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離れても想いはめぐる蔦の章
47.それぞれの地で
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ダリウス様のいない日々は、思っていた以上に静かだった。
執務は途切れなく続いているのに、胸の奥にぽっかりと空洞があるような感覚だけが消えない。
人々は口に出しては言わないけれど、魔獣の発生と、それに続く混乱――
直接的には、せっかく安定供給が始まるかと思えば途絶えた、魔晶石にかかわる不安と苛立ちを溜め込んでいるのがわかる。
私は魔晶石関係の折衝に追われていた。
優先供給先は、まず辺境の結界維持のための急遽の返送。各地の治療院と防衛設備。
価格は高騰を抑えるため、一定量を公定価格に固定する。
魔獣討伐後のことも見越して、ルヴァリエ鉱山正式稼働後の交渉も並行して行う。
商人たちは渋い顔をしたけれど、カイネはそういう時に本当に頼りになる。
手練れの商会もいつのまにか説き伏せてしまっていた。
文句を言ってくる貴族はユフェミアが対応し、気づいたらお帰り頂いていた。
机に残る契約書の山を見下ろしながら、私は深く息を整える。
――大丈夫。私にできることは、きちんとやれている。
そんなある日、私はイリアを伴って、リヒト兄様の官舎を訪ねた。
王宮官吏用の寮は、立派とは言えないが、必要なものはすべて揃っている。
ただし、兄様の部屋に限って言えば、「必要なもの」が多すぎた。
扉を開けた瞬間、整然と積み上げられた書類の山が目に入る。
机も棚も、兄様らしくすべて綺麗に区分けされているから汚くはない。
けれどそのすべてが紙と本で埋まっているせいで、部屋自体が狭く見えた。
でも、私にとっては割合に……というより、かなり魅力的な部屋だった。視界の全てが本と書類で埋まる整理された小部屋は、少し羨ましい。
やはり兄妹で似るものかしら、と思いつつ、兄様の仕事の大変さを思って甘い考えを追い出した。
「……兄様。お忙しいのですね」
「これでも減らした結果だ」
真顔で返されて、私は言葉を失う。
「座ってくれ。今、茶を入れる」
そう言って書類を退かす兄様に、イリアが控えめに声をかけた。
「……リヒト様、奥様。それは、私の役目ですので。ただ、茶器の位置が分からず……」
「うん……まあ、そうか。なら、本職に頼もう」
兄様は棚から取り出した茶器をイリアに渡すと、苦笑していた。
私たちは、積まれた書類の間に確保された小さな机を挟んで向かい合う。
小柄なイリアは狭い部屋の中でもくるくると器用に立ち回り、お茶を淹れ終えると、隅の方に立っていた。
「……椅子が少なくてすみません。確かこの下に」
「いえ、私のことは」
「そういうわけにはいかない」
文箱を退かして出てきた椅子に、イリアは恐縮しながらちょこんと腰掛けて、緊張した様子で待っていた。
話題は、自然と――魔獣の件に移った。
「……魔獣の様子が、おかしいそうなの。通常の魔獣と違って、行動が知能的すぎる。魔晶石鉱山から動かないのに、近づくものすべてを敵と見なす。まるで――」
「鉱山に執着しているように、というところか」
兄様は溜め息をついた。
「自然発生とは思えない。しかし、魔獣を意図的に作り出すような技術は、少なくとも知られたものとしては無い。もしあったとしたら禁術だし、正直、そんな技術があるのなら魔獣の生態分析のために提供してほしいくらいだな……」
リヒト兄様は疲れているはずなのに、思考の糸は張り詰めたままらしい。眼鏡の奥の視線が、まっすぐ私に向いている。
「兄様」
「なんだ」
「辺境で捕縛された賊が、魔晶石を持っていたという情報がありました」
兄様の指が、紙の端で止まる。
「屑石だそうですが、確かに魔晶石だったと」
あの報告を聞いた時から、胸の奥に、冷たい違和感が沈んでいた。
あの魔晶石を、賊が持っている理由が未だわからない。
兄様は黙って、しばらく考え込んだ。やがて、低く呟く。
「……屑石でも、魔晶石は魔晶石だ」
その言葉が、静かな部屋に落ちる。
「魔力を帯びている以上、用途はある。実際、ちょっとした魔道具なら動かせる……だが取引目的で持つには、あまりに割に合わない」
