妹ばかり可愛がられた伯爵令嬢、妹の身代わりにされ残虐非道な冷血公爵の嫁となる

村咲

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その後の話

冷血公爵は元身代わり令嬢を甘やかしたい(オチ)

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 もらってしまった。
 もらってしまった。
 ヴォルフ様から、もらってしまった。

 お茶会の間中、私はそわそわと落ち着かなかった。
 お茶を飲んでいる間も、誰かと話をしていても、気が付けばふと、手が胸元に伸びてしまう。

 指先に触れるのは、滑らかな石の感触だ。
 視線を向ければ、細工の施された緑の石が目に入る。
 澄んだ緑の宝石を見ていると、口元が勝手に緩んでしまう。

 ――ヴォルフ様からの、贈りもの。

 もう、その事実だけで表情がゆるんゆるんだ。
 正直に言うと、頭の片隅で『こんな立派なものをもらえる立場じゃ……』とか、『かなり精巧な細工だけど、いくらくらいするんだろう……』なんて思ったりしないわけではないけれど、それはそれ。
 今はとにかく、ヴォルフ様が贈ってくれたことが嬉しい。

 ――ヴォルフ様が、私に。

 せっかくのお茶会なのに、顔が全然締まらない。
 うっかりすると、「うへへ」なんて伯爵令嬢としてはあるまじき声まで漏れそうになる。
 うへへへへ。

「お姉さま、ご機嫌ね。なにか良いことがありまして?」
「うへへへへへ――――へあっ!?」

 と声を上げたのは、お茶会の一角。
 すっかり浮かれていた私は、突然にかけられた声に、飛び上がるほどに驚いた。
 慌てて顔を向ければ、やはり。
 見慣れた顔が、にこやかに私を見つめている。

「あ、アーシャ!? ど、どうしたの……!?」

 そう言いながら、私は跳ねる心臓に手を当てた。
 対するアーシャは、挙動不審の私を気にせずに、空いた椅子に腰を掛ける。

「久しぶりに、お姉さまとおしゃべりがしたいと思って。公爵さまも今は席を外していらっしゃるみたいですし」

 アーシャの言う通り、ヴォルフ様は現在離席中だ。
 領地に関してちょっと対応が必要なことがあるらしく、「すぐに戻る」とだけ言って行ってしまった。
 ヴォルフ様がいない間にロロやメイドの子たちも来たけれど、少し前に「お菓子が切れたので取ってきます!」と厨房に行き、まだ戻ってきていない。

 おかげで完全に油断していた。
 伯爵令嬢にあるまじき声を漏らしてしまった。

 ――しかもアーシャの前で!

 お姉ちゃんの威厳も台無しである。
 恥ずかしい!!

「お姉さま、楽しそうでよかった」

 内心でひとり悶える私は、アーシャの目にどう映ったのだろう。
 彼女は「ふふ」と、どこか嬉しそうに目を細めた。

「公爵さまに感謝しないといけませんね。…………あら?」

 その細めた目が、ふと私の胸元に向かう。
 それから、少し驚いた様子で彼女は目を見開いた。

「お姉さま、それ、どうされたんです?」
「それ……って」

 アーシャの視線の先。
 胸元の首飾りに手を触れ、私は少しはにかんだ。
 浮かれていた原因だけに気恥ずかしいけれど、これはヴォルフ様がくれたもの。
 やっぱり嬉しくて仕方がないのだ。

「ええと、ヴォルフ様からいただいたの。……どうかしら。似合ってる?」
「公爵さまから……ええ、その、とても似合ってはいらっしゃるけれど」

 けれど。
 そう言いつつ、アーシャは視線をさまよわせる。
 いかにもなにか言いたげなその様子に、私は思わず眉をひそめた。

「アーシャ、どうかしたの? なにか変なところがあった?」
「い、いえ、そういうわけでは……ないのですけど……」
「もしかして、汚れているとか……まさか、傷ついているとか!?」

 知らないうちにお茶が跳ねていたりしたのだろうか。
 あるいはどこかにぶつけてしまったのだろうか。
 気を付けていたつもりだけど、朝から浮かれっぱなしだった自覚はある。
 ちょっとやそっとの失敗に、気が付いていない可能性も大いにあり得る。

 ――ど、どうしよう……!!

