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最終章 戦争編
195話 仲間を信じて
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「フンッ!!」
ジガルゼルドが失った左腕に力込めると、筋肉が引き締まり、血管を塞いで止血が完了する。自力で止血できる筋力にも驚きだが、再生力もどうやら人間のそれとは違うらしい。
対するこっちも被害は無視出来ない。サーキンは腹に大穴を空けられている。少なくともこのままではもう戦えない。リュウとサエもこの場においてはいるだけ危険だ。エヴァも怯えてしまって戦えるかどうか……
「ん? 少し向こうの戦況が怪しいな。永竜よ、好きに暴れてこい」
「グオオオオオオオオオオオオオ!!」
今まで静観しているだけだったドラゴンが動き出し、翼をはためかせてこの城からゆっくりと離れ、浮上していく。恐らくはレオ達の方に行くつもりだろう。このまま行かせるのは危険だ。向こうの戦況がわからない。
「ライラック! サーキンの治療を」
「わかっております。すぐに」
部屋の外で待機していたライラックがサーキンに肩を貸しながら玉座の間を後にする。あの状態では歩いていると言うよりは引きずっているが近いかもしれないが、ともかくライラックであればあの怪我でも一命は取り留められるかもしれない。
「サエ、あのドラゴンを行かせたくない。リュウを起こして奴の相手を頼めるか?」
「何言ってるの、こっちの方が戦力が必要じゃない」
「それはそうだが、下が壊滅すれば俺達が相手するのはジガルゼルドだけじゃなくなる。それに、あのドラゴンは事前に情報が得られなかった敵だ。下にそこまでの戦力があるようには思えない」
「あいつに勝てるの?」
「勝ってみせる」
「わかったわ。エヴァは?」
サエはしばらく迷った様子だったが、すぐに任せなさいとばかりに自信ありげな表情を見せる。
エヴァはサーキンの事もあって少し取り乱している。戦力としてなら是非とも欲しい場面だが、この状態のエヴァを戦わせたくはない。
「連れて行ってくれ。俺一人で戦う」
「待って! 私は大丈夫、もう取り乱さない。必ず一緒に勝つから」
エヴァがもう大丈夫と言うように俺の隣に立つ。
そしてサエがずるずると引きずって来たリュウがようやく目を覚ます。
「……わかった。リュウ、永竜を頼んだぞ! お前が探してる七頭のドラゴンの一体だ」
「え、あ、うん! 必ず倒す! そっちも気を付けて!」
リュウは全てを察した様で、隣で早くしなさいよとばかりに腕を組んでいるサエを抱え、翼を広げて飛び去る。ジガルゼルドに邪魔をされるかと思ったが、どうも二人には興味すらないらしい。
「もうお前を守ってくれる奴はこの場には居ないぞ。決着を付けよう、ジガルゼルド」
「それはお前も同じ事だろう。望むところだ、クロト・アルフガルノ」
◇
少し時間を遡り、クロト達が城へ向かった直後。
〈我流 虎ノ太刀〉
〈聖術 聖なる一撃〉
エンリの炎の斬撃と、シエラの光の斬撃が交差し、アンデッドを蹴散らしていく。とめどなく溢れてくる魔物を斬っては薙ぎ倒してを繰り返す二人だが、数は減るどころか増えているようにすら感じる程であり、疲労は積み重なるばかりだ。
「シエラ、また大技で一気に……」
「待ちなんし。この数を減らすのはわっちらの役目じゃありんせん。それより注意しなんし」
「注意?」
「魔族達が現れ始めているでありんす。わっちらはそっちの相手をするでありんすよ」
シエラの言葉に呼応するかのようにアンデッド軍隊が、地面を割って突き出した岩石に吹き飛ばされる。そしてその頂上に立ち、シエラ達を見下ろす魔族が一人。
「久しぶりね、リンリ……それにそっちのお嬢さんも、前に会ったわね」
「アリス様……いや、四魔王アリス!」
「会いたいと思っていた魔族に会えるとは、幸運でありんす。わっちの故郷の事、教えてもらうでありんすよ」
