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シャルロット姫、退屈を嫌ったら、クーデターに遭遇する
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アルカディア王国の象徴である白亜の城。その高階に位置する王女シャルロットの私室は、昼下がりの気だるい空気に満ちていた。最高級のシルクが張られたカウチに、この国一の美少女と謳われる王女は、行儀悪く長い足を投げ出して寝そべっている。窓から差し込む陽光が彼女の黄金の髪を照らし出していたが、その表情は屈託の極致にあった。
「あーあ……勇者様も見つからないし、ヒマねー。お父様ったら、生まれてくる予定もない子どものことばっかり。ねえ、何か面白いことやって」
シャルロットは、傍らに控える侍女に無茶振りをし、いつものように素人芸でも披露させて時間を潰そうと考えていた。
しかし、侍女が何かし出すより早く、静寂を切り裂くような騒がしい足音が回廊から聞こえてきた。扉が、乱暴に開け放たれる。 現れたのは、この国の政を長年支えてきた実務の最高責任者、大臣ボルゴフである。しかし、その纏う空気は数日前までの「苦労性の忠臣」のそれとは決定的に異なっていた。鋭い眼光には暗い炎が宿り、歩みの一歩一歩に王家への敬意が微塵も感じられない。
「ご機嫌麗しゅう、姫」
「何用です、大臣。先触れもせずに入ってくるとは、無礼ではありませんか」
シャルロットはカウチから身を起こし、王女としての威厳を込めて鋭い視線を向けた。だが、大臣は不敵な笑みを口端に浮かべたまま、眉一つ動かさない。
「玉座までお越し願いたいのです」
「玉座? ……お父様がお呼びなのですか?」
「いいえ、わたくしが、王女様と陛下に用があるのですよ。二人いっぺんに聞いていただいた方が手っ取り早いと思いましてね」
大臣の言葉に、シャルロットの背筋を冷たい悪寒が走り抜けた。彼女は助けを求めるように、部屋の隅に控えていた侍女たちに視線を巡らせた。しかし、侍女たちは一斉に目を逸らし、壁の模様でも眺めるかのように沈黙を貫いた。
(う、裏切り者……! これまであんなによくしてあげてたのに!)
「……いいでしょう。参りましょうか」
シャルロットは最期のプライドを保つように顎を引き、ドレスの裾を翻して大臣の後について歩き出した。
回廊に出た際、彼女は大臣の傍らに付き従う、一人の見慣れぬ少女の存在に気がついた。慎ましい町娘の格好をしながらも、隠しきれない気品を纏い、ショートカット気味の髪が、その白く細い首筋を際立たせている。少女は、シャルロットと目が合うと、恥じらうように、しかし花が綻ぶような可憐な微笑みを返した。シャルロットの心臓は不覚にも跳ねた。
(……可愛い……! 何この子、誰!? 大臣の身内? いや、こんなキモオヤジの血縁にこんな天使がいるわけないわ!)
シャルロットは桃色のパニックに陥りながら、大臣に付き従い、王城の中枢である玉座の間へと辿り着いた。重厚な扉が開かれる。そこには、突然の来訪者にキツネにつままれたような顔をしている国王が座っていた。手元には羊皮紙が広げられ、必死に羽ペンを走らせている。
「どうしたのだ、大臣。それに姫よ。わしは今、孫の離乳食の献立を考えていて忙しいのだ。生後三ヶ月からのアレルギー対策について、宮廷料理人の意見を聞かねばならん」
(どうしたのだって、こっちが聞きたいわよ!)
喉まで出かかった怒鳴り声をシャルロットは辛うじて飲み込み、皮肉を込めて答えた。
「わたくしは大臣に導かれたのですわ、お父様」
大臣ボルゴフは、国王の前に進み出ると、大仰に咳払いをしてから冷酷な宣言を放った。
「王よ。今日をもって、その玉座から降りていただきましょうか」
「ん? 何を言っている? 降りてどうする。散歩か?」
国王のボケた問い返しに対し、ボルゴフは軽蔑を隠そうともせずに言い捨てた。
「分かりませんか? いわゆる一つのクーデターというものです。魔族に媚を売り、降伏を口にするようなあなたでは、この国を守るには力不足。これからは、この国はこの私が経営する」
「……経営?」
国王が呆けて問い返した瞬間、大臣がパチンと指を鳴らした。それを合図に、玉座の間の周囲にある柱の影や、重厚なカーテンの裏から、抜身の武器を持った兵士たちがわらわらと現れた。彼らは瞬く間に玉座を完全に取り囲み、冷たい鋼の切っ先を、かつての主へと向けた。
(えええええええっ! ウソでしょ! 劇みたいな展開になってるじゃない!)
