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第5話 エンピツ屋敷
9人の男女は、白い砂浜に戻った。船の残骸を沖に押しやるのは、予想ほど難しくなかった。
元々それほど大きな船ではなかったし、砂浜に難破した後破損して、いくつかに分裂していたからだ。
それでもやはり両腕を怪我した瀬古にはきついらしく、手伝おうとしたのだが、兵頭が見かねてやめさせた。
稗田は作業の間、泣き言とグチばかりだ。まがりなりにも民主化運動の闘士なのに情けない。
女性3人の方が、よほど頼りになる。ともかくも、船を沖に流す事には成功した。
それから総勢9人は、恋紋を先頭にエンピツ屋敷へと向かう。エンピツ屋敷は3階建てだった。
1階につき3部屋ずつあり、それぞれが六角形をしている。1階と2階を男性陣が1人ずつ使い、3階の3部屋を女性陣が使う事になった。
赤鉛筆の建物にある301号室には元々恋紋が生活しており、青鉛筆の建物にある302号室に智恵理、黄色い鉛筆の建物にある303号室は、ほのかが使用すると決まった。
1階は赤鉛筆の建物にある101号室に兵頭、青鉛筆の建物にある102号室に今国、黄色い鉛筆の建物にある103号室に瀬古、101の上にある201には水川船長、102の上の202には稗田が、103の上にある203には若田部が寝泊まりすると、兵頭が決めたのだ。
エンピツ屋敷の北側には、屋敷から見えるすぐそばに離れがあり、壁でしきられた食堂と喫煙所があり、全員一旦食堂に集まった。
食堂には六角島の地図が貼ってある。その名の通り六角形で、平たい面を南北に向け、尖った面を東西に向けていた。
「まずは、ずぶぬれになった洋服を着替えたいでしょうから、みなさん各部屋に行ってください。鍵をお渡ししますから。それぞれの部屋に男物と女物の服装や肌着を、サイズ色々とりそろえてあります。ユニットバスもありますから、シャワーを浴びれます。何かわからない点あれば、この食堂の内線電話に連絡してください。それが終わったらまたここへお集まりください。それまでにお食事の準備をしておきます」
説明したのは、恋紋である。若田部も含めて多くの者からホッとしたような声があがった。
「それからくれぐれも、日中でも雨戸は開けないでくださいね。軍のヘリに見つかるかもしれませんから」
恋紋は、そう念を押す。唯一の喫煙者である瀬古はまるで脱兎のごとく隣にある喫煙所に走った。
他のみなは、それぞれわりあてられた部屋に向かう。
「しかし、ずいぶん準備がいいですね」
そう声をかけたのは、兵頭である。
「最初は、不意のお客様を想定していたんですけど、今ではこんな事もあろうかと色々準備してたんです。実際鹿児島や沖縄から韓国へ船で逃げる人達が、後を絶ちませんし」
恋紋が、返した。若田部は早速203号室に急いだ。少し前を、ほのかが歩いている。
彼女は抱えたリュックの中に入っていた水筒を何度も見ながら、303号室に上がってゆく。
若田部は恋紋からもらった鍵で自分の部屋を開錠し、中に入る。
照明のスイッチを入れた。すぐに濡れた服を全部脱ぎ捨て、入って右にあるユニットバスに入り、温度調整をしてあったかい湯を頭から浴びる。
天国に来たような気分だ。生き返った思いがする。しばらくの間浴槽にはった湯船に肩までつかった。
入ってきたドアは北に、雨戸のしまったベランダ側は南にある。ユニットバスは東にあった。
六角形の尖った側にあるので三角形のバスルームだからなんとなく違和感がある。
ちゃんとした説明はなかったが、六角島からインスパイアされて、六角形の鉛筆を模した屋敷を建てたのだろう。
さっぱりしたので風呂を出た。全身を清潔なバスタオルで拭う。一瞬自分が逃亡の身ではなく、旅行に来てるかのような錯覚を覚えた。
そういえば、旅行など何年もした試しがない。大学時代は学生運動に明け暮れていた。
地下活動が発覚したとの情報が入り、かねてからの打ち合わせ通り電車で鹿児島へ向かったのだ。
東京の両親や友人達や運動仲間はどうしてるだろう? ぼんやりとした不安が、重たくのしかかる。
恋紋の説明通りタンスの中に、男性用と女性用の下着と衣服がバラエティ豊かに入っていたので、男物のトランクスと短パンを履き、Tシャツを着た。
室内に洗濯機があったので、今まで着てた服は、そこに入れる。近くにあった洗剤を入れ、スイッチをオンにした。
それから部屋を出て鍵をしめ、再び食堂へと戻る。そこにはすでに、あたたかい食事が用意されていた。
エプロン姿の恋紋が可愛らしい。そこにはすでに全員が集まっている。瀬古などは、すでに食べはじめていた。
「食材は、いっぱいあります」
恋紋がそう切り出す。
