青春再見

さえき あかり

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第3話

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 (やっぱりそうだった)
 翌朝、ゲームに登場するもう一人の友達キャラであり、昨日この世界がゲームの世界だと気づくキッカケとなった佐倉美織と正式に出会うこととなる。
 柚木と登校しているところに出くわし、中学からの親友だと紹介された。そして、私とも晴れて知り合いとなった。
 正直、私は彼女とは出会いたくなかった。とはいえ、けっして悪い子ではない。流行に明るく、主にファッションやデートスポットについて教えてくれる、むしろもう一人の情報収集に欠かせない人物である。
 問題は二つ。
藤堂と幼馴染で、部活も同じ。そんな二人と一定以上仲良くなると、ライバル関係になるイベントが起きる。しかも、二人がくっついてしまう可能性まである、私にとって何が何でも避けたい悪魔のイベントの存在。
 二つ目は、佐倉は普段はそうでもないが、いったんライバル関係になると気のキツさが表に出てきて、かなり当たりがきつくなる。それが本当にきつくて、軽くトラウマになってしまっていた過去があるくらいだった。
 それを回避しようと思うと、とにかく佐倉と仲良くならないに限る。限るのだが……。
 そこで別で悩ましい問題が一つある。
 藤堂には同じ部活に所属することで起きるイベントがある。それが愛花にとってとにかく尊くて、その直前でセーブデータを作って何度も見返していたほどだった。

 「部活どうする?」
 お昼休みに三人で昼食を取っていると、柚木が尋ねる。
「あたしはバレー」と佐倉が即答する。
 「みおりんは知ってる」
 「中学のときもバレーだったじゃん」と突っ込みを入れながら、柚木は愛花のほうを見た。
 「んー悩み中」
 「文化部か運動部かは決めてるの?」
 「運動部がいいかな。万年運動不足だし」
 (それに藤堂くんと仲良くなるには体力を上げるのは必須だし)
 なんてことない返しのはずなのに、二人が揃ってプッと噴出してお腹を抱えて笑った。
 「万年運動不足って、何それ。おばさんじゃないんだから」
 (そうだった。今はおばさんじゃないんだった)
 笑ってなんとかごまかすと、「そういうひかりは?」と柚木に話を振った。
 「私は文芸部か、科学部か」
 どちらにせよ文化部の予定らしい。
(ほかにどんな部があったっけ)
 母親が作ってくれたお弁当のたこさんウインナーを頬張りながら考え込んでいると、 「じゃあさ、バレー部にしない?」と佐倉が言う。名案と言わんばかりの口調で、なんとなく断りづらい雰囲気があった。
 「うーん」
 正直、迷ってはいた。佐倉とのライバルイベントを避けながら、ライバル時のきつい当たりに怯えながら何度も見たあのイベントを生で体験できるのならば、多少の犠牲は仕方ないのかもしれない。そう思えるくらいには迷っていた。
 (しかし、運動部か……)
 体力の無さに自信があるくらい運動不足な私が果たして運動部でやっていけるのか。そこも正直疑問だった。
 「あーじゃあ、マネージャーは?」
 佐倉がこれならどうだと言わんばかりに勧誘を続ける。それは至極魅力的な誘いに見えた。
 「……マネージャーなら」
 気づけばそう返してしまっていた。覆水盆に返らず。勢いに任せて昼休みの間に届けを出しにいってしまい、正式にバレー部のマネージャーとなった。
 彼と出会うには一番手っ取り早いし、あのイベントも起きる。だから決して悪い選択ではないはず。
 言い聞かせるようにして気合を入れると、クラスの違う佐倉とは途中で別れ、柚木と二人で教室へと戻っていった。

