5人の勇者を「500人」と報告したら、魔王様が和平の準備を始めました

miko.m

文字の大きさ
52 / 78

シャルロット姫、退屈を嫌ったら、クーデターに遭遇する

しおりを挟む
 アルカディア王国の象徴である白亜の城。その高階に位置する王女シャルロットの私室は、昼下がりの気だるい空気に満ちていた。最高級のシルクが張られたカウチに、この国一の美少女と謳われる王女は、行儀悪く長い足を投げ出して寝そべっている。窓から差し込む陽光が彼女の黄金の髪を照らし出していたが、その表情は屈託の極致にあった。

「あーあ……勇者様も見つからないし、ヒマねー。お父様ったら、生まれてくる予定もない子どものことばっかり。ねえ、何か面白いことやって」

 シャルロットは、傍らに控える侍女に無茶振りをし、いつものように素人芸でも披露させて時間を潰そうと考えていた。

 しかし、侍女が何かし出すより早く、静寂を切り裂くような騒がしい足音が回廊から聞こえてきた。扉が、乱暴に開け放たれる。 現れたのは、この国のまつりごとを長年支えてきた実務の最高責任者、大臣ボルゴフである。しかし、その纏う空気は数日前までの「苦労性の忠臣」のそれとは決定的に異なっていた。鋭い眼光には暗い炎が宿り、歩みの一歩一歩に王家への敬意が微塵も感じられない。

「ご機嫌麗しゅう、姫」
「何用です、大臣。先触れもせずに入ってくるとは、無礼ではありませんか」

 シャルロットはカウチから身を起こし、王女としての威厳を込めて鋭い視線を向けた。だが、大臣は不敵な笑みを口端に浮かべたまま、眉一つ動かさない。

「玉座までお越し願いたいのです」
「玉座? ……お父様がお呼びなのですか?」
「いいえ、わたくしが、王女様と陛下に用があるのですよ。二人いっぺんに聞いていただいた方が手っ取り早いと思いましてね」

 大臣の言葉に、シャルロットの背筋を冷たい悪寒が走り抜けた。彼女は助けを求めるように、部屋の隅に控えていた侍女たちに視線を巡らせた。しかし、侍女たちは一斉に目を逸らし、壁の模様でも眺めるかのように沈黙を貫いた。

(う、裏切り者……! これまであんなによくしてあげてたのに!)

「……いいでしょう。参りましょうか」

 シャルロットは最期のプライドを保つように顎を引き、ドレスの裾を翻して大臣の後について歩き出した。

 回廊に出た際、彼女は大臣の傍らに付き従う、一人の見慣れぬ少女の存在に気がついた。慎ましい町娘の格好をしながらも、隠しきれない気品を纏い、ショートカット気味の髪が、その白く細い首筋を際立たせている。少女は、シャルロットと目が合うと、恥じらうように、しかし花が綻ぶような可憐な微笑みを返した。シャルロットの心臓は不覚にも跳ねた。

(……可愛い……! 何この子、誰!? 大臣の身内? いや、こんなキモオヤジの血縁にこんな天使がいるわけないわ!)

 シャルロットは桃色のパニックに陥りながら、大臣に付き従い、王城の中枢である玉座の間へと辿り着いた。重厚な扉が開かれる。そこには、突然の来訪者にキツネにつままれたような顔をしている国王が座っていた。手元には羊皮紙が広げられ、必死に羽ペンを走らせている。

「どうしたのだ、大臣。それに姫よ。わしは今、孫の離乳食の献立を考えていて忙しいのだ。生後三ヶ月からのアレルギー対策について、宮廷料理人の意見を聞かねばならん」

(どうしたのだって、こっちが聞きたいわよ!)

 喉まで出かかった怒鳴り声をシャルロットは辛うじて飲み込み、皮肉を込めて答えた。

「わたくしは大臣に導かれたのですわ、お父様」

 大臣ボルゴフは、国王の前に進み出ると、大仰に咳払いをしてから冷酷な宣言を放った。

「王よ。今日をもって、その玉座から降りていただきましょうか」
「ん? 何を言っている? 降りてどうする。散歩か?」

 国王のボケた問い返しに対し、ボルゴフは軽蔑を隠そうともせずに言い捨てた。

「分かりませんか? いわゆる一つのクーデターというものです。魔族に媚を売り、降伏を口にするようなあなたでは、この国を守るには力不足。これからは、この国はこの私が経営する」
「……経営?」

 国王が呆けて問い返した瞬間、大臣がパチンと指を鳴らした。それを合図に、玉座の間の周囲にある柱の影や、重厚なカーテンの裏から、抜身の武器を持った兵士たちがわらわらと現れた。彼らは瞬く間に玉座を完全に取り囲み、冷たい鋼の切っ先を、かつての主へと向けた。

(えええええええっ! ウソでしょ! 劇みたいな展開になってるじゃない!)

 シャルロットは目を瞠り、その場に立ち尽くした。退屈を紛らわせる「面白いこと」を求めていた彼女だったが、目の前の現実はあまりに刺激が強すぎた。ここまでは求めていない。

「つ、つまり、わしを裏切るというのか? 大臣よ」

 王は玉座でその身を震わせた。ボルゴフは、呆れたようなため息をつき、

「先に国を裏切ったのはあなただ。裏切りに罪があるとすれば、あなたの罪はなお重い」

 簡単に答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央
恋愛
 王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。  そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。 「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」 「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」 「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」 「えっ……!?」 「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」  しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。  でも、コンスタンスは見てしまった。  朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……  他の投稿サイトにも掲載しています。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

処理中です...