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第5話 素人探偵、捜査を開始!
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「ほほお。それは興味深いなあ。なぜ西俣が犯人じゃないんだね?」
馬淵は、そう質問した。
「逆にお聞きしたいんですが、ではなんで西俣さんが殺したんですか? 私は動機がないと思います」
智香が、そう主張する。
「でも、あいつはしょっちゅう月島さんに話しかけていたじゃないか」
口をはさんだのは、馬淵をこの敷地内に入れてくれた警備員で、谷(たに)という男だ。名字が名札に書いてある。
赤羽署の調べでは昨夜は谷は非番で、殺人の起きた時間帯には行きつけの居酒屋で友達と飲んでいたのを、馴染みの店長に目撃されている。
今朝は9時から出勤していた。
「そうです。そして聖良は、それを嫌がっていませんでした。西俣さんに口説かれたり、どこかに誘われたりもした事ないって話してました。その件は、今朝来た赤羽署の刑事さん達にもお話ししました」
「実は、赤羽大の生徒相談窓口の職員が、亡くなった月島さんからストーカー被害を受けているので今日大学で会う事になっていたそうなんだ」
馬淵が、そう付け加える。
「残念なことにその職員は、相手の名前を聞いてないんだ。ただしつこくデートに誘われていたそうだと聞いている」
「だったらなおさら、西俣さんは違いますね」
「昨夜最初に卯原隊長が警備室の防犯モニターで、雑木林を照らしていた懐中電灯の光を発見。すぐ一緒にいた磯山というガードマンが駆けつけたが、すでに被害者は亡くなっていた。防犯モニターを我々も確認したが、一部外出していた者を除き寮生はその時点で全員寮内にいて、侵入者もいなかった。犯行に手を染められるのは、西俣しかいないんだ。ストーカーは別にいるのかもしれないが、西俣は乱暴目的で被害者を襲ったのかもしれない」
「でもレイプが目的なら、いきなり後ろからバットで殴ったりするかしら。普通に考えて、最初から殺すのが目的だったかと」
「確かに、そうだね」
思わず馬淵は笑ってしまう。
ほぼほぼ西俣が犯人で間違いないと感じてるせいか、我ながら余計な話をしすぎるようだ。
「西俣さんが聖良を殺した後そのままプレハブに残って寝てたのも変な話じゃないですか? 普通なら、その場から逃げるんじゃないでしょうか。しかも犯行に使われたのは自分のバットでしょう。自分に疑いがかかるのは、火を見るよりも明らかでしょう」
その時馬淵は、西俣が大いびきをかいてたという警官2人の証言を回想した。
タヌキ寝入りだったとしても、確かに設備の詰め所に残ったのは不自然だ。
「聖良は、何か持ち物を盗まれたんですか?」
「それは、なさそうだ。寮の敷地内にいたわけだからね。猫にあげたエサの残りが現場に落ちていただけだよ」
馬淵はそう説明する。
一方同じ日の午後6時に、磯山は再び赤羽大の女子寮を訪れた。
出入口のインターホンのボタンを押すと、今朝9時に磯山と卯原の代わりに出勤してきた谷の声が出る。
「磯山君じゃない。一体今日はどうしたのよ。君の応援はもう終わりでしょう」
「殺しの事が気になってまして。開けていただけないでしょうか」
磯山は、そう頼んだ。
「ともかく入りなよ。今、開けるから」
谷の回答があり、ドアの開錠される音が響く。扉を押して、中に入った。磯山は、警備室へ歩を進める。
「昨夜は災難だったねえ」
人の良い谷は、心から同情している表情で、声をかけてきた。
「僕は応援だったからいいですが、ここで働く谷さん達の方が大変でしょう」
磯山は、そう返す。
「確かにね。警察には色々聞かれるし、今回はまいったわ」
谷は目を伏せると、小声になる。
「しかしこう言っちゃなんだけど、犯人がまだ西俣で良かったよ。最初月島さんが殺されたと聞いた時、卯原隊長を疑ったのよ。ここだけの話だぜ」
谷は右手の人差し指を立て、自分の唇の前にかぶせる。
「ちょっとどういう事ですか」
