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第7話 神隠し?
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棟方は、菜摘から目をそらした。本格的に稼働が始まれば、この施設も忙しくなるのだろうが、現時点では、他に出入りしようとしてる車の姿は見えない。
敷地内にクレーンやブルドーザーやトラックやワゴン車等の工事車両は目に入ったが。
「帰宅したのは、岩永さんが最後だったと聞きしましたが」
「そうだったね。工事関係者も、研究者の人達も全員帰ってね。僕はこの警備ボックスにいたけどね」
「ロボットセンターの防犯カメラの映像は、駅までのどのぐらいまで映ってます?」
「残念だけど、この出入口周辺だけでね。岩永さんが帰宅した後どこまで歩いたかも見てないから、どこで誘拐されたのかもわからない」
「夜の守衛さんは、何人残ってらっしゃるんですか?」
「2人だよ」
「こんな広い建物なのに?」
「まだロボットもこっちにないしね。あなた達が取材に来た時は人間型を一体と、ラッカセイとかいうのを一体特別に持ってきたそうだけど。来月の6月1日からロボットもここに持ってくるんで、泊まりの警備員を増やす話になってるんだ。しかしあなたの言う通り、本来なら今の時期でもガードマン2人じゃ不安だよね」
棟方は、顔をしかめた。
「最近は何でも人件費削減だよね。ロボット技術が進化するのもいいけどさ。人間の仕事がなくなっちゃうんじゃないかって心配だよ」
「でもロボット技術が進歩すれば、きつい仕事や危険な業務は人間がやらなくても良くなるのでは?」
菜摘が聞いた。
「それは言えるかもしれないけどね。仕事しなくても、生活できるようなシステムができればいいけどね。今の状況でも、年金だけじゃ生活できないし」
確かにそれは、そうだ。菜摘も科学部とはいえ、新聞記者だ。この物価高で庶民の生活は苦しい。低所得者に恩恵がいくような減税だったり年金支給額のアップがなければならないはずだ。外国への経済援助も結構だが。
警備員の棟方がゲートを開け、車は敷地内に走った。
やがてゲートは自動で操作されるようになり、ガードマンはロボットになるかもしれない。
自動車も人工知能が運転するようになるかもしれなかった。そうなれば事故も減るかもしれないが、雇用も少なくなるかもしれぬ。その分新たな仕事が生まれるかもしれないが。
今のところは人間の津釜が運転している車は、先日と同じ1階の駐車場に駐車した。
「まだ、及能先生と会う時間には、早いよね。ちょっとその辺ぶらぶらしよう」
菜摘は津釜に声をかけ、2人はロボットセンターの周囲を見てまわる事にした。
するとL字型のライト・ウィング棟の地面に接した部分にハエが3匹止まっているのに気がつく。
ちょうどそこへ、及能博士が現れた。
「このたびは大変でしたね!」
菜摘は、及能に声をかける。
「あたし先生が心配なさっているんじゃないかと不安になって来たんです。あたし達でも、何か助けになるんじゃないかと」
「そう言ってくれて、言葉だけでも助かるよ。ともかく中に入ってください。今日はロボットはいないけど、所長室に案内します」
そして3人は、5階にあるドーム型の所長室に向かった。所長室には、こないだもあった西洋の鎧兜を身につけた人形が、今は椅子に腰かけている。
どうやらポーズを変えたらしい。
「ネットはご覧になりました? 真偽不明な陰謀論が飛び交ってますけど」
「ああ、知ってるよ。外国の工作員が、岩永君を誘拐したって話だろう? 絶対にありえないと断言はできないね」
一笑するかと考えたが、意外にも真面目な顔で、そう話した。
「あなたも報道で知ってるだろうけど、岩永君はロボットセンターから駅までの道のりで行方不明になった。その間車の走行はなく、飛行機やヘリコプターも近づいてない。一般の人が誘拐はできないよ」
「その条件なら、工作員でも無理でしょう」
「言われてみれば、そうだなあ。神隠しにでもあったかな? 科学者としては、認めたくない事だけど。まあ、それはないでしょう」
「水曜日は岩永さんだけ午後7時まで残ってて、他の3人は午後6時までに帰ったそうですが」
「正確には、若い2人は定時の5時には帰ってね。私は午後6時に帰宅したんだ。最近の若い人は、プライベート優先の傾向があるからね。岩永君はいつも大体夜7時頃に帰宅してたね。私も昔は遅くまで仕事してたけど、今は病気があるからなあ」
及能は、遠い目をする。心なしか、突然げっそりやつれたように見えた。