シエラ、リンリが同時に弓と剣を構え、アリスと対峙する。二人にとっても因縁の強い四魔王アリスが現れたのは恐らく偶然ではない。予め魔将軍ヴァールハイトとして潜入していたジガルゼルドは帝国側の戦力を完璧に把握している。つまり最適な組み合わせでこちらの戦力を潰せるように組み込んできているだろう。
「成長した貴女達を一人で相手するのは荷が重いかもしれないけれど、私の術はシンプル故に対策は数える程しかないわ。貴女達に対応出来るかしら?」
〈土術奥義 巨兵創造〉
〈異能 自我発現〉
二人の周囲に岩石で出来た五体の巨人が現れる。本来ならば術者が操る術で、一人につき一体の制約があり、複数体を召喚しても、人型の巨大な岩石を生み出すだけで大した意味は無い。しかし、アリスの異能「自我発現」は無機物に命を与える。故に巨人の兵隊を生み出すことが出来る。
「シエラ……」
「知ってると思いんすが、この巨人は動きが遅い代わりに盾になったりアリスの魔術の媒体になりんす。攻撃も生身で食らうのは危険でありんす……が」
「私達の全力攻撃なら」
「ええ、問題になりんせん」
岩石の巨人がその巨大な拳を振り上げ、リンリとシエラの立っていた場所を殴る。一撃で大地を割る威力は、鈍重とは言えかなりの脅威。しかも今は五体の巨人に囲まれており、同時に戦えばいつかは隙が生まれてしまう。
「リンリ! とにかく走りなんし!」
「うん! 狙いを絞られる前に倒し切るッ!」
〈我流 熊ノ太刀〉
リンリが炎を纏ったグローサーを振り、岩石の巨人に巨大な斬撃を浴びせる。炎を纏っているおかげで巨人にも有効な巨大斬撃を生み出す事が出来る。その分威力や切断力は落ちるが、それでも斬撃の衝撃で巨人は後退し、岩石で出来た体をボロボロと崩している。
〈月之女神式魔法陣展開・女神の怒り〉
シエラが素早く放った矢が魔方陣を描き、月の圧力で巨人を押し潰す。シエラの得意技でもある〈女神の怒り〉は、ハザックとの修行で〈浄化の殲滅光〉を習得した事により、魔力の込め方や威力の際限が見直され、その威力を格段に上げている。見事に一撃で巨人を石の塊へと変え、五体から四体に減らす。
〈我流奥義・改 竜舞ノ太刀〉
リンリも負けず劣らず。
巨人二体に挟み撃ちにされるが、逆にそれを利用して乱舞の攻撃を放つ。まるで強靭な肉体を持った戦士が大剣を振り回しているかのような威力で巨人達の岩石の体を破壊していく。
一発一発が強力な上に、それが乱舞となって襲い掛かる。ファリオスの斬撃を受けた事により、強力な斬撃を放つときの動きや筋肉の使い方を一度で見切っていたのだ。
巨人はボロボロと崩れていき、最後には原型を留められなくなって崩れてしまう。
更に巨人を攻撃する為に空中へ飛び上がっていたリンリは、そこから先程の斬撃で後退させた巨人の頭上へ飛び、追撃を試みる。
目を閉じ、精神を集中させる。そして最愛の姉の姿を思い起こすと同時にグローサーを纏う炎が消え、代わりに激流が巻き起こる。
〈我流奥義 時雨ノ太刀〉
巨人を両断させる程の威力を見せ、巨人三体がリンリの手で、同時に消え去る。炎と斬撃に強い岩の属性を持つ巨人に、水の属性は効果抜群だった。この〈時雨ノ太刀〉も短い修業期間の中で姉の力から自分の力へと昇華させ、威力や発生に伴う魔力の負荷などを改善している。
巨人を切り裂いたのちに器用に着地し、最後の一体を見据える。
「リンリ! すごいでありんすよ! 一人で三体も!」
「えへへ、偉い?」
「偉すぎでありんす!」
顔が綻ばせるリンリだが、すぐに戦場という事を思い出して引き締める。最後の巨人はアリスの後ろに控えており、こちらを見下ろしている。正直言えばリンリとシエラの実力であれば複数体居たとしてもほとんど問題にはならない。しかし、本当に厄介になるのはここからだろう。
「本当に成長したわね、リンリ」
「……ずっと聞きたかった事があります。抹殺するはずだった私を生かして、奴隷紋まで解いたのは何故ですか?」
「そうね、一言で言うならリンリに、奴隷以上の愛着を持っていた、から……でも、後悔しているわ。結局は私の手で殺さなければならない。それなら、あの時に姉と一緒に眠らせてあげるべきだった」
