5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

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魔王の三女は誠実なお尻に恋をする

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「ねえねえ、わたし、あなたのこと気に入っちゃった! わたしのカノジョ……じゃなかった、あなたのカノジョにして!」

 月明かりの下、ミーナは戦士テオの前でぴょんぴょんと跳ねながら、これ以上ないほどストレートな剛速球を投げ込んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください! ミーナ殿でしたか……いきなりそのようなことを言われても……っ」

 テオは顔を沸騰したヤカンのように真っ赤にし、手に持っていた大剣のメンテナンス用クロスを地面に落としそうになった。魔王軍の軍団長相手なら、どんな猛攻にも動じない鋼の精神を持つ彼だったが、至近距離で美少女に迫られるという「精神攻撃」に対する耐性は皆無だった。

「ええーっ、誰か好きな人いるの?」 

 ミーナはわざとらしく、今にも泣き出しそうな「雨に濡れた子犬」のような瞳を作って上目遣いで見つめる。

「い、いえ、そのような方はおりません。しかし、わたしはこの旅が終わるまでは、我が身のことは考えまい、この剣に全てを捧げようと神に誓ったのです」

 テオが絞り出した言葉は、どこまでも青臭く、そして騎士道精神に満ち溢れていた。その凛々しい横顔、揺るぎない誠実な声。それを見たミーナは、一瞬で「自分だけの桃源郷」へとトリップした。

(うわぁぁぁ、顔もいいし、お尻も引き締まってて超キュートだし、性格まで誠実なんて……! ああ、こんな真っ直ぐな人に『そんなわがままを言ってはいけません、ミーナ!』って厳しく叱られたい! 叱られながら、その大きな手で優しく頭を撫でられたい……!)

 ミーナの脳内では、すでに、「厳格な年上騎士と、自由奔放な魔王の愛娘」という禁断のロマンス小説が全編完結していた。彼女はわざとしおらしく尋ねる。

「……わたしのこと、どう思う? 魔族だし、人間から見たらやっぱり可愛くないよね?」
「待ってください。わたしは人間だとか魔族だとか、そのような偏見で人を見るようなことはいたしません」 

 テオは真剣な眼差しで、ミーナの瞳をまっすぐに見つめ返した。その瞳には一点の曇りもない。

「じゃあ、わたしのこと、どう思う?」
「正直に申し上げます」

 テオは深く息を吸い、覚悟を決めたように言った。

「これほど心揺さぶられる美しい方は、生まれて初めて見ました」
「…………っ!!」

 今度はミーナの方が、本当に顔を真っ赤にして固まった。 

(ええええええっ、なに、この人!? 天然のタラシなの? ああ、ますますいいかも……)

「じゃ、じゃあさ! もし、わたしみたいな子と結婚できたら……嬉しい……?」

 ミーナは、カノジョうんぬんという話を華麗に飛び越した。

「嬉しいですね。あなたのような方に想われるのは、男として、この上ない誉れです」

 決まりだ。ミーナは心の中で、自分たちを和平の道具として差し出そうとした父親(魔王ゼノン)に対して、初めて心の底から感謝した。是が非でもこの男子を捕まえる。そのためなら魔王軍を敵に回しても構わない。というか、むしろ敵に回したい。

「じゃあさ、講和が成立したら、わたしと結婚してくれる? それとも、やっぱり、お姉ちゃんたちの方がいい?」
「……とおっしゃられると?」

 テオが不思議そうに首を傾げる。

「だって、お父様が出した講和の条件の中に、『勇者一行の男子に、魔王の王女を与える』っていうのがあるんだもん。テオ様は勇者パーティの男子だから、わたしたち三姉妹の誰かと結婚してもらわないといけないの」
「な、な、なんとハレンチな!」

 テオがいきなり立ち上がり、怒りをあらわにした。ミーナは一瞬ビクッとして肩をすくめた。

「ど、どうしたの? ハレンチって……結婚って別にエッチなことじゃないと思うけど」
「そういうことではありません! 実の娘を、政治の道具、講和の条件として差し出すなどという魔王のやり方が、あまりにも厚顔無恥だと言ったのです!」

 テオの怒りは、ミーナの「尊厳」を守ろうとする義憤によるものだった。 

(あっ、そういうこと……。出会ったばかりの私のために、そんなに本気で怒ってくれてるんだぁ……。やっぱりこの人、いい……)

「いいの、それは。魔王の娘として生まれた時から、覚悟はしていたことだから……」 

 ミーナはしおらしい「悲劇のヒロイン」を演出しながら、伏し目がちにつぶやいた。 

「それにね、逆に感謝したいって思っているんだ。そうじゃなきゃ、テオ様に出会えなかったかもしれないから」
「ミーナ殿……」
「お願い、講和が成立したら、わたしを選んで。それとも、さっき『嬉しい』って言ってくれたのは……ウソだったの?」

 潤んだ瞳でテオを見上げる。ある程度経験がある男性だったら、これが、親におもちゃを買ってもらいたい子どもの媚態の類だということが分かっただろうが、幸か不幸か、テオはそうではなかった。

「……分かりました」
「本当!?」
「騎士に二言はありません。その際は、謹んで、ミーナ殿を我が伴侶にさせていただきます」

(ひゃっほーーーーい! こうなったら何が何でも、このくだらない戦争をやめさせてやるから!)

 ミーナは満面の笑みでテオの手を握りしめた。
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