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第7話 ライブハウスと、ひょうたんボトル
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ライブハウスに入る前に自販機でコーラを買った。コーラはひょうたんボトルに入っている。
これは石油を使って作られたペットボトルの代わりに発明された代物で、遺伝子操作されたひょうたんから作られている。
プラスチック製のペットボトルと違い、その辺に捨ててもやがては腐り、分解して土に還るのだ。
環境に優しいというわけである。地球の石油が枯渇しかかった22世紀初頭に発明されたものだった。
現在地球の石油は完全に枯渇しており、エネルギー源は再エネと核融合に頼っている。
やがて訪れたライブハウスは熱気と観客で溢れていた。ジン・ルォシーの人気のほどがうかがえる。
集まった人達の人種構成は様々で、日本と同じ時間帯だから日本人が多いとか、歌手が中国人? だから中国人が多いというのもなさそうだ。
もっとも今や日本人や中国人も白人や黒人やインド人の血が入っているケースが珍しくなかったので、見かけだけでは国籍はわからなかったが。
やがてルォシーが現れた。動画で観る以上に華があり、輝くようなオーラを放つ。観客のあちらこちらから歓声があがった。
やがて彼女は北京語で挨拶をする。
陽翔はその言語を理解できないが、現在は太陽系中に普及しているネックレス型の翻訳機がそれを日本語に翻訳し、陽翔の頭の中に送信した。
当然他の聴衆も翻訳機をつけており、装着した者が理解できる言語に瞬時に訳される。
ホロ動画でも体感したが、ルォシーはしゃべりも上手く、聴衆を何度も笑わせた。
無論歌も最高だ。高音は7オクターブまで伸びる。ただ高いだけでなく、表現力も豊かだった。
感動のあまり陽翔が涙する曲もあったのだ。
やがてライブが終了した。陽翔はライブハウスを出て、事前に指定されていたバーに向かう。
1時間後にそこのボックス席の1つでルォシーと会う手筈になっている。
天を見上げると満天の星空だ。金星に衛星はないので月の姿は見当たらない。美しい夜空だが、それだけが物足りなかった。
店内に入ってボックス席の中に入り、先にカクテルを注文する。カクテルの名は「ヴィーナス・ディーヴァ」。
金色のカクテルでアルコール度数が強いので、飲むとガツンとくる感じ。でも美味しい。一気に気分が華やぐようだ。
やがて約束の時刻を30分ほど過ぎて、ジン・ルォシーが現れた。来ただけで、そこに光が生まれたようだ。
「ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
彼女は北京語で話したが、すぐに翻訳機が日本語に変換して、陽翔の脳に届ける。
ステージにいた時と同様後光を放っているかのような美しさだ。現代に楊貴妃がタイムスリップしたのではないかと感じたほどだ。
顔は瀬麗音と変わらないのに、別人のようなカリスマ性がある。ルォシーも飲み物を注文した。2人はしばし、雑談をする。
やがて彼女の方から話の核心に入った。
「あたしのもう1人の人格と結婚したいという話だけど、すぐお返事はできません。ただ先に宣言しますが、あなたにとって良い回答にはならないかもしれない」
「覚悟はしてます。人格は別ですけど体は共用してますからね。違和感を覚えるのも無理ないです」
「違和感どころか拒否感ね……あなたを嫌いってわけじゃないの。むしろホロテレビでビースト・ハンターの試合を観戦する時は応援してるぐらい」
「ありがとうございます」
陽翔は頭を下げる。
「仮に瀬麗音さんと結婚できたとしても、あなたにとってはイバラの道じゃないかしら。毎週月曜日しか会えないし、いつ人格が消失するかもしれないから」
心配そうにルォシーがこちらを窺う。
「その件も、考えました。でも俺はそれでも瀬麗音を愛してるんです。あいつなしの人生なんて、今の俺には考えられない」
「瀬麗音さんは、幸せね……ともかく時間をくださいな。すぐに回答できませんから。そもそも私自体、他の人格に迷惑をかけると考えて、恋人を作らないようにしてきたの」
ルォシーの目に、翳りが生じた。
「承知しました。回答を急がせるような話じゃないのでゆっくりお待ちしています。忙しいのに、今夜は時間を割いていただきありがとうございます」
「こちらこそ、わざわざ金星まで来てくださって悪いわね」
「あなたのような実力派の歌手と、実際にお会いできて光栄です」
「運がよかったのね。歌の上手い人はいっぱいいるけど、ほんの僅差で売れる人と、そうじゃない方の違いが出る」
「まさか人格の1つが中国人だとは想像もしませんでした。瀬麗音は、日本語しかできないので」
