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元第四軍団長の最期 ~七百人の幻影に抱かれて~
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血に染まりながらも、バナードは歓喜に震えていた。三姉妹による容赦ない先制攻撃によって、その重厚な鎧は砕け、全身に深い傷を負っている。だが、その眼光は衰えるどころか、さらにぎらぎらとした狂気の輝きを増していた。
「クハハ……素晴らしい。まさか、三人の姫君にここまで削られるとはな。だが、本番はここからだ。……勇者よ、貴公らが連れているのは先遣隊なのだろう? さっさと仲間を呼ぶがいい。背後の森に潜む残りの強者たちをな!」
勇者アラタは聖剣を正眼に構え、困惑を隠せないまま答えた。
「……何を言っている。ボクの仲間は、ここにいる。これが全員だ」
バナードは一瞬、呆然と口を開けた。だが、すぐに自分勝手な解釈という名の「フィルター」を通して納得し、感極まった声を上げた。
「なんと……! 数において圧倒的優位を誇りながら、あえて五人だけで戦おうというのか! 慢心か? いや、違うな。これは我ら魔族への、武人としての敬意か! なんという誇り高き精神だ!」
「……?」
アラタはますます首を傾げたが、仲間のために一歩前に出た。
「五人で戦うことが気になるのか? 悪いけれど、ボクたちは五対一で戦うことを卑怯だとは思っていない。人間は弱い。でも、結束すれば、あなた方よりも強くなれるんだ」
「潔い! なんという高潔な魂の持ち主だ。貴公こそ、まさに(七百人の)勇者の中の勇者だ!!」
「そんな……」
アラタは思わず照れたように頬をかいた。
「歴代の勇者の中の勇者だなんて、ボクには過分な言葉です。でも、その言葉に応えるために、全力で行きます!」
「参るッ!!」
バナードの巨大な斧が振り下ろされる。だが、その動きには三姉妹との戦いで負った傷による確実な「重み」が生じていた。
「今だ、みんな!」
アラタの号令と共に、五人の連携が爆発した。テオの大盾がバナードの斧を弾き飛ばし、その隙を突いてカイトが死角から利き腕の腱を切り裂く。リンの爆裂魔法が至近距離で炸裂して体勢を崩させ、セシルの神聖魔法がアラタの全身に眩い加護を与えた。そして、光り輝くアラタの聖剣が、バナードの胸元を深く、一気に切り裂いた。
「ぐふっ……!!」
バナードは大の字に大地へ倒れ伏した。空を見上げ、満足そうに口の端を吊り上げる。
「……満足だ……。軍団長という地位を捨ててまで、真の強者とまみえた甲斐があったというもの……勇者軍団……わずか五人の先鋒だけでこの俺を屠るとはな。俺を倒した勇者に……永遠の誉れあれ……!」
バナードは、自分が最期まで見続けた「幻影の軍勢」に酔いしれながら、静かに息を引き取った。
静寂が訪れる。 勇者たちは荒い息をつきながら、倒したばかりの強敵を見つめていた。その後ろから、
「……これで、信じていただけましたか?」
長女リリスが、ドレスの裾を払って微笑んだ。
「このバナードは、お父様の命に背いて暴走した反逆者。それを私たちが道を作り、あなたがたが討った。……今の私たちは、共通の敵を排除した『戦友』も同然ですわ」
アラタは剣を鞘に収め、リリスを真っ直ぐに見つめた。
「あなたたちが本気なのは分かった。ボクたちも和睦に異存はない。これから、近くの『駅』まで行って、そちらの申し出を王に伝える手紙を出すことにするよ」
その役目にカイトが名乗りを上げた。
「オレが行こう。パーティの中で戦闘面で抜けても一番問題ないのがオレだからな。悪いが、オレはまだそっちを完全には信頼していないんでな」
「また軍団長が襲ってくることを心配なさっているのですね」とエルゼ。
「いや、オレが警戒しているのはあんたら三姉妹だよ。よっぽど軍団長より怖いだろ、あんたら。何なんだよ、あれ」
「あれ、とは?」
「あのいかにもな強面をボコスカ殴ってただろ」
「魔法ですわ」
「……こっちの魔法とは概念が違うようだな。とにかく、あんたら、オレたちと普通にやり合えるんじゃないか?」
「まさか、そんなことあるわけがありませんわ!」
エルゼが扇子で口元を隠して微笑む。カイトは鼻を鳴らし、そのまま「駅」へと向かって駆け出していった。
「あの、ところで、『駅』とは何ですの?」
リリスが訊くと、
「情報伝達システムですよ。手紙を駅から駅へと、早馬や飛脚を使って順次届けることで、最終的に王都へ届くんです」
勇者が答えた。
リリスは、なるほど、と頷きながら内面で苦笑した。魔族には「鏡通信(=鏡を利用することで、リアルタイムの映像通信ができる魔法)」がある。情報伝達という面でも、人間側は決定的に不利を強いられているのだ。
(あっ、そうそう、鏡通信でお父様に連絡しなければ……)
そう思いつつ、リリスは転がっているバナードの遺体を見た。幸福そうに笑いながら目をつぶっている顔を見て、やれやれとは思いながらも黙祷を捧げてから、
