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第1話 パロップ図書館
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ガタリア王国の南部パロップ城内にあるパロップ図書館の再建は、進んでいた。
建物自体が改築で新しくなったうえに、新館も増設されて、広くなったのである。
古い建物の壁は綺麗に塗りかえられ、蔵書ははたきがかけられて、埃がすっかり取り払われた。
ここで働くようになったソランド村出身の17歳の少女パムも、大忙しの日々を送っている。
ガタリア国内ばかりでなくミルルーシュ大陸の他の国からも様々な本が送られてきており、どんどん棚は埋まっていった。
図書館自体を開放したこともあり、大勢の訪問者が訪れるようになっていたのだ。
馬車に積んで送られてきたばかりの本たちを棚に並べている時、窓の外にフィア・ルーが飛んでいるのに気づいた。
フィア・ルーは姿形こそ人間そっくりなのだったが、緑色の髪の毛を男も女も短く刈り、目の光彩も緑色、その背の高さは1グラウト(約20センチ)ぐらいである。
黄土色のオーバーオールを着ており、背中から左右にとびだしたトンボのような羽で宙を舞っていた。
そのフィア・ルーは人間ならば10歳ぐらいの少女である。子供なので大人のフィア・ルーよりも小さく、1グラウトよりやや小さかった。
「一体、何やってんだ?」
フィア・ルーの少女が、パムに聞いてきた。
「本を、棚に並べてるのよ」
「本ってなんだ?」
パムは1冊、少女に見せて、中を開く。
「こうやって中に文字が書いてあるの。この中に色々な物語や、人間の知恵がつまっているのよ」
「人間ってバカだな」
突然フィア・ルーが笑い出す。
「そんなの使わなくても話し言葉で、考えを伝えればいいじゃないか」
そこへ人の気配がして振り向くと、銀色の仮面をつけたチャーダラ・トワメク準伯爵が、いつのまにか図書室の入口に登場していた。
彼はチャーダラ家の長男だが、家督は弟のチャーダラ・シャカンテに譲っている。
パムは膝を折って一礼する。
「旅に出る」
唐突に、トワメクが、話した。
「ガタリア国内の西へ行く。なのでしばらくお前とは、会えなくなる」
「西へですか?」
パムは思わず大声をあげる。
「だったら、あたしも行きたいです!」
「危険な旅だぞ。悪いけど、連れては行けない」
「生き別れになった姉が、西にいるのです」
パムの発言を聞いて、仮面を通して見えないはずのトワメクの表情が、凍りついたようにも感じた。
「お前の姉は、どこにいるのだ?」
「わかりません。飢饉の時に人買いに売られてしまい、西の方に売られたとしか」
思わず、パムは涙ぐむ。
「それじゃあ探しようがない。ガタリア王国は広いしな。それに私の旅というのは、決して物見遊山じゃないのだ。場合によっては、命がけになるかもしれない。パムを連れてくわけにはいかない」
「命がけって、どういうことです? そんな危険な旅なんですか?」
「この話は、もう終わりだ」
ぴしゃりとそう決めつけると、マントを翻して、トワメクは去ってゆく。
しばらくして代わりに現れたのが、司書のゾンドカ・ガンファである。
一時期は日中でも酒浸りだったのだが、最近は昼間はしらふが多かった。ゾンドカ家は、代々チャーダラ伯爵家に仕える家柄である。
「トワメク様は、竜退治にいらっしゃる」
「竜退治ですか? しかしなぜ、そのようなことを。準伯爵自らが竜退治なんて」
「ガタリア国内の西方にある小さな城が、竜に占拠されてしまってな。住民は皆逃げてしまった。そこには大変重要な本があるそうなのだ。本に書かれた文章は異国の文字で書かれており、誰でも読めるわけではない。大事な本を取り戻すため、トワメク様が行かれるのだ」
竜退治となれば、確かに命がけである。思わぬ話にパムは奈落に突き落とされるような気持ちを味わった。
「わたしも一緒に行かせてください。トワメク様のおそばにいたいのです」
「気持ちはわかるが、無理な相談だ。なに、トワメク様のことだから、無事戻って来るさ」
ガンファはぎこちなく微笑んだ。彼自身、おのれの言葉を信じているようには思えなかった。
「無論、お1人で行かれるのではないですよね?」
「当然だよ。伯爵家から遣わされた兵達と、お付きの女魔導士とご一緒さ」
「女性の方がご一緒するなら、あたしがついていってもいいですよね?」
「ピュワンナは魔導士だからな。普通の女とは違う」
ガンファは、その顔に苦笑を浮かべる。
「出発は、いつになるのです?」
「10日後だ。それまでは、旅の準備でてんてこまいさ」
