8 / 78
魔王の三女は誠実なお尻に恋をする
しおりを挟む
「ねえねえ、わたし、あなたのこと気に入っちゃった! わたしのカノジョ……じゃなかった、あなたのカノジョにして!」
月明かりの下、ミーナは戦士テオの前でぴょんぴょんと跳ねながら、これ以上ないほどストレートな剛速球を投げ込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! ミーナ殿でしたか……いきなりそのようなことを言われても……っ」
テオは顔を沸騰したヤカンのように真っ赤にし、手に持っていた大剣のメンテナンス用クロスを地面に落としそうになった。魔王軍の軍団長相手なら、どんな猛攻にも動じない鋼の精神を持つ彼だったが、至近距離で美少女に迫られるという「精神攻撃」に対する耐性は皆無だった。
「ええーっ、誰か好きな人いるの?」
ミーナはわざとらしく、今にも泣き出しそうな「雨に濡れた子犬」のような瞳を作って上目遣いで見つめる。
「い、いえ、そのような方はおりません。しかし、わたしはこの旅が終わるまでは、我が身のことは考えまい、この剣に全てを捧げようと神に誓ったのです」
テオが絞り出した言葉は、どこまでも青臭く、そして騎士道精神に満ち溢れていた。その凛々しい横顔、揺るぎない誠実な声。それを見たミーナは、一瞬で「自分だけの桃源郷」へとトリップした。
(うわぁぁぁ、顔もいいし、お尻も引き締まってて超キュートだし、性格まで誠実なんて……! ああ、こんな真っ直ぐな人に『そんなわがままを言ってはいけません、ミーナ!』って厳しく叱られたい! 叱られながら、その大きな手で優しく頭を撫でられたい……!)
ミーナの脳内では、すでに、「厳格な年上騎士と、自由奔放な魔王の愛娘」という禁断のロマンス小説が全編完結していた。彼女はわざとしおらしく尋ねる。
「……わたしのこと、どう思う? 魔族だし、人間から見たらやっぱり可愛くないよね?」
「待ってください。わたしは人間だとか魔族だとか、そのような偏見で人を見るようなことはいたしません」
テオは真剣な眼差しで、ミーナの瞳をまっすぐに見つめ返した。その瞳には一点の曇りもない。
「じゃあ、わたしのこと、どう思う?」
「正直に申し上げます」
テオは深く息を吸い、覚悟を決めたように言った。
「これほど心揺さぶられる美しい方は、生まれて初めて見ました」
「…………っ!!」
今度はミーナの方が、本当に顔を真っ赤にして固まった。
(ええええええっ、なに、この人!? 天然のタラシなの? ああ、ますますいいかも……)
「じゃ、じゃあさ! もし、わたしみたいな子と結婚できたら……嬉しい……?」
ミーナは、カノジョうんぬんという話を華麗に飛び越した。
「嬉しいですね。あなたのような方に想われるのは、男として、この上ない誉れです」
決まりだ。ミーナは心の中で、自分たちを和平の道具として差し出そうとした父親(魔王ゼノン)に対して、初めて心の底から感謝した。是が非でもこの男子を捕まえる。そのためなら魔王軍を敵に回しても構わない。というか、むしろ敵に回したい。
「じゃあさ、講和が成立したら、わたしと結婚してくれる? それとも、やっぱり、お姉ちゃんたちの方がいい?」
「……とおっしゃられると?」
テオが不思議そうに首を傾げる。
「だって、お父様が出した講和の条件の中に、『勇者一行の男子に、魔王の王女を与える』っていうのがあるんだもん。テオ様は勇者パーティの男子だから、わたしたち三姉妹の誰かと結婚してもらわないといけないの」
「な、な、なんとハレンチな!」
テオがいきなり立ち上がり、怒りをあらわにした。ミーナは一瞬ビクッとして肩をすくめた。
「ど、どうしたの? ハレンチって……結婚って別にエッチなことじゃないと思うけど」
「そういうことではありません! 実の娘を、政治の道具、講和の条件として差し出すなどという魔王のやり方が、あまりにも厚顔無恥だと言ったのです!」
テオの怒りは、ミーナの「尊厳」を守ろうとする義憤によるものだった。
(あっ、そういうこと……。出会ったばかりの私のために、そんなに本気で怒ってくれてるんだぁ……。やっぱりこの人、いい……)
「いいの、それは。魔王の娘として生まれた時から、覚悟はしていたことだから……」
ミーナはしおらしい「悲劇のヒロイン」を演出しながら、伏し目がちにつぶやいた。
「それにね、逆に感謝したいって思っているんだ。そうじゃなきゃ、テオ様に出会えなかったかもしれないから」
「ミーナ殿……」
「お願い、講和が成立したら、わたしを選んで。それとも、さっき『嬉しい』って言ってくれたのは……ウソだったの?」
潤んだ瞳でテオを見上げる。ある程度経験がある男性だったら、これが、親におもちゃを買ってもらいたい子どもの媚態の類だということが分かっただろうが、幸か不幸か、テオはそうではなかった。
「……分かりました」
「本当!?」
「騎士に二言はありません。その際は、謹んで、ミーナ殿を我が伴侶にさせていただきます」
(ひゃっほーーーーい! こうなったら何が何でも、このくだらない戦争をやめさせてやるから!)