兄様は顎に手を当てる。
私は兄様に伝えた。
魔晶石のこと。恐らく、災害級に大量発生した魔獣の正しい埋却が、年月をかけて魔晶石鉱山のもととなっている可能性。
兄様は目を見開き――そして、真剣に聞いてくれた。
「であれば……魔晶石と魔獣の間には、浅からぬ関連性がある、というわけだ。まさか……魔獣に……魔晶石を食わせた、か?」
その一言に、背筋がひやりとする。
兄様は言いながら、ぶつぶつと自分と対話するように考え込んでいた。
「いや、待て。仮にそうだとしても、どうやってだ。魔晶石を砕いて餌にする? そんな発想を、賊が持つとは考えにくいし、実行しようとしても相手は飼い犬じゃない。魔獣を相手どって餌やりなど命が幾つあっても……いや、だが……そうなると鉱山への執着は……」
兄様の声は冷静だったが、言葉の端に、わずかな苛立ちが滲んでいた。
理屈が繋がらないことに苛ついている時の声音だ。
私は、その横顔を見つめながら、胸の奥で何かが固まっていくのを感じていた。
魔獣。
魔晶石。
そして、烙印。
「……やっぱり、変ですよね」
私の言葉に、兄様は小さく鼻を鳴らした。
「変だな。少なくとも偶然で片付けるには、要素が揃いすぎている」
その視線が、私に戻る。
「魔獣についても、烙印についても、まだ分かっていないことが多すぎる。……恐らく神殿が隠している情報は多い、と俺は見ている」
私は、ゆっくりと頷いた。
「兄様はお仕事がおありでしょう。そちらについては私が調べてみます」
不思議と迷いはなかった。
恐ろしさはある。それでも、知らないままでいる方が、もっと怖い。
「この機会に、この身にある烙印のことももう一度。記録を洗い直します」
兄様は、しばらく私を見ていたが、やがて頷いた。
「わかった。お前はそちらを頼む。だが決して、不用意に敵が隠しているところに踏み込むなよ。今のところ、神殿も公爵家も、お前よりも俺の方をうるさいと思っているだろうから、お前はその間に、まずはもう一度手の届く範囲を調べ直すんだ」
「はい。……兄様」
「これで、王都からヴァルト辺境伯殿へ支援が送れればいいのだが。……やはり第二王子派に、その気はないのだろうな」
「……」
「近く、会議が招集される筈だ。……俺もできる限りは、やってみよう」
兄様は苦く微笑んだ。
◆
ダリウスが到着した北の辺境の空気は、王都とはまるで違っていた。
暦では春になってしばらく経つというのに、乾いた風が肌を刺し、遠くで砂と岩が擦れる音が絶えず耳に残る。
遠くの山頂はまだ雪をかぶったままで、山肌にも雪が残っている。
ダリウスは物見台に立ち、陣の向こうに広がる鉱山地帯を見下ろしていた。
視界の先には、ルヴァリエ鉱山――この地の血脈とも言える場所がある。
「旦那様」
背後から、控えめな声がかかる。トトリだった。
いつもと変わらずおっとりした声だが、疲労が滲んでいる。
「報告を」
「はい。魔獣は依然としてルヴァリエ鉱山周辺に執着しています。一定距離まで近づくと即座に攻撃行動に移行しますから……その範囲が段々と広がっており、このままでは防衛線を下げることになります」
ダリウスは眉を寄せる。
「仕掛けた囮は」
「効果なしです。家畜、音――どれにも反応はしますが、鉱山から一定以上離れることはありません。人間だけに反応しているようです。通常種の魔獣の方は、寧ろあの大型魔獣に怯えて近づいてきません」
「結界は?」
傍にいたセレスが問う。
「うん……正直状況は良くないよ。そもそも三重に強化していた結界を、あの大型種に破られて鉱山を押さえられましたから。現在はさらに重ねて強化しています。ただ……結界を維持、あるいは移動させるための魔晶石が、鉱山内にある以上、このままでは補給元を絶たれたこちらが先に消耗します。別の鉱山からの援助があれば、また話は変わりますが……」
その言葉に、ダリウスは短く息を吐いた。
「……直接叩くのが早いと、俺も思います。ですが、ある程度は弱らせてからでなければ、玉砕前提の作戦です」
「最初にお前が殴った時の感触は?」
「効いてない、って感覚で……表面の鱗を砕いたと思った次の瞬間、再生されました。その上、あの巨体で素早く旋回されると、多分、尻尾にぶち当たるだけで危険です」
遠眼鏡を取り、ダリウスは鉱山の方角へと視線を向ける。
