5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

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平和への生贄は「お父様」です。 ~三姉妹の過激な家族会議~

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 勇者たちのキャンプから少し離れた岩陰。青白い月明かりの下、魔王家の三姉妹は再び額を寄せ合い、ヒソヒソと、だが異様な熱を帯びた声で密談を繰り広げていた。

「いい、二人とも。この講和と結婚は、何が何でも成立させなきゃいけないわ。これは私たちの自由を懸けた戦いであり、あの劣悪な環境で使い潰されている勇者様たちを救い出すための、聖なる救済プロジェクトでもあるのよ」

 長女リリスの力強い宣言に、エルゼとミーナが深く、重々しく頷く。

「後から人数が五人だったなんて嘘がバレたって構やしないわ。先に式を挙げて、既成事実を積み上げてしまえばこっちのものですもの」
「ですが、露見があまりに早すぎると不都合が生じますわ」 

 次女エルゼが、冷ややかに、かつ論理的に現状を分析し始める。 

「現在、魔王軍の軍団は三つが事実上の機能停止に追い込まれています。けれど、逆を言えば、まだあと四つの軍団が健在だということですわ。今後の戦力が拡充される見込みが薄い以上、今の五人だけで残りの軍勢全てを相手にするのは、いくら彼らが規格外に強くとも限界があります」
「そうね……。特に第五軍団、通称『強竜きょうりゅう団』は厄介だわ」 

 リリスが忌々しげに顔を曇らせた。 

「あそこは本当に手だれぞろいよ。一兵卒がワイバーンを素手でひねりつぶすような連中だもの。動かすだけで莫大な遠征費がかかるから、ケチなお父様はこれまで出撃を渋ってきたんだろうけど……。もし本気であいつらを投入されたら、いくら勇者様でも物量と暴力の前に押し切られてしまうわ」
「軍団長が言っていた『五百人』だか『七百五十人』だかという数字がハッタリだと知られれば、お父様は即座に残存兵力を投入するでしょう。せめて、に同程度の力を持ったパーティがあと七つ……いえ、せめて五つでもあれば抑止力になりますのに。たった五人では……」

 すっかり勇者側の軍師、あるいはマネージャーのような思考に陥っているエルゼが、ふと三女を振り返った。 

「ちょっと、ミーナ。あなたもボサッとしてないで何かお考えなさい。どうすれば、講和後にお父様たちを完全に黙らせ、手出しさせないようにできるか。このままでは私たちのハッピーライフが危ういですわよ」
「えー、わたしー?」 

 ミーナは、テオと二人きりの甘い結婚生活の妄想の中でニヤけていたが、姉の鋭い声で正気に戻った。彼女は、面倒くさそうに人差し指を顎に当てると、さらりと言ってのけた。

「……いっそ、お父様を勇者様に差し出しちゃうっていうのは?」
「「………………ん?」」

 長女と次女の思考が、同時にフリーズする。

「だってさ、お父様が勇者パーティに捕まっちゃえば、誰も残りの軍団長に命令できないじゃん。魔王軍のトップが不在になれば、あの強竜団だって勝手に動く名分がなくなるでしょ?」
「「……お父様を、捕虜にする……?」」
「そう! 勇者様に『魔王を捕らえたぞ!』って特大の手柄を立てさせてあげるの。そうすれば人間界のブラックな王様だって、これ以上の文句は言えないでしょ。英雄として遇さざるを得ないはずだよ。で、お父様には『勇者のあまりの強さに敗北した悲劇の魔王』という肩書きで、そのまま隠居してもらうの。余生はどこか遠くの大陸で、お母様と二人で仲良くゲートボールでもしてればいいじゃない。まあ、人間側に引き渡した後に釈放されたら、だけどー」

 リリスとエルゼは顔を見合わせ、数秒間の沈黙が流れた。実の父親を敵に売り渡し、捕虜の地位へ転落させる。子供としては人道的にどうなのかという考えが、一瞬だけ、本当に一瞬だけ脳裏をよぎった。

 だが、直後に二人の脳裏には共通の光景が浮かんだ。『お前たちは勇者たちへの人身御供だ。私の首……じゃなくて、魔王軍の存続のために犠牲になってくれ』と、情けなくも自分たちの幸せを切り売りしようとした、あの不甲斐ない父親の姿が。

「……先に私たちを売ったのは、あちらの方だものね」 

 リリスの唇が、冷徹な勝利の笑みの形に歪んだ。

「ええ。愛娘を和平の道具にしようとした者には、それ相応の対価を支払っていただきましょう。巷間にも、『人に刃を向ける者は自らも斬られる覚悟を持て』と言いますわ」 

 エルゼもまた、パチンと扇子を閉じて同意した。

「講和条約の調印式に、お父様を自ら出向かせて……その場で、一気に拘束する」
「決まり、ですわね。勇者様たちには『陛下が誠意を見せるために単身で来られます』とでも伝えておきましょう」

 三人が恐るべき「親孝行」の決意を固めたその時、

「おーい、悪だくみは終わったー?」 

 ひょっこりと、魔法使いの少女リンが茂みから顔を出した。

 リリスは慌てて立ち上がり、ドレスの裾を整えながら淑女の微笑みを貼り付けた。 

「悪だくみ、ではありませんが、終わるには終わりました。何か御用かしら?」
「お腹空いてないかなと思ってさ。大したものは用意できないけど、一緒に食べない?」
「えっ、わたくしたちと……食事を、ですか?」 

 エルゼが意外そうに目を瞬かせる。

「そうだよ。ずっと岩陰でヒソヒソしてるから、お腹減ってるんじゃないかと思って」
「あの……リン様。わたくしたち、一応は魔王の娘であり、和睦の使者としてここにいるのです。現時点で毒殺するのは得策ではないと思いますが」

 リリスが眉をひそめると、

「なんでだよ!」 

 リンはケラケラと笑い飛ばした。 

「和睦の使者ってことは、今は敵じゃないってことでしょ? だったら、同じ火を囲んでご飯を食べようよって言ってるだけだってば」

 リリスは、二人の妹と顔を見合わせた。二人が、期待に満ちた(特にミーナはテオと同じ鍋をつつくことに興奮した)瞳で頷くのを見て、リリスも小さく吐息を漏らした。

「……それでは、お言葉に甘えて、お相伴にあずかります」
「決まり! あとさ、もし急いでないなら、今日はうちに泊まっていきなよ。テントの中はちょっと狭いけど、女の子同士で固まれば全員寝られるから。外は夜露が冷えるしね」
「ど、どうも……」
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