49 / 76
敗走(2)
大広間に悲鳴が上がる。
人並み外れたアデライトの魔力に、さすがの魔族たちも笑みを消した。
一瞬の気が逸れた隙に、動き出したのは護衛兵たちだ。
離宮の精鋭に、並みのグロワール兵が太刀打ちできるはずがない。
取り囲むグロワール兵を素手で倒し、剣を奪うと、まっすぐバルコニーに駆けていく。
アデライトは、護衛兵たちに囲まれながらともにバルコニーへ。
コンラート様は、グロワール兵から奪った剣を手に、未だに叫び続ける陛下を探している。
「――魔法オッケーよ! 落ちても平気だけど、魔族は落とさないようにしてちょうだい!」
バルコニーに真っ先にたどり着いたアデライトが、大広間に向けて声を張り上げた。
「早い者順で逃げるのよ! でも最後にならないでね! 私が最後に降りないと、誰が逃げて誰が逃げてないのか、わからなくなっちゃうから!」
言った先から、アデライトが近くにいた護衛兵をバルコニーから下に突き落とす。
アデライトの護衛として傍に居たはずなのに、彼女はお構いなしだ。
「危険です!」とか「待ってください! おひとりでは……!」と説得する護衛たちの言葉を最後まで聞かず、容赦なく次々と突き飛ばしていく。
「は、は、早く逃げろ! なにをしている! 早くわしを逃がせ!!」
「いや、ははは、重たいですね陛下! せめて腰を抜かしていなければ、もっと早く動けるんですがね!」
片手で陛下を引きずりながら、コンラート様は笑った。
もう片方の手は剣を握りしめ、グロワール兵の攻撃をしのぐ。
護衛が数人ついているとはいえ、陛下の首根っこを掴んだまま軽く薙ぎ払うその姿に、やはり彼もアンリやアデライトの血縁なのだと実感させられる。
「う、うるさい! わしを離すんじゃないぞ! 絶対に生かして帰せ! そうしたらどんな褒美でもくれてやる!!」
「ははは、どんな褒美でもですか。玉座をくれって言ったらくれるんですかね」
「無礼な……い、いや、助かったならば考えてやる! とにかく、絶対にわしを離すんじゃないぞ!」
「いいこと聞いちゃった。玉座もらったらアンリにプレゼントしようかな――よっこいしょ!」
見た目だけはアンリに似て体格の良い陛下を、コンラート様は「よっこいしょ」の一言で担ぎ上げる。
陛下がぎょっと目を剥くが、彼は見向きもしない。
周囲の護衛兵に目配せをし、そのまま一気にバルコニーへ駆けだすと、重たい荷物でも放るように外に放り投げた。
「な、なにをする、貴様ぁああああああ!」
陛下の断末魔の悲鳴が響く中、「ああ重かった」と肩を回すコンラート様を、私は横目で見る。
アデライトもコンラート様も、護衛の兵たちも大丈夫そうだ。
大丈夫ではないのは――私たちだけだ。
慣れない靴に、足がよろめく。
出遅れた私たちを囲むのは、無数の魔族たちだ。
魔族たちは、アデライトにもコンラート様にも見向きもしなかった。
逃げていく今も振り向きもしない。
視線はただ、まっすぐにアンリに向かっていた。
きっと最初から――彼らの目的は、アンリ一人だけなのだ。
人並み外れたアデライトの魔力に、さすがの魔族たちも笑みを消した。
一瞬の気が逸れた隙に、動き出したのは護衛兵たちだ。
離宮の精鋭に、並みのグロワール兵が太刀打ちできるはずがない。
取り囲むグロワール兵を素手で倒し、剣を奪うと、まっすぐバルコニーに駆けていく。
アデライトは、護衛兵たちに囲まれながらともにバルコニーへ。
コンラート様は、グロワール兵から奪った剣を手に、未だに叫び続ける陛下を探している。
「――魔法オッケーよ! 落ちても平気だけど、魔族は落とさないようにしてちょうだい!」
バルコニーに真っ先にたどり着いたアデライトが、大広間に向けて声を張り上げた。
「早い者順で逃げるのよ! でも最後にならないでね! 私が最後に降りないと、誰が逃げて誰が逃げてないのか、わからなくなっちゃうから!」
言った先から、アデライトが近くにいた護衛兵をバルコニーから下に突き落とす。
アデライトの護衛として傍に居たはずなのに、彼女はお構いなしだ。
「危険です!」とか「待ってください! おひとりでは……!」と説得する護衛たちの言葉を最後まで聞かず、容赦なく次々と突き飛ばしていく。
「は、は、早く逃げろ! なにをしている! 早くわしを逃がせ!!」
「いや、ははは、重たいですね陛下! せめて腰を抜かしていなければ、もっと早く動けるんですがね!」
片手で陛下を引きずりながら、コンラート様は笑った。
もう片方の手は剣を握りしめ、グロワール兵の攻撃をしのぐ。
護衛が数人ついているとはいえ、陛下の首根っこを掴んだまま軽く薙ぎ払うその姿に、やはり彼もアンリやアデライトの血縁なのだと実感させられる。
「う、うるさい! わしを離すんじゃないぞ! 絶対に生かして帰せ! そうしたらどんな褒美でもくれてやる!!」
「ははは、どんな褒美でもですか。玉座をくれって言ったらくれるんですかね」
「無礼な……い、いや、助かったならば考えてやる! とにかく、絶対にわしを離すんじゃないぞ!」
「いいこと聞いちゃった。玉座もらったらアンリにプレゼントしようかな――よっこいしょ!」
見た目だけはアンリに似て体格の良い陛下を、コンラート様は「よっこいしょ」の一言で担ぎ上げる。
陛下がぎょっと目を剥くが、彼は見向きもしない。
周囲の護衛兵に目配せをし、そのまま一気にバルコニーへ駆けだすと、重たい荷物でも放るように外に放り投げた。
「な、なにをする、貴様ぁああああああ!」
陛下の断末魔の悲鳴が響く中、「ああ重かった」と肩を回すコンラート様を、私は横目で見る。
アデライトもコンラート様も、護衛の兵たちも大丈夫そうだ。
大丈夫ではないのは――私たちだけだ。
慣れない靴に、足がよろめく。
出遅れた私たちを囲むのは、無数の魔族たちだ。
魔族たちは、アデライトにもコンラート様にも見向きもしなかった。
逃げていく今も振り向きもしない。
視線はただ、まっすぐにアンリに向かっていた。
きっと最初から――彼らの目的は、アンリ一人だけなのだ。
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