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第五話 嵐の《ヴァーン》島で微笑んで
03.嵐の前の静けさ
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ヴァーン国。
かつてレリア大陸に存在し、ヴァイルたちの父である四英雄の一人…アウロックスの血を引くヴァイリーク王が統治していた国だったが、今から十年ほどガンダリア帝国に侵攻されて滅ぼされてしまった。
当時、サリサとヴァイルは神聖アーステイム王国へと遊学中だったのもあり危機を免れた。だが、本国に居たヴァイリーク王を始め一族たちは処刑されてしまったという。
その後、命からがらに脱出して生き残ったヴァーンの民は、サリサたちを求めてアーステイム王国に避難してきた。
状況を考慮してアーステイム王国の王・アーステイオー四世は、ヴァーンの民に領国内での居住を許し、無人島を貸し与えた。
それがヴァーン島の誕生である。
ヴァーン島に僅かに生き残ったヴァーンの民が続々と集まり、サリサを中心として生活を営んでいた。
しかし無人島が故に生活物資は不十分であり、調達する為には金銭を稼せがなければいけなかった。
アーステイム王国から保護を受けてはいるが、余所者に島(土地)を借り与えられているだけでも過分な扱いであった。また、そのアーステイム王国への恩も返さないといけない所論もあった。
元々、建国者のアウロックスが海賊の出自だったのもあり、ヴァーン国は海洋国家で操舵技術、造船技術を得意としていた。そこでサリサは、生き残ったヴァーン兵たちと海賊団(ヨルムンガンド海賊)を結成して、アーステイム王国の傘下に入り、私掠海賊として活動を始めたのだった。なお、ヨルムンガンド海賊とは、アウロックスが名乗っていた海賊団名でもある。
「そんなことがあったのですか」
島で最も小高い場所に建てられ、一際大きい館……サリサの家に招かれたヒヨリは、ヴァーン島やヨルムンガンド海賊、そしてヴァイルたちの素性や生い立ちについて、一通りの説明を受けた。
ちらりとヴァイルたちの方を見ると、数カ所殴られた跡が出来ていた。一方でラトフは無傷だった。
あの後、早とちりしたサリサの誤解を解くまでにガウディたちが抑えては、これまでの経緯を説明したのであった。
「そういうこと。まあ、今になっては昔話し。過ぎたことを悔やんでも嘆いても何も変わりはしないからね。今、どうあるべきが大切よ」
サリサはぶどう酒(ウィナー)を一口飲んでから、再び口を開く。
「それで、あなた……名前は、ヒヨリって言ったわね。ガウディたちの話しを聞く限りでは、漂流者で、記憶を失っているらしく、家が何処かにあるか解らないか……ふーん」
品定めをするようにサリサはヒヨリを見つめては、ヴァイルの方に視線を移した。
「まあ、人助けなのは良い。ただ、なんでそこまでやってやるんだい、ヴァイル?」
「……ヒヨリと勝負したからだ。俺に美味いと言わせる料理を作ったら、ヒヨリの国を探して連れてやるという賭けをして、それで負けたんだ。だから、ヒヨリの国を探しているんだよ」
ヴァーン国では各々の無理な願いや頼みを受ける場合、勝負を行う仕来りがあった。神の名で行われる戦いは神聖なものとして尊ばれており、正々堂々と決着をつけて、責務を全うしなければならない。
この仕来りは、四英雄のアウロックスとセウディアが勝負をした逸話が由来とされているが、今はさておき――
「へっ? 美味い、料理? あんたが美味いって?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべるサリサ。第三者のガウディに確認を取ると、
「はい、ヴァイル様はお嬢さんが作ったものを美味いと感じられて、残さずにお食べになられました」
ヴァイルが食事に無関心で興味が無いのは、実姉のサリサも知るところ。そのヴァイルが美味いと味わった料理に興味が沸き……睨むようにヒヨリを見ては、思わずヒヨリがビクっと背中を震わせた。
