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結婚エトセトラ

Fun time……隣の花は赤いもの(なべちゃん/ウッチー)②

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>>なべちゃん>ウッチー視点です



ちなっちゃんが珍しく飲むといい、果実酒を三杯飲み切った頃。



「ぅーん、なんかフワァとする~」

わかりやすく酔い始めた。



「ちぃちゃん、酔ったらこんななるの?」

ウッチーが聞いてくる。



「いや、私も初めてみる。てか、普段ほんとにそんな飲まないもんね。果実酒って結構度数高いからまわっちゃたのかな?」

「ねぇ、ウッチーこれ食べていー?」

フニャンと笑って手羽先を持ちつつ聞いてくる。



「いいよ?食べちゃって~」

「これちょーおいちーよぉー」



(職場で結構パリッとしてるしあんまり隙を見せないからめちゃくちゃ意外だなぁ、同性からみても可愛いぞ)



普段は可愛いフワンとしたスカートやワンピースが多いけど、今日は抜き襟した白シャツにカーキ色のパンツ姿。どちらかというと大人っぽい服装でお酒に酔ったら変に色気がついてきた感じだ。



「……ウッチー、変な目で見たらダメだよ?久世さんにチクるよ?わかってるよね?」

「わかってるよ!でもさぁ、これダメじゃない?これずるくない?」

「たしかにダメだね……これはなんていうか、ひどいね、あざといわ」

ウッチーを窘めておいてなんだが、酔ったちなっちゃんを見て思わず笑ってしまった。

頬を赤く染めて、うつろな瞳で唇や指を油で濡らしてテロテロにしている。



(手羽先食べてるだけなんだけどね、なんだろ。指舐めてかぶりついてる口とか無駄にエッチいなぁ)



女の私で思うんだから男のしかも好意的に思っているウッチーからしたら目に毒なんじゃないか、そう思ってチラッと横目に見ると案の定やらしいことを考えていそうなウッチーの横顔。



(目がもう……ギラギラしてますけど?ほんとにダメだな、ウッチーって。これ久世さんも気づいてるんじゃない?ウッチーのちなっちゃんへの邪な気持ち)



「なにあれ、可愛いとか思うなって方が無理じゃね?こんなん見たらさぁ、酔わせてたらワンチャンあったかなとか考えるわ」

「あー!クズ発言!今のマジでクズい!久世さんに言ってやろー!」

「わー!嘘!絶対言わないで!マジで!俺処刑される!しかも公開処刑!もう会社で生きていけんくなる!」

必死で弁解するウッチーが可愛いが、今のセリフは絶対にどこかで言ってやろうと思う。



(最低すぎる、浮気された女の前で言うセリフじゃないし。去勢してやりたい)



そんな頭下ネタ全開のウッチーは放っておいて酔ったちなっちゃんをいじってやることにする。



「ねね、ちなっちゃん、久世さんって甘えたりする?」

「甘えないよねぇ?いっつも大人ぁ」



「ふぅん?二人の時はどんな感じなの?」

「んん?どんなって……うーん、余裕な感じ?」

「余裕って?」

私がどんどん踏み込んで聞いていくのをウッチーも興味深そうに聞いている。人の恋路は聞いている分には面白いものだ。双方のことを知っているとなるとなおさらで、ましてや相手は職場ではクールで冷たい鬼と呼ばれているような相手である。もはや興味しかない。



「ずーっとそうらもん。なんかぁ……うんっと、慣れてる」

バンッとテーブルに手をついていきなり怒り出した。



「そりゃさぁ?あんなカッコいいからさぁ、モテないわけないんだよね?女の人がほっとくわけないじゃんねぇ?モテてたことないみたいな嘘つくし……嘘つき」

そして愚痴りだした。



「仕事の時と同じでさ?私のことなんでもわかっちゃうし。言葉で勝てたことも一回もないんだよ?いっつもそう、……ぅん、私ばっかりなの……」

「ちなっちゃんはさぁ、久世さんのどこがそんなに好きなわけ~?どこを好きになったの?怖いじゃん、久世さんって」



「怖い……けど。怖かったけど……仕事してる姿、大好き」

クフフ、と照れて笑う顔が緩み過ぎてこっちが照れそうになる。久世さんを見た目やスペックでは選んでないんだなぁとその顔を見て確信する。



――人を好きになるってこういうこと?



運命の人には自分が大事にしていることをブレさせなければ会えるのだろうか。



「すんごいカッコよくない?仕事してるとき」

あきらかに同意を求めるちなっちゃんの言葉に思わずウッチーを見るとウッチーも私を見てくる。きっと同じことを考えてるんだろう。



(怖いしか感じないんですけど?)



「そんでねぇ、家にいるときもめっちゃ優しぃよぉ?」

「「へぇぇー」」

ウッチーと二人でハモってしまったが、その声色は疑いの色がだいぶ濃い感じがした。





―――――――――――――――





とりあえず仕事場の久世さんは、威圧感、冷血漢、怖い、鬼、みたいな感じで優しさのカケラも見えないけれど、ちぃちゃんは蕩けるような顔で優しいと言う。



「デレるわけ?あの鬼みたいな人が?」

「見てみたいよね、デレる久世さんとかさ。想像できないなぁ、塩対応しか知らないもん」

どうしても信じられない俺となべちゃんは、二人でこそこそとそんなことを言い合いながら話している。なべちゃん自身も久世さんのプライベートな顔は一切知らないらしい。



「私は本当に絡まないもん。ちなっちゃんから付き合ってることは聞いてたから久世さんも把握してるはずなのに……普段出会ったってなんにも話すとかないしお互い知らんぷりだったよ?秘密にしてるんだから私から話に行くのもできないじゃん?ちなっちゃんと親しくしてるの知ってるくせに愛想もなかった、うん」

「愛想ないよな、笑顔とか向けてもらったことない。いや笑いかけられてもむしろ怖いけど。実際さ、二人っていつから付き合ってたの?」



「ええー、久世さんがきてから……半年は経つのかなぁ?まぁ来た頃はちなっちゃんもかなり仕事振ってくるってよく切れてたよ?鬼!って。イケメン苦手らしいし、しかも上司じゃん?聞かされた時は衝撃だったよね。うそぉ!って。ちなっちゃんが職場でそういうの絶対しそうにないじゃん」



(それはめちゃくちゃわかる。前に一喝されたときもそんな類のことは言っていた。ここは学校じゃないだろ、なんておかんみたいに怒ったくせに自分はオフィスラブしてたなんて……)



「イケメン苦手って……めちゃくちゃイケメン好きになってて説得力ないんだけど」

「イケメンは裏がありそうだから怖いって言ってた。なんか騙されたことでもあるのかな」



(久世さんの裏の顔なんか極道だろ。それくらい怖いしかないわ)



「じゃあ顔に惚れたってことじゃないのか」

「仕事も出来て、自分のこと理解してくれる人が近くにいて結局はあのイケメンでしょ?好きになるなって方が無理じゃん?ちなっちゃんはできる男が好きなんだよ、仕事ね。そこだけ言えばドンピシャじゃんね?久世さんなんかさ」



(仕事できるで言ったらもうどハマりだわなぁ、部会議とか技術発表会とかでも久世さんが言葉詰まらせたりしたとこ見たことないし、本社での仕事っぷりの評価もすごかったって聞くもんなぁ)



久世さんは俺から見たってかっこいいし仕事も出来るし頼りになる。優しい言い方はしないけど、試験の相談や結果の話でたまに話すことはあるけど道筋の立て方や考え方を教えてくれたときは頭がいいなと素直に感動したものだ。



「好きな人がそばにいるのって怖いけどね……好きなんて簡単に言えないでしょ。しかも自分は部下でさ、付き合ってからでも自信ないってよく悩んでたよ?私なんか、みたいな。」

「そうなんだ……そんなこと悩む必要全然ない感じするけどちぃちゃんって」

「ちなっちゃん、自己肯定めっちゃ低いよ?自分のことはめちゃくちゃネガティブ、悲壮感すごいよ。私なんか、どうせ、めっちゃ言うよ?あの子」

なべちゃんが呆れたように笑う。



(私なんか?ええ?どこを見てそんな風に思っていたんだろう)



仕事もしっかりして周りにも認められて、いつも身なりもきちんとして可愛くて、愛想もいい。

自分に自信を持った芯のある子、きっとみんなそう思って見ていたはずだ。



「好きって言っちゃったらさぁ、その次に来るのってなんだろうってなるじゃん。悩むと終わることばっかり考えちゃわない?それが職場だよ?きついっしょー、好きって言うほうが辛い、言わない方がマシ、そう思ってたって言ってた」



―そう、言えない。言えなかった。

好きなんて言葉はだんだん簡単に言えなくなるのだ。

大人になるほど、近ければ近いほど、道を踏み違えた時の後悔を考えたら動けるわけない。



「いいなぁ、それでもちなっちゃんたちは思いを通じ合わせたんでしょお?羨ましいしかないよねー」

「あー、なんか頭グワングワンするぅー」

静かに手羽先を食べていたと思ったらちぃちゃんがいきなり頭を抱え出した。



「マジで酔ってきた?大丈夫?」

「私、水もらってくるよ」

なべちゃんが席を立ったのでちぃちゃんのそばにまわって声をかけた。



「大丈夫?ちぃちゃん、気持ち悪いとかない?」

「ぅん?それはないよぉ、らいじょーぶ」

フワッとちぃちゃんの体が後ろに揺れて体を支える。



「――っぶな」

抱きかかえるような体勢になった。これは不可抗力である、と自分を正当化する。



「ぁ、ごめ……」

「いいよ、平気?もう飲むのやめとこーね」

そういうと「はぁい」と笑ってもたれかかってきた。多分、いや絶対無意識、彼女のこういうところがダメだと本当に思う。



(普通はこれ勘違いするからなぁ!期待するからなぁ!錯覚させるからなぁぁ!でも嬉しいからこの体を引き離せない理性の緩い俺がいる……)



「ち、ちぃちゃん?大丈夫、かな?」

肩を掴みつつ覗き込みながら顔を見ると酔いと眠気がきているのかトロンとした上目遣い。



「……ン、らいじょーぶ、です」



(か――、かわっ……)



一瞬で勃ちそうになった自分に焦って頭では身体を離そうと思うのに、一向に俺の手が彼女の身体から離れようとしない。



(いかんいかん、もう絶対ダメだって、離した方がいい、まずいって、俺が!)