「ごめんなさい。お身体が悪いのに、長々と話してしまって。ちなみに失踪した岩永さんが目指していたロボットの兵器化は、他にも支持者がいたんでしょうか?」
「今のところは彼だけだね。でも、人の心はわからないしね。他に賛同者が出るかもなあ」
敷地内にクレーンやブルドーザーやトラックやワゴン車等の工事車両は目に入ったが。
「帰宅したのは、岩永さんが最後だったと聞きしましたが」
「そうだったね。工事関係者も、研究者の人達も全員帰ってね。僕はこの警備ボックスにいたけどね」
「ロボットセンターの防犯カメラの映像は、駅までのどのぐらいまで映ってます?」
「残念だけど、この出入口周辺だけでね。岩永さんが帰宅した後どこまで歩いたかも見てないから、どこで誘拐されたのかもわからない」
「夜の守衛さんは、何人残ってらっしゃるんですか?」
「2人だよ」
「こんな広い建物なのに?」
「まだロボットもこっちにないしね。あなた達が取材に来た時は人間型を一体と、ラッカセイとかいうのを一体特別に持ってきたそうだけど。来月の6月1日からロボットもここに持ってくるんで、泊まりの警備員を増やす話になってるんだ。しかしあなたの言う通り、本来なら今の時期でもガードマン2人じゃ不安だよね」
棟方は、顔をしかめた。
「最近は何でも人件費削減だよね。ロボット技術が進化するのもいいけどさ。人間の仕事がなくなっちゃうんじゃないかって心配だよ」
「でもロボット技術が進歩すれば、きつい仕事や危険な業務は人間がやらなくても良くなるのでは?」
菜摘が聞いた。
「それは言えるかもしれないけどね。仕事しなくても、生活できるようなシステムができればいいけどね。今の状況でも、年金だけじゃ生活できないし」
確かにそれは、そうだ。菜摘も科学部とはいえ、新聞記者だ。この物価高で庶民の生活は苦しい。低所得者に恩恵がいくような減税だったり年金支給額のアップがなければならないはずだ。外国への経済援助も結構だが。
警備員の棟方がゲートを開け、車は敷地内に走った。
やがてゲートは自動で操作されるようになり、ガードマンはロボットになるかもしれない。
自動車も人工知能が運転するようになるかもしれなかった。そうなれば事故も減るかもしれないが、雇用も少なくなるかもしれぬ。その分新たな仕事が生まれるかもしれないが。
今のところは人間の津釜が運転している車は、先日と同じ1階の駐車場に駐車した。
「まだ、及能先生と会う時間には、早いよね。ちょっとその辺ぶらぶらしよう」
菜摘は津釜に声をかけ、2人はロボットセンターの周囲を見てまわる事にした。
するとL字型のライト・ウィング棟の地面に接した部分にハエが3匹止まっているのに気がつく。
ちょうどそこへ、及能博士が現れた。
「このたびは大変でしたね!」
菜摘は、及能に声をかける。
「あたし先生が心配なさっているんじゃないかと不安になって来たんです。あたし達でも、何か助けになるんじゃないかと」
「そう言ってくれて、言葉だけでも助かるよ。ともかく中に入ってください。今日はロボットはいないけど、所長室に案内します」
そして3人は、5階にあるドーム型の所長室に向かった。所長室には、こないだもあった西洋の鎧兜を身につけた人形が、今は椅子に腰かけている。
どうやらポーズを変えたらしい。
「ネットはご覧になりました? 真偽不明な陰謀論が飛び交ってますけど」
「ああ、知ってるよ。外国の工作員が、岩永君を誘拐したって話だろう? 絶対にありえないと断言はできないね」
一笑するかと考えたが、意外にも真面目な顔で、そう話した。
「あなたも報道で知ってるだろうけど、岩永君はロボットセンターから駅までの道のりで行方不明になった。その間車の走行はなく、飛行機やヘリコプターも近づいてない。一般の人が誘拐はできないよ」
「その条件なら、工作員でも無理でしょう」
「言われてみれば、そうだなあ。神隠しにでもあったかな? 科学者としては、認めたくない事だけど。まあ、それはないでしょう」
「水曜日は岩永さんだけ午後7時まで残ってて、他の3人は午後6時までに帰ったそうですが」
「正確には、若い2人は定時の5時には帰ってね。私は午後6時に帰宅したんだ。最近の若い人は、プライベート優先の傾向があるからね。岩永君はいつも大体夜7時頃に帰宅してたね。私も昔は遅くまで仕事してたけど、今は病気があるからなあ」
及能は、遠い目をする。心なしか、突然げっそりやつれたように見えた。
「ごめんなさい。お身体が悪いのに、長々と話してしまって。ちなみに失踪した岩永さんが目指していたロボットの兵器化は、他にも支持者がいたんでしょうか?」
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