「へー、そいつは面白い。だったら私にも振る舞って貰おうか。食材は、私の家にあるものを使いな。だけど、私はこう見えても少々せっかちだからね、何時間も待たせないでよね」
突然の注文に「えっ?」とヒヨリは戸惑っていると、館の侍女がやってきて、「えっ? ええっ? どこに?」と成すがままに台所へと連れて行かれたのであった。
「あっ、ヒヨリ!」
ヴァイルは後を追いかけようと席を立ったが、
「待ちな。あんたは何もしないの」
逆にサリサに止められてしまった。
サリサの性格を知っているだけに納得させなければ梃子でも動かない。ここはヒヨリが料理を作ってくるのを待つだけだった。
◇◇◇
「えっーと……まあ、良いか」
台所に案内されたヒヨリは、なにはともあれ辺りを確認し始める。海原亭の厨房と同じような造りで、食材も似たようなものだった。
あのヴァイルたちでさえタジタジになってしまうほどの一方的なサリサのことだから、早く料理を作らないと堪忍袋の緒が切れるだろう。しかし、ただ焼いただけのものでは納得してくれるタイプではない。
さっそく台所の食材を品定めしながら、メニューを考える。
「手早く作れる料理か……」
日本ならば缶詰にインスタント食品や冷凍食品が常備されているので、あっという間に一品を用意できるが、異世界(ここ)にある訳が無い。
「あ、卵があった。そうだ、確か千代さんが……」
かつて千代から聞いた話しを思い出す。
昔、空腹となったとある国の王様が、すぐ食べられる料理を作れと注文をした。まるで今回のように。
その時、作ったとされる料理が――
「“オムレツ”なのだけど。単純にオムレツを作っても、ただの卵焼き……。だったら、ジャガイモとかを入れたりして、スパニッシュオムレツとか。うん、トマトケチャップがあるんだし、それで……あっ!」
トマトケチャップはヨルムンガンド号の船室に置き忘れており、手元に無かったのだ。
そっと振り返り、ヒヨリと同じ年頃ような容姿の侍女に話しかける。
「……あの~、船に忘れ物をしたから、ちょっと取りに行ってきても良いかな?」
侍女は台所の入り口で、まるで門番のように立ち構えては、ヒヨリを監視するように見つめていた。
「いいえ、それはなりません。それにサリサ様はこの館のある食材だけで料理を作れと仰りましたので、この館にある食材で料理をお作りください」
冷淡に拒否された。
「むー」
ふくれっ面で凝視するも、侍女は無表情で返されたのであった。
膝を落とし、頭を抱えるヒヨリ。
(トマトケチャップが使えないとなると……)
何か無いかとポケットの中を探る――有ったのは、自分用に取っておいたクッキーと“小瓶”だけだった。
「このクッキーだけを出すのもな……」
他の料理を考えると、やはり千代と料理を作った思い出がよぎる。先ほどのオムレツの話しを聞いた時に作った料理。
「そうだ!」
ヒヨリはまず二つの深皿を机に置き、油が付着していないかを確認する。綺麗にしており、侍女の仕事ぶりを伺える。
まず三個の卵を取ると、殻を割り、殻を使って慎重かつ丁寧に黄身と白身を、先ほど深皿へと別々に分け始めた。
黄身分けは卵料理の最初の登竜門だ。
昨今、エッグセパレーターやゆで卵スライサー、ペットボトルなどの道具を使って卵黄を取り分けたりするが、千代はそういった道具に頼らない人だった。
『こうやって殻だけで取り分けていると、如何にも料理人って感じがして、美味しく作れそうになるでしょう!』
千代さんの台詞に思い出し笑いしつつ、無事に黄身を割らずに取り分けが成功した。
「さてと、泡立て器は……有る訳がないから」
海原亭の時もそうだったが、この異世界では調理器具がバリエーション豊かではない。他にもフライ返しや菜箸も無い。有るのは大きめスプーンや小さなスプーン。
そこで数本の小さなスプーンを一つに束ねて、
「てりゃーーーー!」
取り分けていた白身を勢い良くかき混ぜ始めたのである。嵐のように荒々しく、光よりも速く手を動かす。
千代さんが泡立て器が無かった時に使用した手法だった。その時は箸を束ねていたが、箸で出来るのならスプーンでも充分代用は可能。要は空気を入れ込むように泡立てるためには、よく撹拌(かくはん)できる掻き手が多い方が良いのだ。