ミーナは満面の笑みでテオの手を握りしめた。
月明かりの下、ミーナは戦士テオの前でぴょんぴょんと跳ねながら、これ以上ないほどストレートな剛速球を投げ込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! ミーナ殿でしたか……いきなりそのようなことを言われても……っ」
テオは顔を沸騰したヤカンのように真っ赤にし、手に持っていた大剣のメンテナンス用クロスを地面に落としそうになった。魔王軍の軍団長相手なら、どんな猛攻にも動じない鋼の精神を持つ彼だったが、至近距離で美少女に迫られるという「精神攻撃」に対する耐性は皆無だった。
「ええーっ、誰か好きな人いるの?」
ミーナはわざとらしく、今にも泣き出しそうな「雨に濡れた子犬」のような瞳を作って上目遣いで見つめる。
「い、いえ、そのような方はおりません。しかし、わたしはこの旅が終わるまでは、我が身のことは考えまい、この剣に全てを捧げようと神に誓ったのです」
テオが絞り出した言葉は、どこまでも青臭く、そして騎士道精神に満ち溢れていた。その凛々しい横顔、揺るぎない誠実な声。それを見たミーナは、一瞬で「自分だけの桃源郷」へとトリップした。
(うわぁぁぁ、顔もいいし、お尻も引き締まってて超キュートだし、性格まで誠実なんて……! ああ、こんな真っ直ぐな人に『そんなわがままを言ってはいけません、ミーナ!』って厳しく叱られたい! 叱られながら、その大きな手で優しく頭を撫でられたい……!)
ミーナの脳内では、すでに、「厳格な年上騎士と、自由奔放な魔王の愛娘」という禁断のロマンス小説が全編完結していた。彼女はわざとしおらしく尋ねる。
「……わたしのこと、どう思う? 魔族だし、人間から見たらやっぱり可愛くないよね?」
「待ってください。わたしは人間だとか魔族だとか、そのような偏見で人を見るようなことはいたしません」
テオは真剣な眼差しで、ミーナの瞳をまっすぐに見つめ返した。その瞳には一点の曇りもない。
「じゃあ、わたしのこと、どう思う?」
「正直に申し上げます」
テオは深く息を吸い、覚悟を決めたように言った。
「これほど心揺さぶられる美しい方は、生まれて初めて見ました」
「…………っ!!」
今度はミーナの方が、本当に顔を真っ赤にして固まった。
(ええええええっ、なに、この人!? 天然のタラシなの? ああ、ますますいいかも……)
「じゃ、じゃあさ! もし、わたしみたいな子と結婚できたら……嬉しい……?」
ミーナは、カノジョうんぬんという話を華麗に飛び越した。
「嬉しいですね。あなたのような方に想われるのは、男として、この上ない誉れです」
決まりだ。ミーナは心の中で、自分たちを和平の道具として差し出そうとした父親(魔王ゼノン)に対して、初めて心の底から感謝した。是が非でもこの男子を捕まえる。そのためなら魔王軍を敵に回しても構わない。というか、むしろ敵に回したい。
「じゃあさ、講和が成立したら、わたしと結婚してくれる? それとも、やっぱり、お姉ちゃんたちの方がいい?」
「……とおっしゃられると?」
テオが不思議そうに首を傾げる。
「だって、お父様が出した講和の条件の中に、『勇者一行の男子に、魔王の王女を与える』っていうのがあるんだもん。テオ様は勇者パーティの男子だから、わたしたち三姉妹の誰かと結婚してもらわないといけないの」
「な、な、なんとハレンチな!」
テオがいきなり立ち上がり、怒りをあらわにした。ミーナは一瞬ビクッとして肩をすくめた。
「ど、どうしたの? ハレンチって……結婚って別にエッチなことじゃないと思うけど」
「そういうことではありません! 実の娘を、政治の道具、講和の条件として差し出すなどという魔王のやり方が、あまりにも厚顔無恥だと言ったのです!」
テオの怒りは、ミーナの「尊厳」を守ろうとする義憤によるものだった。
(あっ、そういうこと……。出会ったばかりの私のために、そんなに本気で怒ってくれてるんだぁ……。やっぱりこの人、いい……)
「いいの、それは。魔王の娘として生まれた時から、覚悟はしていたことだから……」
ミーナはしおらしい「悲劇のヒロイン」を演出しながら、伏し目がちにつぶやいた。
「それにね、逆に感謝したいって思っているんだ。そうじゃなきゃ、テオ様に出会えなかったかもしれないから」
「ミーナ殿……」
「お願い、講和が成立したら、わたしを選んで。それとも、さっき『嬉しい』って言ってくれたのは……ウソだったの?」
潤んだ瞳でテオを見上げる。ある程度経験がある男性だったら、これが、親におもちゃを買ってもらいたい子どもの媚態の類だということが分かっただろうが、幸か不幸か、テオはそうではなかった。
「……分かりました」
「本当!?」
「騎士に二言はありません。その際は、謹んで、ミーナ殿を我が伴侶にさせていただきます」
(ひゃっほーーーーい! こうなったら何が何でも、このくだらない戦争をやめさせてやるから!)
ミーナは満面の笑みでテオの手を握りしめた。
20
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!
ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。
婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。
「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」
「「「は?」」」
「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」
前代未聞の出来事。
王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。
これでハッピーエンド。
一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。
その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。
対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。
タイトル変更しました。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる