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エンディングイベント開始(1)
会議を終えたあと、私たちは身支度もそこそこに、すぐに離宮を発つことになった。
『本当はもっともっとミシェルさんをフリフリに飾るはずだったのに……!』
と私を着替えさせながらレーア様が嘆いていらっしゃったけれど、こればっかりは仕方がない。
『王子の婚約者マルティナ』として最低限の装いをしただけで、私は王宮へ向かう馬車に乗り込んだ。
〇
大急ぎで移動する馬車は、荒々しく揺れていた。
小型の二頭立ての馬車に、乗っているのは私一人だ。
移動するなら馬車より直接馬に乗る方がよほど早いので、アンリやコンラート様、それに離宮から来てくれた護衛たちは、みんな自分で馬を駆っている。
御者が必死に馬を追い立てながらも、遅れがちな馬車の中で、私は一人目を伏せた。
――馬なら私も乗れるのに……。
なんでもやりたがりのアデライトの付き添いで、私も乗馬は一通り習っている。
天才的なアンリやアデライトほど上手くは操れないけれど、一人で危うげなく馬に乗るくらいはできるつもりだった。
でも、と私は自分の足元に目を向ける。
目に入るのは、歩くのも困難な踵の高い靴だ。
引きずるほどの裾の長いドレスには、無数の繊細なレースがあしらわれている。
装飾が多いのはソレイユのドレスの特徴だ。流れるように刺繍が編み込まれ、宝石を縫い付けて、揺れるたびにキラリと魅惑的な光を返す。
髪は左右非対称に結われ、花飾りを差している。
『ミシェル』の面影を消すために、化粧も手を抜くわけにはいかない。
レーア様は『もっとフリフリにしたかったのに!』と言いながらも、しっかりと私を着飾ってくれていた。
――この格好じゃあ、動けないわ。
今の私は、ミシェルではなく令嬢マルティナだ。
乗馬姿では様にならず、陛下も納得しないだろう。
頭ではわかっていても、こうして遅れている今、焦る気持ちを止めることはできなかった。
――足手まといになりたくない……!
せめて王宮では、立派な婚約者として振舞えるようにしないと。
きっと陛下やオレリア様は、私のことを快く思わないだろうけれど、それで気圧されてはアンリの迷惑になる。
偽物とはいえ――いや、偽物だからこそ、アンリのために堂々としていなければ――。
「――ミシェル」
「大丈夫。今日のためにコンラート様やレーア様から、ソレイユの文化や習慣も習ったわ。咄嗟にソレイユ語が出るように、って言葉も普段からソレイユ語にしたし、フロランス様だって――」
「ミシェルったら!」
「ほあっ!?」
突然の呼びかけに、目いっぱいまで緊張していた私は驚きに変な声を上げてしまった。
いや、驚いたのは『呼びかけられたこと』そのものではない。
呼びかけてきた、『声』の方が問題だった。
王宮を目指す一行は、アンリとコンラート様と私。それに護衛たち。
護衛はフロランス様自らが選ばれた精鋭たちで、甲冑を着込んではいるものの、全員が男性だ。
この馬車の御者をしてくれているのも、甲冑を着た護衛の一人。当然、男性のはず――なのに。
「ミシェル! しー! 大きな声を出さないで!」
ガシャンと甲冑をきしませ、こちらを振り返る御者の声は、明らかに女性のものだった。
それも、どこからどう聞いても聞き覚えのありすぎるこの声は――。
「アデライト様!? どうしてここに!!!??」
「静かにしてってば! お兄様にバレたら、離宮に送り返されちゃうじゃない!!」
必死に首を横に振るいかめしい甲冑を前に、私は緊張も忘れて絶句した。
このお姫様、またしてもやらかした……!
『本当はもっともっとミシェルさんをフリフリに飾るはずだったのに……!』
と私を着替えさせながらレーア様が嘆いていらっしゃったけれど、こればっかりは仕方がない。
『王子の婚約者マルティナ』として最低限の装いをしただけで、私は王宮へ向かう馬車に乗り込んだ。
〇
大急ぎで移動する馬車は、荒々しく揺れていた。
小型の二頭立ての馬車に、乗っているのは私一人だ。
移動するなら馬車より直接馬に乗る方がよほど早いので、アンリやコンラート様、それに離宮から来てくれた護衛たちは、みんな自分で馬を駆っている。
御者が必死に馬を追い立てながらも、遅れがちな馬車の中で、私は一人目を伏せた。
――馬なら私も乗れるのに……。
なんでもやりたがりのアデライトの付き添いで、私も乗馬は一通り習っている。
天才的なアンリやアデライトほど上手くは操れないけれど、一人で危うげなく馬に乗るくらいはできるつもりだった。
でも、と私は自分の足元に目を向ける。
目に入るのは、歩くのも困難な踵の高い靴だ。
引きずるほどの裾の長いドレスには、無数の繊細なレースがあしらわれている。
装飾が多いのはソレイユのドレスの特徴だ。流れるように刺繍が編み込まれ、宝石を縫い付けて、揺れるたびにキラリと魅惑的な光を返す。
髪は左右非対称に結われ、花飾りを差している。
『ミシェル』の面影を消すために、化粧も手を抜くわけにはいかない。
レーア様は『もっとフリフリにしたかったのに!』と言いながらも、しっかりと私を着飾ってくれていた。
――この格好じゃあ、動けないわ。
今の私は、ミシェルではなく令嬢マルティナだ。
乗馬姿では様にならず、陛下も納得しないだろう。
頭ではわかっていても、こうして遅れている今、焦る気持ちを止めることはできなかった。
――足手まといになりたくない……!
せめて王宮では、立派な婚約者として振舞えるようにしないと。
きっと陛下やオレリア様は、私のことを快く思わないだろうけれど、それで気圧されてはアンリの迷惑になる。
偽物とはいえ――いや、偽物だからこそ、アンリのために堂々としていなければ――。
「――ミシェル」
「大丈夫。今日のためにコンラート様やレーア様から、ソレイユの文化や習慣も習ったわ。咄嗟にソレイユ語が出るように、って言葉も普段からソレイユ語にしたし、フロランス様だって――」
「ミシェルったら!」
「ほあっ!?」
突然の呼びかけに、目いっぱいまで緊張していた私は驚きに変な声を上げてしまった。
いや、驚いたのは『呼びかけられたこと』そのものではない。
呼びかけてきた、『声』の方が問題だった。
王宮を目指す一行は、アンリとコンラート様と私。それに護衛たち。
護衛はフロランス様自らが選ばれた精鋭たちで、甲冑を着込んではいるものの、全員が男性だ。
この馬車の御者をしてくれているのも、甲冑を着た護衛の一人。当然、男性のはず――なのに。
「ミシェル! しー! 大きな声を出さないで!」
ガシャンと甲冑をきしませ、こちらを振り返る御者の声は、明らかに女性のものだった。
それも、どこからどう聞いても聞き覚えのありすぎるこの声は――。
「アデライト様!? どうしてここに!!!??」
「静かにしてってば! お兄様にバレたら、離宮に送り返されちゃうじゃない!!」
必死に首を横に振るいかめしい甲冑を前に、私は緊張も忘れて絶句した。
このお姫様、またしてもやらかした……!
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