「でも中国人のファンの方に『あなた本当に中国人?』って聞かれる時が、たまにあるの。自分ではわからないけど、きっと何かが違うのね。外国人の人格が生まれたのは、それだけマイさんに与えられた虐待が激しかったかもしれない。もしくは想像力が豊かなのか」
「あるいはその、両方なのかもしれませんね」
これは石油を使って作られたペットボトルの代わりに発明された代物で、遺伝子操作されたひょうたんから作られている。
プラスチック製のペットボトルと違い、その辺に捨ててもやがては腐り、分解して土に還るのだ。
環境に優しいというわけである。地球の石油が枯渇しかかった22世紀初頭に発明されたものだった。
現在地球の石油は完全に枯渇しており、エネルギー源は再エネと核融合に頼っている。
やがて訪れたライブハウスは熱気と観客で溢れていた。ジン・ルォシーの人気のほどがうかがえる。
集まった人達の人種構成は様々で、日本と同じ時間帯だから日本人が多いとか、歌手が中国人? だから中国人が多いというのもなさそうだ。
もっとも今や日本人や中国人も白人や黒人やインド人の血が入っているケースが珍しくなかったので、見かけだけでは国籍はわからなかったが。
やがてルォシーが現れた。動画で観る以上に華があり、輝くようなオーラを放つ。観客のあちらこちらから歓声があがった。
やがて彼女は北京語で挨拶をする。
陽翔はその言語を理解できないが、現在は太陽系中に普及しているネックレス型の翻訳機がそれを日本語に翻訳し、陽翔の頭の中に送信した。
当然他の聴衆も翻訳機をつけており、装着した者が理解できる言語に瞬時に訳される。
ホロ動画でも体感したが、ルォシーはしゃべりも上手く、聴衆を何度も笑わせた。
無論歌も最高だ。高音は7オクターブまで伸びる。ただ高いだけでなく、表現力も豊かだった。
感動のあまり陽翔が涙する曲もあったのだ。
やがてライブが終了した。陽翔はライブハウスを出て、事前に指定されていたバーに向かう。
1時間後にそこのボックス席の1つでルォシーと会う手筈になっている。
天を見上げると満天の星空だ。金星に衛星はないので月の姿は見当たらない。美しい夜空だが、それだけが物足りなかった。
店内に入ってボックス席の中に入り、先にカクテルを注文する。カクテルの名は「ヴィーナス・ディーヴァ」。
金色のカクテルでアルコール度数が強いので、飲むとガツンとくる感じ。でも美味しい。一気に気分が華やぐようだ。
やがて約束の時刻を30分ほど過ぎて、ジン・ルォシーが現れた。来ただけで、そこに光が生まれたようだ。
「ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって」
彼女は北京語で話したが、すぐに翻訳機が日本語に変換して、陽翔の脳に届ける。
ステージにいた時と同様後光を放っているかのような美しさだ。現代に楊貴妃がタイムスリップしたのではないかと感じたほどだ。
顔は瀬麗音と変わらないのに、別人のようなカリスマ性がある。ルォシーも飲み物を注文した。2人はしばし、雑談をする。
やがて彼女の方から話の核心に入った。
「あたしのもう1人の人格と結婚したいという話だけど、すぐお返事はできません。ただ先に宣言しますが、あなたにとって良い回答にはならないかもしれない」
「覚悟はしてます。人格は別ですけど体は共用してますからね。違和感を覚えるのも無理ないです」
「違和感どころか拒否感ね……あなたを嫌いってわけじゃないの。むしろホロテレビでビースト・ハンターの試合を観戦する時は応援してるぐらい」
「ありがとうございます」
陽翔は頭を下げる。
「仮に瀬麗音さんと結婚できたとしても、あなたにとってはイバラの道じゃないかしら。毎週月曜日しか会えないし、いつ人格が消失するかもしれないから」
心配そうにルォシーがこちらを窺う。
「その件も、考えました。でも俺はそれでも瀬麗音を愛してるんです。あいつなしの人生なんて、今の俺には考えられない」
「瀬麗音さんは、幸せね……ともかく時間をくださいな。すぐに回答できませんから。そもそも私自体、他の人格に迷惑をかけると考えて、恋人を作らないようにしてきたの」
ルォシーの目に、翳りが生じた。
「承知しました。回答を急がせるような話じゃないのでゆっくりお待ちしています。忙しいのに、今夜は時間を割いていただきありがとうございます」
「こちらこそ、わざわざ金星まで来てくださって悪いわね」
「あなたのような実力派の歌手と、実際にお会いできて光栄です」
「運がよかったのね。歌の上手い人はいっぱいいるけど、ほんの僅差で売れる人と、そうじゃない方の違いが出る」
「まさか人格の1つが中国人だとは想像もしませんでした。瀬麗音は、日本語しかできないので」
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