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四章
火の精霊に会いに
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水の精霊アンジームは、うつむくマリポーザの手に自分の手をそっと重ねた。
その手はひんやりとしていたが、心地のいい感触だった。
『マリポーザ、何も難しく考えることはありません。自分がどうしたいのか、言ってご覧なさい』
優しくアンジームが問う。
『私は、人間界に帰りたいです』
『それから?』
『火の精霊コロノンザーにも、会いたいです。会って、マエストロが、アルトゥーロさんが本当に死んでしまったのか、確かめたいです』
アルトゥーロを殺したであろう精霊と会うのは怖くもあり、また憎しみを覚えなくもなかった。だがそれ以上に、本当にアルトゥーロが死んでしまったのか、なぜ殺されなければならなかったのかをマリポーザは確かめたかった。
『では、できることから始めましょう。とりあえず、コロノンザーに会いにお行きなさい。人間界に帰る方法は、そのあと考えましょう』
アンジームは森で遊んでいるキルトを呼ぶ。
『なに?』
『コロノンザーのところに、マリポーザを連れて行ってくれますか?』
てっきりまた嫌がるかとマリポーザは思ったが、キルトは嬉しそうな顔をして、『いいよ』と即座に快諾した。マリポーザは拍子抜けをする。
『キルトはコロノンザーが好きなの?』
『コロノンザーって面白いんだよ。すぐ怒るの。で、ぶわーって火が起こるから、僕たちもぶわーって空に飛んで、すっごく楽しいんだぁ』
(うーん、何言ってるのかわからないな)
キルトが言っていることは抽象的すぎてマリポーザにはよくわからない。ただ、キルトがコロノンザーを好いていることだけは伝わって来た。
マリポーザは無邪気なキルトが嫌いでないだけに、キルトがコロノンザーを好いているということに複雑な気分だった。
(所詮精霊は精霊で、人間である私が理解できるものじゃないのかもしれない)
『マリポーザ、怖い顔』
キルトが小さな両手でマリポーザの顔を挟んだ。
『怒ってる? 僕、何かした?』
『怒ってないよ』
マリポーザが慌てて言うと、キルトは安心したように、にっこり笑った。
『良かった。じゃあ行っくよー』
マリポーザはキルトの小さな手を握って頷く。
アンジームは両手を大きく振り上げた。それと同時に、泉の水が吹き上がり、マリポーザたちを乗せて高く昇った。
キルトは楽しそうに大笑いしている。宙に舞った水滴が太陽の光を浴びて虹色に輝く。マリポーザは下にいるアンジームに向かって手を大きく振った。アンジームはおっとりと手を振り返す。
キルトの手に引かれて湖を越える。しばらくは緑の草原や森が続いていたが、やがて波しぶきを浴びる岸壁へと出た。
『今度こそ海よね?』
マリポーザがキルトに聞くと、キルトは元気に『うん!』と返事をする。
『これが海だよ!』
辺り一面に水がある様子は、先程の巨大な湖とさほど変わらないように、マリポーザには見えた。しかしよく見ると、湖は水が穏やかで、さざ波程度の波しかなかったのに比べ、海ではうねるような大波が起こり、白い泡を立てて岸壁に打ち寄せている。
「きゃっ」
大波のしぶきが顔にかかり、マリポーザは悲鳴をあげた。目が痛い。そしてしょっぱい。急いで服で顔を拭くマリポーザを見て、キルトは大笑いする。
「海って本当にしょっぱいのねぇ」
マリポーザは初めて見る海に感慨深く呟いた。
その手はひんやりとしていたが、心地のいい感触だった。
『マリポーザ、何も難しく考えることはありません。自分がどうしたいのか、言ってご覧なさい』
優しくアンジームが問う。
『私は、人間界に帰りたいです』
『それから?』
『火の精霊コロノンザーにも、会いたいです。会って、マエストロが、アルトゥーロさんが本当に死んでしまったのか、確かめたいです』
アルトゥーロを殺したであろう精霊と会うのは怖くもあり、また憎しみを覚えなくもなかった。だがそれ以上に、本当にアルトゥーロが死んでしまったのか、なぜ殺されなければならなかったのかをマリポーザは確かめたかった。
『では、できることから始めましょう。とりあえず、コロノンザーに会いにお行きなさい。人間界に帰る方法は、そのあと考えましょう』
アンジームは森で遊んでいるキルトを呼ぶ。
『なに?』
『コロノンザーのところに、マリポーザを連れて行ってくれますか?』
てっきりまた嫌がるかとマリポーザは思ったが、キルトは嬉しそうな顔をして、『いいよ』と即座に快諾した。マリポーザは拍子抜けをする。
『キルトはコロノンザーが好きなの?』
『コロノンザーって面白いんだよ。すぐ怒るの。で、ぶわーって火が起こるから、僕たちもぶわーって空に飛んで、すっごく楽しいんだぁ』
(うーん、何言ってるのかわからないな)
キルトが言っていることは抽象的すぎてマリポーザにはよくわからない。ただ、キルトがコロノンザーを好いていることだけは伝わって来た。
マリポーザは無邪気なキルトが嫌いでないだけに、キルトがコロノンザーを好いているということに複雑な気分だった。
(所詮精霊は精霊で、人間である私が理解できるものじゃないのかもしれない)
『マリポーザ、怖い顔』
キルトが小さな両手でマリポーザの顔を挟んだ。
『怒ってる? 僕、何かした?』
『怒ってないよ』
マリポーザが慌てて言うと、キルトは安心したように、にっこり笑った。
『良かった。じゃあ行っくよー』
マリポーザはキルトの小さな手を握って頷く。
アンジームは両手を大きく振り上げた。それと同時に、泉の水が吹き上がり、マリポーザたちを乗せて高く昇った。
キルトは楽しそうに大笑いしている。宙に舞った水滴が太陽の光を浴びて虹色に輝く。マリポーザは下にいるアンジームに向かって手を大きく振った。アンジームはおっとりと手を振り返す。
キルトの手に引かれて湖を越える。しばらくは緑の草原や森が続いていたが、やがて波しぶきを浴びる岸壁へと出た。
『今度こそ海よね?』
マリポーザがキルトに聞くと、キルトは元気に『うん!』と返事をする。
『これが海だよ!』
辺り一面に水がある様子は、先程の巨大な湖とさほど変わらないように、マリポーザには見えた。しかしよく見ると、湖は水が穏やかで、さざ波程度の波しかなかったのに比べ、海ではうねるような大波が起こり、白い泡を立てて岸壁に打ち寄せている。
「きゃっ」
大波のしぶきが顔にかかり、マリポーザは悲鳴をあげた。目が痛い。そしてしょっぱい。急いで服で顔を拭くマリポーザを見て、キルトは大笑いする。
「海って本当にしょっぱいのねぇ」
マリポーザは初めて見る海に感慨深く呟いた。
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