この世界を、統べる者

空川億里

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第14話 明かされる秘密

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「実はなハツシモ。わしらが今いるこの世界は長さ8里、直径2里の巨大な金属製の筒で、この中に、100万人が暮らしておる」
 息子がきょとんとしてるので、イシクレは脳で命じて、ヤマトの全貌を描いた立体映像を浮かびあがらせた。
「見ての通りヤマトと呼ばれる巨大な筒型の入目を丸くして、ハツシモが質問した。
「このヤマトの各地に放った金属製の鳥にしこまれた『撮影機』という装置で記録しておる」
 イシクレが答えた。彼は操作盤の前にある椅子に、息子と一緒に並んで座る。
 そして操作盤のそばにあった銀色の鉄兜をかぶった。 
 これをかぶると彼の思考を読みとって、天候を支配できる。
 操作盤にはたくさんの釦や動く取っ手がついており、何らかの理由で鉄兜が使えぬ時は、そちらを動かしても同じ操作ができるのだが、通常は使わない。
 イシクレが頭の中で念じると、たちまち黒い雲が広がり、滝のような豪雨を放出した。 
 それはまるで無数の矢のように、乾ききった地面に叩きつける。
「見たか息子よ。これぞ、偉大なるいにしえの技術じゃ」
「一体どんなからくりになっているのでしょうか」れ物は『宇宙』と呼ばれるそれよりもさらに壮大な『ホシ』の大海に浮かんでおる。ヤマトはちょうど『地球』と呼ばれる赤い『ホシ』と、昼間に時折ヤマトの空に姿を見せる月の間に浮かんでいるのじゃ」
「浮かんでいる?」
「宇宙には本来重さという物はなく、何もしなければ、そのままそこに浮かんでいるだけじゃが『地球』という『ホシ』は手毬のような球形で、グルグル回転する事で『重力』という力を発生させておる。そのおかげで、地面にある物が宇宙に飛んでいかんのじゃな。おぬしも子供の時遊んだ事があろう。手桶に水を汲み片手でそれをぐるぐる回すと、桶が逆さになったとしても、中の水は落ちぬだろうが」
「確かに、おっしゃる通りです」
 適切な例えだったらしく、息子はポンと手を打った。
「それはこのヤマトも同じで、巨大な筒が回転して重力を作りだしておる。それでわれらは、筒の内側に立つ事ができるのじゃ」
「私達は、筒の内部に立ってるのですか」
 ハツシモが、目を丸くした。
「その通りじゃ。『神々の橋』と呼ばれる物には実際には神などおらん。あれはこのヤマトに動力を伝える回転軸じゃ。セイタカ山からサイハテ村の方を観ると左右がせりあがって見えるのも、ヤマトが巨大な筒だからじゃよ。元々我らのご先祖様は地球で生まれた。が、地球と月の間に筒型の人工都市を浮かべて、一部の者が移住したんじゃ」
「この世界が巨大な筒の中にあって、建造されて300年以上たったなら、経年劣化であちこち故障する事もあるでしょう。それはどうやって修理してるのでしょう」
「よい所に気づいたな」
 イシクレは、自分の顔に笑みが浮かぶのに気づいていた。「それらは全て『労働機』が行っておる。『労働機』とは人工知能が埋めこまれた文字通り労働用の機械でな。普段からヤマトの隅々を点検・整備し、故障箇所を発見したら速やかに修理しておるのだ。人のように自分の判断でそれができるが感情はなく、民に危害を加えたり、反乱を起こしたりはしない。月の地下にはヤマトを運営維持するために必要な資源が大量に地下に眠っておってな。それの発掘と運搬も行っておる」
 イシクレとハツシモの眼前に、労働機の映像が浮かびあがった。
 それは様々な形をしており、月面から採掘・精製した資源や材料物質を、金属製の球体に運んでいる。
 鉄の紐でつながれたいくつもの球体が、真っ白な星船(ほしぶね)の後ろに連なってヤマトへと向かう画像も映しだされた。
 ヤマトを外から見た映像も浮かびあがる。巨大な3枚の長方形の鏡が花のように開いた金属の筒が、無数のきらめきを浮かべた漆黒の大海に浮かんでいた。
   その次に、赤い球体が映しだされる。