怒りのあまり磯山が食ってかかった。顔が、一瞬にして熱くなる。
「卯原さんに限って殺人なんてするわけないでしょう」
マスクの中に、唾が飛んだ。
「それがさあ卯原隊長亡くなった月島さんをデートに誘って断られてたのに、それでもしつこく誘っててさ」
谷は間違って自分の舌でも噛んでしまったような顔をする。その返答に磯山は、言葉を失う。
「明らかに月島さんが嫌がってるから、俺からもやめるよう卯原さんを説得したけど、全然やめてくれなかったのよ」
「でも隊長には奥さんがいるでしょう」
「それが奥さん、関西の実家に帰っちまったのよ」
「嘘でしょう!? だって奥さん旅行に行ってるって」
磯山が、突っ込んだ。
「あれ、嘘なのよ。だって隊長、俺にはもう別居したって話してるし。娘さんが向こうの大学に入学したんだけど、京都なのか大阪なのか、どこにある大学かも、教えてくれないそうなのよ」
「でも確か隊長は、チンピラにからまれてた月島さんを助けたことがあったはずです」
「それが勘違いの元なんだよね。月島さんは感謝してたけど、歳も離れてるし、別居してるとはいえ結婚してるし、月島さん自体彼氏もいるそうだし、彼女の方は隊長に、特別な感情なかったんだよね」
愕然として、言葉が出ない。だが谷は、こういう嘘をつく人物には思えなかった。
「その話はまあいいとして、一体今日はなんでまた、ここに来たんだい?」
谷が聞いた。
「いや正直、西俣さんが逮捕たのが、なんか納得いかなくて。昨日初めて会ったけど、人殺しをするような人に見えなかったから」
「確かに、俺も驚いたよ。でも、消去法で奴しかいねえだろ。人間なんて、意外な側面を持ってるもんだ」
「雑木林を見せてくれませんか? もう警察の捜査は終わってるんでしょう?」
「別にいいけど、今さら新しい証拠なんて、見つからないぜ。捜査のプロが撤退的に調べてる」
「そういえば話変わりますけど、ロッカーの件どうなりました?」
磯山が、疑問点を口にする。
「ロッカー? なんのロッカー?」
谷がそう逆質問した。
「昨日ここの名札ついてないロッカー使おうとしたら、卯原さんにロッカーの鍵をなくして使えないって言われたんで」
「その件だけどさ。俺も磯山君が来るんで、そのロッカーを磯山君に貸そうと考えてたら、おととい突然隊長に、鍵をなくしたって言われたのよ。でもずっとロッカーに差してあったから、なくしようがないはずなんだけど。関係者以外警備室に入らないし、ロッカーの鍵を持って行ってもしょうがないしね」
納得いかない表情で、谷がそう解説する。
その後磯山は警備室を出て、歩いて雑木林に向かう。雑木林は女子寮のある建物と、設備の詰所の間にある。
元々防犯カメラは雑木林とプレハブを向いていなかったのだが、現在はカメラの1つを雑木林へ、もう1つを設備の詰所に向けていた。
谷の話では、この寮の敷地内の防犯カメラを増設し、警備員の配置人数も増やすそうだ。
林の中には、先客がいる。冷泉智香だ。
「あら。磯山さん。今日は一体どうしたの?」
智香が笑顔で、そう話した。スキップしながら近づいてくる。
スキップと表現すると聞こえが良いが、なんだか走り損なったような、ドタドタした小走りだ。
「いやどうしても昨夜の一件が気になってさ。いつもは24時間勤務が終わるとビール飲んでぐっすり眠っちゃうんだけど、今日はあんまり眠れてないんだ。興奮状態が続いている」
「それは、お気の毒ですね。昨夜は不運でしたよね」
智香は、眉根を寄せた。
「1番不運だったのは、殺された月島さんだよ。まだ若いのに」
いつしか磯山の両目から、涙が流れた。
「ただ俺にはどうしても、西俣さんが犯人とは考えられない。そもそもそんな悪そうな人じゃないし。それに計画的な犯行なら、自分のバットを凶器に使うなんて思えないんだよ。ここから逃げずに、プレハブで寝てたのも変な話だし」
「あたしも同感。不自然だよね。逆に衝動的な反抗なら、首をしめるとかですよね」
その時急に、冷泉智香が悲鳴をあげる。
「どうしたの!?」
慌てて、磯山が聞いた。
「あれ! あれ!」