(お父様には少し気を持たせることにしましょう。事の顛末をすぐに知らせてあげる必要は無いわ)
開けた目を勇者に向けた。
「この森も物騒ですわ。ここから一番近い人里へ移動しませんか? そこで正式な書類の準備を整えましょう」
「クハハ……素晴らしい。まさか、三人の姫君にここまで削られるとはな。だが、本番はここからだ。……勇者よ、貴公らが連れているのは先遣隊なのだろう? さっさと仲間を呼ぶがいい。背後の森に潜む残りの強者たちをな!」
勇者アラタは聖剣を正眼に構え、困惑を隠せないまま答えた。
「……何を言っている。ボクの仲間は、ここにいる。これが全員だ」
バナードは一瞬、呆然と口を開けた。だが、すぐに自分勝手な解釈という名の「フィルター」を通して納得し、感極まった声を上げた。
「なんと……! 数において圧倒的優位を誇りながら、あえて五人だけで戦おうというのか! 慢心か? いや、違うな。これは我ら魔族への、武人としての敬意か! なんという誇り高き精神だ!」
「……?」
アラタはますます首を傾げたが、仲間のために一歩前に出た。
「五人で戦うことが気になるのか? 悪いけれど、ボクたちは五対一で戦うことを卑怯だとは思っていない。人間は弱い。でも、結束すれば、あなた方よりも強くなれるんだ」
「潔い! なんという高潔な魂の持ち主だ。貴公こそ、まさに(七百人の)勇者の中の勇者だ!!」
「そんな……」
アラタは思わず照れたように頬をかいた。
「歴代の勇者の中の勇者だなんて、ボクには過分な言葉です。でも、その言葉に応えるために、全力で行きます!」
「参るッ!!」
バナードの巨大な斧が振り下ろされる。だが、その動きには三姉妹との戦いで負った傷による確実な「重み」が生じていた。
「今だ、みんな!」
アラタの号令と共に、五人の連携が爆発した。テオの大盾がバナードの斧を弾き飛ばし、その隙を突いてカイトが死角から利き腕の腱を切り裂く。リンの爆裂魔法が至近距離で炸裂して体勢を崩させ、セシルの神聖魔法がアラタの全身に眩い加護を与えた。そして、光り輝くアラタの聖剣が、バナードの胸元を深く、一気に切り裂いた。
「ぐふっ……!!」
バナードは大の字に大地へ倒れ伏した。空を見上げ、満足そうに口の端を吊り上げる。
「……満足だ……。軍団長という地位を捨ててまで、真の強者とまみえた甲斐があったというもの……勇者軍団……わずか五人の先鋒だけでこの俺を屠るとはな。俺を倒した勇者に……永遠の誉れあれ……!」
バナードは、自分が最期まで見続けた「幻影の軍勢」に酔いしれながら、静かに息を引き取った。
静寂が訪れる。 勇者たちは荒い息をつきながら、倒したばかりの強敵を見つめていた。その後ろから、
「……これで、信じていただけましたか?」
長女リリスが、ドレスの裾を払って微笑んだ。
「このバナードは、お父様の命に背いて暴走した反逆者。それを私たちが道を作り、あなたがたが討った。……今の私たちは、共通の敵を排除した『戦友』も同然ですわ」
アラタは剣を鞘に収め、リリスを真っ直ぐに見つめた。
「あなたたちが本気なのは分かった。ボクたちも和睦に異存はない。これから、近くの『駅』まで行って、そちらの申し出を王に伝える手紙を出すことにするよ」
その役目にカイトが名乗りを上げた。
「オレが行こう。パーティの中で戦闘面で抜けても一番問題ないのがオレだからな。悪いが、オレはまだそっちを完全には信頼していないんでな」
「また軍団長が襲ってくることを心配なさっているのですね」とエルゼ。
「いや、オレが警戒しているのはあんたら三姉妹だよ。よっぽど軍団長より怖いだろ、あんたら。何なんだよ、あれ」
「あれ、とは?」
「あのいかにもな強面をボコスカ殴ってただろ」
「魔法ですわ」
「……こっちの魔法とは概念が違うようだな。とにかく、あんたら、オレたちと普通にやり合えるんじゃないか?」
「まさか、そんなことあるわけがありませんわ!」
エルゼが扇子で口元を隠して微笑む。カイトは鼻を鳴らし、そのまま「駅」へと向かって駆け出していった。
「あの、ところで、『駅』とは何ですの?」
リリスが訊くと、
「情報伝達システムですよ。手紙を駅から駅へと、早馬や飛脚を使って順次届けることで、最終的に王都へ届くんです」
勇者が答えた。
リリスは、なるほど、と頷きながら内面で苦笑した。魔族には「鏡通信(=鏡を利用することで、リアルタイムの映像通信ができる魔法)」がある。情報伝達という面でも、人間側は決定的に不利を強いられているのだ。
(あっ、そうそう、鏡通信でお父様に連絡しなければ……)
そう思いつつ、リリスは転がっているバナードの遺体を見た。幸福そうに笑いながら目をつぶっている顔を見て、やれやれとは思いながらも黙祷を捧げてから、
(お父様には少し気を持たせることにしましょう。事の顛末をすぐに知らせてあげる必要は無いわ)
開けた目を勇者に向けた。
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