シャルロットは目を瞠り、その場に立ち尽くした。退屈を紛らわせる「面白いこと」を求めていた彼女だったが、目の前の現実はあまりに刺激が強すぎた。ここまでは求めていない。
「つ、つまり、わしを裏切るというのか? 大臣よ」
王は玉座でその身を震わせた。ボルゴフは、呆れたようなため息をつき、
「先に国を裏切ったのはあなただ。裏切りに罪があるとすれば、あなたの罪はなお重い」
簡単に答えた。
「あーあ……勇者様も見つからないし、ヒマねー。お父様ったら、生まれてくる予定もない子どものことばっかり。ねえ、何か面白いことやって」
シャルロットは、傍らに控える侍女に無茶振りをし、いつものように素人芸でも披露させて時間を潰そうと考えていた。
しかし、侍女が何かし出すより早く、静寂を切り裂くような騒がしい足音が回廊から聞こえてきた。扉が、乱暴に開け放たれる。 現れたのは、この国の政を長年支えてきた実務の最高責任者、大臣ボルゴフである。しかし、その纏う空気は数日前までの「苦労性の忠臣」のそれとは決定的に異なっていた。鋭い眼光には暗い炎が宿り、歩みの一歩一歩に王家への敬意が微塵も感じられない。
「ご機嫌麗しゅう、姫」
「何用です、大臣。先触れもせずに入ってくるとは、無礼ではありませんか」
シャルロットはカウチから身を起こし、王女としての威厳を込めて鋭い視線を向けた。だが、大臣は不敵な笑みを口端に浮かべたまま、眉一つ動かさない。
「玉座までお越し願いたいのです」
「玉座? ……お父様がお呼びなのですか?」
「いいえ、わたくしが、王女様と陛下に用があるのですよ。二人いっぺんに聞いていただいた方が手っ取り早いと思いましてね」
大臣の言葉に、シャルロットの背筋を冷たい悪寒が走り抜けた。彼女は助けを求めるように、部屋の隅に控えていた侍女たちに視線を巡らせた。しかし、侍女たちは一斉に目を逸らし、壁の模様でも眺めるかのように沈黙を貫いた。
(う、裏切り者……! これまであんなによくしてあげてたのに!)
「……いいでしょう。参りましょうか」
シャルロットは最期のプライドを保つように顎を引き、ドレスの裾を翻して大臣の後について歩き出した。
回廊に出た際、彼女は大臣の傍らに付き従う、一人の見慣れぬ少女の存在に気がついた。慎ましい町娘の格好をしながらも、隠しきれない気品を纏い、ショートカット気味の髪が、その白く細い首筋を際立たせている。少女は、シャルロットと目が合うと、恥じらうように、しかし花が綻ぶような可憐な微笑みを返した。シャルロットの心臓は不覚にも跳ねた。
(……可愛い……! 何この子、誰!? 大臣の身内? いや、こんなキモオヤジの血縁にこんな天使がいるわけないわ!)
シャルロットは桃色のパニックに陥りながら、大臣に付き従い、王城の中枢である玉座の間へと辿り着いた。重厚な扉が開かれる。そこには、突然の来訪者にキツネにつままれたような顔をしている国王が座っていた。手元には羊皮紙が広げられ、必死に羽ペンを走らせている。
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(どうしたのだって、こっちが聞きたいわよ!)
喉まで出かかった怒鳴り声をシャルロットは辛うじて飲み込み、皮肉を込めて答えた。
「わたくしは大臣に導かれたのですわ、お父様」
大臣ボルゴフは、国王の前に進み出ると、大仰に咳払いをしてから冷酷な宣言を放った。
「王よ。今日をもって、その玉座から降りていただきましょうか」
「ん? 何を言っている? 降りてどうする。散歩か?」
国王のボケた問い返しに対し、ボルゴフは軽蔑を隠そうともせずに言い捨てた。
「分かりませんか? いわゆる一つのクーデターというものです。魔族に媚を売り、降伏を口にするようなあなたでは、この国を守るには力不足。これからは、この国はこの私が経営する」
「……経営?」
国王が呆けて問い返した瞬間、大臣がパチンと指を鳴らした。それを合図に、玉座の間の周囲にある柱の影や、重厚なカーテンの裏から、抜身の武器を持った兵士たちがわらわらと現れた。彼らは瞬く間に玉座を完全に取り囲み、冷たい鋼の切っ先を、かつての主へと向けた。
(えええええええっ! ウソでしょ! 劇みたいな展開になってるじゃない!)
シャルロットは目を瞠り、その場に立ち尽くした。退屈を紛らわせる「面白いこと」を求めていた彼女だったが、目の前の現実はあまりに刺激が強すぎた。ここまでは求めていない。
「つ、つまり、わしを裏切るというのか? 大臣よ」
王は玉座でその身を震わせた。ボルゴフは、呆れたようなため息をつき、
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