指さした方を見ると、そこには木に止まった蜘蛛の姿がある。
「なんだ蜘蛛かよ。人騒がせだな」
「磯山さん、あたしなんだか事件の真相がわかってきたような気がします」
「えっ!? 本当に!?」
馬淵は、そう質問した。
「逆にお聞きしたいんですが、ではなんで西俣さんが殺したんですか? 私は動機がないと思います」
智香が、そう主張する。
「でも、あいつはしょっちゅう月島さんに話しかけていたじゃないか」
口をはさんだのは、馬淵をこの敷地内に入れてくれた警備員で、谷(たに)という男だ。名字が名札に書いてある。
赤羽署の調べでは昨夜は谷は非番で、殺人の起きた時間帯には行きつけの居酒屋で友達と飲んでいたのを、馴染みの店長に目撃されている。
今朝は9時から出勤していた。
「そうです。そして聖良は、それを嫌がっていませんでした。西俣さんに口説かれたり、どこかに誘われたりもした事ないって話してました。その件は、今朝来た赤羽署の刑事さん達にもお話ししました」
「実は、赤羽大の生徒相談窓口の職員が、亡くなった月島さんからストーカー被害を受けているので今日大学で会う事になっていたそうなんだ」
馬淵が、そう付け加える。
「残念なことにその職員は、相手の名前を聞いてないんだ。ただしつこくデートに誘われていたそうだと聞いている」
「だったらなおさら、西俣さんは違いますね」
「昨夜最初に卯原隊長が警備室の防犯モニターで、雑木林を照らしていた懐中電灯の光を発見。すぐ一緒にいた磯山というガードマンが駆けつけたが、すでに被害者は亡くなっていた。防犯モニターを我々も確認したが、一部外出していた者を除き寮生はその時点で全員寮内にいて、侵入者もいなかった。犯行に手を染められるのは、西俣しかいないんだ。ストーカーは別にいるのかもしれないが、西俣は乱暴目的で被害者を襲ったのかもしれない」
「でもレイプが目的なら、いきなり後ろからバットで殴ったりするかしら。普通に考えて、最初から殺すのが目的だったかと」
「確かに、そうだね」
思わず馬淵は笑ってしまう。
ほぼほぼ西俣が犯人で間違いないと感じてるせいか、我ながら余計な話をしすぎるようだ。
「西俣さんが聖良を殺した後そのままプレハブに残って寝てたのも変な話じゃないですか? 普通なら、その場から逃げるんじゃないでしょうか。しかも犯行に使われたのは自分のバットでしょう。自分に疑いがかかるのは、火を見るよりも明らかでしょう」
その時馬淵は、西俣が大いびきをかいてたという警官2人の証言を回想した。
タヌキ寝入りだったとしても、確かに設備の詰め所に残ったのは不自然だ。
「聖良は、何か持ち物を盗まれたんですか?」
「それは、なさそうだ。寮の敷地内にいたわけだからね。猫にあげたエサの残りが現場に落ちていただけだよ」
馬淵はそう説明する。
一方同じ日の午後6時に、磯山は再び赤羽大の女子寮を訪れた。
出入口のインターホンのボタンを押すと、今朝9時に磯山と卯原の代わりに出勤してきた谷の声が出る。
「磯山君じゃない。一体今日はどうしたのよ。君の応援はもう終わりでしょう」
「殺しの事が気になってまして。開けていただけないでしょうか」
磯山は、そう頼んだ。
「ともかく入りなよ。今、開けるから」
谷の回答があり、ドアの開錠される音が響く。扉を押して、中に入った。磯山は、警備室へ歩を進める。
「昨夜は災難だったねえ」
人の良い谷は、心から同情している表情で、声をかけてきた。
「僕は応援だったからいいですが、ここで働く谷さん達の方が大変でしょう」
磯山は、そう返す。
「確かにね。警察には色々聞かれるし、今回はまいったわ」
谷は目を伏せると、小声になる。
「しかしこう言っちゃなんだけど、犯人がまだ西俣で良かったよ。最初月島さんが殺されたと聞いた時、卯原隊長を疑ったのよ。ここだけの話だぜ」
谷は右手の人差し指を立て、自分の唇の前にかぶせる。
「ちょっとどういう事ですか」
怒りのあまり磯山が食ってかかった。顔が、一瞬にして熱くなる。
「卯原さんに限って殺人なんてするわけないでしょう」
マスクの中に、唾が飛んだ。
