地球に優しい? 侵略者

空川億里

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第11話 新兵器

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 次の瞬間瀬戸口が動く。元捕虜の1人が気配に気づきレイガンを撃ったが、それより前に瀬戸口は自分を撃った男を殴ると、相手を円の外へ突き飛ばし、次に結菜の手を引いて、自らも円の外に出た。
 次の瞬間、円内にいた4人の元捕虜が転送される。
 外に倒れた元捕虜はレイガンの銃口を自分の顔に当てると引き金を引く。
 次の瞬間その頭部はなくなっており、首無し死体が床に倒れた。首からは青い血がぶちまけられ、異臭を放つ。
「お見事だったな。地球人」
 保安隊のリーダーが、瀬戸口を称えた。そこへ穂刈が現れる。
「瀬戸口さんも結菜ちゃんも無事でよかった。おれも君らを助けたかったがショードファ人のみなさんに信じられてないから、銃を持たせてもらえなくてね。もっとも今度みたいに仲間に裏切られたりするから、不信感持つのも無理ねえけど」
 結菜が瀬戸口に顔をむける。
「ありがとう。あなたのおかげで助かった」
「レディを助けるのは、男の務めだ」
「ともかく君達が無事でよかった」
 保安隊のリーダーが口をはさんだ。
「仲間を過大に信じたのは、我々の手落ちだったな。しかしよく、洗脳されてなかったとわかったもんだ」
「半分はハッタリです」
 瀬戸口が答えた。
「ショードファ星の技術レベルがどんなもんかおれのような原始人にはわかりませんが、チャマンカ人と同レベルならドクターの最初の検査で気づいたはずです。だから実は、洗脳されてないんじゃないかと考えたんです」
「なるほどな。的確な判断だ。助かったよ」
 リーダーは地球風に握手を求めた。瀬戸口は、強く握り返す。
「君達地球人は原始人じゃない。我々同様勇敢な知的生命体だ」


                  
 ザースコ少佐を含む4人の元捕虜は東京にあるチャマンカの在日総督府に転送され、一旦4人は病室に入れられた。
「ザースコ少佐。このままガシャンテの元へ行っても、我々の失態を奴が許すとは思えません。このままどこかに逃げましょう」
 生き残った3人の部下のうちの1人が、そう主張する。
「とは言えどこへ行く?   我々は祖国を裏切った。もはや他に逃げる場所はない」
 ザースコは、そう返答した。
「チャマンカのドローンが来てなさそうな、山奥にでも潜伏しましょう」
「だがどのみち、チャマンカかショードファの追手が迫るぞ」
「その時はその時です。われら4人命がけで戦い抜き、死に華を咲かせましょう」
「私も同じ気持ちです」
 もう1人の部下も同意した。
「よくぞ言ってくれた」
 ザースコは、思わず声をつまらせた。
 現代のショードファ人は全員目を人工の物にしているが、そうでなかった原始時代なら涙が出たに違いない。



 元捕虜達の反乱が失敗に終わった後、さすがに宇宙戦艦内のショードファ人達の雰囲気は、しばらく晴れ間が見えなかったが、やがて思わぬ報告がもたらされる。
「朗報だ」
 そう口にしたのは、ワランファだ。彼の前には瀬戸口と結菜の2人だけがいた。
「新兵器が完成した。我々は、直接チャマンカ星を攻撃する」
「どうやって? どんな兵器なんです」
 瀬戸口が、尋ねた。
「ワープ機能を搭載した準光速ミサイルだ。チャマンカ星の主要都市へ攻撃をかける」
「でもそれじゃあ、大勢の民間人が死ぬんじゃあ」
「戦争とは、そういうものだ」
 ワランファが、回答した。瀬戸口の表情は、まるで冷凍したかのように凍りつく。
「いつやるんですか?」
 今度は、結菜が質問した。彼女の顔も、緊張している。
「そこまでは、言えないな。悪いが他のショードファ人や、穂刈には言わんでくれ。君達2人は特別に信頼するから、話すのだ。艦内にスパイがいないとも限らない。こないだの反乱を思いだせばわかるだろうが、ショードファ星が陥落してから歳月がたち、同胞の一部には厭戦気分が漂っている。今更チャマンカに抵抗するのはやめ、どこか宇宙の片隅で平和に暮らそうとか、きゃつらと和平条約を結ぶだのと、抜かす連中がいるのだ。残念ながら地球人の、君達の方がまだ信用できる」
「それでも穂刈は信じられないわけですね」
 瀬戸口が、質問した。
「彼は来てから日が浅いしな。スパイとして送りこまれた疑念が拭いきれんのだ」
「確かにあたしも、それは思う」
 結菜が、横から口をはさんだ。
「前にも話したが、偽の記憶を植えつけるテクノロジーを、チャマンカは持ってるから、穂刈は信用できん」
 ワランファが続ける。
「反乱を起こした元捕虜も、念のため脳の記憶を分析したが、クーデターを意図した記憶は見当たらなかった。チャマンカが、偽の記憶を植えつけたんだな」
「だったら、おれ達2人も完全には信用してないわけですね」
 瀬戸口が、質問した。
「その通りだ。100パーセントは信用してない」
         


    チャマンカ星のすぐ近くに、突如長さ1キロの準光速ミサイルが多数ワープアウトして、チャマンカ人の母星に、次々と撃ちこまれた。
 すぐにチャマンカ星の迎撃システムが作動。
    迎撃ミサイルやビーム攻撃で、襲来してきたミサイル群の9割を撃ち落とすのに成功した。
 準光速ミサイルの攻撃対象は、それだけではない。
    チャマンカ星のラグランジュ・ポイントに浮かぶスペース・コロニーも襲撃され、破壊されたコロニーの中には、蒼介が働いている『新天地』も含まれていたのである。
 その日は平日だったのだが、彼はたまたま有給休暇消化のために休んでいたのだ。
    その報道をネットで知った蒼介は、最初その目で見た物が、信じられなかった。
    が、かつての同僚達がいた『新天地』は宇宙の海でデブリとなりはて、日本時間で平日の昼間だったので、勤務していた同僚は、全員死んでしまったのだ。
 やがて彼の口からは、言葉とも叫びともつかぬ慟哭が、いつ終わるかもわからぬままに放たれた。
 涙がとめどなく流れ、いつ果てるかも予想がつかない。怒りと憎悪がマグマのように、身体の奥からせりあがる。
(ショードファの奴ら、許せねえ。全員皆殺しにしてやる)
 
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