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光と影が交差する芽吹きの章
幕間 衣装論
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深夜。
店の奥、作業台の上には古い布見本と写し取った刺繍図、走り書きの設計紙が散らばっていた。
ヴィッセルは一人、肘をついてそれらを睨みつけ、そしてふいに破顔する。
「……やれる。いや、これは、やらねばならない」
まずはルーチェ。
控えめで、だが芯の強い人だ。色は主張しすぎてはならない。
柔らかな光を含む色、動くたびに表情を変える織り。
古い意匠をそのままなぞるのではなく、今の彼女の立場――辺境伯夫人としての静かな威厳を、線と余白で語らせる。
華美ではないが、近づけば息をのむほど精緻で、彼女の静かな強さと気品を際立たせる設計だ。
袖口にはごく細い透かし模様を入れ、歩くたびに柔らかく揺れる長いスカートには、裏地に淡い色を忍ばせる。
表に出過ぎないが、確かに存在する「奥行き」。
「見る者が頭を下げる服をだな……」
胴はすっきりと、余計な装飾を削ぎ落とし、代わりに首元から胸元にかけて刺繍を施す。
近づいた者だけが気づく緻密さ。思慮深さ。
話すほどに深まる魅力をそのままに。
次にダリウス。
無駄がなく、飾らず、それでいて圧倒的に強い男。
直線的な裁断、深い色合い。
肩と背の線を際立たせ、剣を持たずとも「戦場に立つ者」だと分かる礼装。
宝石はいらない。金属の光沢も最小限でいい。
古い辺境伯家の紋章を、あえて小さく、胸元の留め具にのみ配するのも忘れない。
重ねるマントは群青、内側はわずかに青を含んだ布。
動いたときだけ覗くその色が、剣を持つ男の鋭さを引き立てる。
――以前のように服で侮られるなど、決してあってはならない。
ルーチェのドレスと色を合わせて、威厳ある立ち姿を。
それに、ルーチェのドレスとダリウスの礼装には、同じ文様を銀糸で細く縫い取ろう。
並び立ったときに初めて「揃い」だと気づく仕掛けだ。
ユフェミアの分も忘れない。
彼女は背景に溶け込む才を持つが、消えてはいけない人材だ。
控えめな色に、家格を感じさせる古式のライン。
「奥様の傍らに控えたとき、格が釣り合って見える。それでいて出しゃばらない……」
淡い琥珀色は、亜麻色の長い髪と瞳に自然に馴染むだろう。
胸元と腰回りに、流れるような曲線の装飾を入れ、動作を妨げない軽やかさを重視する。
決して主役を喰わないが、並べば「教養ある淑女」として誰の目にも映る一着。
いざという時はルーチェの盾になる女性だ。
複雑な織は身体を守るための装備でもあった。
カイネとイリア。
実務を担う者たちだ。動きやすさと格式、その両立。
「この二人は、並んだときに「家」を背負って見えるように……」
カイネには、やや明るめの礼装を。
動きやすさを重視しつつ、若さと軽快さが出るよう、留め具にだけ、細かな意匠を凝らす。
イリアは、深い緑。
落ち着いた色合いで、装飾は極力控えめ。
しかし縫製は一級で、立ち姿が自然と美しく見えるよう計算されている。
目立たず、だが隙がない。彼女らしい。
無駄はなく、しかし、そこらの使用人とは格が違うのだと見せつけるように。
最後にセレス。
彼女だけは別枠だ。
舞踏会用ではない。騎士服。
軽さ、強さ、美しさ。
観衆の前で武具を取ることを想定した線。
身体を大きく動かすための伸びやかなライン。
「――これは、惚れるぞ。男女問わず」
ヴィッセルは一歩下がり、部屋全体を見渡した。
紙の上では、すでに王都の夜会が立ち上がりつつある。
「はは……本当に、店を閉めてる場合じゃなかったな」
拳を軽く握りしめる。
スランプ? 冗談じゃない。
これは職人冥利に尽きる。過去と現在を繋ぎ、未来に残す仕事だ。
「腕が鳴るどころじゃない。……燃えるな、これは」
ランプの火が揺れ、机の上の布がかすかに光を返した。
店の奥、作業台の上には古い布見本と写し取った刺繍図、走り書きの設計紙が散らばっていた。
ヴィッセルは一人、肘をついてそれらを睨みつけ、そしてふいに破顔する。
「……やれる。いや、これは、やらねばならない」
まずはルーチェ。
控えめで、だが芯の強い人だ。色は主張しすぎてはならない。
柔らかな光を含む色、動くたびに表情を変える織り。
古い意匠をそのままなぞるのではなく、今の彼女の立場――辺境伯夫人としての静かな威厳を、線と余白で語らせる。
華美ではないが、近づけば息をのむほど精緻で、彼女の静かな強さと気品を際立たせる設計だ。
袖口にはごく細い透かし模様を入れ、歩くたびに柔らかく揺れる長いスカートには、裏地に淡い色を忍ばせる。
表に出過ぎないが、確かに存在する「奥行き」。
「見る者が頭を下げる服をだな……」
胴はすっきりと、余計な装飾を削ぎ落とし、代わりに首元から胸元にかけて刺繍を施す。
近づいた者だけが気づく緻密さ。思慮深さ。
話すほどに深まる魅力をそのままに。
次にダリウス。
無駄がなく、飾らず、それでいて圧倒的に強い男。
直線的な裁断、深い色合い。
肩と背の線を際立たせ、剣を持たずとも「戦場に立つ者」だと分かる礼装。
宝石はいらない。金属の光沢も最小限でいい。
古い辺境伯家の紋章を、あえて小さく、胸元の留め具にのみ配するのも忘れない。
重ねるマントは群青、内側はわずかに青を含んだ布。
動いたときだけ覗くその色が、剣を持つ男の鋭さを引き立てる。
――以前のように服で侮られるなど、決してあってはならない。
ルーチェのドレスと色を合わせて、威厳ある立ち姿を。
それに、ルーチェのドレスとダリウスの礼装には、同じ文様を銀糸で細く縫い取ろう。
並び立ったときに初めて「揃い」だと気づく仕掛けだ。
ユフェミアの分も忘れない。
彼女は背景に溶け込む才を持つが、消えてはいけない人材だ。
控えめな色に、家格を感じさせる古式のライン。
「奥様の傍らに控えたとき、格が釣り合って見える。それでいて出しゃばらない……」
淡い琥珀色は、亜麻色の長い髪と瞳に自然に馴染むだろう。
胸元と腰回りに、流れるような曲線の装飾を入れ、動作を妨げない軽やかさを重視する。
決して主役を喰わないが、並べば「教養ある淑女」として誰の目にも映る一着。
いざという時はルーチェの盾になる女性だ。
複雑な織は身体を守るための装備でもあった。
カイネとイリア。
実務を担う者たちだ。動きやすさと格式、その両立。
「この二人は、並んだときに「家」を背負って見えるように……」
カイネには、やや明るめの礼装を。
動きやすさを重視しつつ、若さと軽快さが出るよう、留め具にだけ、細かな意匠を凝らす。
イリアは、深い緑。
落ち着いた色合いで、装飾は極力控えめ。
しかし縫製は一級で、立ち姿が自然と美しく見えるよう計算されている。
目立たず、だが隙がない。彼女らしい。
無駄はなく、しかし、そこらの使用人とは格が違うのだと見せつけるように。
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軽さ、強さ、美しさ。
観衆の前で武具を取ることを想定した線。
身体を大きく動かすための伸びやかなライン。
「――これは、惚れるぞ。男女問わず」
ヴィッセルは一歩下がり、部屋全体を見渡した。
紙の上では、すでに王都の夜会が立ち上がりつつある。
「はは……本当に、店を閉めてる場合じゃなかったな」
拳を軽く握りしめる。
スランプ? 冗談じゃない。
これは職人冥利に尽きる。過去と現在を繋ぎ、未来に残す仕事だ。
「腕が鳴るどころじゃない。……燃えるな、これは」
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