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第6話 警備員の証言
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「いえ、岩永さんが失踪されたので、色々話が違ってくるかなと思いまして。実はうちの社会部が、今回の件に事件性を感じてまして、大々的に調査したいと話してるんです。科学部が先に行けば、取材は最小限で済むかと」
菜摘はハッタリをかける。しばらく返事は来なかった。が、やがて、重々しい回答がスマホの向こうから伝わってくる。
「わかった。それでは今日の午後会おう。2時でどうかな?」
ハッタリが効いたらしい。内心ほくそ笑んではいたが、声にはそんな感情をおくびにも出さずに返す。
「承知しました。それでは、伺わせていただきます」
菜摘は電話を切った後、志賀部長のデスクに向かう。
「及能先生からお会いしたいという連絡がありました。本日の午後2時にロボットセンターへ来てほしいそうですが」
志賀は困惑したような顔で、こっちを見る。菜摘の話を信じていないようだった。
「本当に向こうから電話があったんだな?」
突き刺すような眼差しだ。
「どうしたんですかね? あたしが気に入ったんですかね? 美人じゃないけど、とりあえず若いですし」
笑いながら返したが、志賀の仏頂面は微動だにしなかった。
「くれぐれも探偵ごっこはやるなよ」
「わかってますって」
志賀の気持ちが変わらないうちに、足早にその場を去った。
それから菜摘は津釜の運転する社用車に乗って、埼玉にあるロボットセンターに向かう。
「しかし、不思議な事件ですよね」
ハンドルを操作しながら津釜が話した。
「仮に誘拐だとしたら、どうやって岩永先生を拉致したんですかね?」
「そうだよね。全く検討もつかない」
「犯人は誰なんだろ? 日本のロボット技術がほしい外国のスパイかな?」
「そうだとしても、失踪した時間失踪した場所に車は走ってなかったからね」
「春野さん、僕思いついたんですけど、これ誘拐じゃなくて家出なんじゃないですか? 急に岩永さん何もかも嫌になって、自分からいなくなったとか」
「あのタマに限ってそんな事ある? 所長就任も決まってたし。それに左脚が悪いのに、あの高い金網を乗り越えられるの?」
菜摘は、呆れた。
「い、言われてみれば、そうですね」
津釜は納得した口調になる。
「もしかすると、殺されたかもしれないですね」
津釜は続けた。
「あの性格少なくとも、人には好かれないですよ。僕も嫌いでしたし、取材の時いた及能先生や若い2人の研究者も、慕ってる感じじゃなかったでしょう?」
「確かにね。それは言える。まあ、科学者としては有能みたいだけどね」
キモい好色そうな顔を思い出し、思わず菜摘は身震いする。やがて、車はロボットセンターの最寄り駅に到着する。ここにはロボットセンター通りに向けて防犯カメラが設置されていた。志賀の話ではこのカメラが映した画像によって、岩永が通りから出てこなかったと警察は判断したそうなのだ。
逆にロボットセンターの出入り口前にはセンターが設置したカメラがあるので、岩永がセンターに戻ってくれば映るはずだが、それもなかったわけである。
やがて車はロボットセンター通りに入った。ロボットセンターに到達するまで、左右は何もない空き地で、しかも高さ3メートルぐらいの金網に仕切られている。
足の悪い岩永が、これを乗り越えるのはまず無理だし、またその理由もない。
車はロボットセンターの出入り口に到着した。そこにある警備ボックスに制服の警備員が立っている。
後部座席に座っていた菜摘は右側の窓を開け、そこから身を乗り出して、記者証を守衛に見せた。
「東都新報の春野です。このたびは災難でしたね!」
「そうなんだよね。困ったよ」
50歳前後と思われるガードマンが、そう答える。
「岩永さんが水曜日の夜帰られた時の様子ってわかります? その時の警備員さんって誰ですか?」
「僕だけど」
「良かったあ。岩永さん帰られる時どうでした? 普段と違いました?」
「よく見てないけど、いつもと同じだったと思う。普段からこっちがあいさつしても、返事が返ってこなかったしね。昨日も『お疲れ様』って言ったけど、いつも同様黙ったきりでね」