ガンファの話を聞きながら、それでもパムはトワメクと西へ行きたいとの願望が、ますます強くつのっていた。
建物自体が改築で新しくなったうえに、新館も増設されて、広くなったのである。
古い建物の壁は綺麗に塗りかえられ、蔵書ははたきがかけられて、埃がすっかり取り払われた。
ここで働くようになったソランド村出身の17歳の少女パムも、大忙しの日々を送っている。
ガタリア国内ばかりでなくミルルーシュ大陸の他の国からも様々な本が送られてきており、どんどん棚は埋まっていった。
図書館自体を開放したこともあり、大勢の訪問者が訪れるようになっていたのだ。
馬車に積んで送られてきたばかりの本たちを棚に並べている時、窓の外にフィア・ルーが飛んでいるのに気づいた。
フィア・ルーは姿形こそ人間そっくりなのだったが、緑色の髪の毛を男も女も短く刈り、目の光彩も緑色、その背の高さは1グラウト(約20センチ)ぐらいである。
黄土色のオーバーオールを着ており、背中から左右にとびだしたトンボのような羽で宙を舞っていた。
そのフィア・ルーは人間ならば10歳ぐらいの少女である。子供なので大人のフィア・ルーよりも小さく、1グラウトよりやや小さかった。
「一体、何やってんだ?」
フィア・ルーの少女が、パムに聞いてきた。
「本を、棚に並べてるのよ」
「本ってなんだ?」
パムは1冊、少女に見せて、中を開く。
「こうやって中に文字が書いてあるの。この中に色々な物語や、人間の知恵がつまっているのよ」
「人間ってバカだな」
突然フィア・ルーが笑い出す。
「そんなの使わなくても話し言葉で、考えを伝えればいいじゃないか」
そこへ人の気配がして振り向くと、銀色の仮面をつけたチャーダラ・トワメク準伯爵が、いつのまにか図書室の入口に登場していた。
彼はチャーダラ家の長男だが、家督は弟のチャーダラ・シャカンテに譲っている。
パムは膝を折って一礼する。
「旅に出る」
唐突に、トワメクが、話した。
「ガタリア国内の西へ行く。なのでしばらくお前とは、会えなくなる」
「西へですか?」
パムは思わず大声をあげる。
「だったら、あたしも行きたいです!」
「危険な旅だぞ。悪いけど、連れては行けない」
「生き別れになった姉が、西にいるのです」
パムの発言を聞いて、仮面を通して見えないはずのトワメクの表情が、凍りついたようにも感じた。
「お前の姉は、どこにいるのだ?」
「わかりません。飢饉の時に人買いに売られてしまい、西の方に売られたとしか」
思わず、パムは涙ぐむ。
「それじゃあ探しようがない。ガタリア王国は広いしな。それに私の旅というのは、決して物見遊山じゃないのだ。場合によっては、命がけになるかもしれない。パムを連れてくわけにはいかない」
「命がけって、どういうことです? そんな危険な旅なんですか?」
「この話は、もう終わりだ」
ぴしゃりとそう決めつけると、マントを翻して、トワメクは去ってゆく。
しばらくして代わりに現れたのが、司書のゾンドカ・ガンファである。
一時期は日中でも酒浸りだったのだが、最近は昼間はしらふが多かった。ゾンドカ家は、代々チャーダラ伯爵家に仕える家柄である。
「トワメク様は、竜退治にいらっしゃる」
「竜退治ですか? しかしなぜ、そのようなことを。準伯爵自らが竜退治なんて」
「ガタリア国内の西方にある小さな城が、竜に占拠されてしまってな。住民は皆逃げてしまった。そこには大変重要な本があるそうなのだ。本に書かれた文章は異国の文字で書かれており、誰でも読めるわけではない。大事な本を取り戻すため、トワメク様が行かれるのだ」
竜退治となれば、確かに命がけである。思わぬ話にパムは奈落に突き落とされるような気持ちを味わった。
「わたしも一緒に行かせてください。トワメク様のおそばにいたいのです」
「気持ちはわかるが、無理な相談だ。なに、トワメク様のことだから、無事戻って来るさ」
ガンファはぎこちなく微笑んだ。彼自身、おのれの言葉を信じているようには思えなかった。
「無論、お1人で行かれるのではないですよね?」
「当然だよ。伯爵家から遣わされた兵達と、お付きの女魔導士とご一緒さ」
「女性の方がご一緒するなら、あたしがついていってもいいですよね?」
「ピュワンナは魔導士だからな。普通の女とは違う」
ガンファは、その顔に苦笑を浮かべる。
「出発は、いつになるのです?」
「10日後だ。それまでは、旅の準備でてんてこまいさ」
ガンファの話を聞きながら、それでもパムはトワメクと西へ行きたいとの願望が、ますます強くつのっていた。
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