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エンディングイベント開始(7)
「アンリ、よかった。ちゃんと間に合ったのね」
オレリア様は、私たちには見向きもせず、まっすぐアンリだけを見ていた。
「手紙が遅れたことは陛下から聞いているから大丈夫よ。不手際があってごめんなさい」
そう言いながら、オレリア様はアンリへと歩み寄る。
魔王となり、城を変えた彼女の行動に反射的に身を固くするが、なんということはない。
彼女は拍子抜けするほど無防備に、アンリの前で立ち止まるだけだ。
「もうあとはエンディング――じゃなくて、披露宴だけよ。いくつか見てないイベントはあるけど、エンディングに影響ないから関係ないわよね。これで、私とアンリは幸せになれるの」
ああ、と私は息を吐く。
アンリを見つめ、期待する目。彼と幸せになれると疑わない態度。
もしかして、この方は今も――。
――魔王になったこと、気が付いていないんだわ。
だから、胸を張っていられるのだ。
アンリに嫌われるようなことをしてしまったと、自分でもわからないのだ。
無自覚なまま魔王に侵食された彼女の姿に、私の胸がずきりと痛む。
魔王の変化は、あまりにも悲しくて、残酷だ。
「アンリ、婚約者の件はびっくりしたけど、私は疑っていないわ」
微笑む彼女の目は、アンリだけを見つめたまま。
こちらから、アンリの表情は見えない。
離れて見守る私には、なるべく酷な終わり方にならないようにと、祈ることしかできなかった。
「私、アンリがそんな不誠実な人ではないと知っているもの。レーゼ氷の洞窟で私に『好きだ』と言ってくれたあなたのことを、私は信じているから」
うっとりと告げるオレリア様を横目に、アデライトが私を突く。
「……ミシェル、あれ、イベントのセリフ。『私は疑ってないわ』から全部。エンディング前の最後の選択肢」
「イベントの……?」
「レーゼ氷の洞窟って、前に私がドワーフを送り込んだ場所よ」
それって、大勢のドワーフたちと裸で温めあったという雪山の洞窟のことだろうか。
……そんな状況で、アンリが『好きだ』なんて言うだろうか?
言わないだろうということは、強まっていく魔力の風でわかった。
聖女への同情心も――アデライトの言葉に、少しほっとしてしまったずるい心も忘れるほどの、凍てついた風だった。
「…………」
アンリは無言だったけれど、大広間を吹き抜ける風は、言葉以上にその感情を教えてくれる。
周囲の護衛も、アデライトも、コンラート様さえも息を呑む。
ただひとり、怯まないのはオレリア様だけだ。
「だから、私を傷つけたかもしれない……なんて気にしないでいいのよ。それより、披露宴を始めましょう。お客様を待たせてしまったわ。――さ、アンリ、こっちへ」
明るい笑顔のまま、彼女はアンリに向けて手を差し出した。
アンリは私に背を向けたまま、その手を取るように一歩足を踏み出し――。
「ついにこの日が来るのね。嬉しいわ、アンリ……」
頬を染め、目を細めるオレリア様の声を聞かず、そのまま彼女の横を通り過ぎた。
オレリア様は、私たちには見向きもせず、まっすぐアンリだけを見ていた。
「手紙が遅れたことは陛下から聞いているから大丈夫よ。不手際があってごめんなさい」
そう言いながら、オレリア様はアンリへと歩み寄る。
魔王となり、城を変えた彼女の行動に反射的に身を固くするが、なんということはない。
彼女は拍子抜けするほど無防備に、アンリの前で立ち止まるだけだ。
「もうあとはエンディング――じゃなくて、披露宴だけよ。いくつか見てないイベントはあるけど、エンディングに影響ないから関係ないわよね。これで、私とアンリは幸せになれるの」
ああ、と私は息を吐く。
アンリを見つめ、期待する目。彼と幸せになれると疑わない態度。
もしかして、この方は今も――。
――魔王になったこと、気が付いていないんだわ。
だから、胸を張っていられるのだ。
アンリに嫌われるようなことをしてしまったと、自分でもわからないのだ。
無自覚なまま魔王に侵食された彼女の姿に、私の胸がずきりと痛む。
魔王の変化は、あまりにも悲しくて、残酷だ。
「アンリ、婚約者の件はびっくりしたけど、私は疑っていないわ」
微笑む彼女の目は、アンリだけを見つめたまま。
こちらから、アンリの表情は見えない。
離れて見守る私には、なるべく酷な終わり方にならないようにと、祈ることしかできなかった。
「私、アンリがそんな不誠実な人ではないと知っているもの。レーゼ氷の洞窟で私に『好きだ』と言ってくれたあなたのことを、私は信じているから」
うっとりと告げるオレリア様を横目に、アデライトが私を突く。
「……ミシェル、あれ、イベントのセリフ。『私は疑ってないわ』から全部。エンディング前の最後の選択肢」
「イベントの……?」
「レーゼ氷の洞窟って、前に私がドワーフを送り込んだ場所よ」
それって、大勢のドワーフたちと裸で温めあったという雪山の洞窟のことだろうか。
……そんな状況で、アンリが『好きだ』なんて言うだろうか?
言わないだろうということは、強まっていく魔力の風でわかった。
聖女への同情心も――アデライトの言葉に、少しほっとしてしまったずるい心も忘れるほどの、凍てついた風だった。
「…………」
アンリは無言だったけれど、大広間を吹き抜ける風は、言葉以上にその感情を教えてくれる。
周囲の護衛も、アデライトも、コンラート様さえも息を呑む。
ただひとり、怯まないのはオレリア様だけだ。
「だから、私を傷つけたかもしれない……なんて気にしないでいいのよ。それより、披露宴を始めましょう。お客様を待たせてしまったわ。――さ、アンリ、こっちへ」
明るい笑顔のまま、彼女はアンリに向けて手を差し出した。
アンリは私に背を向けたまま、その手を取るように一歩足を踏み出し――。
「ついにこの日が来るのね。嬉しいわ、アンリ……」
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