36 / 73
第2章:王都謀略編
36話:安心して
アーレン領に帰ってきた。
馬車を降りた瞬間、空気が違うと思った。王都の密度とは違う、広くて冷たい北の風。何日ぶりだろう。十日は超えている。
「おかえりなさいませ、アイリス様」
セバスが玄関に立っていた。いつも通り。この人は帰りの日をどうやって読んでいるのだろう。手紙を出したわけでもないのに。
「ただいま。留守中の帳簿は」
「お机の上に」
執務室に入った。帳簿を開いた。収支、住民対応、物資の受発注。どれも抜けがない。軟膏の出荷記録もある。品質停止の期間中も、在庫管理と原料の仕入れは止めずに回してくれていた。
「トビアスと相談して、停止が解けた直後に出荷を再開できるよう準備しておきました」
「……完璧ね。いつも通り」
「恐れ入ります」
セバスが紅茶を置いた。温度がちょうどいい。
***
午後、領地を回った。グレンが隣を歩いている。
道が伸びていた。南の倉庫は壁まで出来上がっている。住居の修繕も進んでいる。ルッツたちは留守中も止まらなかったらしい。
「……いい領地になりましたね」
グレンが言った。
足が止まった。
この人が、自分から何かを言う。それだけで珍しい。まして「いい領地」と評価めいたことを口にするなんて。
「前は悪い場所だったの?」
「いえ。……ただ、以前とは別のものになったと思います。別の場所と比べるなら」
「別の場所?」
グレンが黙った。歩きながら、前を見ている。
「王都です。自分がいた頃の」
(珍しい。この人が昔の話をするなんて)
黙って歩いた。聞き手に回る。グレンが話したいなら、聞く。話したくないなら、そのまま歩くだけ。
「……近衛にいた頃の話です」
グレンが言った。声のトーンは変わらない。いつもの低い声。
「悪い場所ではありませんでした。同僚は皆、それぞれ正義があって、良い人間が多かった」
「うん」
「ただ、上官が——屑だった」
敬語から外れた。グレンの口からその言葉が出てきたことに、少し驚いた。
「王国民の税金を横領していました。公金の輸送に立ち会うことがあって、金額が合わないことに気づきました。上に報告しました」
「それで?」
「前線への公金輸送を任されました。封印金庫で受け取って、届け先で開けたら、中身が足りなかった」
「抜いたのはお前だと言われました。封印金庫は開封時に初めて中身が確認される。途中で抜くことは物理的に可能だが、途中で確認する手段がない。渡された時点で足りなかったのか、自分が抜いたのか、証明のしようがない」
「……それで左遷」
「はい。証拠不十分で処分は軽かったのですが、近衛にはいられなくなりました。辺境の護衛任務に回されて——ここに来ました」
足を動かし続けていた。領地の南側を歩いている。倉庫の壁が午後の光を受けている。ルッツたちの声が遠くから聞こえる。
「何が起きているか分からなかった、というのが正直なところです。横領を報告した自分が、なぜ公金を盗んだことにされているのか」
グレンがこちらを見ないまま言った。
「今は、少し分かります。報告したから、消されたのだと。邪魔だったのだと」
「……そうね」
それだけ返した。深追いはしない。
グレンが黙った。しばらく足音だけが続いた。
「少し話しすぎました」
「そんなことないわ」
立ち止まった。グレンも止まった。
「安心して」
グレンの目がわずかに動いた。
「あなたがここにいる理由は、私が知ってる」
一拍、置いた。言葉を選んだわけじゃない。ちゃんと届くように、それだけ。
「正しいことをした人を、正しくないと言った人たちがいた。——それだけのことよ」
グレンがこちらを見た。
「だから安心して。ここでは、そういうことは起きないわ」
笑った。そうしようと思ったわけじゃないけど、口が勝手に動いていた。
グレンが息を止めたのが分かった。
