5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

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リリス目覚めると、伯母上がイケオジ軍団長と「治療」を終えていた件

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 リリスが意識を取り戻したのは、凄絶な戦いから丸一日が経過した後のことだった。

 母方の血、すなわちかつて魔界を震撼させた「魔王妃」の力が唐突に覚醒したことによる反動は、想像を絶するものだった。底なしの深淵に引きずり込まれるような疲労感と、魔力回路が焦げ付くような熱。それらが彼女の意識を、深い、深い眠りの底へと沈めていたのだ。

 重いまぶたを必死に押し上げると、視界に入ってきたのは見慣れた自室の天井と、窓から差し込む穏やかな午後の光。そして、泣き腫らして真っ赤な顔をした二人の妹の姿だった。

「……お姉様……!」 
「起きた! お姉ちゃんが起きたよぉ!」

 リリスがわずかに指先を動かしただけで、エルゼとミーナが弾かれたようにベッドにしがみついてきた。ミーナは子供のように大声を上げて泣きじゃくり、エルゼもまた、普段の冷静さをかなぐり捨ててリリスの手にすがり付いている。

 リリスは混濁した意識の霧を振り払うように、ゆっくりと記憶を辿っていった。脳裏を過るのは、泥にまみれて吐血し、呪いの影に侵食されていった伯母ガートルードの悲惨な姿。そして、自分の中に眠る「何か」が爆発し、エリアスを塵芥ちりあくたのように吹き飛ばした、冷酷で不気味な感覚。

「……伯母様は!? 伯母様はどうなったの!?」

 ガートルードの死を予感し、リリスは絶望に突き動かされるように飛び起きようとした。だが、瞬間に全身の筋肉が断裂するかのような激痛が走り、彼女は苦悶に顔を歪めて再び枕に沈んだ。

 その時、部屋の扉が軽やかな音を立てて開き、聞き慣れた、艶やかでハリのある声が室内に響いた。

「はーい、リリスちゃん。伯母さんのこと、呼んだ?」

 そこに立っていたのは、昨日の戦いなど嘘であったかのように、ピンピンした状態で微笑むガートルードだった。 その肌は一点の曇りもなく輝き、顔を覆っていたあのどす黒い呪法の影も、跡形もなく消え去っている。

 リリスがエリアスを空の彼方へ吹き飛ばした直後、異常な魔力の波動を察知したアルフォンスが、第五軍団の精鋭を率いて現場に駆けつけたのだという。そして、彼は即座に瀕死のガートルードを収容し、ある「処置」を施した。

「いったい、どのような処置を……? あれは古の、解呪不能な呪いだったはずなのに。いくらアルフォンス様でも、そんな簡単に……」

 困惑し、眉をひそめるリリスに対し、エルゼはなぜか言葉を濁して不自然に視線を逸らした。代わりに、ミーナが顔を輝かせて、これ以上ないほど元気よく答えた。

「あのね、アルフォンスおじさんが駆けつけてくれてね、死にそうだった伯母さんに、ぶちゅーってすっごく長いことキスしたの! そしたら、呪いがパァーって消えて、伯母さん治っちゃったんだよ!」
「…………え、なに?」

 リリスの思考が、物理的に停止した。 ガートルードは見る間に頬を真っ赤な林檎のように染め上げ、手に持っていた扇子をバサバサと激しく動かしながら、しどろもどろに弁明を始めた。

「だ、だからぁ! まあ、いわゆる人工呼吸的なアレよ、アレ! 誤解しないでちょうだい! わたしたちぐらいの強大な魔力量になると、粘膜接触による直接的な魔力循環が、どんな薬よりも一番の特効薬になるわけ! つまり、彼は医学的な判断を下しただけなの! 私が頼んだわけじゃないわよ! アルが勝手に、強引に、人目も憚らずにやったことなんだから!」

 いやいやと首を振りながら、必死に自分に言い聞かせるように否定を繰り返す伯母の姿を見ながら、リリスは呆れ果てた。

(でたらめすぎますわ。あんな恐ろしい呪いが、キス一つで……)

 そこでガートルードのある異変に気がつく。

「伯母様、髪が……」

 魔界一の美貌とうたわれた、あの長く美しい銀髪が――ガートルードが自慢にしていた輝きが、今は肩のあたりで潔く短く切り揃えられていた。

「ああ、これ? 呪いの侵食が一番ひどかったのが髪の先まで届いていたらしくてね。アルが『命には代えられん』って、バッサリ切っちゃったのよ。全く、あいつ、勝手に……」

 ガートルードは不満そうに、短くなった髪を弄ってみせたが、笑顔は曇らなかった。

「髪程度で命が助かったのなら、安いものだわ。……それより、リリスちゃん。助けてくれて、本当にありがとうね」

 そう言って、伯母は、リリスの額にそっと唇を落とした。

「あなたがわたしの姪で、本当によかったわ」

 安堵が全身に広がると同時に、リリスの肉体に、再び鋭い痛みが走り抜けた。無理な覚醒を強制した体は、今や細胞の一つ一つが悲鳴を上げている。

「伯母様……わたし、なんだか、体が……」
「今はゆっくり休むことね。あなたの体に起きた『異変』……あなたのお母さんから受け継いだらしいその力については、わたしが責任を持って調べるから……安心してちょうだい、リリス」

 ガートルードは凛とした背中で、静かに部屋を後にした。

 残されたリリスは、重くなる意識の中で、自分の「見知らぬ大人の姿」をぼんやりと思い返していた。
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