「……」
「リンリ?」
シエラが心配そうに顔を覗かせるが、リンリは大丈夫と言う風にシエラの目をしっかりと見返す。
「いいえ、生かしてくれてありがとうございました。おかげで大切な仲間達と出会えた。エンリとの別れは辛かったけど、エンリの居ない世界は辛いだけじゃ無かった。今の私は〈魔狩りの雷鳴〉、〈炎刀の巫女〉リンリ! 仲間の為に戦いますッ!」
「本当に成長したね。私の言う事を聞いて従うだけだった貴女が、今は自分の意志で、誰かを守る為に戦っている……私ももう、迷いは無いわ。全力であなた達を殺す!」
アリスが腕を上げると、巨人の体の表面が棘の様に刺々しく出っ張る。シエラは一度あれを見ているし、リンリも当然知っている。
〈土術 凝土弾雨〉
出っ張りから岩の棘が発射され、雨の様に降り注ぐ。単純な物量も脅威だが、アリスが使う〈凝土弾雨〉は巨人の体を媒体にする。通常の凝土弾雨よりもさらに範囲と量が増えている。これを防ぎ切るには高度な結界術が必要であり、避けきるなんて到底現実的ではない。
「リンリ、こっちに来なんし!」
〈結界術 展開防御壁・五〉
シエラが両手を掲げ、五枚の魔方陣を展開する。凝土弾雨を防ぐ事には成功しているが、周囲は岩の雨。このまま受け切れるかどうかはわからない。おまけにアリスの巨人は既に巨人としての機能はほぼ失い、媒体としての役割を全うしている。凝土弾雨で減った岩石は地中から際限なく盛り上がってくるので、巨人の体が尽きる事は半永久的に無い。アリスから見れば巨人は弾切れの無い機関銃の様なものだ。
「シエラ、大丈夫?」
「結界を維持させるだけなら当分は問題ありんせん。でも、この威力をずっと食らい続けるのは危険でありんす。どうにかアリスに接近しないといけないでありんすね」
「……私に任せて」
「危険でありんす。この岩石の中を突破するには……」
「私もちゃんと修行してたんだよ。もう守られて、皆の後ろを付いて行くだけのリンリじゃない。私にも戦わせて。仲間の為に、私は命を懸けてでも戦いたい!」
ジガルゼルドが失った左腕に力込めると、筋肉が引き締まり、血管を塞いで止血が完了する。自力で止血できる筋力にも驚きだが、再生力もどうやら人間のそれとは違うらしい。
対するこっちも被害は無視出来ない。サーキンは腹に大穴を空けられている。少なくともこのままではもう戦えない。リュウとサエもこの場においてはいるだけ危険だ。エヴァも怯えてしまって戦えるかどうか……
「ん? 少し向こうの戦況が怪しいな。永竜よ、好きに暴れてこい」
「グオオオオオオオオオオオオオ!!」
今まで静観しているだけだったドラゴンが動き出し、翼をはためかせてこの城からゆっくりと離れ、浮上していく。恐らくはレオ達の方に行くつもりだろう。このまま行かせるのは危険だ。向こうの戦況がわからない。
「ライラック! サーキンの治療を」
「わかっております。すぐに」
部屋の外で待機していたライラックがサーキンに肩を貸しながら玉座の間を後にする。あの状態では歩いていると言うよりは引きずっているが近いかもしれないが、ともかくライラックであればあの怪我でも一命は取り留められるかもしれない。
「サエ、あのドラゴンを行かせたくない。リュウを起こして奴の相手を頼めるか?」
「何言ってるの、こっちの方が戦力が必要じゃない」
「それはそうだが、下が壊滅すれば俺達が相手するのはジガルゼルドだけじゃなくなる。それに、あのドラゴンは事前に情報が得られなかった敵だ。下にそこまでの戦力があるようには思えない」
「あいつに勝てるの?」
「勝ってみせる」
「わかったわ。エヴァは?」
サエはしばらく迷った様子だったが、すぐに任せなさいとばかりに自信ありげな表情を見せる。
エヴァはサーキンの事もあって少し取り乱している。戦力としてなら是非とも欲しい場面だが、この状態のエヴァを戦わせたくはない。
「連れて行ってくれ。俺一人で戦う」
「待って! 私は大丈夫、もう取り乱さない。必ず一緒に勝つから」
エヴァがもう大丈夫と言うように俺の隣に立つ。
