ゲルマニウムについての考察

相原伊織

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ゲルマニウムについての考察

       ⑤

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 きっかり10分後、山岸くんはふらふらになってクーラー室に飛び込んできた。あやうく紫水晶の壁に耳をこそげ落とされそうになるくらいふらふらだった。
「水もなしにあの後10分なんて…正気の沙汰じゃないぜ」
彼は僕の持っていたスポーツドリンクのペットボトルにむしゃぶりつきながら返事をした。
「10分て決めたんだ。言ったことは守る」
「ふぅん」僕はゲルマニウムのことを考えていた。


 我々は浴場に戻ってシャワーを浴びた。僕はフロントでもらった歯ブラシで歯を磨き、カミソリで髭を剃った。これ使えよ。と、山岸くんが蜂蜜の香りがするボディーソープを貸してくれた。使ってみると、微かにレモンの香りがした。
「ねえ、この歯ブラシセットさ、歯磨き粉のチューブが入ってないんだけど俺だけか?」
「おめえ馬鹿だな。ハナっからブラシんとこに塗ってあるやつだよ。ラブホとかによくあんだろ?」
「へえ…見たことないな。すごい」…ちなみにブラシの毛の硬さも馬の尻が洗えそうなくらいすごかった。僕は小学生の頃、こんな硬さのブラシで毎週上履きを洗っていたことを思い出した。「…すごい」

             ❇︎

 勘定は山岸くんが払ってくれた。次は俺のおごりだ。やはり…と言うべきか、会員登録はされていなかった…。
「ゲルマニウムのせいだぜ?」と彼は言った。「おまえも気をつけろよ」
初夏の夜の外気はまだひんやりとしていて心地良かった。身体は岩盤浴のおかげで芯まで温まっている感じだ。我々は近所の煙草屋で煙草を買い、店の前のベンチに腰を下ろして一服した。
「山岸くん。小説の話だけど…。俺、1作目を決めたよ」
「へぇ! 何のために書くんだ?」
「全宇宙のゲルマニウムのために書くことにした」
彼は声を上げて笑った。「いいじゃん。確かに理解はされづらそうだ」
僕も声を上げて笑った。「タイトルだけは今すぐ決めちまおうと思う。今日は記念日だからね」可能性が心のドアを叩く。
「そんなのこれしかねぇよ」山岸くんが言った。
「『ゲルマニウムについての考察』だろ?」僕は言ってみた。彼は煙草の煙を吐き出しながら、笑った。
「そのとおり」






             END
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感想 1

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みんなの感想(1件)

あさひな
2020.08.21 あさひな

こんばんは!
最近寝る前にちょっとずつ相原先生の作品を読み進めています!
短編小説のなかでこの作品がいちばんすきです( ˙꒳​˙ )
ふたりの掛け合いがすごい日常ぽくて微笑ましいです。

なんとわたしもちょっとずつですが小説をかき始めました。
完成はいつになるかまだまだ未定ですが、よかったらまた飲みながらお話したいです( ˙꒳​˙ )
今週限定で浴衣着たりもしてるのでお時間ある時ふらっと寄ってみてください〜!

2021.03.18 相原伊織

あさひなさん

お返事がたいへん遅くなりごめんなさい。
これまでにアルファポリスで感想を貰ったことがなく、通知が来るものと思い込んでいて全く気がつきませんでした。今慌てて返しているのですが、半年以上も放置してしまってほんとうに申し訳ないです…。

最近(といっても半年以上前のことと思いますが)僕の小説を読んでいただいているということで、たいへん嬉しいです。ありがとうございます。
僕の短編の中でこの作品を一番気に入ってくださった方はあなたが初めてです(笑)

小説を書き始められたとのことで、そのこともとても嬉しく思います!是非のびのびと、あさひなさんの世界を存分に描ききってみてください。
完成したら読ませてくださいね。楽しみにしています。

解除

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