5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

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「聖剣一本の給付、あとは自腹」ってウソでしょ!

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「お待たせしました。わたくしたちは魔王の代人だいにんとして、和平の交渉に参りました」

 リリスは妹二人とともに、勇者たちの元に戻って、切り出した。

「和平だって?」

 勇者が、あからさまに不審な顔を作る。

「なぜ、このタイミングで? 仔細は分からないけれど、そっちの方が圧倒的に有利なはずだ。それなのに和平って……ボクたちを油断させようとしているのか?」

 リリスは、勇者の少年と二人きりで話し合うことを提案した。

「リーダー同士で話し合いましょう。もっとも、音に聞く勇者が私のような小娘を怖がるというのなら、話は別ですが」

 勇者は真面目な顔で、「あなたからは邪悪なものを感じない。いいでしょう。二人で話し合いましょう」と答えた。

 リリスは、計画通り、勇者と二人きりになった。

「改めまして、わたくし、魔王の長女でリリスと申します」
「ボクはアラタと言います」
「アラタ、エキゾチックな響きだわ……コホン、敬意を込めて、勇者様と呼ばせていただきましょう。勇者様、あなたがたには講和の意志がおありですか? それとも、どうしても今すぐ魔王を倒すというお気持ちでしょうか」

 勇者は、ちょっと困ったような顔をした。

「ボクたちは『気持ち』で魔王を倒そうとしているわけではありません」
「とおっしゃられると?」
「あくまで王命に従っているだけですので」
「王の命令、ですか?」
「そうです。いや、もちろん、そちらからの侵略に対して抵抗しているという側面は多分にありますが」
「差し支えない範囲で、どのような命が下されているのか、教えていただけませんか?」
「命令は簡単です。『魔王を倒せ』」
「……ん?」
「……」
「えっ? だけ?」
「だけ、です」
「……ちょ、ちょっと待ちなさい。あまりにも、あまりにも雑過ぎない!?」

 リリスの口から、王女らしからぬ素っ頓狂な声が漏れた。 彼女が突きつけた問いに、勇者のアラタは焚き火の爆ぜる音を聞きながら、所在なげに視線を泳がせている。

「魔王を倒せ……。命令はそれだけ? 遠征予算は? 補給線の確保は? 攻略ルートの策定や、不測の事態に備えた後方支援はどうなっているのよ!」
「あはは……」 

 アラタは困ったように、指先で頬を掻いた。 

「予算は……旅立ちの時に薬草代くらいはもらったかな。あとは魔物を倒して手に入れた素材を売って、自前で。ルート? 『とりあえず北に行けば魔王城があるから、死ぬ気で頑張ってね』って言われたよ。装備も、この聖剣以外は村のバザーで買った安物だし」

 リリスは言葉を失い、呆然と立ち尽くした。 

(な、何よ、それ。こっちは、モンスターの餌代だって経費で落ちるっていうのに……。この子たちは、自分の財布を削りながら命懸けで世界を救わされているの!?)

「あんまりだわ。そんなの、裸で戦場に放り出されるようなものじゃない!」

 リリスが詰め寄ると、アラタは少し驚いたように彼女を見つめ、「……そう思う?」と、すがるような声で問い返した。

「思うに決まってるじゃない! 当たり前よ!」

 アラタは少しだけ視線を落とし、火に照らされた顔に寂しげな笑みを浮かべた。 

「まさか、敵であるはずの魔族の人から、そんな風に言ってもらえるとは思わなかったよ。……ボクの周りはさ、みんな『聖剣に選ばれたんだから、魔王を倒すのは当然の義務だ』って顔をしてるんだ。期待されるのは嬉しいけど、それがいつの間にか、逃げ場のない『鎖』になっていって……」

 彼は爆ぜる火を見つめながら、心の奥に溜まった澱を吐き出すように、ぽつりぽつりと話し始めた。

「一度、小さな村を救えなかったことがあったんだ。魔物の襲撃を聞いて必死に駆けつけたけど、一歩、間に合わなかった。……そうしたら、生き残った村の人たちに石を投げられたんだよ。『勇者のくせに、どうして守ってくれなかったんだ!』って」
「い、石を……?」
「うん。ボクだけじゃない、仲間もボロクソに言われてさ。……王様に報告に行っても、『期待を裏切るな』って冷たく叱責されただけで、何のフォローもなかった。……ねえ、リリスさん。講和が成立したら、もうボクは石を投げられなくて済むのかな」
「…………」

 リリスの胸に、かつてない激しい感情が渦巻いた。それは「この子を今すぐこの劣悪な環境から連れ出さなければならない」という、強烈な母性本能だった。

「そんなところにいてはダメよ! あなた、このままじゃ心が壊れてしまうわ!」
「えっ?」
「いい? 一刻も早くこんな戦争を終わらせて……まあ、始めたのはこっちだけど……とにかく! 泥沼の戦いを終わらせて、あなたはあなたの人生を取り戻すの! 講和の手続きはすぐに進めるから、後のことは全部、この私に任せておきなさい!」
「でも、ボクたちは魔王討伐のために、王様から派遣された身だし……勝手にそんな大層なことを進めていいのかな」
「『将、そとりては、君命くんめいも受けざるところ有り』っていう言葉を知らない? 知らないなら今教えてあげるわ。……その意味はね、『現場を知らない王様なんかクソくらえ!』ってことよ!」

 アラタは一瞬目を丸くしたが、やがて今日一番の柔らかな笑顔を見せた。 

「リリスさんは強くて優しい人だね」
「ほ、ほ、褒めても別に、な、な、何も出ないからね! わ、和平の条件の上乗せなんてしないわよ!」

 リリスは真っ赤になって後ろを向いた。そして、何度も深呼吸をしてから、もう一度アラタに向き直る。

「とにかく! 講和は私が責任を持って完遂させるわ。だから、このわたしに、全部任せておきなさい!」
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