ヒヨリの突飛な行動に、無表情だった侍女が目をパチクリと驚きを浮かべてしまう。
だが、暫くして、もっと衝撃なシーンを目撃することになる。
空気が含むように大きくリズミカルにかき混ぜていると、白身が徐々に泡まみれになっていった。やがて、ふわふわときめ細かな泡が出来上がり、まるで雪のような……メレンゲが出来上がったのだ。
液体だった白身の変化にあ然としてしまう侍女。
「ここで砂糖を入れた方が良いけど、無いからしょうがないのよねと。あ、すみません。釜戸に火を点けてくれませんか?」
と、侍女に呼びかけるも、呆然とヒヨリ……というよりメレンゲを不思議そうに見つめていた。
その視線上にヒヨリが顔を移すと、お互いの顔が見合い「あの~」と呼びかけた。
「……はっ、はい」
侍女はあたふたと種火を取り、炉場に入れて焼べた。
薪に火が着いたところでヒヨリは鍋をセットして熱する。火が通るまでに、
「メレンゲに分けていた黄身を入れて、優しく混ぜる」
真っ白なメレンゲに黄身の黄色が全体に染まっていく。均等に混ざったら、塩をひとつまみ入れる。
すかさず、鍋の真上に手の平をかざす。鍋に熱が充分伝導しているのを感じ取った。
「本当はバターがあれば良いんだけど無いから、植物油を鍋にひいて……生地を流し入れる!」
ジュワーッと心地よい熱する音が響く。ヒヨリは優しく見守るように鍋…生地を眺める。
「本当のオムレツは、とろみを付けさせる為に高速に混ぜて、熱を入れないといけないけど、これは熱が通ったら半分に折るだけで良いから簡単なんだよね」
熱で生地の表面が徐々に固くなっているを確認すると、ポケットの中にあったクッキーを粉々にしながら、生地に振りかけた。
「千代さんの時は、ブラックサンダーとか雷おこしを入れていたけど、これでも充分代わりになるよね、きっと」
ほどほどに生地に火が通ったのを見計らい、大きめのスプーンで生地を折畳むように半面をひっくり返した。
表面に鮮やかな焼き目が付いていることに、手応えを感じる。
「よし、あとはお皿に移して……スフレオムレツの出来上がり!」
かつてレリア大陸に存在し、ヴァイルたちの父である四英雄の一人…アウロックスの血を引くヴァイリーク王が統治していた国だったが、今から十年ほどガンダリア帝国に侵攻されて滅ぼされてしまった。
当時、サリサとヴァイルは神聖アーステイム王国へと遊学中だったのもあり危機を免れた。だが、本国に居たヴァイリーク王を始め一族たちは処刑されてしまったという。
その後、命からがらに脱出して生き残ったヴァーンの民は、サリサたちを求めてアーステイム王国に避難してきた。
状況を考慮してアーステイム王国の王・アーステイオー四世は、ヴァーンの民に領国内での居住を許し、無人島を貸し与えた。
それがヴァーン島の誕生である。
ヴァーン島に僅かに生き残ったヴァーンの民が続々と集まり、サリサを中心として生活を営んでいた。
しかし無人島が故に生活物資は不十分であり、調達する為には金銭を稼せがなければいけなかった。
アーステイム王国から保護を受けてはいるが、余所者に島(土地)を借り与えられているだけでも過分な扱いであった。また、そのアーステイム王国への恩も返さないといけない所論もあった。
元々、建国者のアウロックスが海賊の出自だったのもあり、ヴァーン国は海洋国家で操舵技術、造船技術を得意としていた。そこでサリサは、生き残ったヴァーン兵たちと海賊団(ヨルムンガンド海賊)を結成して、アーステイム王国の傘下に入り、私掠海賊として活動を始めたのだった。なお、ヨルムンガンド海賊とは、アウロックスが名乗っていた海賊団名でもある。
「そんなことがあったのですか」
島で最も小高い場所に建てられ、一際大きい館……サリサの家に招かれたヒヨリは、ヴァーン島やヨルムンガンド海賊、そしてヴァイルたちの素性や生い立ちについて、一通りの説明を受けた。
ちらりとヴァイルたちの方を見ると、数カ所殴られた跡が出来ていた。一方でラトフは無傷だった。
あの後、早とちりしたサリサの誤解を解くまでにガウディたちが抑えては、これまでの経緯を説明したのであった。
「そういうこと。まあ、今になっては昔話し。過ぎたことを悔やんでも嘆いても何も変わりはしないからね。今、どうあるべきが大切よ」
サリサはぶどう酒(ウィナー)を一口飲んでから、再び口を開く。
「それで、あなた……名前は、ヒヨリって言ったわね。ガウディたちの話しを聞く限りでは、漂流者で、記憶を失っているらしく、家が何処かにあるか解らないか……ふーん」
品定めをするようにサリサはヒヨリを見つめては、ヴァイルの方に視線を移した。
「まあ、人助けなのは良い。ただ、なんでそこまでやってやるんだい、ヴァイル?」
「……ヒヨリと勝負したからだ。俺に美味いと言わせる料理を作ったら、ヒヨリの国を探して連れてやるという賭けをして、それで負けたんだ。だから、ヒヨリの国を探しているんだよ」
ヴァーン国では各々の無理な願いや頼みを受ける場合、勝負を行う仕来りがあった。神の名で行われる戦いは神聖なものとして尊ばれており、正々堂々と決着をつけて、責務を全うしなければならない。
この仕来りは、四英雄のアウロックスとセウディアが勝負をした逸話が由来とされているが、今はさておき――
「へっ? 美味い、料理? あんたが美味いって?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべるサリサ。第三者のガウディに確認を取ると、
「はい、ヴァイル様はお嬢さんが作ったものを美味いと感じられて、残さずにお食べになられました」
ヴァイルが食事に無関心で興味が無いのは、実姉のサリサも知るところ。そのヴァイルが美味いと味わった料理に興味が沸き……睨むようにヒヨリを見ては、思わずヒヨリがビクっと背中を震わせた。
「へー、そいつは面白い。だったら私にも振る舞って貰おうか。食材は、私の家にあるものを使いな。だけど、私はこう見えても少々せっかちだからね、何時間も待たせないでよね」
突然の注文に「えっ?」とヒヨリは戸惑っていると、館の侍女がやってきて、「えっ? ええっ? どこに?」と成すがままに台所へと連れて行かれたのであった。
「あっ、ヒヨリ!」
ヴァイルは後を追いかけようと席を立ったが、
「待ちな。あんたは何もしないの」
逆にサリサに止められてしまった。
サリサの性格を知っているだけに納得させなければ梃子でも動かない。ここはヒヨリが料理を作ってくるのを待つだけだった。
◇◇◇
「えっーと……まあ、良いか」
台所に案内されたヒヨリは、なにはともあれ辺りを確認し始める。海原亭の厨房と同じような造りで、食材も似たようなものだった。
あのヴァイルたちでさえタジタジになってしまうほどの一方的なサリサのことだから、早く料理を作らないと堪忍袋の緒が切れるだろう。しかし、ただ焼いただけのものでは納得してくれるタイプではない。
さっそく台所の食材を品定めしながら、メニューを考える。
「手早く作れる料理か……」
日本ならば缶詰にインスタント食品や冷凍食品が常備されているので、あっという間に一品を用意できるが、異世界(ここ)にある訳が無い。
「あ、卵があった。そうだ、確か千代さんが……」
かつて千代から聞いた話しを思い出す。
昔、空腹となったとある国の王様が、すぐ食べられる料理を作れと注文をした。まるで今回のように。
その時、作ったとされる料理が――
「“オムレツ”なのだけど。単純にオムレツを作っても、ただの卵焼き……。だったら、ジャガイモとかを入れたりして、スパニッシュオムレツとか。うん、トマトケチャップがあるんだし、それで……あっ!」
トマトケチャップはヨルムンガンド号の船室に置き忘れており、手元に無かったのだ。
そっと振り返り、ヒヨリと同じ年頃ような容姿の侍女に話しかける。
「……あの~、船に忘れ物をしたから、ちょっと取りに行ってきても良いかな?」
侍女は台所の入り口で、まるで門番のように立ち構えては、ヒヨリを監視するように見つめていた。
「いいえ、それはなりません。それにサリサ様はこの館のある食材だけで料理を作れと仰りましたので、この館にある食材で料理をお作りください」