最初は岩山の影にしか見えなかったそれが、焦点を合わせるにつれ、はっきりと輪郭を持ち始めた。
魔獣は四足で大地に伏せるように佇んでいた。
全身は黒褐色の鱗に覆われ鈍い光を放っている。
裂けた口からは、時折、蒸気のような白い息が漏れていた。
そして、背には退化した翼があった。
骨張った翼骨に薄い膜が張りついている。
だが、その大きさは明らかに異常だった。通常個体よりも一回り、いや、それ以上に大きい。
地面に引きずるように折り畳まれた翼の先が、岩を削り、砂を舞い上げている。
トトリがそっと呟いた。
「……旦那様。あれ、飛ばない、ですよねぇ……?」
思わず漏れた言葉。
誰もが同じ不安を抱いていた。
魔獣は元々、翼めいた形の骨を背中に露出させている。かつては飛ぶ種もいたのかもしれない。
だが、現在発見される魔獣にあるのは、重い体を支えて飛ぶことのできない、退化しきった代物だ。
ましてやあんな巨体が飛ぶとも思えないが――魔獣は未だ解明されていないことばかりだ。絶対ではない。
魔獣は、のそりと身体を起こした。
地鳴りのような振動が、遠眼鏡越しでも伝わってくる。
頭を巡らせ、鉱山の入り口へと顔を寄せる様子は、まるでそこに何かを求めているかのようだった。
「何故……よりによって鉱山に執着するのだろうな」
人間は、体内に魔力を生むことも、溜め込むこともできない。だから、魔晶石という燃料を使ってさまざまな事象を起こし、活用している。
一方の魔獣はどうやら体内に魔力を生み出して溜め込み、そして活動時に体内でその魔力を、人間にとっては毒となる瘴気に変換している。そして、死ぬとそれが体外に放出されて疫病の元になる。
故に、そもそも魔獣は魔晶石に興味を示さない筈だ。自らの体内で生み出せるものをわざわざ求めてもいない。
「はい。まるで……守っているか、あるいは、縋りついているように見えます」
トトリの言葉に、ダリウスは遠眼鏡を下ろした。
これが人間を相手にしている戦争であれば、補給元を押さえる戦略なのだろうと思うところだが――魔獣にそんな知能はない筈だ。
どちらにせよ、このままでは鉱山も、人も、すり減っていく。
「旦那様、こちらへ」
物見台を降りる。
野営地の中央に張られた天幕の中は、低い声と紙の擦れる音で満ちていた。
簡易机の上には、ルヴァリエ鉱山周辺の地図、これまでの戦闘記録、消費した魔晶石の数量を示す資料が並べられている。
ダリウスは腕を組み、地図の一点――鉱山を示す印に視線を落としたまま、報告を聞いていた。
「結界維持用で、残りは二週間分が限界です」
「攻撃用に回せる余剰は、ほぼありません」
「補給路は確保されていますが、王都からの追加搬入は叶うでしょうか。支援は……」
誰もが同じ結論に辿り着いている。
このままでは、戦いを続けることは難しい。
「……」
ダリウスは短く息を吐く。
「今はまだ、押さえられるが……今ある魔晶石が尽きれば、魔獣を討つ前に、俺たちの方が燃料切れで結界を失い、倒れる目算だな」
沈黙が落ちる。
鉱山から魔獣を退かすために魔晶石が必要であり、結界を維持するにも魔晶石が要る。
だが、その鉱山に魔獣が執着している以上、内部から魔晶石を融通することはできない。
「魔獣を動かせれば話は別だが……」
「囮は効かない、威嚇にも反応しない」
「むしろ、近づくほど警戒範囲を広げてきます」
ダリウスは地図の縁を指でなぞりながら、思考を巡らせた。
正攻法では削り合いになる。
削り合いの先にあるのは、敗北だ。
「攻撃回数を減らす。致命打以外は、結界と牽制に専念する。……仕掛ける時は見極めなければ」
部下たちは頷いたが、表情は硬い。
それが苦肉の策であることを、誰もが理解している。
白い息を吐き、ダリウスは拳を握りしめた。
厚い手袋越しに、小指の指輪の感触が伝わる。
――ルーチェ。
不意に、彼女の顔が脳裏に浮かぶ。
出立前夜、あの小さな部屋で、互いの指輪を交換した時のこと。
あの澄んだ翠の瞳がダリウスを見つめていた。
不安も恐れも、全部抱えたまま、それでも信じると言う目だった。
――そこへ。
「旦那様! 王都の奥様より物資のお届けものです!」
張り上げられた声に、天幕の中の空気が一変する。
ダリウスは思わず顔を上げた。
「……物資?」
この状況で、しかもこの早さで?