「それがさあ卯原隊長亡くなった月島さんをデートに誘って断られてたのに、それでもしつこく誘っててさ」
谷は間違って自分の舌でも噛んでしまったような顔をする。その返答に磯山は、言葉を失う。
「明らかに月島さんが嫌がってるから、俺からもやめるよう卯原さんを説得したけど、全然やめてくれなかったのよ」
「でも隊長には奥さんがいるでしょう」
「それが奥さん、関西の実家に帰っちまったのよ」
「嘘でしょう!? だって奥さん旅行に行ってるって」
磯山が、突っ込んだ。
「あれ、嘘なのよ。だって隊長、俺にはもう別居したって話してるし。娘さんが向こうの大学に入学したんだけど、京都なのか大阪なのか、どこにある大学かも、教えてくれないそうなのよ」
「でも確か隊長は、チンピラにからまれてた月島さんを助けたことがあったはずです」
「それが勘違いの元なんだよね。月島さんは感謝してたけど、歳も離れてるし、別居してるとはいえ結婚してるし、月島さん自体彼氏もいるそうだし、彼女の方は隊長に、特別な感情なかったんだよね」
愕然として、言葉が出ない。だが谷は、こういう嘘をつく人物には思えなかった。
「その話はまあいいとして、一体今日はなんでまた、ここに来たんだい?」
谷が聞いた。
「いや正直、西俣さんが逮捕たのが、なんか納得いかなくて。昨日初めて会ったけど、人殺しをするような人に見えなかったから」
「確かに、俺も驚いたよ。でも、消去法で奴しかいねえだろ。人間なんて、意外な側面を持ってるもんだ」
「雑木林を見せてくれませんか? もう警察の捜査は終わってるんでしょう?」
「別にいいけど、今さら新しい証拠なんて、見つからないぜ。捜査のプロが撤退的に調べてる」
「そういえば話変わりますけど、ロッカーの件どうなりました?」
磯山が、疑問点を口にする。
「ロッカー? なんのロッカー?」
谷がそう逆質問した。
「昨日ここの名札ついてないロッカー使おうとしたら、卯原さんにロッカーの鍵をなくして使えないって言われたんで」
「その件だけどさ。俺も磯山君が来るんで、そのロッカーを磯山君に貸そうと考えてたら、おととい突然隊長に、鍵をなくしたって言われたのよ。でもずっとロッカーに差してあったから、なくしようがないはずなんだけど。関係者以外警備室に入らないし、ロッカーの鍵を持って行ってもしょうがないしね」
納得いかない表情で、谷がそう解説する。
その後磯山は警備室を出て、歩いて雑木林に向かう。雑木林は女子寮のある建物と、設備の詰所の間にある。
元々防犯カメラは雑木林とプレハブを向いていなかったのだが、現在はカメラの1つを雑木林へ、もう1つを設備の詰所に向けていた。
谷の話では、この寮の敷地内の防犯カメラを増設し、警備員の配置人数も増やすそうだ。
林の中には、先客がいる。冷泉智香だ。
「あら。磯山さん。今日は一体どうしたの?」
智香が笑顔で、そう話した。スキップしながら近づいてくる。
スキップと表現すると聞こえが良いが、なんだか走り損なったような、ドタドタした小走りだ。
「いやどうしても昨夜の一件が気になってさ。いつもは24時間勤務が終わるとビール飲んでぐっすり眠っちゃうんだけど、今日はあんまり眠れてないんだ。興奮状態が続いている」
「それは、お気の毒ですね。昨夜は不運でしたよね」
智香は、眉根を寄せた。
「1番不運だったのは、殺された月島さんだよ。まだ若いのに」
いつしか磯山の両目から、涙が流れた。
「ただ俺にはどうしても、西俣さんが犯人とは考えられない。そもそもそんな悪そうな人じゃないし。それに計画的な犯行なら、自分のバットを凶器に使うなんて思えないんだよ。ここから逃げずに、プレハブで寝てたのも変な話だし」
「あたしも同感。不自然だよね。逆に衝動的な反抗なら、首をしめるとかですよね」
その時急に、冷泉智香が悲鳴をあげる。
「どうしたの!?」
慌てて、磯山が聞いた。
「あれ! あれ!」
指さした方を見ると、そこには木に止まった蜘蛛の姿がある。
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