東からの侵略者

空川億里

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第4話 暗殺

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「説明は受けてる」
 頭痛のする自分の頭を両手で抑えながら、返事をした。頭だけでなく、身体中の節々が痛む。
「今は、いつだ」
「1960年の、俺の故郷だ」
 俺は脚を引きずるように、タイム・シャトルの外へ出た。そこもガレージのような広い場所だ。年代物の車もあった。昔の車だからガソリンで動くのだろう。博物館以外で、ガソリン車を見るのは初めてだ。
 俺がいた2080年の車は、みんな電気自動車だから。ガレージに、小柄な白人の男がいた。年齢は60代ぐらいだろうか。
「イワン・シャラポフだ」
 男は、握手を求めてきた。
「デニス・トゥルチノフです」
 俺は、手を握り返した。
「しかしタイム・シャトルってのは、乗り心地が悪いな。今度はファースト・クラスにしてくれ」
 俺のジョークに、シャラポフは微笑んだ。
「これから大統領になる8歳のガキは、どこにいるんだ。俺は、どこから撃てばいい」
「とりあえずガレージを出よう。一緒に来てくれ」
 シャラポフはガレージを出て、同じ敷地内にある2階建ての一軒家に向かって歩いた。俺も、後をついてゆく。外は晴れ渡っていた。俺はシャラポフの後ろから一軒家に入る。シャラポフが、部屋の1つを案内した。
「見てくれ」
 シャラポフは、部屋の窓をさししめした。窓の外はT字路だ。窓のすぐ外に、左右に伸びる通りがあるのと同時に、窓の正面にも、まっすぐ地平線に向かって道が延びてるのだ。
まっすぐ延びた道の突き当たりに3階建ての家があり、そっちの手前の左右に延びる通りを人が、行き来していた。すなわちそちらもT字路になっている。
「3階建ての家が見えるだろう。その手前の通りが小学校の通学路になってる。今日は日曜だが、明朝月曜には、大勢の小学生が通りをこちらから見て、右から左へ歩いていく。学校は左の方にあるんでね。未来のこの国の大統領は、明朝8時30分頃、あの通りの右の方から現れる」
 シャラポフは、自分のハンディ・ヴィジフォンを取り出すと、ホログラムを再生させた。そこには将来、この国の大統領となる8歳の少年の顔が浮かぶ。
「わかった。明朝8時に起きて、この標的を殺害する」
「ありがたい」
 巌のように固まった顔で説明していたシャラポフが、氷が溶けたかのような笑みを浮かべる。
「私に銃の腕があれば、代わりに奴を、撃ちたいがね」
 シャラポフの顔は引きしまり、眉をひそめた。
「そっちは俺に任せてくれ」
 その夜は、シャラポフが用意した食事を2人で食べながらウォッカを飲んだ。そして俺は用意された寝室のベッドに1人で寝たが、寝つかれなかった。眠れぬ夜を過ごした後、俺は寝台から起きあがった。寝れなかったのはシャラポフも同じらしく、すでに彼は起きており、台所で朝食を作っていた。
 そして、湯気の出る料理を2人で食べる。食後に俺はタイム・シャトルから持ってきた銃を、昨日案内された部屋の窓際にセットした。シャラポフも、後から部屋にやってくる。
「私は、いない方が良いかな。気が散るなら、別の部屋で待機する」
「むしろ、いてくれ。万が一標的を見逃すと、まずい」
「わかった。双眼鏡で確認する」
 やがて朝8時半が近づいてきた。が、8時半を過ぎても、標的は現れない。見落としたのか? 今朝は何らかの理由で登校しないのか? 焦燥感は、深まるばかりだ。が、やがて8時35分になって、標的の姿が現れた。
 俺は引き金を引こうとするが、次の瞬間隣のシャラポフが、双眼鏡を手から落とした。すぐ横を見るとシャラポフの額に穴が開き、そこから血が流れている。
俺はシャラポフが双眼鏡を落とした時、同時にすぐ体を伏せた。引き金を引く前だったので、標的の少年を撃ちもらしたのだ。
 銃声がしなかったし、シャラポフの額に開いた穴の様子を見ると、多分使われたのはブラスター(熱線銃)だろう。角度からするとシャラポフを殺した人物は、向かいの建物から、こちらを撃ったようだ。
 俺は、向かいの建物へ行くと決めた。ライフルは目立つので置いてゆき、レイ・ガン(光線銃)と、タイム・シャトル故障時に使うため未来から持参したタイム・ガンを、コートのポケットに入れる。
 外に出ると、凍りつくような外気が襲ってくる。今この国は、冬なのだ。俺は向かいの建物にまっすぐ行かず一旦隣の通りから、目的地に向かった。銃声がしたわけじゃないので、誰も今の件に気づかなかったようだ。何事もなく、職場や学校へ急いでいる。
 俺はベルトのスイッチを入れ、自分の身体の周囲に透明なシールドを張った。これで俺はブラスターで撃たれてもシールドがはねかえすため、死ぬ事はない。
向かいの建物は廃ビルで、ビルの周囲を取り巻く塀の一角にある門は壊れて半開きになっており、そこから敷地の中に入った。
 早速ビルの屋上にいる誰かがハンドブラスターを撃ってきたが、シールドがはねかえしたので、事なきを得る。俺は廃ビルに駆け寄って1階に入った。そしてレイ・ガンを構えながら、階段を上がる。廃ビルは3階建てだ。
 階段の1番上から銃口が下を覗きこんだ。俺はすぐにレイ・ガンを撃つ。敵の銃口は引っこんだが、階段の手すりに見えないビームが当たり、金属製の手すりがグニャリと溶解した。俺はそのまま2階に上がった。
 再び階段の1番上から銃口が覗く。今度はすぐ引き金が引かれたらしく、ブラスターの熱線がシールドに当たる。俺は構わず上に向かって走り続けた。相手がいくら撃ってきても、全部はねかえすだけの話だ。やがて俺は屋上に上がった。
 屋上に出ようとすると、プラズマ・ソードを手にした人物がドアの脇から襲ってくる。 プラズマ・ソードの攻撃はブラスター程高速でないためシールドでは守れない。銃弾や、ブラスターから放たれた熱線のような物からしか防護できないのだ。
 俺は体をかわしたが、右手に握ったレイ・ガンにプラズマ・ソードの刃がぶつかり、レイ・ガンは真っ二つになった。俺は自分の腰につけたホルスターから、プラズマ・ソードの柄を抜くと、柄についたスイッチを入れる。
 すぐさま柄から青く光る、プラズマの刃が伸びた。俺は、相手の顔を見る。驚く事に、相手は若い女だ。いや冷静に考えれば、女の刺客だっていても不思議はない。
「あなたには、ここで死んでもらう」
 女が、東の国の言語で決めつけた。
「そういくもんか。貴様を殺して、俺は標的を始末する」
「八歳の男の子を殺すの」
「俺の国は、その男の子の命令で侵略され、今じゃ属国だ」
「あなたが来た未来では、そうなのね」
「お前がいた未来では、違うのか」
「あたしがいた未来では、あたしの国の軍隊があなたの国へ攻撃した後、激しい抵抗にあって敗北したの。それであたしの国の西の一部が領土として、あなたの国へ割譲された」
「自業自得だろ。貴様らの国が攻撃しなければ、お互い共存できたんだ」
「あなたの国はNATOに加盟しようとしていた。しかもアメリカから武器の援助を受けてたじゃない。あたし達にとっては脅威だった」
「理屈はいい。俺は、貴様を倒す」
 俺はプラズマ・ソードを構えると、女に向かって斬りこんだ。無論相手もソードを構え、互いの剣がぶつかりあう。死闘の果てにようやく俺は、相手の隙を見つけると、そこへソードをまっすぐ伸ばし、女の腹を貫いた。
 女もシールドでわが身を守っていたが、プラズマ・ソードのように低速で接近する武器を防ぐのは不可能だ。が、同時に女のプラズマ・ソードが、俺の胸を貫いたのに気がついた。激しい激痛と絶望が、俺を襲った。


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