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勇者パーティの真実 ~それは絆ではなく「業務委託」でした~
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リリスが勇者の孤独に寄り添い、慈愛に満ちた聖母のような眼差しを向けていた、そこから少し離れたところ。 湿った夜気を含んだ倒木に腰掛け、魔王の次女エルゼは、パーティの知恵袋であるシーフのカイトと対峙していた。カイトは焚き火の爆ぜる音をBGMに、手慣れた手つきで短剣を研いでいる。その視線は極めて冷ややかで、エルゼの端麗な容姿に惑わされる様子は微塵もなかった。
「……で、一体どういうつもりなんだ? 魔王の娘さんが、わざわざこんな最前線までピクニックに来るなんてよ。和平交渉? 悪いが、俺には裏があるようにしか聞こえないな」
「あら、何をおっしゃるの? 私たちはただ、互いに無益な殺生を避けるために、誠意を持って……」
「勇者はだませても、俺はだませないぞ。あんたらの魂胆は何だ。軍を立て直すための時間稼ぎか? それとも、俺たちの内部をかき乱す工作員か?」
「ギクッ」
カイトの砥石を動かす手が、ぴたりと止まった。
「……今、口で『ギクッ』て言ったか? ますます怪しいヤツだ」
それから、勇者が会談している方を見て、
「一応、警告しておくが、勇者に何かあったらただじゃおかないぞ」
と続けた。
エルゼは広げた扇子で顔の下半分を隠し、自らの顔色を隠して、動揺を抑えた。
(くううううっ、友人を心配するクールな目、たまりませんわ)
エルゼは扇子を閉じると、スッと身を乗り出してカイトの瞳を真っ向から見つめた。
「……今頃、お姉様が勇者殿に詳しい情勢をお話ししている頃でしょう。ところで、カイト様、あなたの『ステータス』に関わる重要な確認をさせていただきたいのですが」
「ステータスだと?」
「ええ。あなた、現在……特定の恋人はおあり?」
「はあ!?」
カイトは素っ頓狂な声を上げた。
「そんなこと、何の関係があるんだ。突飛な質問をして会話の主導権を握ろうとしても無駄だぞ」
「大いに関係があるのです! 恋人、あるいは将来を誓った相手……いるの? いないの? どっち!?」
「……いねえよ、そんなもん」
「本当!?」
エルゼがさらにずずいっと距離を詰め、カイトのパーソナルスペースを強引に蹂躙する。
「いねえって言ってるだろ。そんな暇も金もねえしな」
「一応、念のために聞いておくけど、あそこにいる女子二人のことは気になってないの?」
カイトは、怪我した肩を強引にグルグル回してリハビリしている魔法使いの少女と、はわはわと眠そうにあくびをしている聖女を一瞥した。
「はあ? あいつらとはあくまで『ビジネス』でパーティを組んでるだけだ。現場に入るたびに仲間を好きになってたら、どんだけ恋愛することになるんだよ」
「えっ、お金のため……なの?」
エルゼは目を丸くした。
「他に何があるんだよ。魔王を倒せば、王都の一等地に家が建つぐらいの報酬が約束されてるからな。倒せなけりゃ無報酬。ハイリスク・ハイリターンの典型だ。俺は自分のこの腕を売って、それに見合う対価を受け取っているだけだ」
「でも、勇者様とは固い絆で結ばれた親友同士なのでしょう? ほら、『刎頚の友』的な」
「ふんけいの……なに?」
「お互いのためなら首を斬られても惜しくない友人同士、という意味だけど」
「げっ、こわっ。てか、キモッ!」
「えっ、気持ち悪い!?」
「当たり前だろ。なんだよ、首斬られてもいいって、よくないだろ。死んだら報酬を誰が受け取るんだよ。死んだら負け、それがプロの鉄則だ。俺が死んで喜ぶのは未払いで済む発注元(人間側の王)だけだぞ」
「でも、先ほど勇者様の身を案じていたではありませんか」
「そりゃ案じるだろ。あいつが死んだら、パーティは解散。魔王は倒せず、報酬は受け取れないからな」
「えっと……それって、他のメンバーにも当てはまるのですか?」
「他のヤツらのことは知らんよ。でも、オレは報酬にしか興味がない」
エルゼは絶句した。
(ウソでしょ……勇者パーティって、魂の共鳴によって結ばれた仲間……とかじゃないの?)