一瞬、理解が追いつかなかったが、続いて運び込まれた木箱を見て息を呑む。
箱はどれも丁寧に封がされ、開かなくとも中身が分かるよう簡潔な札が下げられていた。
ルーチェの提案した整理法だと知れる。
王都の邸に保存していた高純度の魔晶石。負傷兵用の治癒薬。保存の利く食料。
そして、兵の防寒用の外套、こまごまとした衣類、手袋まで。
確かにダリウスは、砦の状況を見るや、不足のある物資について手紙を書き送っていた。
しかしそれは、まだ到着していない筈だ。
恐らくこれらの物資は出立直後に送ってくれたのだろう。
数は決して十分ではない。しかし、当座の入り用として望んだものが、不足なく収められている。
それには手紙が添えられていて――差し出された封筒を見た瞬間、ダリウスは何も言わずに受け取った。
白いシンプルな封筒。見慣れた文字。
「奥様からですよね」
兵士たちの声は、自然と柔らかくなる。
「ありがたいな」
ダリウスはその言葉に、小さく頷いた。
手袋は分かりやすく、箱にやけに可愛い包装がなされている。
その意図に気づき、手袋は好きに選べと許して箱を開けたら、兵たちがぱっと華やいだ。
緊張した前線にほっとした空気が広がる。
「……」
天幕の外に出てから、手紙の封を切る。
戦場の埃と血の匂いの中で、そこだけ空気が変わった気がした。
「――ダリウス様。
ご無事で領地へ到着された頃と願っております。
けれど、魔獣の件、鉱山の件、きっと想像以上に厳しい状況だと思います。
ご出立直後で慌ただしい中でしたが、今できる範囲で物資を取りまとめ、できる限りの手配をしました。
入れ違いになってしまったらどうかお許しください。
十分とは言えませんが、どうか皆さまの助けになりますように。
私は、今日はこれから、リヒト兄様に会いに行って参ります。
魔獣のこと、烙印のこと、兄様のお知恵も借りたいですし、私は私でできることを致します。
王都では、近く緊急の会議に呼ばれることになりそうです。
微力ではありますが、私は辺境伯代理として出席致します。
王都からの追加物資供給と人員派遣について、私の口から強く要請するつもりです。
無理をなさらず、怪我をなさらず、そして――必ずお戻りください。
あなたが帰ってきてくださる場所で、私は待っています。
ルーチェ」
最後の一文を読み終えたところで、ダリウスはしばらく動けなくなった。
――帰ってきてくださる場所で、私は待っています。
王都の邸でも、辺境の邸でもない。
自分が無事に戻る、その先に彼女がいるという、ただそれだけの言葉。
出立前夜、指輪を交換したときのことが、ふっと蘇る。
震える指先で、必死に平静を装っていたルーチェ。
笑おうとして、うまく笑えなかった顔。
ルーチェは甘えた仕草はそうそうしない。
ただ、真っ直ぐで、控えめで――けれど、時折、可愛らしい隙が見える。
以前、ダリウスが仕事に没頭して、寝室に戻るのが遅くなった夜。
部屋に戻ると、ルーチェは本を読みながら、ソファで舟を漕いでいた。
声をかけたら、はっと顔を上げて、少しだけ恥ずかしそうに笑った。
流行りの本でもなく、一抱えもある分厚い歴史書を膝の上に置いたままにうたた寝していたから、足が痺れて立てないと恥ずかしがって。
思わず抱き上げて運んでやったら、くすぐったいと笑っていた。
あの時も、胸が詰まるほど愛おしかった。
「……まったく」
小さく息を吐き、手紙を胸元にしまう。
――離れたのはほんの数日前なのに。
――もう、逢いたい。
兵たちが微笑ましそうにこちらを見ていたことに気づき、ダリウスは咳払いした。
我知らず頬が緩んでいた。
「……魔獣の監視を続ける。ルーチェは王都に援軍を要請する心算だそうだ。俺からも報告と要請の手紙を送ろう。叶うかは分からないが……言わねば来るものも来るまい」
ダリウスは現実に意識を戻し、はっきりと言った。
「その間に、あの大型魔獣の習性を徹底的に洗い出す。――必ず、隙はある筈だ」
「はっ!」
「……魔獣を始末し、皆で帰ろう」
一瞬、静寂が落ちたあと、力強い返事が返ってきた。
「「はい!」」
ダリウスは、遠くルヴァリエ鉱山の方角を見据える。
――待っていると言った、その言葉に応えるために。