* * *

 その日の放課後、部活に向かう途中で、お社の前で出会ったあの少年に再会する。
 再会と言っても見つけたそのときは一方的に見ただけで、彼はあのとき同様に座って何かを見ていた。
 だからスルーしようとした。
だけど、また立ち上がって振り返った彼と目があう。
 思わず言った。
 「また会いましたね」
 同級生に対する言葉がけではない。でも、なんだか神々しくておいそれとため口を叩いてはいけないような気がして、つい敬語になってしまう。
 当の彼は前回同様に至極落ち着き払っていて、ゆったりとした空気が流れていた。
 「敬語いらない……俺も一年だし」
 彼が口を開く。
 「あと、水島」
 「え?」
 思わぬ切り返しで、きっと間の抜けた顔をしていただろう。水島はそんな私を見て、ほんのりと口角を上げて、笑っているように見えた。
 「名前」
 「あ。私は」
 「知ってる。高野だろ?」
 どうして学年や名前を知っているのだろうか。記憶を辿ってみても答えには辿り着けそうになかった。
 はっきり覚えているわけではないが、クラスにいた記憶もない。
 「なんで知ってるの?って顔してる」
 今度は分かりやすくクスクスと笑う。
 「なんで知ってるの?」
 私は敢えて尋ねる。
 しかし、「さぁな」と返ってきて、明確な答えは得られないまま水島はひらひらと手を振ってその場を去った。
 残された私は、立ち尽くすしかなかった。

* * *

 水島と別れたあと、運動部の部室が連なる校舎に着くと、バレー部の部室の前に佐倉がいた。
 待ち合わせをしていたのだから当たり前のことだったが、二人になるとどうにも緊張が解けない。
 「ひょっとして、緊張してる?」
 佐倉が言う。
 「まぁ、部活初日だし」
 「じゃなくて、私といて、緊張、してるでしょ」
 図星を突かれ、しどろもどろになる。緊張は伝わるとしてもどうしてそこまで分かったのだろうか。
 いくらなんでもカンが良すぎないか。
 「なんでそんなこと……」
 「うーん、女のカン?としか言えない。正直、自分でもちゃんと分かってないし」
 でも、と彼女は続ける。
 「仲良くなれたら嬉しいかな。少しずつでも、ね♡」
 私は「そうだね」と、ややぎこちない返事をして、部室で着替えを終えると体育館へと向かっていった。

 体育館へ着くと、もう大方のメンバーが揃っていたようで号令が掛かる。
 「えーと、今日は一年生が初日なので、始める前に軽く自己紹介をしようと思います」
 部長と思われる男子がそう言うと、上級生から自己紹介が始まった。
 それを聞きながら辺りを見て、私はすぐに彼を見つける。
 ゲームの設定どおり、周りと比べてやや低身長ではあるものの、濃い紺色の髪はツーブロックで、爽やかなスポーツマンという雰囲気だった。
 (相変わらず尊い……)
 思わず見とれずにはいられないその姿を拝みたい衝動に駆られる。でも、そんなことをして目立つわけにはいかないから、ぐっと堪えた。
 「高等部一年の藤堂和樹です。中学のとき同様、よろしくお願いします」
 じっと見つめていたものだから、深く頭を下げて上げたときに目があったような気がした。
 動作の一つ一つがスローモーションに見えて、愛花の心臓はドクドクと煩く鼓動を打っている。
 「愛花、次だよ」
 佐倉から声を掛けられてはっとする。
 気づけば自分の番が来ていて、みなの視線が集まっていた。
 「あ、えっと、高等部一年の高野愛花です。マネージャー志望です。よろしくお願いします」
 慌てて発したせいか、上ずってしまい紅潮する。手を当てて顔を隠しながら、隙間から彼のほうを見つめて、やっぱり尊い……なんて考えてしまっている愛花の横で、佐倉がその様子をじっと見ていた。
 その間にも自己紹介は進んでいく。終わると、それぞれが位置について練習が始まった。
 私は、先輩マネージャーのあとについて、何をするのかいろいろと教えてもらう。慣れないことの連続で、あっという間に時間が経っていて、気が付いたら下校の時間になっていた。
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