何か汚い物を口にするような語調だ。
「岩永さん、あまり好かれてなかったみたいですね、棟方さん」
菜摘は、名札を見ながら話す。
「ここだけの話だけど、苦手だね。頭はいいのかもしれないけど」
菜摘はハッタリをかける。しばらく返事は来なかった。が、やがて、重々しい回答がスマホの向こうから伝わってくる。
「わかった。それでは今日の午後会おう。2時でどうかな?」
ハッタリが効いたらしい。内心ほくそ笑んではいたが、声にはそんな感情をおくびにも出さずに返す。
「承知しました。それでは、伺わせていただきます」
菜摘は電話を切った後、志賀部長のデスクに向かう。
「及能先生からお会いしたいという連絡がありました。本日の午後2時にロボットセンターへ来てほしいそうですが」
志賀は困惑したような顔で、こっちを見る。菜摘の話を信じていないようだった。
「本当に向こうから電話があったんだな?」
突き刺すような眼差しだ。
「どうしたんですかね? あたしが気に入ったんですかね? 美人じゃないけど、とりあえず若いですし」
笑いながら返したが、志賀の仏頂面は微動だにしなかった。
「くれぐれも探偵ごっこはやるなよ」
「わかってますって」
志賀の気持ちが変わらないうちに、足早にその場を去った。
それから菜摘は津釜の運転する社用車に乗って、埼玉にあるロボットセンターに向かう。
「しかし、不思議な事件ですよね」
ハンドルを操作しながら津釜が話した。
「仮に誘拐だとしたら、どうやって岩永先生を拉致したんですかね?」
「そうだよね。全く検討もつかない」
「犯人は誰なんだろ? 日本のロボット技術がほしい外国のスパイかな?」
「そうだとしても、失踪した時間失踪した場所に車は走ってなかったからね」
「春野さん、僕思いついたんですけど、これ誘拐じゃなくて家出なんじゃないですか? 急に岩永さん何もかも嫌になって、自分からいなくなったとか」
「あのタマに限ってそんな事ある? 所長就任も決まってたし。それに左脚が悪いのに、あの高い金網を乗り越えられるの?」
菜摘は、呆れた。
「い、言われてみれば、そうですね」
津釜は納得した口調になる。
「もしかすると、殺されたかもしれないですね」
津釜は続けた。
「あの性格少なくとも、人には好かれないですよ。僕も嫌いでしたし、取材の時いた及能先生や若い2人の研究者も、慕ってる感じじゃなかったでしょう?」
「確かにね。それは言える。まあ、科学者としては有能みたいだけどね」
キモい好色そうな顔を思い出し、思わず菜摘は身震いする。やがて、車はロボットセンターの最寄り駅に到着する。ここにはロボットセンター通りに向けて防犯カメラが設置されていた。志賀の話ではこのカメラが映した画像によって、岩永が通りから出てこなかったと警察は判断したそうなのだ。
逆にロボットセンターの出入り口前にはセンターが設置したカメラがあるので、岩永がセンターに戻ってくれば映るはずだが、それもなかったわけである。
やがて車はロボットセンター通りに入った。ロボットセンターに到達するまで、左右は何もない空き地で、しかも高さ3メートルぐらいの金網に仕切られている。
足の悪い岩永が、これを乗り越えるのはまず無理だし、またその理由もない。
車はロボットセンターの出入り口に到着した。そこにある警備ボックスに制服の警備員が立っている。
後部座席に座っていた菜摘は右側の窓を開け、そこから身を乗り出して、記者証を守衛に見せた。
「東都新報の春野です。このたびは災難でしたね!」
「そうなんだよね。困ったよ」
50歳前後と思われるガードマンが、そう答える。
「岩永さんが水曜日の夜帰られた時の様子ってわかります? その時の警備員さんって誰ですか?」
「僕だけど」
「良かったあ。岩永さん帰られる時どうでした? 普段と違いました?」
「よく見てないけど、いつもと同じだったと思う。普段からこっちがあいさつしても、返事が返ってこなかったしね。昨日も『お疲れ様』って言ったけど、いつも同様黙ったきりでね」
何か汚い物を口にするような語調だ。
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