灰色の瞳が、こちらを捕えたまま動かない。いつもの護衛の目じゃなく、初めて見る目だった。何が映っているのか分からない。——胸の奥が、ざわついた。
風が吹いて髪が揺れた。それでもグレンの目は動かなかった。
耳の先が、赤くなっていた。
「……守るのは自分の仕事です」
声がかすかに上擦っていた。
「護衛ですから」
(この人、また同じこと言ってる)
笑いそうになったけど、堪えた。追い詰めると歩く速度が倍になるので。
「そうね。護衛ね」
歩き出した。グレンが半拍遅れてついてくる。耳が赤いまま。
***
翌日。ルッツを呼んだ。
執務室に図面用の大きな紙を広げた。
「ルッツ、頼みがあるの」
「何ですか?」
「軟膏事業が安定してきた。出荷先も増える。そうなると、この領地全体をどう整備していくか、先を見て計画を立てないといけない」
「はい」
「倉庫一棟の話じゃなくて、領地全体の話。道、建物、住居、保管施設、荷馬車の通り道。全部含めて、計画を作ってほしい」
ルッツの目が変わった。
「……全体の、ですか」
「そう。あなたに任せたい。三日で出して」
「やります」
***
三日後、ルッツが図面を持ってきた。
大きな紙に、領地の全体図が描かれている。建物の配置、道の計画、倉庫の位置。手を抜いていないのは一目で分かる。線は正確で、寸法も入っている。
ただ。
(……動線がおかしい)
保管庫と作業場が離れすぎている。住居が荷馬車道に面していて、搬入時に住民の動線と交差する。倉庫は大きいが、将来増築する時に隣の建物が邪魔になる配置。
以前、倉庫一棟を任せた時と同じだった。あの時は「建てやすさで場所を選んじゃいました」と言った。今回は領地全体。規模が大きい分、粗がはっきり見える。
「ルッツ」
「はい」
「この保管庫、なぜここに置いたの?」
「地盤が一番安定しているのがここなので」
「作業場との距離は?」
「……すみません、そこは——」
「この住居の並び。荷馬車道との関係は」
ルッツの顔が曇った。図面を見直している。
「……被ってます。搬入の時に住民が避けないと」
「将来、倉庫を拡張する時は」
「——隣の建物、邪魔になりますね」
ルッツが頭を下げた。
「すみません。建物の一つ一つは考えたんですけど、全体の流れが見えてなかった」
分かっている。この子の腕は確かだ。建てる技術は完璧。寸法も材料選びも施工も間違いない。ただ、「何をどこにどう配置するか」——全体の設計を俯瞰する力だけが、追いついていない。
「やり直す?」
「はい。もう一回考えます」
「ルッツ」
「はい」
「腕は一流よ。それは分かってる。ただ——」
言いかけて、やめた。この子に足りないのは努力じゃない。ここに「もう一回考えて」をいくら繰り返しても、同じ種類の粗が出てくる。
ルッツが退室した後、鑑定した。
【ルッツ・ハイデン】
現在価値:1,700
潜在価値:1,700
(到達してる)
前に見た時は1,650だった。あれからさらに伸びて、潜在価値に届いている。この子はもう、持っているものを全部出し切っている。
腕は一流。潜在を全部発揮している。これがルッツの全力。
(惜しいのよ……。1,700のうち100だけでも企画力に回せたら、この子は完璧なのに。……なんてね)
ぼやきだった。独り言にもならない。数字は数字。鑑定で見えるだけで、動かせるものじゃない。
——数字が揺れた。
(え?)
目を瞑って、もう一度開いた。鑑定し直す。
【ルッツ・ハイデン】
現在価値:1,700
潜在価値:1,700
企画力:100
今まで見えなかった項目が、見えている。
「……何、これ」
内訳。鑑定で対象の内訳が見えたことは一度もない。数字は総額で見えるだけだった。それが今、「企画力:100」という項目が浮かんでいる。
自分がやったのか。さっきの独り言——「100だけ企画力に回せたら」。あれで動いた?