「うん、っと……うん、あんまり大丈夫そうには見えないかな、今なべちゃんに水頼んでるからまってね?」

「ん、ぁい」

コクンと頷くのもまた可愛い。支える肩というか二の腕が柔らかくてなんだかポヨポヨとしている。



(なんだよぉ、この柔らかい体はぁぁーーしかもなんかめっちゃいい匂いするな、なんだこれ。そんで抜き襟シャツとかダメ!首筋とかがエロいわぁ!白い、肌が白すぎる、なにこれ舐めたい……)



だんだん自分の思考が犯罪行為になってきて焦ってきた。

盗み見みするわけじゃないが、こんな至近距離で見る機会はもうないし見るなという方が無理がある。チラッという気持ちでがっつりとデコルテあたりを見ると谷間も見えた。



(ちょいちょい!おっぱいデカいな!デカいだろうと思っていたけどホントにデカいな!!なにあの谷間!挟まれたい!!)



全部が見えるわけではないが、デコルテ下の肉厚が巨乳を物語っている。



(あかん、エロスイッチが入って頭の中ではぁはぁしてしまう……捕まる、新聞に載る……会社も首になる、なにより久世さんに絞め殺されるぅぅー)



そんな俺に身の危険でも感じたのか体を起こしたちぃちゃんが不意に俺を見つめてきた。

「……ウッチー?」

「ごめんなさい」とりあえず謝った。

「え?何が?お願いしたいことあるんだけど、いいかな?」



「……なに?」



(もう俺今ならなんでも聞いちゃうかもしれない。お願いの聞きっこでもする?なんて頭の中で妄想してちぃちゃんに問いかけて病んでんのか)



ちぃちゃんの体がグイッと俺に寄ってきて唾を呑んだ。



(ええ!!わあぁぁぁ!!!いい匂いするー!可愛い、だめ、可愛いってば!!)



「……もう我慢しないとダメなんだけど、絶対やめといた方がいいんだけど、どうしても我慢、できなくて……ウッチーがいいって言ってくれたから調子に乗っちゃって……でももうここしかないって思ったらやっぱり我慢できないんだけどお願いしていい?」



(何のお願いですかぁぁ!!俺もしなくていいなら我慢したくないです!!俺はホントにいつでもいい!!いつでもオッケーなの!!)



頭の中では久世さんの嫁!鬼の久世さんの嫁!内臓抉り出されて脳みそガチ割られて最後海に沈められる!と、警笛が鳴っているのに邪な俺が邪魔をする――!!



「頼んでくれる?」

「うん、いいよ!……うん?え、頼む?なにを?」

「さっきの手羽先、まだ食べたい」



(手羽?)



「ちょっと!ウッチー!近い近い!それレッドカードじゃない?」はい!お水、となべちゃんが戻ってくる。



「――いや、違う、これもう本当に違う、もう萎えた、俺萎えてるから」

「何言ってんの?大丈夫?また変なこと考えてたね?」



「――頼ませてもらいます、手羽先」

「わぁい」



(瞬間で体の熱が引いてむしろ冷めてきた。高熱のところに頭から氷水ぶっかけられたくらい冷めた。そんだけ振り回しといてヘラっと笑うのもなんだよ、可愛いんですけど、くそぉー)



「ちなっちゃん、お水飲んで。ほっぺ真っ赤……あんまりお酒強くないんだね、知らなかったよ」

「ありがと、うーん、なんかもう眠い、寝たい……でも手羽先食べてからじゃないと寝れないし、絶対寝ない、食べてから帰る」



(何この子……ええ?ちぃちゃんってこんな食いモン執着強めなの?そういえばいつでもなんかアイスやらチョコやら強請ってきてたけど、あれって気を使ってとかかと思ってたけどガチってこと?)



「これ一人で帰すの危ないよね、久世さんに迎えきてもらった方が良くない?」

なべちゃんに言われてああ……と、思う。



「そうだね、連絡しよっか。先に帰らせてもいいしな、何時だ?」

時計を見ると20時前、久世さんはまだ仕事してそうだ。



「久世さんの連絡先とかウッチー知ってる?」

「知らないわ、佐藤さんしかわからん。まだ会社いそうだけど、事務所かけてみるか」



そうして俺は散々心を振り回されて理性を取り戻したのだった。

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