執務は途切れなく続いているのに、胸の奥にぽっかりと空洞があるような感覚だけが消えない。
人々は口に出しては言わないけれど、魔獣の発生と、それに続く混乱――
直接的には、せっかく安定供給が始まるかと思えば途絶えた、魔晶石にかかわる不安と苛立ちを溜め込んでいるのがわかる。
私は魔晶石関係の折衝に追われていた。
優先供給先は、まず辺境の結界維持のための急遽の返送。各地の治療院と防衛設備。
価格は高騰を抑えるため、一定量を公定価格に固定する。
魔獣討伐後のことも見越して、ルヴァリエ鉱山正式稼働後の交渉も並行して行う。
商人たちは渋い顔をしたけれど、カイネはそういう時に本当に頼りになる。
手練れの商会もいつのまにか説き伏せてしまっていた。
文句を言ってくる貴族はユフェミアが対応し、気づいたらお帰り頂いていた。
机に残る契約書の山を見下ろしながら、私は深く息を整える。
――大丈夫。私にできることは、きちんとやれている。
そんなある日、私はイリアを伴って、リヒト兄様の官舎を訪ねた。
王宮官吏用の寮は、立派とは言えないが、必要なものはすべて揃っている。
ただし、兄様の部屋に限って言えば、「必要なもの」が多すぎた。
扉を開けた瞬間、整然と積み上げられた書類の山が目に入る。
机も棚も、兄様らしくすべて綺麗に区分けされているから汚くはない。
けれどそのすべてが紙と本で埋まっているせいで、部屋自体が狭く見えた。
でも、私にとっては割合に……というより、かなり魅力的な部屋だった。視界の全てが本と書類で埋まる整理された小部屋は、少し羨ましい。
やはり兄妹で似るものかしら、と思いつつ、兄様の仕事の大変さを思って甘い考えを追い出した。
「……兄様。お忙しいのですね」
「これでも減らした結果だ」
真顔で返されて、私は言葉を失う。
「座ってくれ。今、茶を入れる」
そう言って書類を退かす兄様に、イリアが控えめに声をかけた。
「……リヒト様、奥様。それは、私の役目ですので。ただ、茶器の位置が分からず……」
「うん……まあ、そうか。なら、本職に頼もう」
兄様は棚から取り出した茶器をイリアに渡すと、苦笑していた。
私たちは、積まれた書類の間に確保された小さな机を挟んで向かい合う。
小柄なイリアは狭い部屋の中でもくるくると器用に立ち回り、お茶を淹れ終えると、隅の方に立っていた。
「……椅子が少なくてすみません。確かこの下に」
「いえ、私のことは」
「そういうわけにはいかない」
文箱を退かして出てきた椅子に、イリアは恐縮しながらちょこんと腰掛けて、緊張した様子で待っていた。
話題は、自然と――魔獣の件に移った。
「……魔獣の様子が、おかしいそうなの。通常の魔獣と違って、行動が知能的すぎる。魔晶石鉱山から動かないのに、近づくものすべてを敵と見なす。まるで――」
「鉱山に執着しているように、というところか」
兄様は溜め息をついた。
「自然発生とは思えない。しかし、魔獣を意図的に作り出すような技術は、少なくとも知られたものとしては無い。もしあったとしたら禁術だし、正直、そんな技術があるのなら魔獣の生態分析のために提供してほしいくらいだな……」
リヒト兄様は疲れているはずなのに、思考の糸は張り詰めたままらしい。眼鏡の奥の視線が、まっすぐ私に向いている。
「兄様」
「なんだ」
「辺境で捕縛された賊が、魔晶石を持っていたという情報がありました」
兄様の指が、紙の端で止まる。
「屑石だそうですが、確かに魔晶石だったと」
あの報告を聞いた時から、胸の奥に、冷たい違和感が沈んでいた。
あの魔晶石を、賊が持っている理由が未だわからない。
兄様は黙って、しばらく考え込んだ。やがて、低く呟く。
「……屑石でも、魔晶石は魔晶石だ」
その言葉が、静かな部屋に落ちる。
「魔力を帯びている以上、用途はある。実際、ちょっとした魔道具なら動かせる……だが取引目的で持つには、あまりに割に合わない」
兄様は顎に手を当てる。
私は兄様に伝えた。
魔晶石のこと。恐らく、災害級に大量発生した魔獣の正しい埋却が、年月をかけて魔晶石鉱山のもととなっている可能性。
兄様は目を見開き――そして、真剣に聞いてくれた。