「今回は私が作りましたけど、次回以降はみなさん自由に作ってください」
一気に場が、華やいだ。熱い味噌汁や炊き立てのご飯を腹に入れると、全身がリブートされたような気持ちになる。
元々それほど大きな船ではなかったし、砂浜に難破した後破損して、いくつかに分裂していたからだ。
それでもやはり両腕を怪我した瀬古にはきついらしく、手伝おうとしたのだが、兵頭が見かねてやめさせた。
稗田は作業の間、泣き言とグチばかりだ。まがりなりにも民主化運動の闘士なのに情けない。
女性3人の方が、よほど頼りになる。ともかくも、船を沖に流す事には成功した。
それから総勢9人は、恋紋を先頭にエンピツ屋敷へと向かう。エンピツ屋敷は3階建てだった。
1階につき3部屋ずつあり、それぞれが六角形をしている。1階と2階を男性陣が1人ずつ使い、3階の3部屋を女性陣が使う事になった。
赤鉛筆の建物にある301号室には元々恋紋が生活しており、青鉛筆の建物にある302号室に智恵理、黄色い鉛筆の建物にある303号室は、ほのかが使用すると決まった。
1階は赤鉛筆の建物にある101号室に兵頭、青鉛筆の建物にある102号室に今国、黄色い鉛筆の建物にある103号室に瀬古、101の上にある201には水川船長、102の上の202には稗田が、103の上にある203には若田部が寝泊まりすると、兵頭が決めたのだ。
エンピツ屋敷の北側には、屋敷から見えるすぐそばに離れがあり、壁でしきられた食堂と喫煙所があり、全員一旦食堂に集まった。
食堂には六角島の地図が貼ってある。その名の通り六角形で、平たい面を南北に向け、尖った面を東西に向けていた。
「まずは、ずぶぬれになった洋服を着替えたいでしょうから、みなさん各部屋に行ってください。鍵をお渡ししますから。それぞれの部屋に男物と女物の服装や肌着を、サイズ色々とりそろえてあります。ユニットバスもありますから、シャワーを浴びれます。何かわからない点あれば、この食堂の内線電話に連絡してください。それが終わったらまたここへお集まりください。それまでにお食事の準備をしておきます」
説明したのは、恋紋である。若田部も含めて多くの者からホッとしたような声があがった。
「それからくれぐれも、日中でも雨戸は開けないでくださいね。軍のヘリに見つかるかもしれませんから」
恋紋は、そう念を押す。唯一の喫煙者である瀬古はまるで脱兎のごとく隣にある喫煙所に走った。
他のみなは、それぞれわりあてられた部屋に向かう。
「しかし、ずいぶん準備がいいですね」
そう声をかけたのは、兵頭である。
「最初は、不意のお客様を想定していたんですけど、今ではこんな事もあろうかと色々準備してたんです。実際鹿児島や沖縄から韓国へ船で逃げる人達が、後を絶ちませんし」
恋紋が、返した。若田部は早速203号室に急いだ。少し前を、ほのかが歩いている。
彼女は抱えたリュックの中に入っていた水筒を何度も見ながら、303号室に上がってゆく。
若田部は恋紋からもらった鍵で自分の部屋を開錠し、中に入る。
照明のスイッチを入れた。すぐに濡れた服を全部脱ぎ捨て、入って右にあるユニットバスに入り、温度調整をしてあったかい湯を頭から浴びる。
天国に来たような気分だ。生き返った思いがする。しばらくの間浴槽にはった湯船に肩までつかった。
入ってきたドアは北に、雨戸のしまったベランダ側は南にある。ユニットバスは東にあった。
六角形の尖った側にあるので三角形のバスルームだからなんとなく違和感がある。
ちゃんとした説明はなかったが、六角島からインスパイアされて、六角形の鉛筆を模した屋敷を建てたのだろう。
さっぱりしたので風呂を出た。全身を清潔なバスタオルで拭う。一瞬自分が逃亡の身ではなく、旅行に来てるかのような錯覚を覚えた。
そういえば、旅行など何年もした試しがない。大学時代は学生運動に明け暮れていた。
地下活動が発覚したとの情報が入り、かねてからの打ち合わせ通り電車で鹿児島へ向かったのだ。
東京の両親や友人達や運動仲間はどうしてるだろう? ぼんやりとした不安が、重たくのしかかる。
恋紋の説明通りタンスの中に、男性用と女性用の下着と衣服がバラエティ豊かに入っていたので、男物のトランクスと短パンを履き、Tシャツを着た。
室内に洗濯機があったので、今まで着てた服は、そこに入れる。近くにあった洗剤を入れ、スイッチをオンにした。
それから部屋を出て鍵をしめ、再び食堂へと戻る。そこにはすでに、あたたかい食事が用意されていた。
エプロン姿の恋紋が可愛らしい。そこにはすでに全員が集まっている。瀬古などは、すでに食べはじめていた。
「食材は、いっぱいあります」
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