58 / 69
五章
裁判の始まり
しおりを挟む
フェリペがマリポーザと筆談してから4日後。異例の早さで裁判の日取りが決まり、陸軍大佐や水軍大佐、太陽神教の大神官などが一同に大広間に集まっていた。
石造りの大きなホールには、初夏の眩しい陽光が差し込んでいた。広間の中心には、四枚の魔法陣が並べられている。それを遠巻きに取り巻くようにして、皇帝らの椅子が円状に並ぶ。大広間の入り口付近には、裁判を傍聴する貴族らが押し合うように立って、これから起こる裁判を待っていた。
「裁判官と傍聴人というよりは、ショーの観客に近いですね」
アマデーオ皇帝が座る椅子付近に控えながら、フェルナンドが眉間にしわを寄せる。その顔はいつにも増して青白い。緊張しているようだ。
「マリポーザにとっても、僕たちにとっても一世一代のショーだよ。命を賭けた、ね」
フェリペが肩をぽん、と叩くとフェルナンドは身体をびくっとさせる。
「本当にマリポーザは姿を現すのか?」
シプリアノ・バルデス水軍大佐が揶揄するように大声でフェリペに問う。
「これで現れませんでした、などとなったら、代々続くデ・アラゴニア・エスティリア侯爵家の恥さらしだぞ、お前は」
「ご心配なく、閣下。決してそのようなことはありませんゆえ」
フェリペはにっこりと笑う。傍聴席から何人かの女性が「フェリペ様」と声をあげる。フェリペは優雅に一礼し、ますます傍聴席が沸く。
「あの人は馬鹿なんですか。私たちだって、マリポーザが本当に現れるのか半信半疑なのに。あんなパフォーマンスをしたら、失敗した時に言い訳ができないじゃないですか」
ブツブツ呟くフェルナンドの背中をジョルディがばしっと叩く。
「もう覚悟を決めたんだろ、大尉は。どっちみち、この裁判をお膳立てした以上俺たちは戻れねえんだ。お前も覚悟を決めろ!」
叩かれた背中をさすりながらフェルナンドが文句を言おうとしたとき、広間に角笛が響き渡る。
皇帝のために道を開き、皆一斉に床にひざまずいて頭を垂れる。静まり返ったホールに、護衛を連れたアマデーオ・ヴィーヤグランデ皇帝が姿を現した。
「おもてをあげよ」
玉座に座ったあとに皇帝が告げると、皆おのおのが元の席に戻る。
「これより、マリポーザ・プエンテの裁判を始める」
裁判長が開始を告げた。
「被告人はどこだね?」
フェリペに一斉に注目が集まった。
「マリポーザ・プエンテはすでに広間におります」
フェリペが片手を上げる。すると部屋中の窓が閉まる。部屋が真っ暗になり、短い悲鳴があがる。
「これはなんの真似だ?」
「何が起きてるんだ?」
非難の声が響く中、フェリペがよく響き渡る声で告げた。
「裁判の前に皆様方に、帝国唯一の精霊使いである、マリポーザの精霊術をお目にかけましょう」
四つの魔法陣のうち、一つの魔法陣からロウソクぐらいの大きさの炎がいくつか灯る。薄ぼんやりと周りが見えるようになると、足元に冷気が漂って来た。
「あ、あれは?」
部屋から声があがる。ざわめく人々が注目する中、二つ目の魔法陣の上に、氷の階段が出現した。透明な階段の上は暗い闇が覆っている。その闇の中から人の足が現れる。
石造りの大きなホールには、初夏の眩しい陽光が差し込んでいた。広間の中心には、四枚の魔法陣が並べられている。それを遠巻きに取り巻くようにして、皇帝らの椅子が円状に並ぶ。大広間の入り口付近には、裁判を傍聴する貴族らが押し合うように立って、これから起こる裁判を待っていた。
「裁判官と傍聴人というよりは、ショーの観客に近いですね」
アマデーオ皇帝が座る椅子付近に控えながら、フェルナンドが眉間にしわを寄せる。その顔はいつにも増して青白い。緊張しているようだ。
「マリポーザにとっても、僕たちにとっても一世一代のショーだよ。命を賭けた、ね」
フェリペが肩をぽん、と叩くとフェルナンドは身体をびくっとさせる。
「本当にマリポーザは姿を現すのか?」
シプリアノ・バルデス水軍大佐が揶揄するように大声でフェリペに問う。
「これで現れませんでした、などとなったら、代々続くデ・アラゴニア・エスティリア侯爵家の恥さらしだぞ、お前は」
「ご心配なく、閣下。決してそのようなことはありませんゆえ」
フェリペはにっこりと笑う。傍聴席から何人かの女性が「フェリペ様」と声をあげる。フェリペは優雅に一礼し、ますます傍聴席が沸く。
「あの人は馬鹿なんですか。私たちだって、マリポーザが本当に現れるのか半信半疑なのに。あんなパフォーマンスをしたら、失敗した時に言い訳ができないじゃないですか」
ブツブツ呟くフェルナンドの背中をジョルディがばしっと叩く。
「もう覚悟を決めたんだろ、大尉は。どっちみち、この裁判をお膳立てした以上俺たちは戻れねえんだ。お前も覚悟を決めろ!」
叩かれた背中をさすりながらフェルナンドが文句を言おうとしたとき、広間に角笛が響き渡る。
皇帝のために道を開き、皆一斉に床にひざまずいて頭を垂れる。静まり返ったホールに、護衛を連れたアマデーオ・ヴィーヤグランデ皇帝が姿を現した。
「おもてをあげよ」
玉座に座ったあとに皇帝が告げると、皆おのおのが元の席に戻る。
「これより、マリポーザ・プエンテの裁判を始める」
裁判長が開始を告げた。
「被告人はどこだね?」
フェリペに一斉に注目が集まった。
「マリポーザ・プエンテはすでに広間におります」
フェリペが片手を上げる。すると部屋中の窓が閉まる。部屋が真っ暗になり、短い悲鳴があがる。
「これはなんの真似だ?」
「何が起きてるんだ?」
非難の声が響く中、フェリペがよく響き渡る声で告げた。
「裁判の前に皆様方に、帝国唯一の精霊使いである、マリポーザの精霊術をお目にかけましょう」
四つの魔法陣のうち、一つの魔法陣からロウソクぐらいの大きさの炎がいくつか灯る。薄ぼんやりと周りが見えるようになると、足元に冷気が漂って来た。
「あ、あれは?」
部屋から声があがる。ざわめく人々が注目する中、二つ目の魔法陣の上に、氷の階段が出現した。透明な階段の上は暗い闇が覆っている。その闇の中から人の足が現れる。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる