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魔王令嬢のあざとい演技と、純情勇者の誓い。そして、涙するテオ。
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魔王軍の野営地、その中心に設営されたリリスの私室――。そこは、天幕の中とは思えないほど豪奢な調度品で整えられていた。
「変身」による凄まじい反動から三日が経過し、リリスの顔色はすっかり良くなっていた。母方の血の覚醒は、彼女を深い眠りに誘ったものの、目覚めてしまえば魔王の娘らしい驚異的な回復力を見せた。ガートルードやアルフォンスが、母ルクレツィアへの確認や古文書の調査を進めてくれていることもあり、当のリリスに悲壮感はない。むしろ、今の彼女の関心は別のところにあった。
「ねえ、ぶっちゃけどうだった? わたしの成長した姿」
リリスはベッドの上で身を乗り出し、目を輝かせて妹たちに問いかけた。
「……お姉様。それ訊くの、今日だけで何回目ですの? これから何十回、何百回訊く気なんですの?」
エルゼは心底うんざりした様子で、手元の魔導書から目を離さずに答えた。すでにもう何度尋ねられたか分からない。姉の承認欲求の大きさには慣れているが、さすがに限界がある。
「すごいナイスバディだったよ、お姉ちゃん!」
代わりに、三女のミーナが、元気に親指を立てて答えた。
「本当!? 詳しく、もっと詳しく教えて!」
食いつくリリスに、ミーナは身振り手振りを交えて続ける。
「なんかこうね、胸もお尻もすごくて、一言で言うと……すごく『エッチな体つき』だった!」
「ぐふふ……」
リリスは頬を染め、だらしなく口角を下げた。
(ああ、もう一回変身したいわ。それで勇者様にその姿を見せつけて、抗えない魅力で誘惑して、そのまま……)
「変身した後に丸一日昏睡していたのに、よくそんなこと考えられますわね」
「えっ、わたしが考えていること分かるの!?」
「心の声がダダ漏れですわよ。今のお姉様の顔、犯罪的ですわ」
エルゼの冷ややかな指摘を無視して、ミーナが鏡の前で自分の体をチェックし始めた。
「いいなあ、わたしも変身できるのかなあ」
呟く妹に、エルゼは冷静な分析を口にする。
「可能性は十分にありますわね。なにせ、わたくしたち三姉妹の中では、あなたが一番魔力量が高いのだから。爆発的な魔力の上昇を収める必要が一番あるのはあなたでしょう」
ミーナはそれを聞き、不敵な笑みを浮かべた。
「どうする? リリスお姉ちゃんよりも、わたしの方がプロポーション良かったら。勇者様、そっちに釘付けになっちゃうかもよ?」
「なんですってー!」
「今でもわたしの方が可愛いのに、ここからナイスバディになっちゃったら可愛さ100倍で、リリスお姉ちゃん、わたしの隣にいたら、かすんじゃうんじゃない」
「言ったわね、この子……!」
リリスがベッドから飛び出そうとして、姉妹が「きゃっきゃ」とじゃれ合い始めたその時だった。天幕の入り口から、お付きの侍女がひょっこりと顔を出した。
「失礼いたします。勇者様がお見舞いにいらっしゃいました」
一瞬、部屋が静まり返った。次の瞬間、リリスの絶叫が天幕を揺らす。
「えええええっ!? ちょ、ちょっと待って! まだ入れちゃダメよ!」
リリスは慌ててベッドにもぐりこみ、布団を首元まで引き上げた。それから、消え入りそうな声で「ああ……苦しい……」と、いかにも病人らしい顔を作る。しかし、すぐにガバッと跳ね起きた。
「お化粧! お化粧しなくちゃ! このままの顔じゃ会えないわ!」
「……どこの世界に、バッチリメイクの重病人がいるのですか」
エルゼの鋭い突っ込みが飛ぶが、リリスは耳を貸さない。
「わたし呼んでくるー!」と面白がったミーナが、制止する間もなく外へと走り出る。
「ああ、もう! 髪は変じゃない!? 顔色は!? 勇者様、本当に来て下さるなんて……ああ、どうしよう、心臓が止まりそう!」
リリスは乱れた髪を必死に整えながら、恋する乙女特有の「パニックと歓喜」が入り混じった表情で、愛しい人が入ってくるのを待った。
少しして、ミーナに案内され、天幕の中に勇者アラタが足を踏み入れてきた。彼はリリスの姿を認めるなり、弾かれたようにその枕元へと駆け寄る。
「リリスさん……」
悲痛な響きを含んだその声に、リリスの心臓は跳ね上がった。
(来たたあああああ!!)
