海千山千の金貸しババア、弱小伯爵令嬢に生まれ変わる。~皇帝陛下をひざまずかせるまで止まらない成り上がりストーリー~

河内まもる

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18 接触

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「これは間違いなく逸品だぞ」

 ウイスキーを口に含んだコンラートが、すぐさま顔をほころばせた。

「私はウイスキーというものを2、3度味わったことがあるが、このウイスキーがいちばん美味い!」

 2、3度かい。どうもアテにならないねえ。あんまり裕福とはいえないグレッツナー伯爵が飲んだウイスキーだ、たいしたモノじゃなかったんだろ。そんなのと比較されてもねえ。

 なにせいま、コンラートが飲んでいるのは、たった2年しか熟成させていないグレッツナー産ウイスキーだ。開拓事業から3年が経って、こんどようやく出荷されることになったんだ。10年もののウイスキーなんかと比較されたら勝負にならないお粗末な出来さ。

 しかも正確にいえば、グレッツナー産ウイスキーと呼べるかどうか疑わしいところもある。原料となる大麦が、他領からの輸入品なんだ。

 開拓事業で出来た大麦畑は、2年目以降、ようやく収穫をみた。収穫まで醸造所を遊ばせておくわけにもいかないから、まずは輸入大麦でウイスキーをつくった。それがいまコンラートが飲んでいるヤツさ。つまりグレッツナー産大麦のウイスキーは、来年度出荷分からなんだ。

 もちろん大麦が他領のものとはいえ、ウイスキー作りに使った水もオーク樽もグレッツナー領のものだから、ほとんどグレッツナー産ウイスキーと名乗っていいレベルだろうとは思うけど。

 やっぱりこのウイスキーは全部出荷してしまおう。半分は長期熟成に回そうかと思ってたけど、原料の大麦が他領のモンじゃ、胸を張って売れないからねえ。全部出荷となればシェーンハイトは喜ぶだろう。出荷量が増えればそのぶん儲かるからね。

「ハンナ、おまえもこのウイスキーを試飲してみたのかい」

 コンラートが言うと、そばにひかえていたクラウスが眉をひそめた。

「旦那さま、お嬢さまはまだ13歳でございます」

「おお、そうであったな」

 こんな調子でクラウスはアタシにウイスキーを飲ませてくれない。せっかくのウイスキー、せっかくの飲酒チャンスだってのに。ちくしょう、アタシのホントの年齢は103歳だって教えてやろうかしらん。

 ため息を飲み込む。コンラートのお墨付きでウイスキーを飲めないのなら、これ以上不毛な会話を続ける必要はないね。

「ところでお兄さま、お召のご用はなんですの?」

 アタシが訊ねると、コンラートは赤ら顔をハッとさせた。

「そうだった、おまえがウイスキーなんか持ってくるから、夢中になってしまった」

「ほどほどにしてくださいまし。飲み過ぎると身体に毒ですわ」

「むろんだとも。それでおまえに用というのはだね、カーマクゥラの御前のことなんだ」

「鎌倉の御前がなにか?」

 アタシはつい身がまえた。アタシが『鎌倉の御前』だってことは、コンラートにも隠してる。今のところアタシの正体を知ってるのはクラウスとフーゴ、それからフリッツの三人だけなのさ。

 だからこのとき、コンラートに正体がバレちまったのかと警戒したんだけど、それは杞憂に終わった。コンラートは言う。

「じつはカーマクゥラの御前を紹介してほしいという御仁があらわれてね」

 きた、とアタシは思った。

 こうなることははじめからわかっていた。待ちわびてすらいた。グレッツナー領の財政が潤えば、当然、自分たちもその利益にあやかりたいと考える輩が現れる。グレッツナー領隆盛の影に『鎌倉の御前』の存在があると知れたら、接触をこころみるのが当たり前だろう。

 ウイスキーの醸造所にさきだって、アタシはまずシェーンハイト商会に免税特権を与えた。入領税が免除されたんで、シェーンハイト商会はグレッツナー領府、ウレドに倉庫を建てた。グレッツナー領は王都に近くて利便性がいいからね。

 となるとシェーンハイト商会があつかう各地の産物は、いったんすべてウレドに集まる。グレッツナー領に人とモノが集まってる状況だ。それ自体、そこそこ利益になってるんだけど、周りから見れば実際以上に賑やかに見えるわけだ。

 コンラートの話は続く。

「私は先日、さる伯爵から領地経営のコツを訊ねられてね。だけどあれは私の手柄じゃない、カーマクゥラの御前の指図に従っただけだと答えた」

「それで鎌倉の御前を紹介してほしいと」

「うむ。…可能だろうか?」

「もちろんですわ。連絡をとってみます」

 これが壮大な計画の第一歩さ。アタシはこの話を待ってたんだ。

 今はまだグレッツナー家はさほど目立っていないけど、10年以内に帝国内でも有数の財力をもつことになるだろう。となれば、すぐに有力貴族から目をつけられる。

 それを避けるために、アタシは木を植えようと考えていた。木を隠すには森の中。たくさん木を植えて、森を作ってしまえばいい。グレッツナー家のみが目立つような事態を避けることさ。

 カジノ騒動のようなことはもうゴメンだ。大貴族たちからカモにされたんじゃ、グレッツナー家はもたない。いくらウイスキーで儲けても、儲けたはしから寄生虫に吸い上げられるってのは、ぞっとしない話さ。

 できるだけたくさんの伯爵家を儲けさせて、グレッツナー家をにする。『鎌倉の御前』っていう虚名を使ってアタシが正体を隠すのも、グレッツナー家だけが目立たないようにするためさ。

 第一にコンラートのためにグレッツナー家を豊かにする。第二にコンラートの身の安全を確保する。これがアタシの当面の目標だ。

 そしていま、第二ラウンドの鐘がなった。

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