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第2話
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ギリギリながらも無事に入学式に間に合ったわたしは、式が滞りなく終わったあと、流れに身を任せて教室のある校舎へと向かっていた。
渡り廊下を渡って奥へ進んでいくと、式の前に見た古木とお社がかすかに見える。
(あんなところにあったんだ)
さっきいた男子ももうどこかへ行ってしまったようで、お社の前には誰もいなくなっていた。
(不思議な出会いだったな……って、おっと)
視線を前に戻すと前の人にぶつかりそうになっていて、とっさに体をよじる。
そのとき、見覚えのある人物を見つけたような気がして思わず二度見した。
彼女はもとの世界での家族でも友人でもない。それどころか、同じ次元の人ですらなかった。
高校生のころにプレイした乙女ゲームのキャラクターだった。
天使の輪がくっきりとある黒髪のショートカットで、いかにも気の強そうな美少女。着ている制服はもちろん、ゲームの中とまるっきり同じもの。
(まさかそんなこと……)
存在を疑って何度目をこすってみても確かに彼女はそこにいた。
(あーそうか。この既視感、そういうことだったのか)
同時にさっきお社の前で会った彼のことを思い出して、パズルがきれいにハマったときのような感覚を覚える。
さっきはほんの一瞬だけだった映像が今度は少しだけ鮮明に蘇ってきた。
小道を進んだ先に見える古木とお社。そして、そこにいる金髪の少年。確かに乙女ゲームの出会いイベントそのままだった。
(ということは、彼はあの彼ってこと?)
彼、水島くんはメインの攻略対象で、確か主人公の同級生だったはず。
苦手意識を持ったキャラだったせいか、記憶はひどく曖昧だった。正直、最後まで攻略した覚えすらないくらい。
(でも、学校名もお社もキャラもあのゲームとまるっきり同じってことは、もしかしたら彼もどこかにいるのかな?)
同じゲーム内に登場する一人の男子を思い浮かべて、思わず頬が緩んだ。
プレイしていた当時、どのゲームのどのキャラよりも好きだった彼、藤堂和樹くん。
本当に彼が存在しているのだとしたら、本当に恋愛ができるのだとしたら、会ってみたいし、あわよくば告白だってされたい。
(でも)
同時に不安がもたげてくる。
わたしがこの手のゲームにのめり込むほどのオタク気質なのに対して、彼はバリバリのスポーツマンだから。
あのゲームの主人公よろしく、どの方面にでもぐんぐん伸びる子ならば望みもあるかもしれないけど。
もしも、わたしがそのまま引き継がれているのだとしたら、控えめに言ってかなり絶望的だ。
でも、最愛と言って過言ではなかった彼がいながらお近づきにならないだなんて考えられない。
とりあえずは出会いイベントを起こそう。それから計画を立てよう。
そう固く決めると、探しに出かけたい衝動をどうにか抑えて、教室へと入って席についた。
* * *
ゲームのとおりに進行するならば、次は担任が教壇に立ってホームルームが始まる。
そして、自己紹介シートを書くことになる。
記憶が正しければ攻略の絶対条件ではなかったはずだけど、このシートでの回答によって、のちに起きる重要なイベントの相手が変わるのだ。
久しぶりに胸の奥が疼いた。
ガラリ
扉が開いて担任と思わしき男性が教壇へ上がる。
やや大柄で、元気いっぱい気合いっぱいって感じの若い男性教師だった。
「着席しろよー」
各々好きに過ごしていたクラスメイトたちがその声を合図に着席してホームルームが始まる。
まずは担任の自己紹介があり、次に出席を取っていった。そして、配られる自己紹介シート。
一連の流れを見て、改めてあのゲームの世界なんだという確信へと変わっていった。
わたしはシートをすらすらと埋めていく。周りも記入を始めたらしく、シンと静かになった。
その後も滞りなく進みホームルームが終わると、下校時間が来た。
確か次は友達ポジションの女子の登場シーンがあったはず。
(どんな子だったっけ)
「ハンカチ落としたよ」
(そうそう、こんな感じ)
考え事をしながらカバンの中に配られた書類を仕舞っていると、そう声を掛けられる。
振り返ると、腰まで届きそうな長い髪を左右で二つに束ねて黒縁メガネをかけた女の子が猫柄のハンカチを持って立っていた。
情報をくれるキャラとしてかなり重宝したことは記憶にあったけど、それ以上の興味が湧かなかったせいか、頭をひねってみても出てくる情報は少ない。
(っと、とりあえず、ハンカチ受け取らないと)
「ありがとう」
ワンテンポ遅れたわたしの反応を気にする素振りもなく、彼女は続けて言う。
「中等部にはいなかったよね?受験組?」
「うん、この学校には高校から」
鈴が池学園は中等部からある中高一貫校で、高等部には中学から在籍する進学組と、外部から入学してくる受験組がいる。
「そうなんだ。どおりで見ない顔だと思った。わたしは柚木ひかり。よろしくね」
「わたしは高野愛花。よろしく」
互いに自己紹介を済ませると、柚木は「わたし、交友関係は広いほうだからなんでも聞いて」と言って、ニカッと歯を見せて笑った。
「ひかりー帰ろー」
他のクラスの子だろうか、タイミングよく入り口の付近で彼女を呼ぶ声がした。
見ると、ホームルーム前に廊下にいた黒髪ショートカットの美少女が立っていた。
「あ、みおりん。今行くー。愛花ちゃん、それじゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
ぎこちない笑顔で手を振りながら、わたしは頭をせわしなく巡らせていた。
渡り廊下を渡って奥へ進んでいくと、式の前に見た古木とお社がかすかに見える。
(あんなところにあったんだ)
さっきいた男子ももうどこかへ行ってしまったようで、お社の前には誰もいなくなっていた。
(不思議な出会いだったな……って、おっと)
視線を前に戻すと前の人にぶつかりそうになっていて、とっさに体をよじる。
そのとき、見覚えのある人物を見つけたような気がして思わず二度見した。
彼女はもとの世界での家族でも友人でもない。それどころか、同じ次元の人ですらなかった。
高校生のころにプレイした乙女ゲームのキャラクターだった。
天使の輪がくっきりとある黒髪のショートカットで、いかにも気の強そうな美少女。着ている制服はもちろん、ゲームの中とまるっきり同じもの。
(まさかそんなこと……)
存在を疑って何度目をこすってみても確かに彼女はそこにいた。
(あーそうか。この既視感、そういうことだったのか)
同時にさっきお社の前で会った彼のことを思い出して、パズルがきれいにハマったときのような感覚を覚える。
さっきはほんの一瞬だけだった映像が今度は少しだけ鮮明に蘇ってきた。
小道を進んだ先に見える古木とお社。そして、そこにいる金髪の少年。確かに乙女ゲームの出会いイベントそのままだった。
(ということは、彼はあの彼ってこと?)