魔王城内で侍女から聞いた話ではそんな感じだった。だが、エルゼの心は、ショックとは裏腹に奇妙な高揚感に包まれ始めた。この男の持つ「徹底した現実主義」はどうだろう。行動に明確な理由があり、かつ非常に分かりやすい。そして、それはエルゼの気性にかなうものだった。
「うふふ……面白いわ。あなた、とっても気に入りましたわ!」
「は? なんだよ急に。気味の悪い笑い方するなよ」
カイトは本能的な危機を察知したのか、じりじりと後退する。
「それで? オレに恋人がいなかったら何なんだよ。まさか、あんたがなってくれるとでも言うのか?」
カイトが冗談めかして鼻で笑うと、エルゼは扇子を華麗に開き、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「まさにそれが、今回の『和平案』に含まれる特約項目の一つなのですわ」
「…………はい?」
「我が魔王軍は、和睦の条件の中に、『勇者パーティの男性に魔王の娘を与える』という一文を入れています」
「おいおい……」
「あなたの相手はわたくしになりそうなのですが、不服ですか?」
「不服かどうか言えるほど、あんたのことを知らないんだけど」
「魔王討伐の報酬は王都の一等地に豪邸、でしたわね。わたくしの持参金はその100倍以上になると思いますが」
カイトの手から、短剣が滑り落ちそうになった。
「……マジで?」
「はい」
カイトは、まじまじと、エルゼを見た。
「よくよく見ると、あんた、めちゃくちゃ美人だな」
「よく言われます」
おそろしくゲンキンなシーフからの褒め言葉にも、エルゼは耳が熱くなるのを感じた。
「……で、一体どういうつもりなんだ? 魔王の娘さんが、わざわざこんな最前線までピクニックに来るなんてよ。和平交渉? 悪いが、俺には裏があるようにしか聞こえないな」
「あら、何をおっしゃるの? 私たちはただ、互いに無益な殺生を避けるために、誠意を持って……」
「勇者はだませても、俺はだませないぞ。あんたらの魂胆は何だ。軍を立て直すための時間稼ぎか? それとも、俺たちの内部をかき乱す工作員か?」
「ギクッ」
カイトの砥石を動かす手が、ぴたりと止まった。
「……今、口で『ギクッ』て言ったか? ますます怪しいヤツだ」
それから、勇者が会談している方を見て、
「一応、警告しておくが、勇者に何かあったらただじゃおかないぞ」
と続けた。
エルゼは広げた扇子で顔の下半分を隠し、自らの顔色を隠して、動揺を抑えた。
(くううううっ、友人を心配するクールな目、たまりませんわ)
エルゼは扇子を閉じると、スッと身を乗り出してカイトの瞳を真っ向から見つめた。
「……今頃、お姉様が勇者殿に詳しい情勢をお話ししている頃でしょう。ところで、カイト様、あなたの『ステータス』に関わる重要な確認をさせていただきたいのですが」
「ステータスだと?」
「ええ。あなた、現在……特定の恋人はおあり?」
「はあ!?」
カイトは素っ頓狂な声を上げた。
「そんなこと、何の関係があるんだ。突飛な質問をして会話の主導権を握ろうとしても無駄だぞ」
「大いに関係があるのです! 恋人、あるいは将来を誓った相手……いるの? いないの? どっち!?」
「……いねえよ、そんなもん」
「本当!?」
エルゼがさらにずずいっと距離を詰め、カイトのパーソナルスペースを強引に蹂躙する。
「いねえって言ってるだろ。そんな暇も金もねえしな」
「一応、念のために聞いておくけど、あそこにいる女子二人のことは気になってないの?」
カイトは、怪我した肩を強引にグルグル回してリハビリしている魔法使いの少女と、はわはわと眠そうにあくびをしている聖女を一瞥した。
「はあ? あいつらとはあくまで『ビジネス』でパーティを組んでるだけだ。現場に入るたびに仲間を好きになってたら、どんだけ恋愛することになるんだよ」
「えっ、お金のため……なの?」
エルゼは目を丸くした。
「他に何があるんだよ。魔王を倒せば、王都の一等地に家が建つぐらいの報酬が約束されてるからな。倒せなけりゃ無報酬。ハイリスク・ハイリターンの典型だ。俺は自分のこの腕を売って、それに見合う対価を受け取っているだけだ」
「でも、勇者様とは固い絆で結ばれた親友同士なのでしょう? ほら、『刎頚の友』的な」
「ふんけいの……なに?」
「お互いのためなら首を斬られても惜しくない友人同士、という意味だけど」
「げっ、こわっ。てか、キモッ!」
「えっ、気持ち悪い!?」
「当たり前だろ。なんだよ、首斬られてもいいって、よくないだろ。死んだら報酬を誰が受け取るんだよ。死んだら負け、それがプロの鉄則だ。俺が死んで喜ぶのは未払いで済む発注元(人間側の王)だけだぞ」
「でも、先ほど勇者様の身を案じていたではありませんか」
「そりゃ案じるだろ。あいつが死んだら、パーティは解散。魔王は倒せず、報酬は受け取れないからな」
「えっと……それって、他のメンバーにも当てはまるのですか?」
「他のヤツらのことは知らんよ。でも、オレは報酬にしか興味がない」
エルゼは絶句した。
(ウソでしょ……勇者パーティって、魂の共鳴によって結ばれた仲間……とかじゃないの?)
魔王城内で侍女から聞いた話ではそんな感じだった。だが、エルゼの心は、ショックとは裏腹に奇妙な高揚感に包まれ始めた。この男の持つ「徹底した現実主義」はどうだろう。行動に明確な理由があり、かつ非常に分かりやすい。そして、それはエルゼの気性にかなうものだった。
「うふふ……面白いわ。あなた、とっても気に入りましたわ!」
「は? なんだよ急に。気味の悪い笑い方するなよ」
カイトは本能的な危機を察知したのか、じりじりと後退する。
「それで? オレに恋人がいなかったら何なんだよ。まさか、あんたがなってくれるとでも言うのか?」
カイトが冗談めかして鼻で笑うと、エルゼは扇子を華麗に開き、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「まさにそれが、今回の『和平案』に含まれる特約項目の一つなのですわ」
「…………はい?」
「我が魔王軍は、和睦の条件の中に、『勇者パーティの男性に魔王の娘を与える』という一文を入れています」
「おいおい……」
「あなたの相手はわたくしになりそうなのですが、不服ですか?」
「不服かどうか言えるほど、あんたのことを知らないんだけど」
「魔王討伐の報酬は王都の一等地に豪邸、でしたわね。わたくしの持参金はその100倍以上になると思いますが」
カイトの手から、短剣が滑り落ちそうになった。
「……マジで?」
「はい」
カイトは、まじまじと、エルゼを見た。
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