ルッツを呼び戻した。
「ルッツ、さっきの図面、もう一回見せて」
「え、もう修正できてないですけど」
「いいから。さっきの話、もう一回聞かせて。保管庫の配置」
ルッツが図面を広げた。同じ紙。同じ図面。
「えっと、保管庫はここに置いたんですけど——」
指が止まった。自分の図面を見ている。
「……いや、ここはおかしいですね。作業場から遠いし、荷馬車の搬入を考えたら東側の方がいい。それに倉庫の隣に余白を取っておかないと、後で困る」
さっきと同じ人間が、同じ図面を見て、違うことを言っている。
「この住居の並びも、搬入路と被ってます。住居を北寄りにずらして、道の南側を搬入専用にした方が——」
「……ルッツ」
「はい?」
「さっきと、言ってること違うの分かってる?」
ルッツが首を傾げた。
「え……。いや、さっきは建物ごとに考えてたんですけど、今見たら全体の流れが見えるというか」
本人は変化に気づいていない。自然に、当たり前のように、全体を俯瞰した発言が出てきている。
「……いいわ。その方向で計画を立て直して」
「分かりました!」
ルッツが図面を持って出ていった。
一人になった。
(私がやった……?)
手を見た。何も変わらない。鑑定は視るだけの能力だったはずだ。動かせるなんて聞いていない。
もう一度鑑定する。
【ルッツ・ハイデン】
現在価値:1,700
潜在価値:1,700
企画力:100
数字は残っている。消えていない。つまり一時的なものではない。
(検証が必要ね。もう一度試して、再現できるか——)
ノックの音がした。
「入って」
セバスだった。手に書簡を持っている。封蝋に見覚えのない紋章が押してある。
「王室からの書簡です。急使が届けてまいりました」
受け取った。封を切る。
公金輸送命令書。
名目は「辺境防衛補助金」。緊急扱い。王室から金貨がアーレン領に送られてくる。封印金庫による輸送。受領書への署名を求める内容。
(急にこんなものが? 辺境防衛補助金なんて聞いたこともないけど)
「グレンを呼んで」
「かしこまりました」
セバスが退室した。
命令書をもう一度読んだ。封印金庫。緊急扱い。
——さっきグレンが語った話が、頭の中で重なった。
封印金庫で受け取って、開けたら足りなかった。抜いたのはお前だと言われて、終わり。
(同じだ。同じ単語が並んでる)
グレンの足音が廊下から近づいてくる。
命令書を机に置いた。移転能力の検証は、後だ。
馬車を降りた瞬間、空気が違うと思った。王都の密度とは違う、広くて冷たい北の風。何日ぶりだろう。十日は超えている。
「おかえりなさいませ、アイリス様」
セバスが玄関に立っていた。いつも通り。この人は帰りの日をどうやって読んでいるのだろう。手紙を出したわけでもないのに。
「ただいま。留守中の帳簿は」
「お机の上に」
執務室に入った。帳簿を開いた。収支、住民対応、物資の受発注。どれも抜けがない。軟膏の出荷記録もある。品質停止の期間中も、在庫管理と原料の仕入れは止めずに回してくれていた。
「トビアスと相談して、停止が解けた直後に出荷を再開できるよう準備しておきました」
「……完璧ね。いつも通り」
「恐れ入ります」
セバスが紅茶を置いた。温度がちょうどいい。
***
午後、領地を回った。グレンが隣を歩いている。
道が伸びていた。南の倉庫は壁まで出来上がっている。住居の修繕も進んでいる。ルッツたちは留守中も止まらなかったらしい。
「……いい領地になりましたね」
グレンが言った。
足が止まった。
この人が、自分から何かを言う。それだけで珍しい。まして「いい領地」と評価めいたことを口にするなんて。
「前は悪い場所だったの?」
「いえ。……ただ、以前とは別のものになったと思います。別の場所と比べるなら」
