5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

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さよなら純潔、こんにちは自由 〜偽装スキャンダル大作戦〜

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 王宮の奥深く、重厚な扉の向こう側では、王と大臣が「禁忌の呪法」についての密談を続けていた。部屋の隅々に配置された魔導灯が、陰鬱な二人の影を壁に長く、不気味に引き伸ばしている。

「……魔法研究所の古老たちによりますと、『終末の業火』を制御可能な形で発動させるためには、どうしても必要な触媒があるとのことです」

 大臣ボルゴフが、ふくよかな顎の肉を震わせながら、羊皮紙に記された忌まわしい術式を指差した。

「ふむ……。触媒だと? 何が必要なのだ。魔石か? それとも、何かしらの動物か?」

 ルミナス三世が身を乗り出す。ボルゴフは一度言葉を切り、頭頂部の薄い頭を撫でてから、重々しく口を開いた。

「……王家の、清らかな女性の血にございます。未経験の」
「……」

 王は沈黙した。王家の女性。今、この城にいるのは、自分の娘であるシャルロットただ一人だ。王の顔に一瞬だけ、父親としての葛藤がよぎる。しかし、それはすぐに「勇者に裏切られ、魔王に首を跳ねられる恐怖」というどす黒い感情に塗りつぶされていった。

「……いたし方あるまい。大陸が魔族に汚染され、勇者さえも寝返ったのだ。国家の存亡のためには、多少の犠牲はやむを得ない。……シャルロットも、王女として生まれ、国から多大な恩恵を受けてきたのだ。きっと最後には、笑顔で理解してくれるだろう」

 王の目から、一滴の嘘くさい涙がこぼれ落ちた。

 この一部始終を、壁の裏に隠された通気口から盗み聞きしていた一人の若い侍女がいた。彼女は、顔を真っ青にしてその場を離れると、脱兎の如く王女の部屋へと駆け出した。



 王女シャルロットは、その時、高級な焼き菓子を口に運びながら、退屈そうにあくびをしていた。

「はわはわ、つまんないわ。これも食べ飽きたし。そろそろ新しいドレスでも、お父様にねだってみようかしら」

 そんな独り言を呟いていた時、扉が壊れんばかりの勢いで開かれた。

「姫様! 大変です、一大事でございますっ!!」
「なによ、騒々しいわね。魔王軍がここまで攻めてきたの? それとも、空でも落ちてきた?」

 シャルロットが呆れたように問いかけると、侍女は肩で息をしながら、絞り出すような声で告げた。

「いえ、違います! 王様と大臣が、禁断の呪術を発動させようとしているのです。……それで、立ち聞きしてしまったのですが、その術を完成させるためには、『王家の女性の清らかな血』が必要だとか……!」

 シャルロットはベッドに寝転びながら、けだるげに首をかしげた。

「へぇ、大変ね。誰がやるの、その生贄。…………って、ちょっと待って。王家の女性って、今この城に私しかいないじゃないのよ」

 侍女は深く、絶望を込めて頷いた。

「はい。言葉通り解釈すれば、つまり……まだ男性経験のない姫様の命を、祭壇的なところに捧げるということではないでしょうか」
「マジで!?」

 シャルロットはガバリと身を起こした。

「ちょっと、何よそれ! 私を殺す気!? 自分の娘よ!? いくらなんでもブラックすぎるでしょ! それじゃ、魔族の所業じゃない!」
「『国家の存亡のためには仕方ない。シャルロットも理解してくれるだろう』と、陛下は仰っていました。涙ながらに」
「こっちが泣きたいわ! 絶対に嫌、そんなの!」

 シャルロットは、騒ぎを聞きつけて集まってきた他の侍女たちを呼び寄せた。十数人の侍女たちが、整列して王女を見つめている。

「ねえ、あなたたちも聞いた!? これ、私が死ぬってことよね!? どう思う!?」

 侍女たちは一様に、事務的な顔で淡々と答えた。

「客観的に見て、そうなるでしょうね」 
「きっと魔族嫌いの大臣あたりが持ちかけたんですよ」
「姫様といえど、いざとなれば『使い捨ての備品』扱いって怖いですね」
「ドン引きします」
「これまで短い間でしたが、お世話になりました」
「退職金代わりに、姫様の宝石をいくつか頂戴してもよろしいでしょうか」

 シャルロットは金切り声を上げた。

「ウソでしょ!? なんで私が、お父様たちの失敗を埋めるために、切り売りされないといけないのよ! イヤイヤイヤイヤ! ぜーったいに嫌!」

 シャルロットが叫ぶが、状況は絶望的だ。兵士たちに囲まれれば、王女一人で逃げ出す力はない。一人の侍女が、眼鏡をクイと押し上げながら、冷徹な分析を口にした。

「……とはいえ、今からでは逃亡は困難」
「なにか、なにか手は無いの!?」
「……逆説的に考えればよろしいのではないでしょうか。いっそのこと、『清らか』じゃなくなればよろしいのでは?」
「えっ……?」
「呪術の条件が『清らかな血』であるならば、姫様にすでに男性経験があるということにすれば、生贄としての魔術的価値はゼロになります」

 シャルロットは顔を真っ赤に染めた。

「えっ……でも、そんなウソをつくのはちょっと恥ずかしくない? 私、一応、『アルカディアのバラ』って呼ばれてる清純派王女なのよ?」
「姫様。命とプライド、どっちが大事ですか? 綺麗に死んで祭壇に飾られるか、『不純』になって生き残るか。どちらかを選んでください」
「……王女に嫌な二択を迫るわね。でも、命の方が大事に決まってるわ! 分かった、その線で行く。……でも、でもよ? もしそれが嘘だとバレたら……逃げられないまでも精いっぱい抵抗して、お父様の顔に引っかき傷の一つでも作ってやるわ。その時は、みんな、私と一緒に戦ってくれるわね?」

 その問いに、十数人の侍女たちが一斉に答えた。

「「「モチロンデス、姫様」」」

 あまりにも異口同音、かつ機械的な返答に、シャルロットは逆に背筋に寒いものを感じたが、気にしている場合ではない。

「決めたわ! 私は今日から『不純な王女』として生きのびてやる! お父様に『もう手遅れ!』って突きつけてやるんだから! ……さあ、あなたたち! いつ、どこで、誰の手によって私が『卒業』したことにすれば最も説得力があるか、全力で考えなさい! こう運命的であらがえなかった感じの純粋な不純さを考えてよね!」
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