が彼女じゃなく別の方に向いたらもう浮気なの!それは裏切りなの!クズ!」
「え!ひでぇー!」
(クズだよ!彼氏と同じ、よそで可愛い子に尻尾振って……それで結局私が振られるってなんなのよ、この貴重な二年返せっつーの!!)
「サイッテー」
「なに?なべちゃん、俺のこと嫌い?!俺なんかした?」
「元カレにそっくりでイライラしただけ!八つ当たりですぅ!」
「元カレってなに、別れちゃったの?」
「ウッチー!誰かいい人紹介してよ!」
そんな私の言葉がキッカケで飲み会が開かれたんだけど。
「え?ここに私来ていいの?」
ちなっちゃんは不安そうに私に耳打ちしてきた。
「なんで?いいじゃん、開発メンバーの飲み会だもん、知った顔ばっかでしょ」
「なべちゃん、出会い求めてるの?これなに?そういう飲み会?」
「ちがうちがう、なんかウッチーの同期とかも来るらしいけど、そこに運良く出会いがあったらラッキーって……」
「なべちゃん……まだ別れて数週間でしょ?そんなすぐに気持ち切り替えられるの?」
「切り替えなきゃやってらんないの!あいつはもう二股女と暮らしてるんだよ?……怒りで震えるわ」
(泣けもしない、これが私が振られた原因かもしれない。ここで可愛くメソメソ縋ればまた変わったんだろうか)
ヨシヨシと頭を撫でられてその手の方に視線を送る。
「なべちゃんと二股するとかホントひどいね、最低だよ。美味しいもの食べて忘れようね?」
「ちなっちゃぁーん」
ちなっちゃんの柔らかい豊満な胸に抱きつく。
(しかし柔らかいな、なにこれ)
「ちなっちゃん――おっぱい何カップ?」
「は?」
「……久世さんはこれをいいように……」
ジッと胸を見つめるとちなっちゃんにホッペをつねられた。
「そ、そういうこと言わないのぉ!」
ほっぺたを真っ赤にして嗜められても可愛いしかないんだけど。
(そりゃこんな可愛い子が傍にいたら氷の王様も溶けるよなぁ)
「いいなぁ。ちなっちゃんが羨ましい……」
羨ましいのは愛せているからかそれとも愛されているからか――。
私は誰かにそこまで愛したことも愛されたこともあるだろうか。
そんな彼女を羨望の眼差しで見つめていると――。
―――――――――――――――――
ちぃちゃんとなべちゃんがイチャイチャしてるところに割り込んだ。
「おつかれー、何飲んでる?」
「ビール」と答えたのはなべちゃん。
「果実酒」は、ちぃちゃん。
「ぃえーい、カンパーイ!!」
グラスを三人で鳴らしてとりあえず一杯飲む。
「ねぇねぇ、新婚生活どんなん?」
俺が身を乗り出して聞くとなべちゃんも乗ってきた。
「聞きたい聞きたい、もう人のいちゃらぶで心を潤したい!久世さんって家ではどんなんなの?」
なべちゃんがやたら乗り気だ、これはいろいろ突っ込んで聞いてくれるだろう。
「えーどんなんって……やっぱり仕事してる」
そう言って笑った。
「――やばいじゃん、会社であんなに仕事してんのに家でもしてんの?病気?」
「ふふ、だよね?でもするのは一時間て決めてるぽいけど」
(いや、帰ってから一時間も仕事するってのがそもそもおかしいし、神経がイッてるわ。日中仕事してないわけじゃないのに凄すぎるこえて引くな)
「帰りとかやっぱり遅いの?」
「うーん、早くても19時とかかなぁ。20時すぎるのがだいたいかな。寝るのがね、すっごい遅い。正直いつ寝てるのか知らないんだよね」
「え?そうなの?」
なべちゃんが驚く。
「一緒にベッドに入っておやすみ~とかないの」
「……ない」
考えた風に沈黙があったけど見る限りやらしい雰囲気は感じられなかった。
なべちゃんと意味深に目が合う。
「ちなっちゃんが先に寝ちゃう感じ?」
「うん」
「その時久世さんはどこにいんの?」
次は俺が聞く。
「え、リビング?とりあえず寝てないと思う、知らない、わかんない!」
(これは……もう気絶するほど抱かれているということでいいかな)
「あとはあとは?私たちの知らない久世さん、何か教えてよぉ」
「知らないこと?何だろ、あ、メガネしてる」
「え!メガネ?!」
「視力悪いから家ではコンタクト取るんだよー、初めて見たとき衝撃だった」
「うっそー!私メガネ男子好き!久世さんの眼鏡姿絶対いい!萌える!!」
二人がキャイキャイと盛り上がるからなんだか蚊帳の外になってしまった。
「メガネ姿すっごいかっこいいの」
そう言って頬を染めるちぃちゃんは可愛すぎて心底久世さんを羨ましく思う。
(おいおい、いいなぁ、なんだよこれー、こんな子嫁とかめっちゃいい。なに?この子と毎晩ヤリ放題なわけ?サイコーじゃんかぁ)
一度でもいいから間違いがあればいいのに、そう思う日が実は何度もあって、それでも一歩も踏み出せないまま彼女は人妻になってしまってた。
(ダっサいなぁ、俺。何で一回でもマジにならなかったんだろう)
後悔先に立たず、ではないけれど悔やんでももう遅い。彼女は俺に見向きもせず別の男の手を取ってしまった。
「よし!今日は飲もう!」
最近彼氏と別れたなべちゃんが勢いよくグラスを手に取り飲み始めた。
「よし!飲め飲め!」
俺もそれに声を合わせる。
「ちぃちゃんも頼も頼も!飲みホ元取ろう!」
「うん、じゃあ今日は少し……飲んでみる」
そう三人で盛り上がっていたら――。
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