「そしてこの赤いホシ地球が、人類のふるさとじゃ。元々地球は青く美しい星だったのが『42日大戦』が勃発し、そこで使われた大量破壊兵器によって全ての命が死に絶えてしまい、放射能と呼ばれる猛毒の影響で、赤い星になりはてたのじゃ。この時すでに地球と月の間には、このヤマトを含め、いくつかの巨大な筒が作られており『宇宙』と呼ぶたくさんの『ホシ』が浮かぶ真っ暗な空に浮かんでいた。ヤマトは『ニホン』という島国に住んでいたわしらの祖先が労働機を使って建設したのじゃ」
「正直そんな事になっていたとは知らず、どう考えていいのか……」
 ハツシモは、あっけにとられた表情だ。
「しかたない。若い頃のわしもそうじゃったしのう。この暗黒の大海には、映像で観る通りたくさんの『ホシ』が浮かんでいてな。夜の地球から空を見ると晴れた日にはたくさんの『ホシ』を観られるのだが、ヤマトの中にいると夜になってもホシを観る事はできぬのじゃ。無論この筒から星船という乗り物に乗って外へ出れば、満天の『ホシ』も、この筒の中では見えぬ『太陽』を観る事が可能じゃ」
 さらに眼前に光に包まれた球体が映しだされた。
「地球は今観ておる『太陽』という巨大な炎の玉の周りを巡っておる。映像で見る通りヤマトに設置された巨大な鏡で太陽の光を反射しヤマトの中に取りいれ、昼の陽光を作りだす。ちなみに我々の住むこの巨大な筒は『ころにー』と呼ばれていた。『ニホン』の他に『あめりか』『ろしあ』『チュウゴク』『いんど』『よーろっぱレンゴウ』といった国も『ころにー』を宇宙に建設、自国民を移住させたのじゃ」
 眼前の立体映像は元々導師の後継者への教育用に用意されたである。
   イシクレが人工知能に命令すれば、彼が想像を汲み取った映像を作りだしてくれるのだ。
「そして今度は愚かな事に『ころにー』と『ころにー』の間で戦を始めてしまったのじゃ。
   ヤマト以外の『ころにー』は2つの陣営に分かれ互いに攻撃しあった末に全滅した。残ったヤマトの住民は他の『ころにー』の戦争が続いている時両陣営のどっちに付くかで意見が分かれ、ヤマトの内部で内戦状態になったのじゃ。
   内戦が引き分けで終わった後生き残ったわずかの者達は、42日大戦前から平和を唱えていた初代の導師の下、1から国づくりをしたのじゃな。その頃にはヤマト以外の『ころにー』は地球上の人類を絶滅させた兵器を使って両陣営がお互いに殺しあい、双方共に住民が絶滅したのじゃ」
「そうでしたか……なんと、悲惨な」
「初代の導師は、人類に大いなる災厄をもたらした高度な文明を捨てる決断をしたのじゃ。ヤマトの民は文明を捨て、昔ながらの農業や牧畜で生活をした。子供達に高度な教育をするのもやめた。文字の読み書きは特権階級のみに教え、このヤマトの支配装置は、導師のみが管理する形にしたのじゃ。反発する者もいたようじゃが多くの者が、地球に住む人類と動植物を絶滅させ、放射能まみれにした破壊兵器と、それを生みだした高度な科学に憎悪を抱くようになっており、従う者の方が多かったんじゃな」
「父上、この場所を見せてくださったのは、ぼくを父上の後継者にしてくださるとお決めになったのでありましょうか」
「そこまではまだのう」
 思わず導師は笑ってしまった。
「今後のおぬし次第じゃな」
 その時である。ハツシモの顔が突然憤怒の色に染まった。突然普段の彼からは信じられぬような大声をあげて突進してくる。
 まるで野生のけだもののようだった。
 いつのまにか、手には小刀を持っており、その鋭い切っ先が、今にも導師の老いた体を切り刻もうと迫ってくる。
 イシクレは思わず息子に背を向けて逃げようとしたが、背にぶっすりと鋭利な刃物を叩きこまれた。
 激痛が全身を走り、大量の血が外へ流れてゆくのを感じる。
 やがて刃は抜かれたが、再び背中に叩きこまれ、さらに抜き、さらに刺しと、何度も背中や脇腹をえぐった。
 やがて導師はその両脚をよろめかせ、そのままうつぶせに倒れた。鼻を打ったため、激しく痛む。
 やがて目の前が真っ暗になり、意識が遠のいてゆく。
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