厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行

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光と影が交差する芽吹きの章

幕間 冬の一等星は困り顔

 様々な思惑が蠢いた、舞踏会。
 その片隅には、異様な人だかりができていた。

 中心にいるのはセレスだった。
「……いえ、身に余る光栄です。しかし申し訳ありません、一介の騎士に過ぎない私には、御令嬢のお相手は不相応というもの……」
 きっぱりと、しかし丁寧に令嬢からの誘いを断る。
 騎士としてこれ以上ないほど模範的な対応である。
 ――にもかかわらず。

「断り方まで凛々しい……」
「近寄りがたいのに、ちゃんとお優しいのよ」
「まあ、あなた、順番をお守りくださいませ」
「冬の夜の一等星の君は、わたくしたち皆のものよ。独り占めなさらないで」
「……御令嬢、その、私は誰かの物などでは」

 ざわ、と熱量が上がる。

「セレス卿があの令嬢にお声を掛けられたわ」
「ずるいわ、私だってずっと見つめておりましたのに」
 
 セレスは内心で静かに頭を抱えていた。
 断っている。ちゃんと断っているはずだ。なのに何故増える。

「皆様すみません、私は主君の護衛として——」
「まあ! 忠義の騎士!」

 別方向に評価が跳ねた。
 いつの間にか、妙な二つ名まで飛び交い始めている。

 冬の夜の一等星の君、北の涼しき風の君、凛々しき白刃卿、麗しの氷の騎士様……

(……この短い間に。誰が名付けたのかな。どう考えても、私はそんな大層な者じゃない。カイネが聞いたら爆笑してひっくり返りそう)
(踊りも一応、練習してきたのに。多分、女側で踊る機会はなさそうだな)
(こんなことなら、男側のリードを練習しておけば良かった。迂闊にお相手をしたら令嬢の足を踏み抜いてしまうし、とにかく断らないと……)
 
 セレスは表情を変えずに思う。
 誰にも失礼のないよう対応しているだけなのに、なぜこうなる。

(私が女だからか、令嬢たちも遠慮なくキャアキャア言って向こうから誘ってくるし……敵ではないから押し除けるわけにもいかないし……)
(どうしよう。護衛の任があるのに。これでは褒められるどころか、後で旦那様にお叱りを受けてしまうかも)
(それに、正直……)

 くるる、と腹の虫が鳴く。

(お腹が空いた……)
(せっかく美味しそうな食事も供されているのに、さっきから全然食べられない……) 
 
「奥様……旦那様ぁ……」
 遠くに見えるのは、ルーチェとダリウスの姿。
 あちらへ行きたい。報告もある。何より、護衛として本来いるべき場所だ。
 イリアもカイネも、ユフェミアも、それぞれの仕事をしているのに。
 テーブルには美味しそうな料理も湯気を立てて並んでいるのに……
 だが。

「セレス卿、次はわたくしと」
「順番をお守りくださいませ」
「一曲くらい、よろしいでしょう?」
「まあ、私が先よ」
「見て、セレス卿が溜め息をつかれたわ」
「ああだめ、憂いを帯びた表情が素敵……」
 踊りに誘う列が、途切れない。

(……助けて!)

 そんなことを思いつつ、セレスはまた一礼した。

「恐れ入りますが、本当に——」

 真面目に対応すればするほど、熱狂が加速するという地獄。
 その中心で、セレスは静かに戦っていた。
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