冷淡に拒否された。
「むー」
ふくれっ面で凝視するも、侍女は無表情で返されたのであった。
膝を落とし、頭を抱えるヒヨリ。
(トマトケチャップが使えないとなると……)
何か無いかとポケットの中を探る――有ったのは、自分用に取っておいたクッキーと“小瓶”だけだった。
「このクッキーだけを出すのもな……」
他の料理を考えると、やはり千代と料理を作った思い出がよぎる。先ほどのオムレツの話しを聞いた時に作った料理。
「そうだ!」
ヒヨリはまず二つの深皿を机に置き、油が付着していないかを確認する。綺麗にしており、侍女の仕事ぶりを伺える。
まず三個の卵を取ると、殻を割り、殻を使って慎重かつ丁寧に黄身と白身を、先ほど深皿へと別々に分け始めた。
黄身分けは卵料理の最初の登竜門だ。
昨今、エッグセパレーターやゆで卵スライサー、ペットボトルなどの道具を使って卵黄を取り分けたりするが、千代はそういった道具に頼らない人だった。
『こうやって殻だけで取り分けていると、如何にも料理人って感じがして、美味しく作れそうになるでしょう!』
千代さんの台詞に思い出し笑いしつつ、無事に黄身を割らずに取り分けが成功した。
「さてと、泡立て器は……有る訳がないから」
海原亭の時もそうだったが、この異世界では調理器具がバリエーション豊かではない。他にもフライ返しや菜箸も無い。有るのは大きめスプーンや小さなスプーン。
そこで数本の小さなスプーンを一つに束ねて、
「てりゃーーーー!」
取り分けていた白身を勢い良くかき混ぜ始めたのである。嵐のように荒々しく、光よりも速く手を動かす。
千代さんが泡立て器が無かった時に使用した手法だった。その時は箸を束ねていたが、箸で出来るのならスプーンでも充分代用は可能。要は空気を入れ込むように泡立てるためには、よく撹拌(かくはん)できる掻き手が多い方が良いのだ。
ヒヨリの突飛な行動に、無表情だった侍女が目をパチクリと驚きを浮かべてしまう。
だが、暫くして、もっと衝撃なシーンを目撃することになる。
空気が含むように大きくリズミカルにかき混ぜていると、白身が徐々に泡まみれになっていった。やがて、ふわふわときめ細かな泡が出来上がり、まるで雪のような……メレンゲが出来上がったのだ。
液体だった白身の変化にあ然としてしまう侍女。
「ここで砂糖を入れた方が良いけど、無いからしょうがないのよねと。あ、すみません。釜戸に火を点けてくれませんか?」
と、侍女に呼びかけるも、呆然とヒヨリ……というよりメレンゲを不思議そうに見つめていた。
その視線上にヒヨリが顔を移すと、お互いの顔が見合い「あの~」と呼びかけた。
「……はっ、はい」
侍女はあたふたと種火を取り、炉場に入れて焼べた。
薪に火が着いたところでヒヨリは鍋をセットして熱する。火が通るまでに、
「メレンゲに分けていた黄身を入れて、優しく混ぜる」
真っ白なメレンゲに黄身の黄色が全体に染まっていく。均等に混ざったら、塩をひとつまみ入れる。
すかさず、鍋の真上に手の平をかざす。鍋に熱が充分伝導しているのを感じ取った。
「本当はバターがあれば良いんだけど無いから、植物油を鍋にひいて……生地を流し入れる!」
ジュワーッと心地よい熱する音が響く。ヒヨリは優しく見守るように鍋…生地を眺める。
「本当のオムレツは、とろみを付けさせる為に高速に混ぜて、熱を入れないといけないけど、これは熱が通ったら半分に折るだけで良いから簡単なんだよね」
熱で生地の表面が徐々に固くなっているを確認すると、ポケットの中にあったクッキーを粉々にしながら、生地に振りかけた。
「千代さんの時は、ブラックサンダーとか雷おこしを入れていたけど、これでも充分代わりになるよね、きっと」
ほどほどに生地に火が通ったのを見計らい、大きめのスプーンで生地を折畳むように半面をひっくり返した。
表面に鮮やかな焼き目が付いていることに、手応えを感じる。
「よし、あとはお皿に移して……スフレオムレツの出来上がり!」
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