「であれば……魔晶石と魔獣の間には、浅からぬ関連性がある、というわけだ。まさか……魔獣に……魔晶石を食わせた、か?」
その一言に、背筋がひやりとする。
兄様は言いながら、ぶつぶつと自分と対話するように考え込んでいた。
「いや、待て。仮にそうだとしても、どうやってだ。魔晶石を砕いて餌にする? そんな発想を、賊が持つとは考えにくいし、実行しようとしても相手は飼い犬じゃない。魔獣を相手どって餌やりなど命が幾つあっても……いや、だが……そうなると鉱山への執着は……」
兄様の声は冷静だったが、言葉の端に、わずかな苛立ちが滲んでいた。
理屈が繋がらないことに苛ついている時の声音だ。
私は、その横顔を見つめながら、胸の奥で何かが固まっていくのを感じていた。
魔獣。
魔晶石。
そして、烙印。
「……やっぱり、変ですよね」
私の言葉に、兄様は小さく鼻を鳴らした。
「変だな。少なくとも偶然で片付けるには、要素が揃いすぎている」
その視線が、私に戻る。
「魔獣についても、烙印についても、まだ分かっていないことが多すぎる。……恐らく神殿が隠している情報は多い、と俺は見ている」
私は、ゆっくりと頷いた。
「兄様はお仕事がおありでしょう。そちらについては私が調べてみます」
不思議と迷いはなかった。
恐ろしさはある。それでも、知らないままでいる方が、もっと怖い。
「この機会に、この身にある烙印のことももう一度。記録を洗い直します」
兄様は、しばらく私を見ていたが、やがて頷いた。
「わかった。お前はそちらを頼む。だが決して、不用意に敵が隠しているところに踏み込むなよ。今のところ、神殿も公爵家も、お前よりも俺の方をうるさいと思っているだろうから、お前はその間に、まずはもう一度手の届く範囲を調べ直すんだ」
「はい。……兄様」
「これで、王都からヴァルト辺境伯殿へ支援が送れればいいのだが。……やはり第二王子派に、その気はないのだろうな」
「……」
「近く、会議が招集される筈だ。……俺もできる限りは、やってみよう」
兄様は苦く微笑んだ。
◆
ダリウスが到着した北の辺境の空気は、王都とはまるで違っていた。
暦では春になってしばらく経つというのに、乾いた風が肌を刺し、遠くで砂と岩が擦れる音が絶えず耳に残る。
遠くの山頂はまだ雪をかぶったままで、山肌にも雪が残っている。
ダリウスは物見台に立ち、陣の向こうに広がる鉱山地帯を見下ろしていた。
視界の先には、ルヴァリエ鉱山――この地の血脈とも言える場所がある。
「旦那様」
背後から、控えめな声がかかる。トトリだった。
いつもと変わらずおっとりした声だが、疲労が滲んでいる。
「報告を」
「はい。魔獣は依然としてルヴァリエ鉱山周辺に執着しています。一定距離まで近づくと即座に攻撃行動に移行しますから……その範囲が段々と広がっており、このままでは防衛線を下げることになります」
ダリウスは眉を寄せる。
「仕掛けた囮は」
「効果なしです。家畜、音――どれにも反応はしますが、鉱山から一定以上離れることはありません。人間だけに反応しているようです。通常種の魔獣の方は、寧ろあの大型魔獣に怯えて近づいてきません」
「結界は?」
傍にいたセレスが問う。
「うん……正直状況は良くないよ。そもそも三重に強化していた結界を、あの大型種に破られて鉱山を押さえられましたから。現在はさらに重ねて強化しています。ただ……結界を維持、あるいは移動させるための魔晶石が、鉱山内にある以上、このままでは補給元を絶たれたこちらが先に消耗します。別の鉱山からの援助があれば、また話は変わりますが……」
その言葉に、ダリウスは短く息を吐いた。
「……直接叩くのが早いと、俺も思います。ですが、ある程度は弱らせてからでなければ、玉砕前提の作戦です」
「最初にお前が殴った時の感触は?」
「効いてない、って感覚で……表面の鱗を砕いたと思った次の瞬間、再生されました。その上、あの巨体で素早く旋回されると、多分、尻尾にぶち当たるだけで危険です」
遠眼鏡を取り、ダリウスは鉱山の方角へと視線を向ける。
最初は岩山の影にしか見えなかったそれが、焦点を合わせるにつれ、はっきりと輪郭を持ち始めた。
