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イベントクラッシャー(3)
「あなたの仕業だってことはわかっているのよ!!」
私たちの前で立ち止ると、オレリア様はぎろりとアデライトを睨みつけた。
今日のオレリア様は、昨日のドレスとは異なり、真っ白な聖職者の長衣を着ている。頭には金の刺繍が入ったヴェールを被り、いかにも聖女らしい姿だというのに、表情はとても聖女とは思えない。
博愛なんて忘れたような憎しみのこもる顔つきに、私は身を強張らせてしまう。
「悪役のくせにヒロインの邪魔をするなんて、なに考えてるの!? 自分が悪役だからって、そんなにヒロインの私が妬ましいの!?」
ビシ! と指を突きつけられ、アデライトの目が泳ぐ。
明らかに動揺し、そわそわと手を握り合わせながら、彼女はそっぽを向いてこう言った。
「な、ななななんのことですの!? 私はイベントなんて知りませんわ!!」
イベントって言っちゃった。
根が正直なアデライトは、どうにも咄嗟の嘘が苦手なのだ。
「とぼけるんじゃないわよ! あなたもどうせ転生者なんでしょう!? 今まで散々邪魔してきたの、知ってるんだから!! 今回だって、誰も私に向かって悪口を言わないのよ!!」
悪口を言われないのは良いことなのでは?
と思うけど、オレリア様にとってはそうではないらしい。
怒りに肩を震わせ、彼女は不愉快そうに唇を噛む。
「これじゃあ、アンリが私をかばいに来てくれないじゃない! どうしてくれるのよ!!」
「わ、私は関係ありませんわ! いいい言いがかりはよしてくれませんこと!?」
「言いがかりじゃないわ! あなたの魂胆はわかっているのよ!!」
そう言って、オレリア様は「ハッ」と鼻で息を吐いた。
昂る気持ちを落ち着かせるように、小さく一つ頭を振り――それから、彼女は改めてアデライトに顔を向ける。
「どうせ私の邪魔をして、自分がヒロインに成り代わろうとしていたんでしょう? 私が気付かないと思った?」
「ど、どういう意味よ……」
「どういう意味も、そのままよ。あなたが先回りして、卑怯にも私の攻略対象たちを奪っていったこと、知っているのよ」
オレリア様の声音は、先ほどと打って変わって落ち着いている。
聖女に相応しい澄んだ声でありながら、妙に低く、不気味なくらいに冷たい声が響く。
「盗賊のリュカ、商人のオーギュスト、人類の裏切り者シリルに、半魔族のロジェ。全員、真っ先にあなたの名前を出したわ。『アデライト様は素晴らしい』って。おかげで、恋愛の初期イベントさえも起こらなかったのよ」
「それは……」
アデライトが、物言いたげに口を開く。
だが、オレリア様の言葉は止まらない。
「ねえ、悪役のくせに人のものを奪って楽しい? シナリオをめちゃくちゃにして満足? ――ああ、いえ、違うわね。悪役だからこそ」
一つ息を吐き、オレリア様は口元を歪めた。
まっすぐにアデライトに向けたその表情は――。
「あなたが性根の曲がった悪役だからこそ、卑怯な真似ができるのね」
紛れもない嘲笑だ。
可憐な顔にあらわな侮蔑を浮かべ、彼女はアデライトに笑ってみせた。
「さすがは嫌われ者の悪役令嬢。家族からもアンリからも嫌われたあなたなんて、こんな卑劣な手段でも使わない限り、誰も好きにはならないもの」
「――――違います」
凍り付くアデライトを押しのけ、私はオレリア様の前に出た。
「アデライト様は嫌われ者ではありません。お言葉が過ぎますよ、オレリア様」
私の背中で、アデライトがきゅっと服の袖を掴む。
背後にいるから見えないけれど、今のアデライトの表情は目に浮かぶ。
きっといつもの強気は消え失せて、怯えた少女のような顔をしているだろう。
幼い頃から変わり者で、使用人たちから遠巻きにされ続けたアデライトは、破天荒なようでいて繊細だ。
明るい態度で突っ走っても、内心はいつも不安で、周囲から嫌われているのではないかと恐れている。
でも、そんなアデライトのことを、今はもう、みんな知っている。
「アデライト様の優しさは、城の者ならみんな知っていますよ。誰にも嫌われてはいません」
袖を掴むアデライトの手に、力がこもる。
彼女のそんな可愛らしさも、小さいころから見て来た私は知っている。
「取り消してください、オレリア様。アデライト様へ向けた、これまでのお言葉、すべて!」
「…………なによ、取り巻きのくせに!」
オレリア様を責める私の言葉に、彼女は苛立ったように吐き捨てた。
ぎり、と奥歯を噛みしめ、私をねめつける彼女は、きっと言葉を取り消すつもりなんて毛頭ない。
それどころか、彼女は「むしろ自分が被害者だ」と言わんばかりに声を荒げる。
「こっちは真面目に、正攻法で攻略しているの! きちんとアンリの好感度を稼いで、陛下の婚約宣言イベントを起こしているのよ! それを横から、ズルして邪魔している卑怯者はそっちじゃない!」
「アデライト様は卑怯者ではありません!」
いくら世界を救ってくれた聖女でも、言っていいことと悪いことがある。
あまりに無礼な聖女の態度に、さすがに冷静ではいられない。
その非礼を正してやろう――と、私は頭に血が昇ったまま、聖女を睨みつけた。
――が。
「うるさい! あなたに言われる筋合いはないわ! 知っているのよ、ミシェル・フロヴェール!! あなたなんて――――」
癇癪を起こしながら、聖女が叫ぶ。
その言葉に、私はなにも言えなくなってしまった。
「あなたなんて、犯罪者の娘じゃない!!」
私たちの前で立ち止ると、オレリア様はぎろりとアデライトを睨みつけた。
今日のオレリア様は、昨日のドレスとは異なり、真っ白な聖職者の長衣を着ている。頭には金の刺繍が入ったヴェールを被り、いかにも聖女らしい姿だというのに、表情はとても聖女とは思えない。
博愛なんて忘れたような憎しみのこもる顔つきに、私は身を強張らせてしまう。
「悪役のくせにヒロインの邪魔をするなんて、なに考えてるの!? 自分が悪役だからって、そんなにヒロインの私が妬ましいの!?」
ビシ! と指を突きつけられ、アデライトの目が泳ぐ。
明らかに動揺し、そわそわと手を握り合わせながら、彼女はそっぽを向いてこう言った。
「な、ななななんのことですの!? 私はイベントなんて知りませんわ!!」
イベントって言っちゃった。
根が正直なアデライトは、どうにも咄嗟の嘘が苦手なのだ。
「とぼけるんじゃないわよ! あなたもどうせ転生者なんでしょう!? 今まで散々邪魔してきたの、知ってるんだから!! 今回だって、誰も私に向かって悪口を言わないのよ!!」
悪口を言われないのは良いことなのでは?