「別の場所?」
グレンが黙った。歩きながら、前を見ている。
「王都です。自分がいた頃の」
(珍しい。この人が昔の話をするなんて)
黙って歩いた。聞き手に回る。グレンが話したいなら、聞く。話したくないなら、そのまま歩くだけ。
「……近衛にいた頃の話です」
グレンが言った。声のトーンは変わらない。いつもの低い声。
「悪い場所ではありませんでした。同僚は皆、それぞれ正義があって、良い人間が多かった」
「うん」
「ただ、上官が——屑だった」
敬語から外れた。グレンの口からその言葉が出てきたことに、少し驚いた。
「王国民の税金を横領していました。公金の輸送に立ち会うことがあって、金額が合わないことに気づきました。上に報告しました」
「それで?」
「前線への公金輸送を任されました。封印金庫で受け取って、届け先で開けたら、中身が足りなかった」
「抜いたのはお前だと言われました。封印金庫は開封時に初めて中身が確認される。途中で抜くことは物理的に可能だが、途中で確認する手段がない。渡された時点で足りなかったのか、自分が抜いたのか、証明のしようがない」
「……それで左遷」
「はい。証拠不十分で処分は軽かったのですが、近衛にはいられなくなりました。辺境の護衛任務に回されて——ここに来ました」
足を動かし続けていた。領地の南側を歩いている。倉庫の壁が午後の光を受けている。ルッツたちの声が遠くから聞こえる。
「何が起きているか分からなかった、というのが正直なところです。横領を報告した自分が、なぜ公金を盗んだことにされているのか」
グレンがこちらを見ないまま言った。
「今は、少し分かります。報告したから、消されたのだと。邪魔だったのだと」
「……そうね」
それだけ返した。深追いはしない。
グレンが黙った。しばらく足音だけが続いた。
「少し話しすぎました」
「そんなことないわ」
立ち止まった。グレンも止まった。
「安心して」
グレンの目がわずかに動いた。
「あなたがここにいる理由は、私が知ってる」
一拍、置いた。言葉を選んだわけじゃない。ちゃんと届くように、それだけ。
「正しいことをした人を、正しくないと言った人たちがいた。——それだけのことよ」
グレンがこちらを見た。
「だから安心して。ここでは、そういうことは起きないわ」
笑った。そうしようと思ったわけじゃないけど、口が勝手に動いていた。
グレンが息を止めたのが分かった。
灰色の瞳が、こちらを捕えたまま動かない。いつもの護衛の目じゃなく、初めて見る目だった。何が映っているのか分からない。——胸の奥が、ざわついた。
風が吹いて髪が揺れた。それでもグレンの目は動かなかった。
耳の先が、赤くなっていた。
「……守るのは自分の仕事です」
声がかすかに上擦っていた。
「護衛ですから」
(この人、また同じこと言ってる)
笑いそうになったけど、堪えた。追い詰めると歩く速度が倍になるので。
「そうね。護衛ね」
歩き出した。グレンが半拍遅れてついてくる。耳が赤いまま。
***
翌日。ルッツを呼んだ。
執務室に図面用の大きな紙を広げた。
「ルッツ、頼みがあるの」
「何ですか?」
「軟膏事業が安定してきた。出荷先も増える。そうなると、この領地全体をどう整備していくか、先を見て計画を立てないといけない」
「はい」
「倉庫一棟の話じゃなくて、領地全体の話。道、建物、住居、保管施設、荷馬車の通り道。全部含めて、計画を作ってほしい」
ルッツの目が変わった。
「……全体の、ですか」
「そう。あなたに任せたい。三日で出して」
「やります」
***
三日後、ルッツが図面を持ってきた。
大きな紙に、領地の全体図が描かれている。建物の配置、道の計画、倉庫の位置。手を抜いていないのは一目で分かる。線は正確で、寸法も入っている。
