破滅したくない悪役令嬢によって、攻略対象の王子様とくっつけられそうです

村咲

文字の大きさ
24 / 76

王妃の反旗(7)

 アデライトが助けを呼んでくれたおかげで、どうにか地下から脱出したあと。
 私はアンリに連れられて、再びフロランス様の部屋の前を訪れていた。

 背後には、急に飛び出したアンリを追ってきたアデライトがいる。
 どうしたのか、と事情を聞きたそうな顔をしているが、アンリはそれどころではないらしい。
 彼らしくもなく、ノックも忘れて勢いよく扉を開いた。

「――――母上!!」
「あら、アンリ。ちょうど良いところに来ましたね」

 フロランス様は部屋の中、窓辺に立って外を眺めているところだった。
 いきなり飛び込んで来たアンリに驚くでもなく振り返り、口元に優雅な笑みを浮かべる。

 そしてその表情のまま、なんと言うこともないように、特大の問題発言を続けた。

「今しがた、陛下に使者を送ったところです。――アンリには二年前から、すでに正当な婚約者がいる。だからオレリアとは婚約できない、ということを伝えるために」


 ――………………えっ。


 フロランス様の言葉に、部屋全体が凍り付いたように沈黙する。
 アンリは立ち止り、アデライトは目を見開き、誰も何も言わない。
 冷たい風だけがひゅう、と音を立てて窓から吹き込み、私の頬を撫でた。

 ――アンリの、正当な婚約者?

 聞いたばかりの言葉を繰り返し、私はひとり瞬いた。
 正当な――ということは、オレリア様のような一方的な婚約ではないということだ。
 しかも二年前。つまりは、旅立つよりも前から。

 すなわち、私に求婚したときには、すでにアンリには婚約者がいたということになる。

 ――うそ、でも、だって……そんな話は…………。

「聞いてないわ!!!!」

 そう叫んだのは、私ではない。
 よろめきかけた私を押しのけ、前に飛び出したアデライトだ。

「お兄様に婚約者!? 正当な!!? そんな話、私は知らないわ! お母さま、誰よそれ!!」

 アデライトの声が、静かな部屋に響き渡る。
 声こそは強気なものの、表情は今にも泣き出しそうだ。

 フロランス様は、縋るようなアデライトの目を見つめ返し、ふう、と一つ息を吐いた。

「相手はソレイユの下級貴族の娘で、アンリとは長年親しんだ間柄です。彼女との婚約は、アンリ本人はもちろん、大臣たちやソレイユ王家も認める正当なもの。ただし、身分差があるので、十分に根回しができるまではと公表は控えていました」

「な、な、なに、なにそれ…………!?」

「ですが、事ここに至っては、黙ってはいられません。彼女には急ぎ、私の弟コンラートの養女になってもらいました。コンラートは公爵の身分。血が繋がっていないとはいえ、後ろ盾には十分でしょう」

「ま、待って、待ってお母様! ほ、本当に……!?」

「相手の名前はマルティナ。彼女がいる限り、オレリアなどという娘との勝手な婚約などまかりなりません」

「お母様!!!!」

 アデライトが悲鳴のような声を上げる。
 両手をぎゅっと握りしめ、目には涙まで浮かべ――視線を一度私に向けてから、彼女は駄々をこねるように首を振った。

「い、嫌です! 嫌だわ! 聞いてない! そんな、どこの誰とも知れない相手なんて――――」
「どこの誰とも?」

 微笑みを崩さないまま、フロランス様がかすかに首を傾げた。
 それから、視線をゆっくりと移動させる。

「まさか。あなたもよく知っている相手のはずですよ」

 目を細め、フロランス様が見つめる先。
 彼女の瞳が映すのは――――。

「そこにいるでしょう。――ねえ、ミシェル」

 私、だった。

 愕然と立ち尽くす私を、フロランス様の視線が射貫く。
 優雅だけれど――有無を言わさない微笑で、フロランス様はこう続けた。

「アンリのためなら、どんなことでもするんでしょう? ――絶対に嫌なことでも、人生を変えるようなことでも」
感想 42

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