そしてサエがずるずると引きずって来たリュウがようやく目を覚ます。
「……わかった。リュウ、永竜を頼んだぞ! お前が探してる七頭のドラゴンの一体だ」
「え、あ、うん! 必ず倒す! そっちも気を付けて!」
リュウは全てを察した様で、隣で早くしなさいよとばかりに腕を組んでいるサエを抱え、翼を広げて飛び去る。ジガルゼルドに邪魔をされるかと思ったが、どうも二人には興味すらないらしい。
「もうお前を守ってくれる奴はこの場には居ないぞ。決着を付けよう、ジガルゼルド」
「それはお前も同じ事だろう。望むところだ、クロト・アルフガルノ」
◇
少し時間を遡り、クロト達が城へ向かった直後。
〈我流 虎ノ太刀〉
〈聖術 聖なる一撃〉
エンリの炎の斬撃と、シエラの光の斬撃が交差し、アンデッドを蹴散らしていく。とめどなく溢れてくる魔物を斬っては薙ぎ倒してを繰り返す二人だが、数は減るどころか増えているようにすら感じる程であり、疲労は積み重なるばかりだ。
「シエラ、また大技で一気に……」
「待ちなんし。この数を減らすのはわっちらの役目じゃありんせん。それより注意しなんし」
「注意?」
「魔族達が現れ始めているでありんす。わっちらはそっちの相手をするでありんすよ」
シエラの言葉に呼応するかのようにアンデッド軍隊が、地面を割って突き出した岩石に吹き飛ばされる。そしてその頂上に立ち、シエラ達を見下ろす魔族が一人。
「久しぶりね、リンリ……それにそっちのお嬢さんも、前に会ったわね」
「アリス様……いや、四魔王アリス!」
「会いたいと思っていた魔族に会えるとは、幸運でありんす。わっちの故郷の事、教えてもらうでありんすよ」
シエラ、リンリが同時に弓と剣を構え、アリスと対峙する。二人にとっても因縁の強い四魔王アリスが現れたのは恐らく偶然ではない。予め魔将軍ヴァールハイトとして潜入していたジガルゼルドは帝国側の戦力を完璧に把握している。つまり最適な組み合わせでこちらの戦力を潰せるように組み込んできているだろう。
「成長した貴女達を一人で相手するのは荷が重いかもしれないけれど、私の術はシンプル故に対策は数える程しかないわ。貴女達に対応出来るかしら?」
〈土術奥義 巨兵創造〉
〈異能 自我発現〉
二人の周囲に岩石で出来た五体の巨人が現れる。本来ならば術者が操る術で、一人につき一体の制約があり、複数体を召喚しても、人型の巨大な岩石を生み出すだけで大した意味は無い。しかし、アリスの異能「自我発現」は無機物に命を与える。故に巨人の兵隊を生み出すことが出来る。
「シエラ……」
「知ってると思いんすが、この巨人は動きが遅い代わりに盾になったりアリスの魔術の媒体になりんす。攻撃も生身で食らうのは危険でありんす……が」
「私達の全力攻撃なら」
「ええ、問題になりんせん」
岩石の巨人がその巨大な拳を振り上げ、リンリとシエラの立っていた場所を殴る。一撃で大地を割る威力は、鈍重とは言えかなりの脅威。しかも今は五体の巨人に囲まれており、同時に戦えばいつかは隙が生まれてしまう。
「リンリ! とにかく走りなんし!」
「うん! 狙いを絞られる前に倒し切るッ!」
〈我流 熊ノ太刀〉
リンリが炎を纏ったグローサーを振り、岩石の巨人に巨大な斬撃を浴びせる。炎を纏っているおかげで巨人にも有効な巨大斬撃を生み出す事が出来る。その分威力や切断力は落ちるが、それでも斬撃の衝撃で巨人は後退し、岩石で出来た体をボロボロと崩している。
〈月之女神式魔法陣展開・女神の怒り〉
シエラが素早く放った矢が魔方陣を描き、月の圧力で巨人を押し潰す。シエラの得意技でもある〈女神の怒り〉は、ハザックとの修行で〈浄化の殲滅光〉を習得した事により、魔力の込め方や威力の際限が見直され、その威力を格段に上げている。見事に一撃で巨人を石の塊へと変え、五体から四体に減らす。
〈我流奥義・改 竜舞ノ太刀〉
リンリも負けず劣らず。
巨人二体に挟み撃ちにされるが、逆にそれを利用して乱舞の攻撃を放つ。まるで強靭な肉体を持った戦士が大剣を振り回しているかのような威力で巨人達の岩石の体を破壊していく。