ただ。
(……動線がおかしい)
保管庫と作業場が離れすぎている。住居が荷馬車道に面していて、搬入時に住民の動線と交差する。倉庫は大きいが、将来増築する時に隣の建物が邪魔になる配置。
以前、倉庫一棟を任せた時と同じだった。あの時は「建てやすさで場所を選んじゃいました」と言った。今回は領地全体。規模が大きい分、粗がはっきり見える。
「ルッツ」
「はい」
「この保管庫、なぜここに置いたの?」
「地盤が一番安定しているのがここなので」
「作業場との距離は?」
「……すみません、そこは——」
「この住居の並び。荷馬車道との関係は」
ルッツの顔が曇った。図面を見直している。
「……被ってます。搬入の時に住民が避けないと」
「将来、倉庫を拡張する時は」
「——隣の建物、邪魔になりますね」
ルッツが頭を下げた。
「すみません。建物の一つ一つは考えたんですけど、全体の流れが見えてなかった」
分かっている。この子の腕は確かだ。建てる技術は完璧。寸法も材料選びも施工も間違いない。ただ、「何をどこにどう配置するか」——全体の設計を俯瞰する力だけが、追いついていない。
「やり直す?」
「はい。もう一回考えます」
「ルッツ」
「はい」
「腕は一流よ。それは分かってる。ただ——」
言いかけて、やめた。この子に足りないのは努力じゃない。ここに「もう一回考えて」をいくら繰り返しても、同じ種類の粗が出てくる。
ルッツが退室した後、鑑定した。
【ルッツ・ハイデン】
現在価値:1,700
潜在価値:1,700
(到達してる)
前に見た時は1,650だった。あれからさらに伸びて、潜在価値に届いている。この子はもう、持っているものを全部出し切っている。
腕は一流。潜在を全部発揮している。これがルッツの全力。
(惜しいのよ……。1,700のうち100だけでも企画力に回せたら、この子は完璧なのに。……なんてね)
ぼやきだった。独り言にもならない。数字は数字。鑑定で見えるだけで、動かせるものじゃない。
——数字が揺れた。
(え?)
目を瞑って、もう一度開いた。鑑定し直す。
【ルッツ・ハイデン】
現在価値:1,700
潜在価値:1,700
企画力:100
今まで見えなかった項目が、見えている。
「……何、これ」
内訳。鑑定で対象の内訳が見えたことは一度もない。数字は総額で見えるだけだった。それが今、「企画力:100」という項目が浮かんでいる。
自分がやったのか。さっきの独り言——「100だけ企画力に回せたら」。あれで動いた?
ルッツを呼び戻した。
「ルッツ、さっきの図面、もう一回見せて」
「え、もう修正できてないですけど」
「いいから。さっきの話、もう一回聞かせて。保管庫の配置」
ルッツが図面を広げた。同じ紙。同じ図面。
「えっと、保管庫はここに置いたんですけど——」
指が止まった。自分の図面を見ている。
「……いや、ここはおかしいですね。作業場から遠いし、荷馬車の搬入を考えたら東側の方がいい。それに倉庫の隣に余白を取っておかないと、後で困る」
さっきと同じ人間が、同じ図面を見て、違うことを言っている。
「この住居の並びも、搬入路と被ってます。住居を北寄りにずらして、道の南側を搬入専用にした方が——」
「……ルッツ」
「はい?」
「さっきと、言ってること違うの分かってる?」
ルッツが首を傾げた。
「え……。いや、さっきは建物ごとに考えてたんですけど、今見たら全体の流れが見えるというか」
本人は変化に気づいていない。自然に、当たり前のように、全体を俯瞰した発言が出てきている。
「……いいわ。その方向で計画を立て直して」
「分かりました!」
ルッツが図面を持って出ていった。
一人になった。
(私がやった……?)
手を見た。何も変わらない。鑑定は視るだけの能力だったはずだ。動かせるなんて聞いていない。
もう一度鑑定する。
【ルッツ・ハイデン】
現在価値:1,700
潜在価値:1,700
企画力:100
数字は残っている。消えていない。つまり一時的なものではない。
(検証が必要ね。もう一度試して、再現できるか——)
ノックの音がした。
「入って」
セバスだった。手に書簡を持っている。封蝋に見覚えのない紋章が押してある。
「王室からの書簡です。急使が届けてまいりました」
受け取った。封を切る。
公金輸送命令書。
名目は「辺境防衛補助金」。緊急扱い。王室から金貨がアーレン領に送られてくる。封印金庫による輸送。受領書への署名を求める内容。
(急にこんなものが? 辺境防衛補助金なんて聞いたこともないけど)
「グレンを呼んで」
「かしこまりました」
セバスが退室した。
命令書をもう一度読んだ。封印金庫。緊急扱い。
——さっきグレンが語った話が、頭の中で重なった。
封印金庫で受け取って、開けたら足りなかった。抜いたのはお前だと言われて、終わり。
(同じだ。同じ単語が並んでる)
グレンの足音が廊下から近づいてくる。
命令書を机に置いた。移転能力の検証は、後だ。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った
歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。
だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」
追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。
舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。
一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。
「もう、残業はしません」
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版
まほりろ
恋愛
公爵令嬢のアデリナ・ブラウフォードの人生は実母の死後大きく変わった。
公爵は妻の葬儀が終わって間をあけず再婚。公爵と後妻の間には、再婚前に作った子供までいた。
アデリナは継母と異母妹に私物を奪われ、「離れ」と名ばかりの小屋に押し込められる。
腹違いの妹はアデリナを悪者に仕立て、周囲はそれを信じた。
本来ならアデリナの味方にならなくてはならない婚約者の王太子も、異母妹の魅力に骨抜きにされ全く頼りにならない。
学園の教師も、生徒も、生徒の保護者も王太子と異母妹の味方だ。
そんなアデリナにも唯一の味方がいる。それはトカゲのクヴェル。クヴェルは美少年に変身し、家事も炊事も裁縫も完璧にこなす不思議な存在だ。
実はクヴェルはこの国の建国に携わる水竜で、アデリナは三百年前に水竜を救った初代女王の生まれ変わりだったのだ。
アデリナを蔑ろにする国に嫌気がさしたクヴェルは、アデリナを連れて旅に出る。
神に去られた国は徐々に荒廃していき……。
一方その頃、祖国の荒廃を知らないアデリナはクヴェルとのグルメ旅を満喫していた。
「ん~~! このアップルパイは絶品! 紅茶も美味しい!!」
・人外×人間、竜×人間。
・短編版は小説家になろう、pixivにもアップしています。
・長編版を小説家になろうにも投稿しています。小説家になろう先行投稿。
「Copyright(C)2025-まほりろ」
※タイトル変更しました(2025/05/06)
✕「卒業パーティーで王太子から婚約破棄された公爵令嬢、親友のトカゲを連れて旅に出る〜私が国を出たあと井戸も湖も枯れたそうですが知りません」
✕「嫌われ者の公爵令嬢は国外追放を言い渡される。私が神の祝福持ちだと王家が気付いた時には国の崩壊が始まっていました」
◯新タイトル「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」
・2025年5月16日HOTランキング2位!
ありがとうございます!
※表紙イラストは猫様からお借りしています。
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
婚約破棄された回数、五回。すべて同じ令嬢の策略だったと気づいたとき、王国の貴公子たちはもう手遅れだった
歩人
ファンタジー
婚約破棄された回数は五回。
もう一度増えても、きっと慣れる——そう思っていた。
一度目は「密通」の噂で。二度目は「未練」。三度目は「詐称」。
毎回違う噂が流れ、毎回婚約者に捨てられた。
「呪われた令嬢」——社交界でそう呼ばれるようになった伯爵令嬢ベアトリーチェ。
六度目の縁談の相手は、公爵子息エドヴァルト。
彼は言った。
「五度も婚約破棄が続くのは、自然ではありません。むしろ不自然だ」
そして始まった調査の先に待っていた真実は——
ベアトリーチェが最も信じていた人物の、五年にわたる策略だった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。