脳内では狂喜乱舞の嵐が吹き荒れていたが、リリスは辛うじて病人らしい、はかなげな微笑を浮かべてみせた。
「ああっ……これは、夢でしょうか。勇者様が、わたくしの枕元にいてくださるなんて……」
「夢なんかじゃないよ、リリスさん」
アラタはリリスの言葉を打ち消すように首を振る。リリスは震える手を、そっと彼の方へと差し出した。勇者は迷うことなくその手を取り、温かく包み込む。
「こんなことになってしまって……全部、ボクのせいだ」
勇者の瞳には、隠しきれない後悔の色が滲んでいた。リリスの内心はといえば、
(全然そんなことないわ。この件には勇者様関係ないし。でも、私の身に起きたことを自分のせいだと思ってくれるのサイコー! うひょー! もっと後悔した顔見せて!)
という、ゲスい歓喜に満ちていた。
リリスは潤んだ瞳でアラタを見つめ返した。
「ご自分をお責めにならないでください、勇者様。こうして来てくださっただけで、わたくし……リリスは世界一の果報者ですわ」
「ボクは誓うよ」
アラタの声に、一段と強い力がこもる。リリスの脳内ボルテージは最高潮に達した。
(えっ、なにを!? 何でもいいわ! 誓って! 今すぐ誓って! ああ、なんてロマンチックなの……!)
「……何を、誓ってくださるのですか?」
「これから決して、君をこんな目に遭わせない。君のことは、ボクが一生守る」
(ああ、もうダメ、鼻血が出そう……!)
リリスは顔が火照るのを必死に抑え、「嬉しゅうございますわ……」と、とろけるような声を絞り出した。
見つめ合う二人。周囲には、そのあまりにも甘すぎる光景に冷めきった、白々しい空気が漂っていた。特にエルゼは、姉の「病人モード」のあまりのあざとさに、もはや感心を通り越して虚無の表情を浮かべている。
だが、その冷え冷えとした空気の中で唯一、勇者の後ろに控えていたテオだけは違った。彼は二人の純愛に感動し、ハンカチを握りしめて涙ぐんでいた。
「素晴らしい……なんて美しい愛なんだ……」
テオのすすり泣きが、リリスの計算とアラタの誠実さが入り混じった、奇妙な病室の空気に溶けていった。
「変身」による凄まじい反動から三日が経過し、リリスの顔色はすっかり良くなっていた。母方の血の覚醒は、彼女を深い眠りに誘ったものの、目覚めてしまえば魔王の娘らしい驚異的な回復力を見せた。ガートルードやアルフォンスが、母ルクレツィアへの確認や古文書の調査を進めてくれていることもあり、当のリリスに悲壮感はない。むしろ、今の彼女の関心は別のところにあった。
「ねえ、ぶっちゃけどうだった? わたしの成長した姿」
リリスはベッドの上で身を乗り出し、目を輝かせて妹たちに問いかけた。
「……お姉様。それ訊くの、今日だけで何回目ですの? これから何十回、何百回訊く気なんですの?」
エルゼは心底うんざりした様子で、手元の魔導書から目を離さずに答えた。すでにもう何度尋ねられたか分からない。姉の承認欲求の大きさには慣れているが、さすがに限界がある。
「すごいナイスバディだったよ、お姉ちゃん!」
代わりに、三女のミーナが、元気に親指を立てて答えた。
「本当!? 詳しく、もっと詳しく教えて!」
食いつくリリスに、ミーナは身振り手振りを交えて続ける。
「なんかこうね、胸もお尻もすごくて、一言で言うと……すごく『エッチな体つき』だった!」
「ぐふふ……」
リリスは頬を染め、だらしなく口角を下げた。
(ああ、もう一回変身したいわ。それで勇者様にその姿を見せつけて、抗えない魅力で誘惑して、そのまま……)
「変身した後に丸一日昏睡していたのに、よくそんなこと考えられますわね」
「えっ、わたしが考えていること分かるの!?」
「心の声がダダ漏れですわよ。今のお姉様の顔、犯罪的ですわ」
エルゼの冷ややかな指摘を無視して、ミーナが鏡の前で自分の体をチェックし始めた。
「いいなあ、わたしも変身できるのかなあ」
呟く妹に、エルゼは冷静な分析を口にする。
「可能性は十分にありますわね。なにせ、わたくしたち三姉妹の中では、あなたが一番魔力量が高いのだから。爆発的な魔力の上昇を収める必要が一番あるのはあなたでしょう」
ミーナはそれを聞き、不敵な笑みを浮かべた。
「どうする? リリスお姉ちゃんよりも、わたしの方がプロポーション良かったら。勇者様、そっちに釘付けになっちゃうかもよ?」
「なんですってー!」
「今でもわたしの方が可愛いのに、ここからナイスバディになっちゃったら可愛さ100倍で、リリスお姉ちゃん、わたしの隣にいたら、かすんじゃうんじゃない」
「言ったわね、この子……!」
リリスがベッドから飛び出そうとして、姉妹が「きゃっきゃ」とじゃれ合い始めたその時だった。天幕の入り口から、お付きの侍女がひょっこりと顔を出した。
「失礼いたします。勇者様がお見舞いにいらっしゃいました」
一瞬、部屋が静まり返った。次の瞬間、リリスの絶叫が天幕を揺らす。
「えええええっ!? ちょ、ちょっと待って! まだ入れちゃダメよ!」
リリスは慌ててベッドにもぐりこみ、布団を首元まで引き上げた。それから、消え入りそうな声で「ああ……苦しい……」と、いかにも病人らしい顔を作る。しかし、すぐにガバッと跳ね起きた。
「お化粧! お化粧しなくちゃ! このままの顔じゃ会えないわ!」
「……どこの世界に、バッチリメイクの重病人がいるのですか」
エルゼの鋭い突っ込みが飛ぶが、リリスは耳を貸さない。
「わたし呼んでくるー!」と面白がったミーナが、制止する間もなく外へと走り出る。
「ああ、もう! 髪は変じゃない!? 顔色は!? 勇者様、本当に来て下さるなんて……ああ、どうしよう、心臓が止まりそう!」
リリスは乱れた髪を必死に整えながら、恋する乙女特有の「パニックと歓喜」が入り混じった表情で、愛しい人が入ってくるのを待った。
少しして、ミーナに案内され、天幕の中に勇者アラタが足を踏み入れてきた。彼はリリスの姿を認めるなり、弾かれたようにその枕元へと駆け寄る。
「リリスさん……」
悲痛な響きを含んだその声に、リリスの心臓は跳ね上がった。
(来たたあああああ!!)
脳内では狂喜乱舞の嵐が吹き荒れていたが、リリスは辛うじて病人らしい、はかなげな微笑を浮かべてみせた。
「ああっ……これは、夢でしょうか。勇者様が、わたくしの枕元にいてくださるなんて……」
「夢なんかじゃないよ、リリスさん」
アラタはリリスの言葉を打ち消すように首を振る。リリスは震える手を、そっと彼の方へと差し出した。勇者は迷うことなくその手を取り、温かく包み込む。
「こんなことになってしまって……全部、ボクのせいだ」
勇者の瞳には、隠しきれない後悔の色が滲んでいた。リリスの内心はといえば、
(全然そんなことないわ。この件には勇者様関係ないし。でも、私の身に起きたことを自分のせいだと思ってくれるのサイコー! うひょー! もっと後悔した顔見せて!)
という、ゲスい歓喜に満ちていた。
リリスは潤んだ瞳でアラタを見つめ返した。
「ご自分をお責めにならないでください、勇者様。こうして来てくださっただけで、わたくし……リリスは世界一の果報者ですわ」
「ボクは誓うよ」
アラタの声に、一段と強い力がこもる。リリスの脳内ボルテージは最高潮に達した。
(えっ、なにを!? 何でもいいわ! 誓って! 今すぐ誓って! ああ、なんてロマンチックなの……!)
「……何を、誓ってくださるのですか?」
「これから決して、君をこんな目に遭わせない。君のことは、ボクが一生守る」
(ああ、もうダメ、鼻血が出そう……!)
リリスは顔が火照るのを必死に抑え、「嬉しゅうございますわ……」と、とろけるような声を絞り出した。
見つめ合う二人。周囲には、そのあまりにも甘すぎる光景に冷めきった、白々しい空気が漂っていた。特にエルゼは、姉の「病人モード」のあまりのあざとさに、もはや感心を通り越して虚無の表情を浮かべている。
だが、その冷え冷えとした空気の中で唯一、勇者の後ろに控えていたテオだけは違った。彼は二人の純愛に感動し、ハンカチを握りしめて涙ぐんでいた。
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