彼、水島くんはメインの攻略対象で、確か主人公の同級生だったはず。
苦手意識を持ったキャラだったせいか、記憶はひどく曖昧だった。正直、最後まで攻略した覚えすらないくらい。
(でも、学校名もお社もキャラもあのゲームとまるっきり同じってことは、もしかしたら彼もどこかにいるのかな?)
同じゲーム内に登場する一人の男子を思い浮かべて、思わず頬が緩んだ。
プレイしていた当時、どのゲームのどのキャラよりも好きだった彼、藤堂和樹くん。
本当に彼が存在しているのだとしたら、本当に恋愛ができるのだとしたら、会ってみたいし、あわよくば告白だってされたい。
(でも)
同時に不安がもたげてくる。
わたしがこの手のゲームにのめり込むほどのオタク気質なのに対して、彼はバリバリのスポーツマンだから。
あのゲームの主人公よろしく、どの方面にでもぐんぐん伸びる子ならば望みもあるかもしれないけど。
もしも、わたしがそのまま引き継がれているのだとしたら、控えめに言ってかなり絶望的だ。
でも、最愛と言って過言ではなかった彼がいながらお近づきにならないだなんて考えられない。
とりあえずは出会いイベントを起こそう。それから計画を立てよう。
そう固く決めると、探しに出かけたい衝動をどうにか抑えて、教室へと入って席についた。
* * *
ゲームのとおりに進行するならば、次は担任が教壇に立ってホームルームが始まる。
そして、自己紹介シートを書くことになる。
記憶が正しければ攻略の絶対条件ではなかったはずだけど、このシートでの回答によって、のちに起きる重要なイベントの相手が変わるのだ。
久しぶりに胸の奥が疼いた。
ガラリ
扉が開いて担任と思わしき男性が教壇へ上がる。
やや大柄で、元気いっぱい気合いっぱいって感じの若い男性教師だった。
「着席しろよー」
各々好きに過ごしていたクラスメイトたちがその声を合図に着席してホームルームが始まる。
まずは担任の自己紹介があり、次に出席を取っていった。そして、配られる自己紹介シート。
一連の流れを見て、改めてあのゲームの世界なんだという確信へと変わっていった。
わたしはシートをすらすらと埋めていく。周りも記入を始めたらしく、シンと静かになった。
その後も滞りなく進みホームルームが終わると、下校時間が来た。
確か次は友達ポジションの女子の登場シーンがあったはず。
(どんな子だったっけ)
「ハンカチ落としたよ」
(そうそう、こんな感じ)
考え事をしながらカバンの中に配られた書類を仕舞っていると、そう声を掛けられる。
振り返ると、腰まで届きそうな長い髪を左右で二つに束ねて黒縁メガネをかけた女の子が猫柄のハンカチを持って立っていた。
情報をくれるキャラとしてかなり重宝したことは記憶にあったけど、それ以上の興味が湧かなかったせいか、頭をひねってみても出てくる情報は少ない。
(っと、とりあえず、ハンカチ受け取らないと)
「ありがとう」
ワンテンポ遅れたわたしの反応を気にする素振りもなく、彼女は続けて言う。
「中等部にはいなかったよね?受験組?」
「うん、この学校には高校から」
鈴が池学園は中等部からある中高一貫校で、高等部には中学から在籍する進学組と、外部から入学してくる受験組がいる。
「そうなんだ。どおりで見ない顔だと思った。わたしは柚木ひかり。よろしくね」
「わたしは高野愛花。よろしく」
互いに自己紹介を済ませると、柚木は「わたし、交友関係は広いほうだからなんでも聞いて」と言って、ニカッと歯を見せて笑った。
「ひかりー帰ろー」
他のクラスの子だろうか、タイミングよく入り口の付近で彼女を呼ぶ声がした。
見ると、ホームルーム前に廊下にいた黒髪ショートカットの美少女が立っていた。
「あ、みおりん。今行くー。愛花ちゃん、それじゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
ぎこちない笑顔で手を振りながら、わたしは頭をせわしなく巡らせていた。
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