魔獣は四足で大地に伏せるように佇んでいた。
全身は黒褐色の鱗に覆われ鈍い光を放っている。
裂けた口からは、時折、蒸気のような白い息が漏れていた。
そして、背には退化した翼があった。
骨張った翼骨に薄い膜が張りついている。
だが、その大きさは明らかに異常だった。通常個体よりも一回り、いや、それ以上に大きい。
地面に引きずるように折り畳まれた翼の先が、岩を削り、砂を舞い上げている。
トトリがそっと呟いた。
「……旦那様。あれ、飛ばない、ですよねぇ……?」
思わず漏れた言葉。
誰もが同じ不安を抱いていた。
魔獣は元々、翼めいた形の骨を背中に露出させている。かつては飛ぶ種もいたのかもしれない。
だが、現在発見される魔獣にあるのは、重い体を支えて飛ぶことのできない、退化しきった代物だ。
ましてやあんな巨体が飛ぶとも思えないが――魔獣は未だ解明されていないことばかりだ。絶対ではない。
魔獣は、のそりと身体を起こした。
地鳴りのような振動が、遠眼鏡越しでも伝わってくる。
頭を巡らせ、鉱山の入り口へと顔を寄せる様子は、まるでそこに何かを求めているかのようだった。
「何故……よりによって鉱山に執着するのだろうな」
人間は、体内に魔力を生むことも、溜め込むこともできない。だから、魔晶石という燃料を使ってさまざまな事象を起こし、活用している。
一方の魔獣はどうやら体内に魔力を生み出して溜め込み、そして活動時に体内でその魔力を、人間にとっては毒となる瘴気に変換している。そして、死ぬとそれが体外に放出されて疫病の元になる。
故に、そもそも魔獣は魔晶石に興味を示さない筈だ。自らの体内で生み出せるものをわざわざ求めてもいない。
「はい。まるで……守っているか、あるいは、縋りついているように見えます」
トトリの言葉に、ダリウスは遠眼鏡を下ろした。
これが人間を相手にしている戦争であれば、補給元を押さえる戦略なのだろうと思うところだが――魔獣にそんな知能はない筈だ。
どちらにせよ、このままでは鉱山も、人も、すり減っていく。
「旦那様、こちらへ」
物見台を降りる。
野営地の中央に張られた天幕の中は、低い声と紙の擦れる音で満ちていた。
簡易机の上には、ルヴァリエ鉱山周辺の地図、これまでの戦闘記録、消費した魔晶石の数量を示す資料が並べられている。
ダリウスは腕を組み、地図の一点――鉱山を示す印に視線を落としたまま、報告を聞いていた。
「結界維持用で、残りは二週間分が限界です」
「攻撃用に回せる余剰は、ほぼありません」
「補給路は確保されていますが、王都からの追加搬入は叶うでしょうか。支援は……」
誰もが同じ結論に辿り着いている。
このままでは、戦いを続けることは難しい。
「……」
ダリウスは短く息を吐く。
「今はまだ、押さえられるが……今ある魔晶石が尽きれば、魔獣を討つ前に、俺たちの方が燃料切れで結界を失い、倒れる目算だな」
沈黙が落ちる。
鉱山から魔獣を退かすために魔晶石が必要であり、結界を維持するにも魔晶石が要る。
だが、その鉱山に魔獣が執着している以上、内部から魔晶石を融通することはできない。
「魔獣を動かせれば話は別だが……」
「囮は効かない、威嚇にも反応しない」
「むしろ、近づくほど警戒範囲を広げてきます」
ダリウスは地図の縁を指でなぞりながら、思考を巡らせた。
正攻法では削り合いになる。
削り合いの先にあるのは、敗北だ。
「攻撃回数を減らす。致命打以外は、結界と牽制に専念する。……仕掛ける時は見極めなければ」
部下たちは頷いたが、表情は硬い。
それが苦肉の策であることを、誰もが理解している。
白い息を吐き、ダリウスは拳を握りしめた。
厚い手袋越しに、小指の指輪の感触が伝わる。
――ルーチェ。
不意に、彼女の顔が脳裏に浮かぶ。
出立前夜、あの小さな部屋で、互いの指輪を交換した時のこと。
あの澄んだ翠の瞳がダリウスを見つめていた。
不安も恐れも、全部抱えたまま、それでも信じると言う目だった。
――そこへ。
「旦那様! 王都の奥様より物資のお届けものです!」
張り上げられた声に、天幕の中の空気が一変する。
ダリウスは思わず顔を上げた。
「……物資?」
この状況で、しかもこの早さで?