 せっかくのヴォルフ様の贈りものなのに。
 汚れなら拭けばいいけれど、傷ついていたら目も当てられない。
 とにかく一度外して、どうなっているのか見ないと、と私は慌てて首飾りに手をかけ――――。

「…………あれ」

 首飾りに手をかけ、金具を外そうとするけど、外れない。
 それなら、はしたなくも頭から外そうとするけど、動かない。

 ――…………動かない?

 押しても引いても動かない。
 外そうとせずに体を揺らせば、首飾りも素直にチャリチャリ揺れるのに、外そうと手をかけた途端に張り付いたように動かなくなる。

「……ええと」

 ……つまりこれは、どういうこと?

「やっぱり」

 言いにくそうに口を開いたのはアーシャだった。
 悪戦苦闘する私をなんとも複雑な目で見つめ、彼女は遠慮がちに、声を潜めてこう告げる。

「その首飾り、お姉さまには似合っていらっしゃるのだけど……その、ちょっと驚くくらいの魔力が込められていて」
「…………魔力?」

 と尋ねる私に、アーシャはおずおずと頷いた。
 それから、改めて首飾りに目を向ける。

「一度身に付けたら、外せない魔法がかかっているみたい。それも、並大抵の魔力では解けないくらいの。……たぶん、公爵さまと同じくらいの力がないと難しいかも」
「ヴォルフ様と……同じくらい……」

 魔王の血を引くヴォルフ様と、同じくらい。
 そう考えて、私はくらりと眩暈がした。
 そんな人物、魔王本人の他に存在するのだろうか?

「……つまり、この首飾りはもう外せない?」
「公爵さま次第ですけれど……そういうことになるかと……」

 申し訳なさそうなアーシャに、私の表情は凍り付く。
 いっそ笑みに似た表情のまま、私は息を吸い込んだ。

 ヴォルフ様からの贈りものは嬉しい。
 外したいと思ったわけでもない。
 むしろ、できればずっと身に付けたいと思うけど。

 けど。

 外したくないのと、外せないのは大違いすぎる!!

 要するにこれ、呪いのアイテムじゃないですか!!!!!!
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感想 1,177

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みんなの感想(1177件)

グラうさ
2022.03.13 グラうさ

一気読みしました。とても楽しい作品でした。
家族の件がバレるのが不安というコメントもありましたが、個人的にはアネッサとアーシャは最終的に飲み込みそうだなぁと思います。アーシャもこれから外の世界を知っていくことでしょうし。

一族諸共"いろんな意味で"公爵に包まれていくのですね。
幸せならいいのです。(´∀`)
今後の作品も楽しみにしてます。

解除
鴨南蛮そば
2021.12.02 鴨南蛮そば

ぽよ神のお話もラストに向かってきてます
ね!主人公にとっては苦難・苦難・苦難
だった日々にどう決着つくのか固唾を呑ん
で見守っております🥺🥺

そんな中で時々ヴォルフ様とアネッサに
会いに来ては癒されてます✨^ ^

2人に子供が出来たら……。。。
妊娠・出産・育児があると仮定して、
その時のヴォルフ様の対応や反応、
内面の心情はいかに?とか妄想して
楽しんでます😁

番外編で読みたいー‼️とか言っても
良かですか⁉️ ← もう言ってる🤣

寒さが厳しくなって来ましたね。
お体大切に😍😍

2022.02.24 村咲

ぽよ神の方はずっと苦難続きでもうしわけないです……。
早くハッピーエンドをお見せしたい……!
わー、会いに来てくださって嬉しいです!
番外編もいろいろ書きたいです。公爵邸を出て外に行く話をずっと妄想しているのですが、なかなか書くタイミングがなく……!
いずれ番外編を更新することがあれば、またお付き合いいただけると幸いです。

解除
彩斗
2021.03.14 彩斗

🤣🤣🤣🤣🤣🤣🤣🤣
オチウケた🤣🤣

2022.02.24 村咲

やったー!笑ってもらえたなら嬉しいです!

解除

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