一発一発が強力な上に、それが乱舞となって襲い掛かる。ファリオスの斬撃を受けた事により、強力な斬撃を放つときの動きや筋肉の使い方を一度で見切っていたのだ。
巨人はボロボロと崩れていき、最後には原型を留められなくなって崩れてしまう。
更に巨人を攻撃する為に空中へ飛び上がっていたリンリは、そこから先程の斬撃で後退させた巨人の頭上へ飛び、追撃を試みる。
目を閉じ、精神を集中させる。そして最愛の姉の姿を思い起こすと同時にグローサーを纏う炎が消え、代わりに激流が巻き起こる。
〈我流奥義 時雨ノ太刀〉
巨人を両断させる程の威力を見せ、巨人三体がリンリの手で、同時に消え去る。炎と斬撃に強い岩の属性を持つ巨人に、水の属性は効果抜群だった。この〈時雨ノ太刀〉も短い修業期間の中で姉の力から自分の力へと昇華させ、威力や発生に伴う魔力の負荷などを改善している。
巨人を切り裂いたのちに器用に着地し、最後の一体を見据える。
「リンリ! すごいでありんすよ! 一人で三体も!」
「えへへ、偉い?」
「偉すぎでありんす!」
顔が綻ばせるリンリだが、すぐに戦場という事を思い出して引き締める。最後の巨人はアリスの後ろに控えており、こちらを見下ろしている。正直言えばリンリとシエラの実力であれば複数体居たとしてもほとんど問題にはならない。しかし、本当に厄介になるのはここからだろう。
「本当に成長したわね、リンリ」
「……ずっと聞きたかった事があります。抹殺するはずだった私を生かして、奴隷紋まで解いたのは何故ですか?」
「そうね、一言で言うならリンリに、奴隷以上の愛着を持っていた、から……でも、後悔しているわ。結局は私の手で殺さなければならない。それなら、あの時に姉と一緒に眠らせてあげるべきだった」
「……」
「リンリ?」
シエラが心配そうに顔を覗かせるが、リンリは大丈夫と言う風にシエラの目をしっかりと見返す。
「いいえ、生かしてくれてありがとうございました。おかげで大切な仲間達と出会えた。エンリとの別れは辛かったけど、エンリの居ない世界は辛いだけじゃ無かった。今の私は〈魔狩りの雷鳴〉、〈炎刀の巫女〉リンリ! 仲間の為に戦いますッ!」
「本当に成長したね。私の言う事を聞いて従うだけだった貴女が、今は自分の意志で、誰かを守る為に戦っている……私ももう、迷いは無いわ。全力であなた達を殺す!」
アリスが腕を上げると、巨人の体の表面が棘の様に刺々しく出っ張る。シエラは一度あれを見ているし、リンリも当然知っている。
〈土術 凝土弾雨〉
出っ張りから岩の棘が発射され、雨の様に降り注ぐ。単純な物量も脅威だが、アリスが使う〈凝土弾雨〉は巨人の体を媒体にする。通常の凝土弾雨よりもさらに範囲と量が増えている。これを防ぎ切るには高度な結界術が必要であり、避けきるなんて到底現実的ではない。
「リンリ、こっちに来なんし!」
〈結界術 展開防御壁・五〉
シエラが両手を掲げ、五枚の魔方陣を展開する。凝土弾雨を防ぐ事には成功しているが、周囲は岩の雨。このまま受け切れるかどうかはわからない。おまけにアリスの巨人は既に巨人としての機能はほぼ失い、媒体としての役割を全うしている。凝土弾雨で減った岩石は地中から際限なく盛り上がってくるので、巨人の体が尽きる事は半永久的に無い。アリスから見れば巨人は弾切れの無い機関銃の様なものだ。
「シエラ、大丈夫?」
「結界を維持させるだけなら当分は問題ありんせん。でも、この威力をずっと食らい続けるのは危険でありんす。どうにかアリスに接近しないといけないでありんすね」
「……私に任せて」
「危険でありんす。この岩石の中を突破するには……」
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賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
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