一瞬、理解が追いつかなかったが、続いて運び込まれた木箱を見て息を呑む。
箱はどれも丁寧に封がされ、開かなくとも中身が分かるよう簡潔な札が下げられていた。
ルーチェの提案した整理法だと知れる。
王都の邸に保存していた高純度の魔晶石。負傷兵用の治癒薬。保存の利く食料。
そして、兵の防寒用の外套、こまごまとした衣類、手袋まで。
確かにダリウスは、砦の状況を見るや、不足のある物資について手紙を書き送っていた。
しかしそれは、まだ到着していない筈だ。
恐らくこれらの物資は出立直後に送ってくれたのだろう。
数は決して十分ではない。しかし、当座の入り用として望んだものが、不足なく収められている。
それには手紙が添えられていて――差し出された封筒を見た瞬間、ダリウスは何も言わずに受け取った。
白いシンプルな封筒。見慣れた文字。
「奥様からですよね」
兵士たちの声は、自然と柔らかくなる。
「ありがたいな」
ダリウスはその言葉に、小さく頷いた。
手袋は分かりやすく、箱にやけに可愛い包装がなされている。
その意図に気づき、手袋は好きに選べと許して箱を開けたら、兵たちがぱっと華やいだ。
緊張した前線にほっとした空気が広がる。
「……」
天幕の外に出てから、手紙の封を切る。
戦場の埃と血の匂いの中で、そこだけ空気が変わった気がした。
「――ダリウス様。
ご無事で領地へ到着された頃と願っております。
けれど、魔獣の件、鉱山の件、きっと想像以上に厳しい状況だと思います。
ご出立直後で慌ただしい中でしたが、今できる範囲で物資を取りまとめ、できる限りの手配をしました。
入れ違いになってしまったらどうかお許しください。
十分とは言えませんが、どうか皆さまの助けになりますように。
私は、今日はこれから、リヒト兄様に会いに行って参ります。
魔獣のこと、烙印のこと、兄様のお知恵も借りたいですし、私は私でできることを致します。
王都では、近く緊急の会議に呼ばれることになりそうです。
微力ではありますが、私は辺境伯代理として出席致します。
王都からの追加物資供給と人員派遣について、私の口から強く要請するつもりです。
無理をなさらず、怪我をなさらず、そして――必ずお戻りください。
あなたが帰ってきてくださる場所で、私は待っています。
ルーチェ」
最後の一文を読み終えたところで、ダリウスはしばらく動けなくなった。
――帰ってきてくださる場所で、私は待っています。
王都の邸でも、辺境の邸でもない。
自分が無事に戻る、その先に彼女がいるという、ただそれだけの言葉。
出立前夜、指輪を交換したときのことが、ふっと蘇る。
震える指先で、必死に平静を装っていたルーチェ。
笑おうとして、うまく笑えなかった顔。
ルーチェは甘えた仕草はそうそうしない。
ただ、真っ直ぐで、控えめで――けれど、時折、可愛らしい隙が見える。
以前、ダリウスが仕事に没頭して、寝室に戻るのが遅くなった夜。
部屋に戻ると、ルーチェは本を読みながら、ソファで舟を漕いでいた。
声をかけたら、はっと顔を上げて、少しだけ恥ずかしそうに笑った。
流行りの本でもなく、一抱えもある分厚い歴史書を膝の上に置いたままにうたた寝していたから、足が痺れて立てないと恥ずかしがって。
思わず抱き上げて運んでやったら、くすぐったいと笑っていた。
あの時も、胸が詰まるほど愛おしかった。
「……まったく」
小さく息を吐き、手紙を胸元にしまう。
――離れたのはほんの数日前なのに。
――もう、逢いたい。
兵たちが微笑ましそうにこちらを見ていたことに気づき、ダリウスは咳払いした。
我知らず頬が緩んでいた。
「……魔獣の監視を続ける。ルーチェは王都に援軍を要請する心算だそうだ。俺からも報告と要請の手紙を送ろう。叶うかは分からないが……言わねば来るものも来るまい」
ダリウスは現実に意識を戻し、はっきりと言った。
「その間に、あの大型魔獣の習性を徹底的に洗い出す。――必ず、隙はある筈だ」
「はっ!」
「……魔獣を始末し、皆で帰ろう」
一瞬、静寂が落ちたあと、力強い返事が返ってきた。
「「はい!」」
ダリウスは、遠くルヴァリエ鉱山の方角を見据える。
――待っていると言った、その言葉に応えるために。
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