街角のパン屋さん

空川億里

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1話完結

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 私はよく行く街角のパン屋さんに行った。パンは、私の好物だ。アンパン、ジャムパン、ブドウパン、クリームパン、メロンパン、トレーの上にたくさん並べてレジに向かった。そこでは白い帽子をかぶったパン屋の主人が待っている。
「今月いっぱいで閉店なんて、残念だね」
「ご時世だから、しかたないよ」
 パン屋の主人は寂しげに微笑んだ。
「しかし、どうした。今日はまた、ずいぶん買っていくんだな。閉店するから、奮発したのかい」
「それもあるけど、今日を最後にパンも含めて、何かを食べたりできなくなるんだ」
「じゃあ、あんたも」
「その通り。体を改造して、サイボーグになるんだよ」
 今は22世紀だ。多くの者が肉体を改造して、サイボーグになる道を選んでいた。特に高齢になり、身体のあちこちの具合が悪くなりはじめると。機械人間になれば、何かを食べる事はなくなる。
 体内に高容量の電池が組みこまれ、電気がエネルギーになるのだ。そういう人間が増えたので、パン屋も経営が難しくなった。
「寂しいね」
 パン屋の主人が苦笑を浮かべる。
「ガンになっちまったから。あちこちに転移しちまって」
 買ったパン達を、自分の家で食べはじめた。どのパンも美味しい。これが生身の人間として、最後の晩餐になるのが信じられなかった。
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