と思うけど、オレリア様にとってはそうではないらしい。
怒りに肩を震わせ、彼女は不愉快そうに唇を噛む。
「これじゃあ、アンリが私をかばいに来てくれないじゃない! どうしてくれるのよ!!」
「わ、私は関係ありませんわ! いいい言いがかりはよしてくれませんこと!?」
「言いがかりじゃないわ! あなたの魂胆はわかっているのよ!!」
そう言って、オレリア様は「ハッ」と鼻で息を吐いた。
昂る気持ちを落ち着かせるように、小さく一つ頭を振り――それから、彼女は改めてアデライトに顔を向ける。
「どうせ私の邪魔をして、自分がヒロインに成り代わろうとしていたんでしょう? 私が気付かないと思った?」
「ど、どういう意味よ……」
「どういう意味も、そのままよ。あなたが先回りして、卑怯にも私の攻略対象たちを奪っていったこと、知っているのよ」
オレリア様の声音は、先ほどと打って変わって落ち着いている。
聖女に相応しい澄んだ声でありながら、妙に低く、不気味なくらいに冷たい声が響く。
「盗賊のリュカ、商人のオーギュスト、人類の裏切り者シリルに、半魔族のロジェ。全員、真っ先にあなたの名前を出したわ。『アデライト様は素晴らしい』って。おかげで、恋愛の初期イベントさえも起こらなかったのよ」
「それは……」
アデライトが、物言いたげに口を開く。
だが、オレリア様の言葉は止まらない。
「ねえ、悪役のくせに人のものを奪って楽しい? シナリオをめちゃくちゃにして満足? ――ああ、いえ、違うわね。悪役だからこそ」
一つ息を吐き、オレリア様は口元を歪めた。
まっすぐにアデライトに向けたその表情は――。
「あなたが性根の曲がった悪役だからこそ、卑怯な真似ができるのね」
紛れもない嘲笑だ。
可憐な顔にあらわな侮蔑を浮かべ、彼女はアデライトに笑ってみせた。
「さすがは嫌われ者の悪役令嬢。家族からもアンリからも嫌われたあなたなんて、こんな卑劣な手段でも使わない限り、誰も好きにはならないもの」
「――――違います」
凍り付くアデライトを押しのけ、私はオレリア様の前に出た。
「アデライト様は嫌われ者ではありません。お言葉が過ぎますよ、オレリア様」
私の背中で、アデライトがきゅっと服の袖を掴む。
背後にいるから見えないけれど、今のアデライトの表情は目に浮かぶ。
きっといつもの強気は消え失せて、怯えた少女のような顔をしているだろう。
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でも、そんなアデライトのことを、今はもう、みんな知っている。
「アデライト様の優しさは、城の者ならみんな知っていますよ。誰にも嫌われてはいません」
袖を掴むアデライトの手に、力がこもる。
彼女のそんな可愛らしさも、小さいころから見て来た私は知っている。
「取り消してください、オレリア様。アデライト様へ向けた、これまでのお言葉、すべて!」
「…………なによ、取り巻きのくせに!」
オレリア様を責める私の言葉に、彼女は苛立ったように吐き捨てた。
ぎり、と奥歯を噛みしめ、私をねめつける彼女は、きっと言葉を取り消すつもりなんて毛頭ない。
それどころか、彼女は「むしろ自分が被害者だ」と言わんばかりに声を荒げる。
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「アデライト様は卑怯者ではありません!」
いくら世界を救ってくれた聖女でも、言っていいことと悪いことがある。
あまりに無礼な聖女の態度に、さすがに冷静ではいられない。
その非礼を正してやろう――と、私は頭に血が昇ったまま、聖女を睨みつけた。
――が。
「うるさい! あなたに言われる筋合いはないわ! 知っているのよ、ミシェル・フロヴェール!! あなたなんて――――」
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