新風カルテット~桃源郷と佐渡島を結ぶ~

さえき あかり

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第三話

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その時、桃倉がはっとして言った。
「ねえ、あのDMのことなんだけど。『5月5日、満月の夜、古の祭壇』ってあったよね?それって、もしかして……」
「佐渡島の神楽祭り!」猿渡が声を上げた。「確か、その日だったはずよ!古の祭壇でやるっていう言い伝えもあるわ!」
「それって、要するに?」鳥塚が問いかける。
「DMの送り主は、私たちに神楽祭りの日に、古の祭壇に来てほしいってことじゃないかしら?そして、その祭りで……」猿渡の目が輝く。「桃倉、あなたのアイデア、最高よ!」
桃倉が続ける。「なんとかして、桃ピューレパンを祭りに出品できないものでしょうか?」

殺伐とした島に、桃源郷の恵みを届ける。そして、それは疎遠になっていた狗飼と祖母の関係を繋ぐきっかけになるかもしれない。さらに、神楽祭りという特別な日に合わせることで、DMの謎にも近づけるかもしれない。一石三鳥のアイデアだった。

問題は、どうやって祭りに出品するかだ。すぐに雪之丞に相談すると、彼は「それは天子様にお伺いを立てるしかないだろう」と言った。佐渡島の最高権力者である天子様。通常ならば、外部の者が、ましてや歴史的に対立のあった桃源郷の者が、祭りへの出品許可を得ることなど不可能に近い。

「しかし、今の島の状況を考えれば、あるいは……。私が猿渡さんと共に、天子様にお願いしてみよう」雪之丞は力強く言った。

雪之丞と猿渡が天子様への謁見に向かう間、狗飼は工房に籠った。桃倉が持ってきた新鮮な桃のピューレ。その甘酸っぱい香りが、工房を満たす。狗飼は慣れた手つきで生地をこね、ピューレを練り込んでいく。その手際は、長年のブランクを感じさせない。崩れやすい柔らかなパンを、傷つけないように丁寧に紙箱に詰め、さらに紙袋に入れる。追加のピューレを添えることも忘れない。その姿は、まさにパン職人の家の血筋を感じさせた。疎遠になったとはいえ、祖母から受け継いだ技術は、彼女の身体に深く刻み込まれていたのだ。あっという間に、試作品の「桃ピューレパン」が完成した。

一方、雪之丞と猿渡は、天子様の御前にいた。謁見は異例の速さで許可された。それだけ、天子様も島の現状を憂いていたのだろう。
猿渡が、桃源郷から来たこと、『新風カルテット』の目的、そして桃ピューレパンの提供を申し出ると、天子様は静かに耳を傾けていた。

「……わたくし個人的には、なんの反対もない。むしろ、願ってもない申し出じゃ」天子様はゆっくりと口を開いた。「この不作の中、隣郷からの温かい申し出、感謝に堪えぬ……。しかし……」

天子様の言葉は、そこで濁った。
「これまでの歴史を踏まえると、少々……」
その声には、深い苦悩が滲んでいた。無理もないことだった。
70年ほど前、桃源郷と佐渡島の間には、血で血を洗うような争いがあった。
十数年に及んだ戦いは、どちらも疲弊しきった末に、歪な形での「休戦」という形で幕を閉じた。
しかし、根本的な和解はなされず、互いへの不信感や遺恨は、まるで古傷のように残り続けた。特に、戦いを直接知る老人たちの間では、その感情は根深い。

「……根に持ち続けておるのは、もう我々のような年寄りばかりじゃ。若者たちの間では、もう昔のこと……かつてのような相手を蔑む呼び名も、今では使う者もおらぬ。じゃが……」天子様はため息をついた。「長年の不信は、そう簡単には消えぬものじゃ」

猿渡は、天子様の言葉の裏にある歴史の重みを感じ取っていた。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「天子様。私たち『新風カルテット』は、過去のしがらみを知りません。ただ、今の佐渡島の苦しみを知り、何かできることはないかと考え、参りました。この桃ピューレパンは、桃源郷からの、新しい世代からの友好の証です。どうか、お祭りで、島の方々に味わっていただく機会をいただけないでしょうか」

雪之丞も言葉を添えた。「天子様。彼女たちの申し出は、この島の未来にとって、大きな一歩となるやもしれません。どうか、ご決断を」

天子様はしばらく目を閉じていたが、やがてゆっくりと目を開けると、言った。
「……よかろう。ただし、条件がある。祭りの間、いかなる騒ぎも起こさぬこと。そして、もし何か問題が起きた場合は、即刻退去すること。それでよければ、出品を許可しよう」

厳しい条件ではあったが、大きな前進だった。雪之丞と猿渡は深く頭を下げ、感謝の意を伝えた。
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